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猫になった私は嫌いですか  作者: 垢音
他国交流篇
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5年前の出来事


「じゃあ、夕食楽しみにしていますからね」

「ウィルス様、あまり騒ぐと可愛い口を塞ぎますよ?」

「リーガルさんも一緒に」

「ウィルス様?」

「……はい。すみません」




 手を振るのはレント王子の婚約者であるウィルス。スティングに連れだされ、そのまま城の中にある図書室を案内すると言っていたなとリーガルは思った。

 手を振られたから一応は返したが……今、妙な事を言っていたかような、とふと考えるが何も聞かなかった事にした。




「あの炎の中……生きていたのか」




 そう言う彼はまさに5年前、バルム国が炎に包まれる様を見ていた。本当なら、自分はウィルス姫の誕生日祝いにと特別なケーキを用意していた。

 

 南の国、ディーテッド国。魚介類も豊富だが、果物が自国の特別なもの。前になんとか手に入れたとき、レーベ王妃が言ったのだ。




「あら懐かしい。一緒に食べても良いかな?」

「…ど、どうぞ……」




 内緒で取っておいたのに、とリーガルは思った。料理人として自分の知らない食べ物を、1度は食しどんな料理に合うかと日々考える。

 何ヶ月も予約し、やっと手に入ったもの。料理長も含め、同僚にと思っていたらレーベがニコニコしながら厨房に入って来ていた。




「果物が甘くて美味しいのよ。いつか、ウィルスとラギルと3人でディーテッド国に顔を見せようかと思うの。なかなか、手に入らないんだから私はちょっとで良いわ」




 あとは皆で分けて、存分に楽しんでね♪ と、果物の端を切りパクッと食べた後で去って行った。フラッと来てフラッと居なくなる王妃に皆、圧倒されたなと思い出す。


 だから、リーガルは料理長を説得し娘の誕生日ケーキにと考えた。城ではウィルスがリグート国に嫁ぐ事が、決まったも同然だが国王のラギルだけは反対していた。


 ウィルスの楽しみにしている表情を見れば一発。視察に関わった者から言わせれば「初恋のような……一目惚れのような、初初しさがある」と城中ではその事で持ちきり。

 使用人、騎士、魔法師団、果てまで厨房の者達にまで知られている。

 知らないのは当の本人だけだ。


 

 だからこそ喜ばせたいと思ったのだ。

 聞けば南の国は甘い物に力を入れている事から、ケーキに合う果物は豊富だと聞く。しかし、その日は果物の納品が遅く待っても意味がないと判断して、リーガルは走って国境付近まで取りに行った。


 せめて、誕生日が行われる夜までには……と走った。

 そして、飾りつけの果物をその場で受け取り納品書を受け取り戻った。その先で、バルム国は既に炎に包まれドサリと果物を地面に落とす。


 12歳になったウィルス姫。最高に良いケーキをと思った。彼女は出された料理に感謝し、嫌いなものがないのか全てを完食している。これはリーガルだけでなく、厨房の者達が嬉しがった。喜んで貰えるように、笑顔でいられるように、と………。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


ーリーガル視点ー



 やっとの思いで受け取った果物も今は意味をなさない。

 バルム国が、炎に包まれている。魔法によるものなのは誰の目にも明らかだ。

 だが、俺はそれよりも心配になったのは姫様の事だ。




「リーガルの作るスープ、美味しいんだもん。また作って!!!」




 俺の味付けが好きなのか姫様はお気に入りなのだ。

 そして、自身も猫を飼っているからか猫のご飯の作り方を教わりに厨房に居る事も多くなった。初めは王族が来て良い事ではないと、料理長に言われ首ねっこを掴まれて出入り口まで追いやる。まるで猫を追い出す様だ。


 しかし、姫様は引く事はなく毎日、毎日、飽きもせずに同じように追い出される。その光景が既に日課になりつつあり、料理長が折れたんだ。それを機に姫様は厨房に来るようになり、俺達の話を楽し気に聞く日々が続いた。




「人……? お、おい!!」



 火の勢いは凄い。しかし、俺はどうにか近付けないかと走る。その途中で誰が倒れていた。もしかしたら、と淡い気持ちを込めるもその女性は知らない人物だ。


 緋色の長い髪の、一目で美しい人だと思った。

 しかし、苦しげにしている様子で慌てて声をかけ続けた。



「おい!!! しっかりしろ。中で何が……何があった!!!」

「……っ……う、あ……」



 意識が朦朧としているのか、焦点が合っていないようにも見える。よく見れば手足から血が出ている。放っておく事は……出来ない。




「くそっ!!!」




 城は諦めるしかない。何がどうなっているのか、訳が分からない。未だに燃え続ける城に中は絶望的だと思った俺は、街に向かう途中にあった小屋があったのを思い出す。


  一先ずはそこに避難だと無我夢中で走った。



「はぁ、はぁ……偉い目にあったな」



 小屋に向かう途中、雨が降って来た。どうにか本降りになる前に、入れたと力を抜きそうになって抱えた女性を降ろす。幸いと言うか、あまり使われていないからか中は綺麗だった。これなら雨風はしのげるな、と思いとにかく血を止めようと何か道具はないかと探す。


 


「……悪い。本当に悪い」




 結果、布らしい物なんてなかった。

 仕方ないとはがりに、女性が着ている黒いマントや服を代用するしかなかった。



「っ、う………」

「おっ。よかった、起きた──」

「きゃああああっ!!!」

「ぐはっ……!!」




 目が覚めた途端、自分の状況に気付いたからかその女性は俺の腹に思い切り拳を叩き込んだ。だから謝った、のに……。




「お、お前!!! 服を脱がして、な、何をする気だった!? こ、こんなっ……こんな事して、タダで済むと思うな!!!」

「ご、誤解……だ……」




 女性の着ていた黒いワンピースと膝丈までの短いズボン。怪我の箇所をと思い、持っていたハサミで少しずつ切ったのだが……。

 胸が出るか出ないかのギリギリのラインだけを残し、服と言う機能を半分以上は失っていた。


 切って包帯にしようとしたら、チョキチョキと思いの外長くやっていた。血止めの役割を果たしているかは微妙だ。




「ん? これ……」



 サッとマントを抱き込むようにして、興奮状態だったが巻かれた箇所を見ていく内にみるみると青ざめていく。いててっ、と腹を押さえた俺は軽く涙目だ。




(う、うぅ、損した……)




 バルム国で何があったか聞こうとしたが、踏んだり蹴ったりだなと思い小屋を出る。が、女性に腕を捕まれ「き、傷口に、巻いた……のか」と聞いてきた。

 包帯代わりだが、上手くなくてすまん。と言えば女性は謝ってきた。自分はとんでもない間違いをしたのだ、と。




「えっと……」

「包帯代わりに私の服を使うのはどうかと思うが……。仕方ない。あり、がとう……」




 お礼を言われ慣れていないのか、その人が凄く顔が赤くなっていた。見られたくなくてそっぽを向くから思わず「ぷっ」と笑ってしまった。途端に「し、失礼な奴だな!!!」と立ち上がろうとしてすぐにうずくまる。




「こらっ。怪我してんだから動くなって」

「う、うるさい。すぐにここから離れろ……巻き込まれるぞ」

「は? 何、言って――」




 バキバキ、と何かが壊れる音が聞こえた。え、と思って後ろを振り向けば小屋の屋根が取られている。黒い体の、大きな狼。それが持っているのは、さっきまでいた小屋の屋根だ。




「っ!!!」

「な、お、おい!!!」




 咄嗟に女性を抱えて外に転がる。動作がゆっくりなのが、助かった。すぐには振り向かないからとソイツを背にして逃げる。




「バカ。降ろせ!!! 巻き込まれるって言っただろに」

「う、うっせぇ!!! あんなの相手に出来るかよ。逃げるのが良いんだよ。逃げるのが!!!」




 何やら後ろで雄叫びが上がったように思うが、そんな事はどうでもいい。命を粗末にする気はないんだ。けど、すぐ真横でソイツは来ていた。

 気付いた時には殴られたんだろう。宙を舞うとは思わず、地面に叩きつけられる。




「ゴホッ、ゴホッ………ぐ、ぐっぞぉ」

「寄せ!!! 狙いは私だろう!? ソイツは関係ない」

「グウゥゥゥ」




 ギロリ、とソイツは女性を睨み付ける。

 動かない体を、なんとか気力で起き上がる。足がガクガクする。肩も妙に震えている。力を入れたくても、これで入っているのか自分じゃあ分からない。




「くっ………っ、おおおおおっ!!!」




 自分に気合を入れて起き上がる。状況は知らないが、とにかく狙いが女性なのは間違いない。だから足元に落ちてた石で思い切りソイツの目を狙って投げ付ける。




「!?」



 驚いたのか一瞬だけ怯んだ。でも、空いている方の手が既に女性を掴み上げていた。思わずハサミを取り出すも、こんなんで何が出来るんだ……と思った時。突如、その獣が炎に包まれた。




「グッ、グウオオオオッ!!!」

「な、なにが………」

「まったく、逃げればいいものを……」




 掴み上げていた筈の女性は既に居なくなり、獣の頭上にヒラリと降り立つ。よく見れば瞳も髪と同じ色の、本当に美しい女性だ。思わずそれに見惚れていると、火の玉が獣に纏わりつき燃やし尽くす。




「魔獣になんかに負けない!!!」



 

 その声と共に、空高く上がる火柱。熱気と熱風に近付けない筈なのに、俺は不思議と近付けたし熱くもない。これが魔法って奴なら……凄い力だなと燃やし尽くされる様をずっと見ていた。

 燃やし尽くした後。何気なく近付いたら何故か睨まれた。




「逃げればいいのに、何で私なんかを担ぐのさ」

「当たり前だ。ほっとけるかよ、女1人を置いて逃げる男が何処に居んだよ」

「………バカか、お前。魔法を扱えないんだから、素直に逃げろっての」

「うっさい!!! 魔法を扱えようがそうでなくても、俺は置いて行くような事はしない!!! 怪我人を置いていける程、薄情でもないんだよ」

「っ………」



 つい怒鳴ってしまったが、何故だか驚いたように目を見開かれた。おかしな事でも言ったのかと思った。思わず「な、なんだよ」と聞いてみるも小さく「……リア」と何かを言っている。




「え、何だよ……聞こえねえよ」

「っ。ミリアだ!!! 助けて貰ったのにこのままだと言う訳にもいかないだろう」

「ふーん、そういうもんか。……俺はリーガル。さっきまでバルム国の料理人をしていたもんだ」

「リーガル、か。分かった……名前は覚えておく」

「おい、そんな状態で街に行くのか? 騒がれんぞ」

「誰の所為だ、誰の!!!」

「………俺、だな」




 近くの街まで歩き、服を新調し安い宿屋で話を聞いた。

 ミリアと名乗った女性は魔女である事。自分がバルム国に着いた時には、既に蹂躙がなされていた事。助けた騎士と城の中まで探して髪が長く猫と居た少女が居た、と聞き色々と驚かせた。




「姫様、か?」

「分からない。だがカルラって名前で呼んでいたようだが……。とりあえず、逃がせたのは彼女位だ。お陰で私は怪我を負って、リーガルに拾われたって訳」

「………この後、どうする気だ?」

「情けない話。さっき使った魔法で、殆ど魔力が空なんだ。……妙な奴に魔力封じの呪いを掛けられたからね。解けるまでは一般人とそう変わらない」




 簡単なものならどうにか扱える、と言われても魔法を扱えないからよく意味が分からない。あ、そう言えば何もない所からお金を用意していたから貯金はしてるんだなと感心する。




(あれが、簡単な分類……なのか?)




 詳しくは知らないが、どう見ても簡単なものと言う枠を超えているような気がする。これから行く場所は決まっているのかと問えば、暫くは呪いを解く方法を探すしかないと適当にフラフラすると言われた。




「そんな無計画で良いのかよ。……なら、俺と来るか? バルム国はリグート国と友好関係を結んでたんだ。確かあの国は魔法に詳しい筈だと噂で聞いたが」

「……リグート国、か」




 思案している様子。迷う位子なら、と俺はミリアに手を差し出す。野垂れ死ぬ気は無いが、どうにも放って置けないからと「来いよ」とニカッと笑って見せる。




「情報が必要なら好きにすれば良いと思うぜ? それに俺は料理人だ。3食、上手い料理を食べられるなら良い物件だと思うんだがな」

「偉そうにするのかしないのか、よく分からない奴だな……」




 呆れた様子のミリアに構う事なく、俺は彼女に関わろうと思った。その後で「なら、面倒見て欲しいな」と笑顔を向けられドキッとした。


 何だよ、綺麗に笑えんじゃねぇか。




「なんだ」

「いや、なんでもない!!!」




 こうして俺は、魔女と呼ばれる彼女と行動を共にするようになった。

 魔獣とか魔法の事はよく分からないが、女性があんな化け物と関わるのなんてダメだと思った。


 リグート国に向かう途中で、俺は城で働く料理長と「仕事、ないなら俺ところで働け」とミリアも含めて面倒を見て貰ったんだ。城に働き、リグート国に暮らして早5年くらい。まさか姫様と再会するとは思わずつい頬が緩んでしまった。



 ミリアはあれ以降魔法とやらが一切使えなくなった事で、本が好きと言う事で司書見習いとなって働いている。……意外と言うか、ミリアの事を好いている連中が多い。


 ……渡すか。アイツは、ミリアは………俺のもんなんだから。

 

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