第47話:他国同士の会見~弟同士~
ーレント視点ー
「!!」
気付いた時には、扉が締められていた。ウィルスをあの場に残すと言う最悪な状況に思わず扉を睨み付ける。クレールも表情には出さないが、内心は慌てているはずだ。
《ナーク。たった今、魔法が使われたんだ。感知出来たかな?》
《ううん、何も感じなかったよ。どうしたの?》
動きが固まったウィルスの様子に魔法を使われた可能性を考えた。だからとナークに確認をとったのだが……気にしすぎだったか。
《何でもない。勘違いだ》
《はーい。ボク等は警護続けてまーす》
疑問を持った様子のないナークは、リベリーと共に外の警護を続けている。明るく言っているが、里を滅ぼした国の王の息子だ。
憎いはずだが、ウィルスが悲しむのを避ける為に明るく言っているのが分かった。言葉の端々に殺気が感じれるのもその為だ。
でも、ウィルスの前でそんな失態をしない辺り、流石暗殺者と褒める所でありリベリーが《ちゃんとやれ、バカ》と呆れた声にふと力が抜ける。
念話を終えるも、不安が残る。そんな時、ルベルト王子から話し掛けられた。
「兄がいるから中でどうにかしようとは思わないよ。それよりも君と話しがしたいから……何処か落ち着ける場所はあるかな?」
「では、隣の部屋を手配しそこで話しましょう」
「ぜひお願いします。貴方もご一緒で構いませんからね」
「えっ……」
クレールが目をパチパチと瞬きを数回したがすぐに礼をとる。話の邪魔になるから、と別室で待機すると思っての誘い。驚くのも仕方のない事だ。
「すまないが、すぐに用意を頼む」
「はい」
ウィルスとクレールを下がらせて、別室でゆっくりして貰うからと会見の扉を付近には女官を配置していた。事情を知ったファーナムから指示が飛びすぐに案内された。
その部屋の扉の前では事前にバラカンスとジークを配置していた。2人はウィルスとクレールの護衛だから置いたが、聞いていた状況と異なった事で内心驚くのも表情には出さない。
察しが良い幼馴染みで助かる。
《悪い。事情はあとで…。スティングには会見の場所まで来るように指示した》
《分かったよ、レント》
《あの場の空気に、ウィルス様が耐えきれるのか?》
バラカンスは短く答え、ジークが場に残されたウィルスを心配する。正直、私も耐えられるとは思わない。しかし、ルベルト王子があぁ言ったからにはギルダーツ王子が味方についてくれる、と言う表現で合っているのだろう。
《兄様が中に居るから恐らくは……》
《まぁね、分かった。こっちの仕事はいつも通りだな》
任せろ、と言われ自然と気が抜ける。
思った以上に体に応えたか、と思っていたらルベルト王子から話し掛けられた。
「ふふっ、仲が良いね。ウィルスにも、周りの彼等にしても……幼馴染みだったりする?」
「は、はい。幼い頃から兄様と一緒に居たので」
ふーん、と微笑み出来上がった紅茶が注がれていく。ファーナムが私の分、クレールの分と用意していくのを見て質問してきた。
「貴方がレント王子とウィルスに尽くしているのは前に見てましたから。……あの子が安心出来る場所なら、預けるのもいいかもね」
「………」
ファーナムは言葉に出さないまでも、驚いたようにルベルト王子を見つめる。今のセリフで遠見の魔法を使った事を自白しているようなものだ。
「すまない。以前、ウィルスの様子を見たいが為に、兄が遠見の魔法を使ったんだ。もし、不愉快に思われたのなら申し訳ない」
あとで兄にも謝らせるね、とサラリと言ってのける。一瞬、呆けてしまったが慌てて平気だと答える。害がないのはナークとリベリーから確認済みだし、理由も予想し合っていたのだ。
親族なら心配になるのは当然だ。少々、やり方が強引ではあるがと内心では思っていた。ルベルト王子はそれでも引かず「兄に謝らせるのも一興かな」と楽しげに言われてしまう。
「………」
「あ、反応に困るよね。気にしないでね。兄は滅多に表情を崩さないからここで崩れて貰おうかなって」
「は、はぁ………」
「あ、昨日の事でも話そうか。その時のギルダーツなんだけどさ──」
ウィルス達が戻って来るまでルベルト王子から一方的に話された。仕事に厳しい兄がウィルスの行動に笑って受け止めていた事、誰かから頂いたバレッタを大事にしていた事など詳細に教えてくれた。
ウィルスからはバレッタを無くしかけたのを助けてくれた、としか聞いておらず詳しく聞けるのはありがたい。私がプレゼントした物を、大事に大事にしてくれたのが嬉しかった。
「あ。やっぱりレント王子がプレゼントしたんだね。だからあんなにニヤけいたんだ」
「っ……」
表情に出さないようにしていたが、ウィルスの話が聞けただけでこれだ。ルベルト王子はニコニコしながら「あの子、愛されてるねぇ」とからかう声色に恥ずかしくなった。
やっぱり、私はウィルスに弱いのだと改めて自覚した。
戻って来たなら、頭を撫でよう。
良く出来たと褒めながらなら、彼女はきっと喜んでくれるだろう。
そんな期待を込め、ルベルト王子からギルダーツ王子について語られた。この方も兄弟が好きだと言うのが分かり、安心した自分がいた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
ーバーナン視点ー
今頃、レントが心配していると感じながらも目の前の事に集中しなければならない。
「珍しいな、ギルダーツ。お前がそんなに感情を表に出すとは」
「黙れ。イーゼスト国を滅ぼしてさぞ気分が良いんだろうな。だが、ディーデット国を簡単に落とそうなどと思うな」
「ふっ。弱者だった所を滅ぼして何が悪い」
「貴様の目的は全ての支配だ。支配すれば誰も文句は言えんからな。そうまでして何を求めている」
「支配の何がいけない。手に入れたいと思ったら、行動して功績になっただけの事。手に入れられるなら全てが欲しいね」
チラリとウィルスを見つめたゼスト王太子。
私が睨み返し、後ろに居たウィルスはビクリと体を震わす。狙いを定まれたと感じられても仕方が無い。
実際、彼はウィルスを狙っているだろうと思う。目的は分からないが、物珍しさなのかも知れない。
ギルダーツ王子がすぐに止めるように言うも、なかなか止めない。そしたら、今みたいにケンカ腰での言い合いが始まる。
「……っ……」
ウィルスはその空気に怯えてしまい、私の後ろに隠れてながらも成り行きを見守っている。時々、顔を覗かせながらも雰囲気から睨まれていると思ったのだろう。
服の裾をギュッと握りしめて、私を見る。本当ならガクガクと震えたいのを必死で抑えているのだ。私もこの空気は嫌だが、元々ゼスト王太子の動向も探りたいとは思っていたので止めないでいた。
うん。小動物のような動きにレントではないが離したくなくなる。……小動物の破壊力と言うか行動力、怖いなぁ。
「ウィルス、あそこにお菓子が並んでいるから休憩してきて良いよ。巻き込まれたんだから、それ位平気だよ」
「………」
チラッと並べれているお菓子を見るウィルス。
こちらを見てはお菓子、見てはお菓子の方へと繰り返して私を見る小動物。徐々に近付きながら、チラチラと様子を伺いながら、不安げに視線を彷徨わせる。
幸い、まだあの2人は言い合いをしてこちらの様子には気付いていない。私が大丈夫だと、微笑み一気にウィルスの雰囲気が明るくなった。
おかしいな。ウィルスが子犬っぽく見えるぞ。嬉しそうにして行くからそう……見えるんだよね。
あぁ、何故か頭を撫でたい衝動が……。
「!!!」
最初に手に取ったクッキーを一口食べてた途端に幸せそうな表情。美味しいからか、ハムハムと音を立てずにクッキーやマフィンを食べていく姿に心温まる。
面白い事に、しゃがんでいるのに徐々に距離を空けていく所をみると…早く部屋から出たい、と言う無言の訴えのように思える。
(レントが構うの……分かる気がする)
小動物を囲い込たい気持ちになる。
ナークが「可愛い♪」と言いながら時たまウィルスの事を、撫でていた姿をたまに見かけるが……こういう事かと納得した。
「むむっ、昨日食べたのよりもしっとりしてるし美味しい……。凄いなぁ」
ウィルス。
心の声を言うのはダメだ。さっきまで言い争いをしていた2人に注目されてるから……!!!
「「………」」
モグモグしてるからか、会話が止まった事すら知らない。あ、うん……ウィルス、お願い戻って来て。お菓子に夢中で夢中で食べないの。
「!!……んん、んぐんぐ」
あぁ、そんなに焦らないで。紅茶もゆっくりで良いから飲んで飲んで。ワタワタしてるけどなんか可愛く見えるのが不思議だよ。ダメだ、世話したい……。
「面白い……」
小さかったが、私とギルダーツ王子には聞こえた声。
ウィルスは未だに慌てており、喉につまらせないようにと必死だ。そう言い、先に部屋を出たのはゼスト王太子だ。
「では、今宵の夜会……楽しみにしていよう」
そう言って部屋を出る直前、ウィルスの事をチラリと見る。密かに笑みを浮かべた彼を、私の中で危険だと言う警鐘が鳴り響く。
そんな緊張感の中、会見をなんとか終わらせる事が出来た。どっと疲れが出て、用意された椅子に座る。見ればギルダーツ王子も同じように疲れた様子。
「ギルダーツ様、バーナン様。あの、こちらを……」
おずおずとウィルスが私達2人にと、差し出したのは1口サイズのシュークリームだ。昨日、行動をしていたからかギルダーツ王子が先に「あーん」をさせられている。
噂では仕事に厳しく、笑顔を見せないと聞いていたが……ウィルスを前にした彼は微笑んでいた。柔らかく、心の底から嬉しいのだと分かる変化。
思わず驚いているも、その後2人に「あーん」をさせられるとは思わなかった。
レント達には内緒だ。特にリベリーの奴には絶対に知られる訳にはいかない。




