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猫になった私は嫌いですか  作者: 垢音
他国交流篇
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第48話:興味を持つ理由

ーナーク視点ー



「ナーク君♪」

「主♪」




 互いに名前を言ってギューッと抱き締める。ついでボクは「良い子、良い子」と言って頭を優しく撫でた。途端にコロンと嬉しそうに微笑んで、またギューッとしてくれる。

 ……うぅ、可愛いよ。




「………」




 王子からの絶対零度の視線も気にしないまま、2人で抱き合っているのは控え室。そのソファーの上だ。王城の一室だから、控え室と言ってもかなり広い。

 夜会に着るドレスが多くあり、出口とは反対側には小さいながらも浴槽がある。まぁ、小さないと言うのがどの程度かは知らない。

 ただ、城の控え室にしてはかなり広い。だから、小さいと言う表現は正しくないだろうなと思う。




「べったりだね」

「悪いが、これが姫さんとナークの普通だ。慣れろ」

「見てて微笑ましいから良いけどね。……小動物が2人だし」

「聞かれたら仕返しくるぞ」




 あとで蹴りを入れると、考えつつ主の事を抱き締める。リバイルがリベリーと話している内容は、しっかりと聞いているか安心しろ。


 その少し離れた場所では、ディーデット国のギルダーツ王子、ルベルト王子がおり、バーナン様、クレール様もいる。

 つまりは、全員集合と言う訳だ。だから、ここが控え室と言うのは嘘だろうと思われても仕方ない。




「……」




 ボクはリベリーと警護をしていた。

 会見している隙に他国の王族を暗殺なんてのはある。小国ならあり得るかもだけど、ここは大国のリグート国。

 この国で、南と東の国の王子が来る。恨みを晴らしたい相手からすれば絶好の機会。ゼスト王太子が表に来るのはそんなにないと幼い時に聞いていた。


 武功を上げ、自国からなかなか出ない事で有名だ。その王太子が自国から離れてここまで来る。警戒するなと言われても無理だ。


 裏がある。


 もしくはそう意図的に意識させられている。難しく考えるのはボクには無理だ。そういうのは出来る人間に任せるべき。でも、ボクの勘は告げているのだ。


 ”警戒しろ”


 自国から出ない筈の王太子。リグート国で暗殺が起きたら、例え対象がこの国の人間でなくても警護に問題があると言われる可能性がある。

 自作自演の可能性も含めて嫌だと思いつつ、兵士達とは違う方面での警護。暗殺者の思考は暗殺者で。これも主を守る為だと思い、嫌な事でも引き受けた。


 そしたら、リバイルが来て「会見、終わったって」と知らせに来た。王子がいる控え室に、行けば主が頭を撫でられ「不安はとれた?」と優しく聞いているのが聞こえた。




「ん。バーナン様も傍に居たし、ギルダーツ様も優しいから。怖いのはなんとか耐えたよ」




 褒めて褒めて、と言う感じで王子を見る主。そうしたら、王子が蕩けるような表情で「お疲れ様。偉いね」と言った。




「うん♪」




 嬉しそうに答える、主。そこから本当なら抱き締めるのだろうが、ボクに気付いた主が「ナーク君♪」と言って最初の所になる。だからボクが主を独占中。


 王子が悔しそうに睨んだけど無視だ。主が自分から来たんだから、文句はないよね?




「……」

「良い人に会ったよね、ほんと」

「………」

「混ざってくれば?」

「何のことだ」

「珍しそうに見てるじゃ無いか」

「だからなんの事だ」




 南の国の王子同士の話を密かに聞いている。

 リグート国は兄が強いイメージだが、ディーデット国は弟の方が兄をやり込めているらしい。

 いつか王子が兄をやり込めるのかな。………想像出来ないな。

 

 あっ、なんか睨まれた。リベリーがニヤニヤしているのもバレているから、あとで殴られるなぁ。いや、殴られていいか。




「夜会……大丈夫?」

「頑張る」




 今日の夜会では必然的に躍らされる予定を聞いていた。主に聞いたら顔を引きつらせながらも、なんとか返事をしている。頑張ってと言う意味を込めて、優しく優しく頭を撫でる。

 



「ん。ナーク君が甘やかしてる」

「ボクも、一杯甘えてる。だから主も甘えてー」

「んー、そうするー」




 ホワホワした雰囲気で主と見つめ合う。んふふっ、と2人で笑っていたら急に主が後ろに引っ張られる。見れば王子がむっとした表情でボクを見てくる。




「ウィルス、そんなにナークが良いの?」

「甘えて良いって言うから」

「私には甘えないつもり?」

「さ、最初に良い子良い子して貰ったもん」

「だから、もんって言うの禁止だってば」

「う、うぅー」




 王子が後ろから抱き締めたまま、主が手をバタつかせる。それすら可愛く見えるのだから不思議だ。ボクがニコニコしていたらリバイルから「主が居る前だと本当変わるね」と、ボソッと言われた。




「まぁ、ウチの主の新たな一面も見れたから良しとするかな」

「どういう意味だ、リバイル」




 すぐにキッと睨んできたギルダーツ王子。でも、リバイルは面白そうにした様子でさっさと姿を消した。夜会まで時間があるからと、リグート国を少し観光してくるのだと。


 それから夜会が始まるまでの間、既に居座った状態の南の王子達に出て行けとは言えないまま……ゆったりとした時間が流れていった。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


ーゼスト視点ー



 案内された部屋に入り、用意する物はと聞く案内した人物を見る。黒髪に整えられた顔、昨日泊まった宰相の所と雰囲気が似ている。




「宰相の息子は2人も居るとはな」

「すみませんでした。自分は仕事があり兄が代わりに行いました。夜会が終わりましたら、馬車を用意致します」




 ニコリと微笑むが、ほんの一瞬だけ見た瞳には敵意が込められているのを感じた。ふっと笑い、それで頼むと良い下がるように言う。




「では。夜会の時間になりましたら──」

「姫は夜会の時には違うドレスを着るのか?」

「クレール様もウィルス様も、夜会に相応しいドレスをお召しになると思いますよ」

「一目惚れでもしたら大変だな」

「ご冗談を」




 スッと表情を消す相手。

 ククッ、早くも警戒されたか。いや、ワザとそうなるように俺も仕組んだんだ。睨まれても仕方ないな。




「……」

「よせ、ダークネス。俺が仕掛けたんだ」




 先に部屋に着ていたダークネスが睨み付けるのを止めさせた。すぐに「失礼」と言い成り行きを見守る。




「では、話は済んだので自分はこれで」




 パタン、と閉まる扉。俺は静かに椅子に座り目を閉じる。

 思い出されるのは噂で聞いていたウィルス姫の事だ。美しい髪は色素は薄いピンク色。だが、逆にそれが彼女の艶やかさを生み出し見る者を引き寄せる。


 そして、濃い紫色の瞳。あの髪に瞳の色、諸外国や我々ハーベルト国が手中に収められなかった事が悔やまれる。そう言えばバルム国の国王からは面会だけでも断られていたと言う父の悔しそうな顔を思い出す。


 まぁ、自分で言うのも何だか父は贅をつくした男だ。俺と同じくらいの年齢では武功を上げ、それこそ歴代の王達よりも活躍したが……息子である俺が生まれ、第3王子の弟達まで生まれてからは安心しきっている。

 だからこそ、体格は若かった頃よりも格段に落ちている。同じ王としてならディルランド国の国王であるアクリア王の方がまだ威厳があると言えよう。それ位に……自身の父のでっぷりとした体格に嫌気がさす。バルム国のラギル国王からはその辺を嫌われており、門前払いを受け屈辱を受けたなどとほざいていたな………。




「はぁ………」

「主……」

「いい。気にするな」




 思わずため息を漏らした。

 自分の父の愚かな考えと自分の欲を叶えようとする手段。それを俺は運悪く受け継いだようだが、今だけは感謝しよう。その為に、初めて見たウィルス姫を手に入れようと思ったのだ。


 初めはビクビクと恐れていた様子だが、それも仕方のない事だ。ギルダーツが妙に突っかかるからな。アイツの必死な様は珍しい上に、思わずそれに乗ってしまった。気付けばバーナン王子に守られながらも縮こまりながら、用意されていた菓子を頬張る姿。


 ギルダーツと共にキョトンとなるが、すぐに気付いたのか慌てている様はハーベルト国では見ない者だと思った。思わずニヤリとなった。リグート国のバーナン王子もこちら警戒している雰囲気が悪い中、完全に自分の世界へと逃げ込んだ姫に面白いと興味が湧く。




 そうして夜会の時間となり、城のダンスホールの中でも豪華な装飾がありシャンデリアがいくつもある。輝かしい雰囲気の中で、つい目で追ってしまったのは――第2王子と共に居た婚約者であるウィルス姫だ。


 会見の時と違い夜会の為にと彼女が着ているドレスに目を惹かれる。裾から上部に上がるにつれ色が濃くなっているグラデーション。まるで彼女の髪と瞳の色を表わしたようなデザイン色だと思った。明るすぎずかといって地味になり過ぎない絶妙な色の配置は、彼女の特徴を掴んでいるかのように思われる。

 踊る最中でターンをすれば、綺麗に映るだろうと想像を膨らませる。まだダンスをしてないのに、糸もたやすくそうだろうと確信が持てた。




「よろしいか、姫」

「えっ……」




 レント王子と楽し気に話している中、俺は会話を中断させるように割り込んだ。当然、2人は驚きディルランド国のアクリア王も近くに居たのを分かっていたが衝動で動いてしまった。




「構わないな、レント王子」

「………えぇ、構いませんよ」




 そう言いつつその目は敵意が丸見えだ。

 予定では最後に踊る予定だが、これも一興だと思いウィルス姫の手を取り中央へと足を運ぶ。




「俺は貴方に興味が湧いたよ、ウィルス姫」

「申し訳ありませんが私はありません」

「まぁいい。では今宵のダンスを楽しもうか……」




 会見の時と違い、はっきりとした拒絶の言葉。どうやらただビクビクしているだけの姫ではないのだと、感心したようにまた新たな興味が出てくる。




「退屈せずにすみそうだ」




 そう小声で言い、姫は怪訝な目を向けてきた。しかし、曲が始まれば彼女はスゥと目を一瞬だけ閉じ次には真剣になる目は俺を映す。宝石のアメジストを思わせる様な綺麗な瞳には、今は俺しか映っていないと言う高揚感に満たされる。

 

 ふっと口元が緩む。


 外交と言う面倒な事だが、この目で姫を見る事が出来たのは俺にとっていい収穫になる。婚約祝いと言うのも半分は当たっている。あぁ、早く父を退かす手段を整理させながら彼女とのダンスに集中した。

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