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猫になった私は嫌いですか  作者: 垢音
他国交流篇
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第44話:予想外な出会い

 

「着いて……しまった……」



 船で来たのだから変更など出来はしない。しかし、とギルダーツは自分の行動に参ってしまった。まさか、返事が来た時の嬉しさでそのままリグート国に来てしまったなどと誰が思うのだろうか。


 しかも、それが厳しいと影で言われている第1王子など、誰が思い予想出来ようか……。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



ーギルダーツ視点ー



「失敗、したな………」

「こっちはそれに合わせたからね。もう彼女に会えないかも知れないからって、そのままこっちに来るかな普通」

「すまない………」




 場所はリグート国の南側。 

 港を占める場所であり、船で来た俺達は公式で訪れている旨を話し、管理している屋敷へと招かれた。東側を正門とし、そこから発展していった国。

 西側の一般人の出入りを禁止している所には、鉱脈があり深い森がある。白い塔のような施設があり、聞けば訓練所や魔法を扱える施設だとか。




「お待たせしてしまい、申し訳ありませんでした。ギルダーツ王子、ルベルト王子」




 そうして談話室へと案内し2人で他愛ない会話をしていた時だった。この屋敷を管理していると思われる人物が入って来た。


 銀髪とエメラルド色がこの国の王族の証だ。現に対応している男は短い銀髪に、優しげな笑みのエメラルド色の瞳だ。エメラルド色を淡くした上下のスーツ。胸元にその色の羽が散りばめられ、鮮やかを演出していた。




「いえ、こちらが予定よりも早い到着だったもので……」

「予定では今日の夜に到着する予定でしたね。では、こちらでの対応に変更に致しましょう。ハーベルト国のゼスト王太子には、イーザク宰相に対応させるように伝えておきます」

「すみません。バタバタと」




 密かに睨んできたルベルト。分かっている、俺が全部いけないんだと。護衛は姿が見えない1人しか連れて来れなかったしな。あぁ、俺が悪いとも……だから、さっきから謝っているだろうに。




「ゼスト王太子も、予定通りですか」

「はい。本来はこちらで対応しますが……何か、嬉しい事でもありましたか?」

「あ、あぁ。……久々に喜んでしまったんだ」




 予定より早い到着。波もずっと穏やかで荒れた様子はない事から、準備を前倒ししてきたのはバレバレだ。日々、港を管理しているのだから海の様子を見て不思議に思って当然だ。

 



「もしかして……ウィルス姫とお知り合いで?」

「ま、まぁ……そんな所だ」




 気恥ずかしくなりながらも答える。嘘をつく気はないし、嘘をついた事で信用を得られないのなら意味はない。ルベルトがジト目でいるがな……。




「私も傍目からですが、レントが尽くしていますよ。両想いなのは既に城の者なら誰でも知っていますからね」




 不遇な扱いをされていないのは、遠見の魔法で知っている。しかし、実際来言葉に出して貰うだけで良かったと本当に思える。

ほっとしたが、ルベルトが静かに足を踏んできた。

 その目はとても冷え切っている。




「えぇ、困った兄を持つと大変ですから。レント王子には、兄が居ましたね。同じ弟としてぜひ色々と話を聞きたいです」




 そう言いながら踏む力に容赦がないな。俺達は、剣を扱えるようにと体を鍛えているが……普通なら痛みを訴えるからな、ルベルトめ。




「振り回される身にもなれって」 

「………すまん」




 キョトンとなる相手に俺は何でもないように言い、リグート国を観光する許可を貰った。あと、魔法で自分の髪と目の色を変えたから、すぐに俺やルベルトの事は分からないだろう。




「よし、行くぞ」

「はしゃいで転んでも知らないからね」




 そんな小言を言うルベルトを無視して、リグート国の王都を見学しに行く。うん、他国に着くとテンションが上がるんだから仕方ない。

 ため息が聞こえた気がするが、気のせいだな。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


ーウィルス視点ー



「ふふん♪ なんか、嬉しいなぁ……お祝いの品か」




 レントから貰った婚約祝い。そうは言ってもディーデット国からのお祝い。ペンダントだから目立たない筈なのに、エメラルド色の水晶が先端についているのか存在感がある。

 やっぱり、リグート国はエメラルドを採れると知っていたから選んだろうか。




《主、そのままスキップすると人にぶつかる》

「わわっ……!!ごめんなさい」




 ナーク君の念話でどうにか回避。と、言うより念話に慣れていないから、未だに頭の中に声が響くのが慣れない。うぅ、レントの場合は刻印の光がかろうじて見えるからまだ良いんだけど……。




《そのまま真っ直ぐ行けば大通りになる。昼間で人が多いから気を付けて》




 コクコク、と頷いたらナーク君に念話で笑われてしまった。

 むっ、酷い……。

 ナーク君が護衛してるから、何処から見てるか分からないからと思って頷いたのにな。




《ごめん、ごめん、何でもない。主はそのままでいてね》

(そのままでって……頷いで笑われたのに?)




 むー、とふくれっ面で歩く。明日には2か国が婚約祝いとしてリグート国にやってくる。東側の王となったハーベルト国、お母様の故郷南の国ディーデット国……ただの婚約祝いでないと言うのがレント達の見解だ。




「祝い事と同盟に関しての話なのかな……ハーベルト国は前に手荒い歓迎を受けたから、嫌な印象しかないんだけどさ」




 バーナン様は誰が見ても分かる位に嫌な顔をして話していた。カルラになっている私は彼の膝の上でだらけている。だって、頭を撫でて貰うと自然とそうなるんだもん……仕方ないよー。




「ミャア~~」

「ねっ、カルラも嫌だよね?」

「ミャミャ」

「来なくて良いよ、あの国………」

「そうは言うがな……」




 難しい顔をして話すのは国王のギース様。時々、カルラを見て手を振ってくれるからその度に「フニャ、ニャニャ」と鳴く。そうすればほっとしたような安心したように笑顔を向けられ、宰相のイーザク様に叩かれる。




「でも断ったら面倒な事を言われかねないし、仕方ないんでしょう」




 レントも諦めかけたように言われ、ナーク君は「でも……」と言葉を続ける。彼曰く、あの国は暗殺ギルドが発展したから自分達みたいなのが多いのだと。だから国専用の暗殺部隊もいるから気を付けた方が良い、と。




「国専用の……」

「戦争孤児も多いし、身寄りのない子供も居るからそう言う人達が暗殺とか裏仕事を教え込まれる。……ボク達、トルド族は住める場所がある代わりに戦闘訓練してるんだ。たまに、ハーベルト国からの依頼もあるよ」




 殆ど暗殺だけど、と説明するナーク君の補足をしていくリベリーさん。私は思わずナーク君の所に歩み寄り、スリスリと頭をこすりつけて鳴く。抱き抱えて「今は主がいるから平気だよ~」と同じくスリスリと甘える。




「フニャ~」

「うん、主がいるから平気~~」

「はいはい。スリスリしない」

「うわっ」

「ミャン!?」




 レントに無理矢理引き剥がされて、頭の上に乗せられる。

 嫉妬? ナーク君に? 

 キョトンとしていると「とにかくハーベルト国には注意だね」と、少しだけむっとした表情のレント。





「………」

≪主、どうしたの?≫




 はっとなり今までの事を思い出していた。とにかく、私の猫になっちゃう体質と言うか呪いを知られないようにする為に、目立たない様にとイーザクさんに言われてしまった。


 ボーっとしていたのがいけなかった。昼時で賑わう大通りに人混みの為にもみくちゃにされてしまった。どうにか抜け出して落ち着いた時、髪を結んでいた筈のバレッタが無い事に気付いた。




(ま、まさか、あの中に……?)




 人混みが多いのは昼時と言うのもあり、食べ歩きが出来る出店が多い場所だ。せっかくレントからのプレゼントなのだ。思わず人混みの中に戻り、悪いと思いつつしゃがみバレッタを探す。




「す、すみません、すみません……」




 時には蹴られるけど、仕方ない。こんな人込みの中にしゃがむ人間がいるのがいけないんだ。ナーク君から焦った声が聞こえてくるが、それに構わずに無我夢中で探す。




(あった……!!!)




 手を伸ばそうとするも、別の人の足に蹴られコロコロと転がされる。慌てて追いかけた先でどうにかして掴んだ。よしっ、と思ったら地面が無い事に気付いた。




「っ……!!!」




 何かを乗り越えた様な感覚はあった。下を見たら階段が続いている。あ、落ちるんだと思っていたら誰かと一緒にゴロゴロと転がった。一緒に転んだからか、私にダメージはなかった。あれ、と思って誰に抱き留められているのかと見る。




「つぅ、平気か……?」




 ナーク君だと思った。でも、助けてくれたのは男性だ。

 肩までの艶のある青に近い黒髪。同じ色の瞳の男性が、私を心配そうに見ており「何処か痛むところはあるか?」と聞いてくる。




「だ、いじょう、ぶ……です」

「そうか。ならいい」




 フワリと笑ったその顔がとても優しい表情をしていた。その後も、私の事を気にかけ髪を撫でたり、手や足に怪我がないかと聞いて来た。




「ほ、本当に平気なんです。あの、貴方が助けてくれたから………」

「あぁ。それより足は平気なのか? 変にひねったりはしていないか?」

「平気ですよ。私より貴方の方が」

「俺は平気だ。これでも鍛えているんだ」




 剣を扱うんだと微笑まれ、立ち上がらせてもらった。私を庇った時に付いたのか泥や汚れが服に付いているのが目立っていた。




「す、すみません、服が……」

「ん? あぁ、本当に気にしないで。君が、無事なら……良いんだ。それで」




 ずっと、こうだ。自分も怪我をしている可能性があるのに、自分の事よりも私の方の怪我がないかと言って来る。………何で、こんなに親身になってくれるんだろう。




「その髪留めは大事なものなのか?」

「は、はい。大事な……私にとって、大事な人からのプレゼントなんです。だから嬉しくて……」

「そのペンダント……」




 バレッタの他に注目したのが、祝いの品のペンダントだ。なんだか、嬉しそうにしているから「似た様な物を持っているんですか?」と思わず聞いた。そしたら「持っているんだ」と答えが返って来た。




「住んでいる国の品によく似ているんだ。……俺はギルと言う」

「あ、えっと……ウィルスです。ありがとうございます、ギルさん」

「呼び捨てで構わない」

「へっ?」

「平気だ」

「………」




 何だろう、すっごく期待している目を……。え、でも、初対面だしな。うぅ、でも待っている感じだし……。




「ギ、ギル……」




 か細く、小さい声だ。周りの音の方が大きいのに、ギルさん……は凄く嬉しそうに笑っていた。そして「よろしく頼む、ウィルス」と手を差し出してきた。




「まだここには不慣れなんだ。良ければ……案内して貰って良いかな?」

「ゆ、夕方までなら……平気です」

「そうか。なら、頼む」




 こうしてレントからのプレゼントで思わぬ出会いをした。黒髪の……私を見る目が凄く優しい、どこか懐かしいような目。


 何だろう……初めての気が、しない。不思議な、懐かしい変な感じの出会いだった。

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