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猫になった私は嫌いですか  作者: 垢音
他国交流篇
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目的


 場所はバーナン王子の執務室。この部屋には、レント、スティング、ナーク、リベリーが揃っていた。スティングは先ほどまでのウィルスの行動を報告した後。

 その間にも重い空気が流れるが、ナークは未だにふくれっ面。それをリベリーがグリグリと頭を拳骨で押しつけるが効果は無い。




「そう……。ウィルスが行動してたのって、ギルダーツ王子とルベルト王子なんだ」




 早速接触かぁ、と和やかに言うがレントの表情は不機嫌の一途を辿っている。スティングは実際に資料として、2人の顔を知っておりギルダーツ本人から瞳の色を確認し、今回の事は自分が連れ回したから、と言う理由を言ってきた。


 ウィルスに責任はない上、自分の責任だと言われればスティングは追求が出来ないし危害を加えられている訳でもない。




「まぁ、母親の兄弟の娘だから従兄弟に当たるし……気になったんだよね。実際、ハルート叔父上からの連絡も受けているし」




 ハルート・セルロール・リグート。

 ギースの弟にしてバーナンやレントには叔父に当たる人物。その息子のリラルからの報告でディーデット国の王子2人が予定より早く到着し、リグート国の視察と評しての観光してきたと確認が取れている。


 今日の夜に到着する予定の2国の王族。予定でしかないが、南の国は特に家族の絆を大事にしているとの事で愛妻家や家族思いの多い国だとも聞いている。


 恐らく嫁いだ国とは別の国に、ウィルスの母親レーベは行ってしまった。娘が生まれたのは知っている事から、連絡だけは取っていたと考える。

 その国が滅んだとされれば、当然捜索はするだろうし生き残りはいないと見なされたのだろう。実際、ウィルスは生き残りナークから南の国からも遠見の魔法を使用したと言っていた。




「王子のどちらかが、遠見の魔法を使ったのは確定。ウィルスだけを見ていたとなれば、普通に無事な姿を見たかったと言う事だね」



 良かったと呟き、安心したように胸を降ろすバーナン。彼が恐れたのは、ウィルスの命を狙う暗殺者の存在。王族同士の結婚、片方は亡国の姫である事から見世物や興味本位で手が出されるのは許しがたい。


 彼女は未だに猫になる体質をその身に宿している。


 亡国の姫と言うよりも、猫から人間になると言う体質は興味を持たれてしまう。未だに元に戻す方法が見付けられず、ラーファルの帰還で、どれだけの事が分かるかと気が気でない日々を送っている。


 最長で3日日間、ウィルスとして姿を保てるが気が抜けた時やカルラの気分で変わってしまう事もあるらしく、ナークやリベリーがカバーしているのはバーナンに報告されている。

 が。明日は他国との交流もあり隣国のディルランドが参加するのは明日の夜。昼からの交流では、手助けが出来ない。加えて東の国、ハーベルト国はリベリーとナークの住んでいた所を根絶やしにした場所だ。

 

 そして魔獣を従えていた人物からも、襲ったと言う話を聞きリグート国としては警戒するに値する。




「………今、ゼスト王太子の対応しているのは宰相の所だよね?」

「えぇ、俺の代わりに兄さんが引っ張り出されて対応していますよ」




 お陰で自分に来なくて助かっている、とスティングは喜んでいる様子。その日の夕方、ハーベルト国の王太子であるゼストはリグート国に到着しその対応を宰相であるイーザクが担当している。

 本来なら叔父の所でと予め決めていたが、予想外な行動を起こしたディーデット国に内心で溜め息を吐く。親族の無事を確かめる為に居ても経ってもいられなくて来たとなると噂で聞く第1王子のギルダーツの評価と異なる事になる。




(まぁ、あの国は絆が強いと噂であるからウィルスの無事を早くこの目で確かめたかったと言う事になるのかな)

「それでナーク。何で、姫さんを昼から連れ出したんだよ」




 護衛でもマズいだろうが、と軽く叩くリベリーにナークはプイッと顔を逸らす。バーナンもレントが聞いても、ナークの態度は変わらずむむっと態度を崩していない。

 するとスティングが「あぁ」と思い出したように手をポンと叩く。




「カルラの時でも俺が独り占めしているし、明日の為に色々と準備もしていたから……その為の気分転換だよね」




 図星だったのかコクコクと頷くナーク。そこでまたリベリーが「だからってお前なぁ……」とまたペシッと叩く。明日の為に色々と準備をしウィルスには、貴族との顔と名前を覚える為に資料を見せたりしていた為に、密かに見ていたナークが体調を心配して連れ出したのだろうと思いバーナンは苦笑した。





「次からはちゃんと断りを入れてね、ナーク」

「………」

「返事は?」

「はーい………」

「反省しろっての」




 今頃、ジークに色々と慰めて貰い気分が降下中のウィルスと話そうかなと考えたレントはナークを連れて自室へと戻った。その後、まさかレント自身がジークと同じ猫パンチまみれになるとは思わなかった。

 扉の前で待機していた兵士が「猫達が今日も元気で……」と、何処か気力を失ったように答えていたので彼等にも被害があったと考える。そんなこんなで、明日を控えた彼等は猫に遊ばれながらも気持ち良さそうに眠ったとかいないとか………。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「………流石、リグート国。大国に数えられるだけの国土と生産量を持つ国だな」




 グラスに入ったワインを飲み、優雅に椅子に座る男が1人呟く。国について案内されたのはこの国の宰相の屋敷。先程まで、話しをしていた騎士とも使用人もよく教育が行き届いていると感心した。


 ハーベルト国の者達にも見せてやりたいものだ、と王太子であり王位継承権1位を持つゼスト・リーゼルト・ハーベルトは思った。




「ゼスト様、今日はご機嫌ですね」

「ふっ、そう思うか」




 護衛のダークネスが傍らに控え、機嫌の良い主にそう質問した。ゼストの気分が良いのは2つある。1つ目はバルム国の生き残りであるウィルス姫が生きていたと言う事、2つ目は長らく争っていたイーゼスト国をついに滅ぼせたことだ。





「くっくっくっ。噂に聞く美貌とやらを近くで見る事が出来るんだ……楽しみでしょうがないだろう」




 バルム国の1人娘は諸外国が羨むほどの美貌と可憐さを秘めていると言う噂。何よりも目を引くのは瞳の美しさだと聞く。バルム国の国王と同様の美しい紫色の瞳、その色が宝石のアメジストを思わせる様な色である事。

 時々、国で採れる宝石とは別の色が王族の中で現れる時がある。

 特異性が高く珍しい魔法を扱える証拠でもある為に、その珍しさから諸外国が取り入れようと手に入れようとする所は多い。


 ハーベルト国も手中に収めようとしている国の1つでもあるからだ。




(さて、そこまでの注目を浴びる姫君はどのような姿なのだろうかな)




 この国の第2王子の婚約者として、亡命国として名前を上げたからには注目される事は目に見えている筈だ。そして、ゼストが気になる事がある事がもう1つある。




「ダークネス。俺が良いと言うまで部屋に入るな。休憩がてら風呂にでも入った方が良いだろう」

「では、そのように……」




 すぅ、と部屋を静かに出て行くダークネスを見送り気配が消えたのを確認して「お前はどう思う?」と声を掛ける。




「どう、と言われましても………」




 優し気な口調のまま、ゼストの前に現れたのは仮面を被った男性とも女性とも取れる人物。全身を長いコートで羽織くぐもった声での対応。不敬とも取れる態度にゼストは気にしたようにもなく話しを続けた。 




「隠すな。……会ったんだろう? バルム国の姫に」

「ふふっ、バレますか。……えぇ、聞きしに勝る美貌ですよ」

「傷は付けてないだろうな」

「………少々、キツく締め上げましたが」




 ヒュン、と風を切る音が聞こえたかと思えば膝まついた人物の片腕がなくなっていた。斬られたと言うのに血も出ないままだったが、うねうねと影が蠢き腕を元に戻していく。




「今後、そのような事はするな。……俺の物にするんだ。傷を付けられては姫に恐怖が植え付けられる。花のように愛でられたのなら、なるべくはそう言う環境には整えたいんだ」




 なるべく綺麗なまま、自分の手元に置きたいと言う意思の表れでもあるようにゼストは睨み付ける。ワインを飲み干し、相手を睨み付けるも向けられた人物は「それはそれは……」と楽し気に笑うだけだ。




「分かりました、今後一切そのような行動は致しません。それで兵器は役に立ちましたか?」

「あぁ、お陰でイーゼスト国を滅ぼすのに有する手間が省けたからな。魔獣を兵器に転換するとは恐ろしい考え方をするな」

「いえいえ。貴方様の役に立てたのなら良かったです。これで貴方が王になるのに盤石な駒が揃いましたな」

「……1つ聞く。何故、俺に協力した」

「協力、ですか?」

「魔獣を制御するとまではいかないが、その気になれば俺でなく他の国々も滅ぼせるだろう? ワザワザ表舞台に出ない理由でもあるのか」

「………そうですね。私共は夜にしか動けない不便な身。表に立つには扱える者が居ないといけないのですよ」

「俺のように非情な王を……か?」




 ふん、と鼻で笑うゼスト。相手は話を続ける。自分達は利害が一致しているのだ、と。

 ゼストの目的は自国以外の国を支配する事。魔獣を有する者の目的は、対抗出来る魔女と光の力を滅ぼす事。支配と蹂躙と言う目的の元、ゼストは自国の国王に黙って様々な行動を水面下で行っていた。




「まあいい。贄はいくらでもあるしな………明日が楽しみだ。頼むから妙な事はするなよ」

「くくくっ、分かっていますとも。流石に楽しみを邪魔してまで騒動を起こそうなどとは思いません」

「……ふっ、だといいがな。何はともあれ、明日が楽しみなのは事実だ。この国の第2王子は大層その姫を溺愛していると言う噂……確かめてみたくなった」




 だから接触をする。

 婚約祝いと言う名目の元、無理に接触を図ったのは興味があるからだ。南の国の王子もどうやら目的を持ってここに来ている様子。ふっと、ゼストは笑う。


 明日が本当に楽しみだ、と心の内で思いワインを自ら注ぎ再び口にした。

 

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