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猫になった私は嫌いですか  作者: 垢音
他国交流篇
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第45話:道案内

ーナーク視点ー



 主が人混みの中に紛れて、階段下に倒れる所まで確認しすぐに駆け付けようとした。が、すぐに蹴りがきた。かわして向かい合わせに相手を睨み付ける。




「………何、いきなり」




 思わず声が低くなる。主の所に急がないといけないと言うのに、ここで時間を潰す訳にはいかない。裏路地の暗がりに感じる気配は1人だ。

 でも、出てくる気配はない。スッと格闘戦を想定し構えを取る。




「!!!」




 勘で右に避ければ空を切った足が出てくる。外した瞬間、そのままボクのいる位置にまで迫り来る。それを何とかかわして、上へ逃げるようにして壁をつたう。

 狭い中で戦うより、開けた場所で対応しようと考えた。




「……」




 結果、相手はボクの誘いを受けるように追って来た。屋根に乗り互いににらみ合っていると相手から話し掛けてきた。




「そう構えないで。君、あの子の護衛だろう?」




 答える義理はない。でも、ボクが近くにいるから男の護衛かと考えをまとめる。じっと睨むと「ほれ、飴でも食べてる?」と言って取り出したのは透明な袋に入れられた小さな丸。

 色は薄い緑色で、思わず気になった。首を振って断る。主じゃないんだから、と心の中で思っていると視界に2人が見える。


 何故か手を繋ぎながら、主が必死で教えている。出店の串焼きを一緒に食べて、ニコニコとしているから思わずボクも笑ってしまう。     


 


「へぇー。その顔が君の素な訳だ」

「!?」




 思わず下がる。主の事で気を抜いてしまったから、再び構えるも飴玉を目の前にちらつかせる。




「君の主は随分素直な子だ。素直な子は好きだよ、私は」

「………」

「遠慮しないで。南の国で作った飴だから甘いよ?」  




 南の国、と聞いて警戒が強まった。

 それを感じ取ったのか「あ、ごめん。関係者だからさ」と深くまで被ったフードを取った。




「初めてまして。リバイルと言うよ」

「………ナークです」

「うん。よろしくナーク君」




 リバイルと名乗った中性的な顔をした男性。薄緑色の短髪に赤と緑色の瞳。茶色のズボンに黒の上着。気配を絶つやり方やボクが壁をつたっていくのを平然と追って来た事から同業者かそれに近い者だと分かる。

 観察しながら目が美しいなぁ、とか思っていたら「君の赤目、可愛いよ」と言われた。




「男に可愛いって……」

「素直に言った感想だよ。君の護衛している主と一緒だよ」

「………」




 主の事を褒められるのはなんか嬉しい。でも、ボクは褒めなくて良いと思う。

 むすっとしたのが分かったのか「君、主の事を本当に好きなんだね」と優しげに言われた。




「……悪い?」

「別に。良い主に巡り会えたんだなと思って」




 それは、確かにそうかも……。主といると楽しい。見捨てても良いのに、ウィルスは傍に居て良いと言ってくれた。彼女の為になら、ボクは何でも出来るんだと心の底から思う。




「あ? リバイル?」 

「おや、リベリーじゃないか」 




 そこに駆け付けたのはリベリーだ。とりあえず対応はそっちに任せようと、ボクはすぐに主の元に行く。


 


「あ、お前!!!」



 怒っている様子だけど知らない。知り合いっぽいならそっちに任せて何が悪い。フッと笑って、ボクは主の近くにと急いだ。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



ーウィルス視点ー



 ギルさんが初めて来たということで、私が分かる範囲でリグート国を案内する。今は第1王都でのんびりと歩いてる。チラッと嬉しそうに歩くギルさんを見る。

 彼は観光で、今日と合わせて2日日間リグート国に居るんだって。こうして散歩したりするのが好きらしい。初めに感じた違和感も徐々に薄れ、今では普通になっているから気のせいかなと思う。




(……すっごく優しい。女性に優しい人なのかな)

「あそこで休むか」

「はい!!」




 ギルさんが指を指したのは噴水の近くに配置された木製の長椅子。近く人は居ない様子で、時々貴族が乗る馬車が通る位だから殆ど静かだ。


 


「良い国だな」




 椅子に座りギルさんから発せられた言葉に頷く。嬉しそうにしているのが分かったのか、ギルさんからは「ウィルスは……」と発しようとして止める。    

 考えて込まれてしまい、じっと待つ。不思議とこの空気が好きだから、別に苦ではない。やっぱり何処で会ったのかな?




「見付けましたよ、兄さん」




 そこに声を掛けてきた人物が居た。ギルさんと同じ髪と瞳の色なのだが明らかに不機嫌だ。ギルさんの服装でも思ったが、高そうな服を着ており、醸し出されるオーラから高位貴族かなと思った。

 着ているジャケットは仕立てがよく、すらっとしたズボンが気を引き締める要素を持っている。




「なんだ、ルベ……ルーベルト」

「は? なにを……はいはい。何ですかまったく」




 ため息交じりに返事をし、私に笑いかける。「貴方が……」と聞こえたような気がしたがはっきりとは聞こえなかった。首を傾げた所に名前を呼ばれて振り向くと、仕事着ではないランデルさんと遭遇した。




「どうされましたか、ウィルス様」

「あ、えっと……道案内? かな」

「それはそれは。……宜しければ、服を新調致しましょうか。ウィルス様には新作のスイーツをご用意致しますよ」 

「えっ!? あ、い、いいえ。お言葉に甘える訳には……」

 


 

 思わず頷きかけて我慢する。ランデルさんの仕事を邪魔してまで甘えない。ギルさんとルーベルトさんがコソコソ話しているのをチラッと見て、やっぱり無理だと思い丁重にお断りをする。




「明日の為に微調整をしたいのです。ギース国王から、ウィルス様好みの味にして欲しいと要望を頂きました。代金はそれも含んでいますし、やはり食べる方の意見も聞きたいのですよ」

「明日……。ランデルさん、知っているんですか?」

「いえ、詳しくは分かりません。ただ、お茶会の為に私達の店をと国王自らの要請です。食材はお城でのものを使いますし、道具の持ち込みは出来ません。と、なるとやはり食べた方の意見が我々には良い材料になります」

「………」




 用意周到過ぎて、怖い……。徹底した持ち込み禁止だと、私の意見が必要なんだ。しかも、明日のダンスの為に披露し、好評ならお店にも出す予定。

 つまり、私が先取りなんだ…。良いのかな。




「ふふっ、悪い話ではないと思いますよ? ウィルス様が食べている間に、お連れの男性の服を新調しますしその間の時間を、過ごすと言う形になりますね」

「……う、うーん」

「それで構わないさ。な、ルーベルト」

「そうですね。貴方だけ楽しまれても困りますし」




 突然、会話に入って来たギルさんとルーベルトさんに驚いた。あれよあれよという間に、お店にも入り特別個室に案内される。

 ギルさんはそのまま服を新調しに、ランデルさん系列の服屋さんに案内され気付けば……ルーベルトさんと2人きりだ。




(何ていう手際の良さなの……!!!)




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



ールベルト視点ー



 ギルダーツが突然「近くにいるようだから行って来る」と、当然のように分かれた。呆気にとられて追い掛けるも、昼の時間帯と言う事もあり人混みが凄い。

 どうにかして抜け出すも、当然ギルダーツは居ない訳で……。思わずリバイルに念話をして確認を取らせた。




《あ、すみません。今、知り合いに捕まってて無理です》




 護衛の意味が……。思わず遠い目をしそうになり、ギルダーツの魔力を辿りながら歩き回る。まさか出店と呼ばれる店先で、物を買って食べ歩きする日が来るとは思わなかった。

 食べ物が安定しているし、値段が安いのにこの上手い味付け。値段の有無と言うより、リグート国は安定した生産と他国に輸出出来る規模を誇っていると、ついつい考えてしまう。




「見付けましたよ、兄さん」




 やっとの思いで見付けたギルダーツ。隣には薄いピンク色の髪のギルダーツと同じ位の紫色の瞳の女性──ウィルス姫がいた。しかも名前を勝手に変えて……はいはい、明日会うまで言わないんですね。

 分かりましたよ、合わせますよ。…合わせろって、密かに睨まないで。




「んーー、おいひぃーー♪」




 そんなこんなで、彼女2人で高級店の個室に案内されました。目の前には様々なお菓子が1口サイズで並べられ、お皿を飾っていた。

 ウィルスはとても幸せそうに、お菓子を食べてピタリと動きが止まった。ギギギ、と機械のようにゆっくりとこちらに視線を合わせてきた。どうしたのかな?




「あ、あの……私ばかり食べてるんですが、ルーベルトさんは」

「気にしないで下さい。甘い物は苦手で……こういうのは、美味しく食べてくれる方が作った側も嬉しいと思いますよ」

「………」




 困り顔でじっとなり、視線を彷徨わせてから「じゃ、じゃあ……」とモグモグと食べた途端に広がるピンク色の雰囲気。誰がどう見ても絶品なんだなと、思わせる表情を見て密かに笑う。


 ギルダーツが笑うはずだ。隣であんな幸せそうにされて、無表情でいろと言う方が辛いか。


 


「遅くなった」

「平気ですよ、兄さん」




 ほら、とウィルスの方へと視線を合わせるように言った。途端に普段の兄では絶対に見ない優しげな微笑み。部下に見られた場合、悪夢だとうなされるのが確定だなと、思いながらも口にはしない。……兄に殺されたくはないから、ね。




「ありがとうございました!!!」

「いえこちらこそ、貴重な意見をありがとうございます」




 そこからは久々にゆっくりとした時間が流れた。入った店も対応が良いし、食事も美味しかった。国に戻ったら食べ物に力を入れるだろうなと、遠い目をした。

 ウィルスが喜ぶなら、何が何でも実行しよう。と、言う兄の気合を隣でヒシヒシと感じた。また、周りが振り回されるなと思いながらも楽しい一時なのは間違いなかったからね。    




「探しましたよ、お嬢様」 

「!!!」




 ビクリ、と分かりやすい位にウィルスの肩が大袈裟に震える。振り向けば黒い髪の青いローブに身を包んだ男性が、和やかにしかし寒気を与えるような威圧をウィルスへと向けている。




「ス、ススス、スティングさん……」

「何を何処でやっていたか、じっくり聞かせて貰いますよ」

「あ、う………」



 さっと顔を青ざめ、兄がスティングと呼ばれた男性に近付き耳打ちする。内容は予想できるから、良いかなとそのまま見守る。ウィルスをスティングに返す直接、私も彼女の耳元で話した。




「え……」



 

 明らかな動揺が見て取れたから今日はこの辺にしよう。引き留められる前に、さっさと退散する。



──明日、またね。 


 そう言ったらウィルスが慌てたように、名前を呼んできたが私も兄も無視をするように足早に離れる。私も兄と同じように楽しみが出来たよ。


 じゃあね、ウィルス。良い夢を見て、明日会えるのを楽しみにしています。


 

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