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猫になった私は嫌いですか  作者: 垢音
他国交流篇
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第43話:薬屋

ーミリア視点ー


 目の前に現れた少年、ナークから話を聞いて驚いた。魔力感知と言う珍しい力の持ち主だが、トルド族と言う特別な少数民族。ハーベルト国の奥地、誰も立ち入らないような場所にひっそりとしていたと記憶をしている。




「ボクはそのハーベルト国の追手から逃げ延びたんだ。悪いけど、これも生きる為に必要な事だったんだ。後悔はしていない」

「………別に非難はしないよ。んで、主の国を燃やした私をどうしたんだい?」

「それしか方法がないならボクに責める理由はない。それに、酷い事を言うようだけど……国がなくなったからこそ、ボクは彼女に会えたんだと思う。こんな幸運、離す訳にはいかない」




 ボクが守るのは今だ、と強い意志を持ってそう言った彼。あぁ、彼もかと思った。

 魔女も暗殺者も嫌われやすい者だ。彼も誰かに認められる存在が……誰かが傍に居るのだと感じた。だからなのだろう……。私は彼に話していた。自分が魔法を扱えなくなっている事、治す方法を探す為にもリグート国に居る事。

 も、もちろん、リーガルとの事も話した。




「リーガルさん。主がスープの味付けが好きだと言っていたあの料理人が……。なら、主の呪いも」

「魔女の呪いは魔女自身が解く仕様のもの。悪いけど、彼女にはまだ苦労を掛ける事になる」

「ん、分かった。ならこの事、貴方が言わないのならボクも主には言わないし王子達にも言わない。でも、主なら恨む様な事は言わないよ」




 むしろ、自分も手伝うとか言うよと綺麗に笑ってきた。

 ウィルス様の事を思う。呪いを掛けたのは助ける為とは言え、苦しい思いをしてきたのは事実だ。

 彼女が付けていたチョーカー。その水晶が赤と青になっていたが、それとは別に淡く光る力を感知した。魔法は使えなくても感知能力は魔女の誰もが身に付けられるものだ。


 これを扱えて本当に良かったと心の底から思った。大ババ様からの厳しい修行に耐えて良かった、とあの時の自分を褒めた所だ。




「王都の件、私に預からせて。……大ババ様なら遠見の魔法を扱える。話してみて、どういう目的なのかを聞いてみる。とりあえずディーデット国とバルム国は昔から私達魔女に、支援し協力関係の国だと言っておく」

「………協力関係。それは魔獣の?」




 頷けば、ナークは考え込む。流石に南の国の事は言うべきか迷っている様子だ。この国でも魔獣が出た事を話せば、ナークが「あぁ」とちょっとだけ気まずそうにしている。




「その魔獣、ボクなんだ。………主に治して貰って」

「なお、して……?」

「うん。ボクは仮面の奴に実験にさせられて、魔獣に憑依されたんだ。多分、バルム国で魔獣にされた人達と同じ状態だと思う」

「そう………。なら、私が倒しても問題はなかった訳だ」

「じゃ。また、情報があったら知らせるね」




 そう言ってフッと姿を消した彼。

 流石と言うべきか、一体何処から消えて入って来たのかと思う程の鮮やかさ。そして、彼が言っていた仮面の奴と魔獣を元に戻したと言う彼女の力に改めて考える。


 仮面の人物は私がバルム国で接触し、私に魔力封じの呪いを掛けてきた人物。ナークの言う仮面と被るかは分からないが、それだけでも収穫はあったと思う。




「まさか、ウィルス様が……光の力の持ち主?」




 魔獣に特化した魔法。

 魔法を使う時にだけ髪は白銀へと変わり、行使する者。私達と同じ嫌われ、歴史では表立って残さない存在。辛うじて記されているのは支援しているディーデット国とバルム国だけだ。

 5年前にバルム国を襲ったのは偶然なのか、それとも狙ってなのか……と考えた。とりあえず、と仕事が終わった後……大ババ様の所に行ってみようと思い頭を切り替える。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


ーネル視点ー



「はあ………暇だ」

「人がこないんだから文句言うな」




 ペシリ、と大ババ様に叩かれる。そうは言ってもリグート国に来て数日は経つ。でも、収穫らしいものは一切ない。初めは店の準備に取り掛かり、落ち着いた所で大ババ様の遠見の魔法で探りを入れる。

 途端に使い魔の中の水晶が砕ける。発動しようとした途端に破壊される。使い魔の種類を変えようと、カラスからインコ、スズメ、ニワトリ、ツバメなど様々な鳥に変化しても、当たり前のように破壊されていく。……動けなくなった。




「仕方ないさ。遠見の魔法が次々に破られるんだから」

「……壊した奴、ムカつく」

「やめい。向こうも必死なんだろうよ」




 またペシリと叩かれる。うぅ、なんか酷いぞ……。

 薬屋としてリグート国に来て驚いたのは王都が2か所あった事。城の近くにある王都は貴族専用の為か、物価が高い物で占められており手が出せない。第1王都は宿屋、武器屋、出店など平民に手が出るような価格での店が多い。


 光の使い手が城の者なら、近い方が良いが貴族専用の場所に出す為のお金なんかない。自然と安い方へと行く事になる。

 そこで、偶然にもお店を畳むと言う老夫婦に場所を譲ってもらいその場所をそのまま薬屋として経営する。


 人は来ない。


 来ても城の人間が1人だけ来るくらいだ。男性で、一目見て珍しい種類の薬を扱うのだと見抜きこの所よく来る。

 ………そう言えば、まだ見ていないなと思っていると、カラン、カランと鈴の音が響いてお客が来た事を知らせる。




「失礼。今日は連れが居るから少し騒がしくなるよ。構わない?」

「構わんよ。むしろ騒がしくなるなら結構だよ」

「すみません。スティング、頼むよ」

「分かってるよ。行ってらっしゃい」

「フニャアァ~」




 薄緑色の髪が肩まである短い髪の男性。黒いズボンにエメラルド色の制服の上着、その上に白いローブを纏った気品の良い人。


 その後ろから黒髪に黒い瞳の笑顔が張り付いた男性。その肩に白い毛の猫がいた。瞳は赤くて綺麗だと思い、じっと見る。

  

 最初に入った人物と同じ格好だが、白いローブが背中までの短いもの。胸元にエメラルド色の羽を、赤いガラスのボタンで留められている事から、さっきの人物とは所属が違う事を指しているだろうと思われる。




「………」




 城の人間なのは、恐らく黒髪の方。なら、アレは彼の飼い猫か?

あ、また大ババ様と一緒に奥に行っちゃった。



「ミャア~」

「わあっ」




私の所に来て頭や肩に移動していく。捕まえようとしても、素早いからかなかなか出来ない。スティングと呼ばれた男はその様子を見て、笑うから思わず怒鳴り付けた。

 



「貴方の猫でしょう!? 早く捕まえ、てっ!!!」


  


 動き回るからと抑え付けるも、スルリと抜け出していく。するとヒョイと簡単に持ち上げられ「大人しく、だってさ」と言っている。

 ちょっと、それは叱ってないよね?




「この子、人に慣れてるからさ。初めての人でも、仲良くしようとしてるんだ。迷惑掛けて悪かったね」

「ニャ、フニャア」



 何だろう、頭を下げてずっと鳴いている。…謝って、るの?




「ニャウ」




 私の所に来て改めて頭を下げる。人の言葉を理解している、と受け取っていいのか。じーっと見ていると、ペロペロと舐めてきた。



「く、くすぐったい……わ、分かった。怒ってないから」

「フミャア」

「わわっ……!!!」




 くすぐったい感覚から抜け出ようとして、見事に尻もちをついてしまった。イスからだったらもっと痛いけど……?うぅ、今まで動物には嫌われてるのに、何でこの猫はしつこいんだ。




「立てる?」

「すみ、ません……」




 どうにか立たせて貰えば、ちょうど薬を買い終えたのか奥から大ババ様と客が戻ってくる。私が涙目で起き上がったので、客の男性が立たせた側を見て「お前、何した……」と非難している。




「誤解しないで下さい。犯人はこの子です」

「ニャウ!!」




 元気よく鳴いて自分がやったと言うアピールが凄い。しかし、それを綺麗に無視して「で、本当はお前だろスティング」とギリギリと締め上げている。




「っあたたたた!!!! ちょっ、ラークさん!? 事実を言っただけで、ほらカルラも自分だって主張して――いたい!!! 関節技決めて来るなって!!!」

「現場を離れても一応は元騎士だからな。もう止めて3年は経つが、スティングを締め上げるのは出来るぞ」

「俺じゃないっての!?」

「ニャニャ、ニャウニャウ」




 足元で必死に訴えている猫を「スティングを庇わなくても平気だ」とバッサリだ。とりあえず、事情を話せばやっと理解してくれたらしく「そうか、悪かった」と軽い調子で謝っている。




「だから、言ったのに………」

「カルラは必死で伝えていた訳か。悪い。スティングを締め上げる絶好の機会だと思って」

「どういう意味だ………」




 無事に解決したのか、お金を置いて店を出て行く。……随分、騒がしかったがたまには良いかも。あとあの猫はもう来なくていい……疲れた。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


ーレント視点ー



「うぅ、ただいま~」




 政務での疲れとこれからの準備の疲れが同時に来て、すぐにソファーに倒れ込む。自分の部屋は全部直り、元の位置になったからか……気が抜けるのが早い。ナークも良かったと言っていたから、彼なりに気にしているんだと分かる。




「ニャーン」

「ん? カルラ、出掛けてたんだ」

「ニャウニャウ♪」




 私の目の前でカルラが嬉しそうに鳴いている。出かけていたから気分が良いのだと分かり、背中を撫でれば嬉しそうに尻尾を振っている。スリスリと顔を寄せてきてペロッと舐められる。




「はいはい。どうしたの、甘えん坊さん」




 抱き寄せて頭を撫でれば「フニュウ」と気の抜けた様な声で鳴く。さっきまでの疲れが飛ぶようにして癒される。すると、カルラの首に付けているチョーカーが淡く光った。




「おかえり、レント!!!」




 そう言って私の事をギュっと抱きしめてくれる愛しい人。いつも伸ばしている髪は、今日はサイドにまとめてあり私がプレゼントしたバレッタをしてくれている。

 今朝、ファーナムが彼女にとエメラルド色のドレスを選択し着せて貰ったようだ。昨日からずっと執務室に閉じこもっていたから、国の色とも言えるエメラルドを彼女が着ていると言うだけで嬉しさが倍増だ。




「んー。レントの匂い、安心するぅ」

「そう? それは良かった」




 そう言ってウィルスを抱えてソファーに座り直す。カルラと同じように頭を撫でればまたもギュっとしてくる。もう、こんな可愛い子を外に出したくない気持ち……分かってくれないかな?




「この所、忙しいよね。………やっぱり、ハーベルト国の事で?」

「まあね。ナークとリベリーの事もあるし……あと、ウィルスに話さないといけないことがあるんだ」

「私に?」

「うん。……あと4日程で、そのハーベルト国とディーデット国がここに来るんだ。私と兄の婚約祝いとか言っているけど、本音が分からない。あと、公式で言われたからウィルスには窮屈だけど出席してくれないと」

「4日……明日から、到着する前日までにカルラになれば平気かな。うん、頑張るよ」

「はい、これお祝いの品だって。ディーデット国からだよ」




 私が渡したのは小さな箱のだ。中身は先に確認したから良いし、スティングが危険なものは無いかと調べてくれたから安全だ。ウィルスが開けて取り出すと、銀色の鎖に先端が国の色と言えるエメラルドが付いていた。

 鳥の形をした可愛らしいデザインで、ウィルスはすぐに笑顔になって「良いの?」と聞いてきた。




「祝い物だからね。安心して、クレールのもあるからさ」

「ディルランド国からも良い報告があったから、私達も一応話をするんだよね?」

「うん、そのつもり。ウィルスの母親の居た国だしね……その国の第1王子と第2王子が来るって話だよ。とりあえず、暫くは部屋に閉じこもりだ……ごめんね」

「ううん。それはいいの……やっぱり貴族の名前と顔を覚えるんだよね?」

「そこはスティングに任せきりにしているよ。カルラのままでも実行するだろうから、疲れるけど頑張って」




 そう言えばウィルスは「頑張るね」と言って、ほっぺにキスを落としてきた。驚いた様子の私に「お仕事、ご苦労様です」と再びギュっと抱きしめられる。




「うん………ありがとう、ウィルス」




 そう言って私は彼女にキスを落とす。やっぱり自分の部屋に好きな人が居るのはとてもいい事だし、疲れが吹き飛ぶ。あと4日、頑張らないといけないなぁ。


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