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猫になった私は嫌いですか  作者: 垢音
王子と彼女との出会い篇
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第4話:巻き込まれた者達

ー側近視点ー



 いつものように雑務を終え、身支度をして帰ろうとした時……嫌な寒気が体を覆った。ブルッと感じたのは私だけではない……隣では既にダラダラと嫌な汗をかいた状態でどっと座る側近の1人であるバラカンス。

 そして、私も諦めたように彼の隣に座る。

 私はジーク。第2王子のレントとは幼馴染であり、3つ上のバラカンスは既に死んだような目をしていた。


 早い早い、もう少し頑張ってくれ最年長。




「良かった、まだ居たな」




 バン!!、と派手に扉を開ければレントが入って来ていた。そして、彼と共に侍女官のファーナムが、同じく青い顔をしたまま部屋と招かれ……いや、無理矢理に入れられ扉を閉めた。




「さて……君達にお願いがあるんだ。良いよね?」




 それは強制だと同じだと思ったが、彼にそんな言葉は通用しないし聞く耳も持たないのは分かり切っている。彼を盗み見れば、珍しい位に笑顔満載だ。

 いつもは目に光を宿す事無く淡々と作業をし、魔法も剣の鍛練でも滅多に表情を崩さない。なのに、今の彼は気分が良い。ここに女性が入れば黄色い声を出し、卒倒する者達が続出するだろう。


 それ位、今の彼の笑顔の破壊力がある。

 しかし、私達にとっては別に意味を指していた。



 何を巻き込む気だ……!!! と。




「……明日の夕方に、王子の部屋に?」

「うん。他言無用、漏らした時点でどうなるか……分かるな?」 

  



 えぇ、分かっています。文字通り、消すのだろうなと言う意思を込めて3人で頷く。


 


「じゃ、また明日ねー♪」




 ルンルン気分でその場から姿を消したレント。

 魔法で自室まで飛んだのだと分かり、3人で重い溜息を吐いた。

 正直、嫌な予感しか……しない。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 約束通りにレントの部屋を訪ねた私達3人。

 普段ならこの部屋に至るまでに見張りの兵が居る筈なのに……誰もいない。彼から来るなとでも言われたのだろう、と思い気が重いながらもノックする。




「良かった。来ないかと心配したよ」




 来なくても強制的に呼び出す癖に、と言えば久々に見た笑うレント。驚き過ぎて思わず3人で目配りしながらも、中へと招き入れられる。




「カルラ。今朝、言った味方になってくれる人達だよ」

「ニャ、ニャア!!!」




 なんだ、味方って。もう決定事項のように決まる話に、目眩さえ覚えてるが倒れるわけにはいかない。これ位で倒れていたら身が持たないし、彼の側近なんて務まらないのだから。




「……猫、ですね」




 バラカンスが戸惑いながら言った。

 白い毛並みの赤い瞳の気品漂う猫だ。……誰かの飼い猫か? チリン、チリン、と首輪の鈴がなっている。




「はい、カルラ。挨拶ね」 

「ニャ、ニャー!!!」

「良く出来ました♪」 




 偉い偉いと頭を撫で、それに猫は気をよくしたのか尻尾が揺れている。

 待て、私達は何を……何を見せられている。




「まさか……飼うつもりで?」




 引きつっているのは百も承知。

 酷い顔をしている自覚はあるが、レントに質問し「ダメ?」とこれまた当然のように聞き返された。




「……飼い猫を、飼う……と」

「元は彼女のだからね。でも、まとめて面倒見るし昨日そう言った。……ね、カルラ」




 笑顔を向ければカルラと呼ばれた猫は、それはもう嬉しそうにレントの周りを走り回り、ピタリと足元に体を寄せてきた。完全に気を許していると分かり、更に顔が引きつる。




「っと。時間か……」




 何を思ったのかレントはシーツを猫の上に被せた。

 不思議そうに3人で見ると、変化が起きた。


 シーツから少しだけ光が漏れた。段々と盛り上がっていき、レントの後ろにピタリとくっつき、こちらに顔を覗かせ来た女性。




(ピンクの髪……それに、あの紫色の瞳……まさか!!!)




 レントに視線を向ければ彼は「この為に覚えさせたんだよ」と、女性の髪を撫でながら言ってきた。




「ファーナム。悪いけど、彼女に服と下着一式をすぐにお願い。あと採寸も済ませて来て」

「か、かしこまりました!!!」




 見た事も無い現象に始めは言葉を失ったファーナムだか、指示を出された時には表情を引き締め彼女を別室へと連れだした。バラカンスが開いた口をなんとか塞ぎレントに質問をした。


 今のお方は、バルム国の姫様だなと一応の確認も込めて聞けば「そうだよ」と認めた。



 バルム国が魔女により滅ぼされたと言う報せ。

 許嫁が居るのも知り、私達にも特徴を覚えるようにとしつこく命令してきた。疑問に思った。滅んだとされ生存者はいないと聞いていたのに、彼はずっと覚えておくようにと繰りかえし言って来た。




「……生きていると分かったのは、いつなんです」

「5年前のあの時から少しずつ。……彼女と私にしかない印がある。半信半疑だったけど、昨日会った時に改めて確信を得た」

「どう、するつもりで……?」




 バラカンスの戸惑いには同意だ。

 しかし、許嫁が生きていた。と、なれば彼のやる事など分かりやすい。




「ウィルスは私が保護する。魔女の呪いを解くのも協力すると、昨日彼女にも伝えた」

「……国王様と王妃様には、この事を伝えたのですか? それと、バーナン様にもお知らせしたのですか?」

「あとで伝える。彼女の事情も含めてその方が良いと判断した。……兄様に知らせた所ですぐには戻れない。意味などない」

「分かりました。……では、私も同行します。側近である私達も知っているとなれば、王の態度も変わるかも知れませんし」




 溜息交じりで言えばレントは「苦労掛けて悪いな」と言ってきた。自覚はあるんですね……直す気がないって事か、おい。

 そこに侍女官のファーナムが、入っても良いかと言う許可を得る声が聞こえた。入室するように言い、ファーナムに続きウィルス様が入って来る。


 彼女は水色のドレスを着ていた。

 胸元にはコサージュとして同色の薔薇が添えられ、髪が伸ばされたままだったのがアップに結ばれ化粧も軽くしてあった。




「ウィルス、似合ってるよ」

「ファーナム、さんが見立てて下さったから……ありがとうございます」

「仕事ですので。それとファーナムと呼び捨てで構いません」




 レントにどうしようか、と視線を送る。

 彼は思い出したように「あぁ…」と言い、ウィルスの所はさん付けで呼んでいたから慣れないんだよと補足してきた。




「で、では頑張って呼びます。ファーナム、さん……あ、いや、えっと」

「慣れるまでは自由で構いませんよ」

「……申し訳、ありません」




 シュンと謝るウィルス様にレントは頭を撫でて「慣れれば平気平気」と、さっきと違い笑顔で対応している。


 ……本当にレントなんだな。変わりすぎてこっちがビックリしたよ。

 バラカンスなんて、再び口を開けて驚いている。ファーナムは一瞬だけ、驚いたがまた通常の無表情を貫いたが内心では驚いているのだろうと信じたい。




「突然で悪いんだけどね、ウィルス。……今から国王と王妃の所に行って事情を説明しようと思うんだ。良いかな?」




 おい、ちょっと待て!!

 私達には何も聞かないのに、彼女には丁寧に……しかも確認してくるのか!!!




「……うん。色々と話したいからね。で、でも、今から行っても平気かな」

「平気だよ。既に許可は得たから」




 いつ!? そんな素振りもなかったけど……まさか、全部織り込み済みなのか……そうなのか、レント!!!




「当たり前だよ、ジーク」




 さらっと心の中を読むな、覗くな!!!

 


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 レントの言うように、国王様、王妃様が人払いを済ませた大広間にいた。彼にエスコートされるように、ウィルス様がぎこちなくも共に歩く。




「無理はしなくていい。……レントから聞いている。無事で良かったよ、ウィルス姫」

「勿体ないお言葉……。父様も母様も、国王様と仲が良いのを聞いています。……頼ったら悪いと思っていました。でも、この国は魔法に優れていると聞いていたから……もしかしたら、と思って」

「よいよい。辛い事をまた思い出す訳にはいかない。……レントはな、ずっと縁談を断り続けていたんだ。あの時からずっと」




 国王様の言葉に驚愕し、レントへと顔を向けた。

 相変わらず隣に居るのが彼女だからなのか、ずっと笑顔のまま「ウィルスしか見てない」と恥ずかしげも無くサラッと言った。




「……っ」




 一方のウィルス様は顔を俯いたまま何も言っていない様子。でも、彼の手を握っている事から、彼女の方も好意があるのが読み取れる。と、言うか耳が赤くなっているので恥ずかしいのだと結論づけた。




「昨日も言ったけど、私はウィルスしか見ていないし愛すると決めたのもウィルスだけ。6歳のあの時に会えて良かったよ。何度でも言うよ、君が好きだ。ウィルス」

「っ、あ、あぅ……」




 おーい、返答に困っているぞ。さらに顔を赤くしてるぞー。しかも、私達が居るのもガン無視だよね? むしろワザとだよね?

 逃げ場なくすとかどんだけだよ……。チラッ、とバラカンスを見れば顔に手を当ててそっぽ向いていた。乙女かよ!!!




「コホン。……そこまで惚れ込んでいるのならどんなに縁談を持って来ても無視する訳か。納得だ」

「ずっーと言ってますよね? 好きな人がいる。愛する人が居るのだから無意味だって」

「………」




 おいおい、ウィルス様が精神的にダメージ受けてるぞ。

 レントから視線外してバラカンス同様にそっぽ向いてるぞー。そして、そろそろ手を放してやれ。逃げる体制に入りたいのにお前が、ギュっと手を握るから逃げるに逃げられないんだよ。

 ……私に助けを求めないで。無理だから、助けられないから!!!




「……レント、これから1週間。姫との接触を禁じる」

「は?」




 待て待て、飛び過ぎだよ!!!

 レントが戦闘態勢に入ってるぞ。目が本気で潰す気でいるような目をしてるぞ。……父親に対して殺気向けるとか本気過ぎだよ!!!




「ウィルス。寂しくなったら言ってね……。そしたらすぐにでも迎えに行くから。ついでに父もぶっ飛ばす」

「だ、大丈夫だよレント。心配しないでね。あと、ぶっ飛ばすのはダメ」

「……気を付けるよ」




 今の間は何だ。

 絶対に納得してないよね……。沸々と怒りが込み上げているのが傍から見てもよく分かるよ。私達にプレッシャーを与えているの分かってないよね?

 王妃様もニコニコとしてないで、止めてよこの親子喧嘩。



 結局、理由もろくに話さないままウィルス様は国王様、王妃様により連れ出され本当に1週間もの間接触を禁じられた。その間、レントの不機嫌さが誰の目にも明らかであり……側近である私とバラカンスは1週間、生きた心地がしない日々を送った。




 人の意見無視して勝手に進めるのは親子だと思わせるが……頼むから人を巻き込むな。宰相が胃痛を訴えている、とよく聞くがその理由がよーく分かった。

疲れがいつもの3倍は掛かったと思う。………休みたい、切実に休みが欲しい。







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― 新着の感想 ―
[良い点] 生活の方はなんとかなりそうですね。 でもレントの愛が重い気がする^^; レントはカルラを愛しているのか? それとも猫姿を愛してるのか? あるいはその両方ひっくるめての愛なのか。 いずれにせ…
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