第33話:ディルランド国
リグート国と友好関係を結んだディルランド国は、ガーネットの採掘に恵まれそれらの加工品により潤いを生んでいた。
そして、その多くは魔力を内に秘めたものも含まれ、すぐに師団を調査へと向かわせた。
それ位に魔力を秘めた宝石は世には珍しい。あった場合は物凄い高値で売買され莫大な富を得られると言われる程に。だから偶然にも見付けてしまった場合、それがきっかけで商人になる者もいる。
山や鉱山が多いがその分、海産物がない為に山で取れる食材がディルランド国の国産品として売られている。リグート国は一部が海に面している事も含めて、資源も豊富な事からディルランド国以上に潤いはある。
それらの差がいつしか確執を生んだ。
戦争にまで発展したがそれもアクリア王とギースと言う2人の王により終結し、友好を結ぶまでになった。
この2国は互いに足りないものを補い、互いに助け合う姿勢を取るようになったのは自然だったのかも知れない。
だからこそ、この国の殿下である彼と第2王子であるレントが仲が良いのは未来を照らしているようで、重鎮達は未来が明るいものであると確信できた。
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ーアクリア視点ー
いつもよりも爽やかな朝を迎えられたのは、昨日ウィルスに食事をしたのとドレスを贈ったのとだと理解しすぐに気分を落とす。
レーベは今ではバルム国の妃としているが、本当ならば私と婚約を結ぶ為に他国であるディーデット国の王族だ。彼女の髪の色は魔法を扱うと色が変化する。
ピンク色から白銀に変わる。
元々美しい髪質で、触り心地もきめ細かくサラサラとしたいつまでも触っていても飽きないもの。それを、レーベに一目惚れしたバルム国で王としていた奴が横取りしたんだ。
無論、俺は怒ったし決闘を申し込んだ。
その時に、今の妻であるイナールも知っているし俺が一目惚れしたと言うのも知っている。一瞬で心を奪われ、自分の物にしたいと思う事があろうとは思わなかった。
「っ、諦めの悪い奴め!!!」
「アクリア王、こそ……!!!」
どう考えても婚約をしようとしている所で横取りをする向こうが悪い。だが、俺は見てしまった。レーベは俺ではなくバルム国の王であるラギルの方しか見ていないと。
「………約束しろ。絶対に彼女を泣かせるなよ。泣かせたり寂しがったりしてみろ、その時はレーベを愛妾にしてでも俺の傍に置く」
「そんな事は絶対にさせない……。アンタも、イナールを泣かせたら同様にするぞ」
当時、イナールはバルム国のラギルの婚約者として上がっていたが、恋と言うのは不思議なもので……。イナールは俺に惚れ込み、レーベはラギルに惚れ込んでいたのだ。
政略結婚での、まさかの事態。
互いの家は慌てただろうが、それでも良いんだと思った。リグート国も政略結婚でいたが、互いに大事にしていたのは噂であっても見耳に届く。
それを羨ましい。と、俺ラギルは思って…互いにこれだと思った者が他国の王族で政略結婚として、招かれた者同志。互いに納得してしまえば、あとは早いものだ。
「アクリア!!!」
さて仕事を始めようと思った所で、叫びながら入って来た男を見て溜息を吐く。
「「ウィルスは何処にいる!!!」」
まるで脅迫めいた言い方をするギースとレント。その声を聞いたイナールは「彼女ならラーガ宰相が面倒をみると」などと要らん事を言った。
「ナーク、すぐに屋敷を調べろ」
「弟君、オレが調べたぞー」
「場所は!?」
「感知したから先に行く」
バタバタと忙しなく出ていった。イナールはそんな俺を見てクスッと笑っている。レント王子の後を追う息子のエリンスがげんなりした様子だった気がするが、何も見なかった事にする。
「昨日の彼女、大人気ね」
「レーベとラギルの子だからな。髪と性格はレーベ似で瞳の色と一途さはラギル似の良い子だよ」
「まぁ。そんな子とデートしてたなんて」
「何故そうなる……」
「あの夜会から様子がおかしいのは誰よ。ちゃんと私にも紹介してよね……貴方だけ楽しそうにしてるのはおかしい」
「……なぁ、イナール」
「なにかしら」
ふと、真剣みを帯びた声色の俺に対してイナールが隣で静かに立つ。まるで何も言わなくても分かった様ない出立ちに、自然と俺は肩を抱き寄せていた。
「………レーベ様とラギル様の事。気に病んでいるんですよね」
「ラーグナスを保護したのも何かの縁だと思った。この城の薔薇園に倒れていたのを見付けた時は心臓が止まるかと思ったぞ」
「魔獣が隣国に現れて、それを彼女達の娘が治した。本当なら隠したいのよね?」
「だが、無理だろうな。魔獣を扱う者達と姫は接触をしてしまった。彼等が何の目的で彼女に接触したかは分からないが……国を襲うだけの力を持った連中だ。こちらに火の粉が降りかかってもと思ったが……」
昨日、ウィルスと食事をして気付いた。
あの2人の面影を彼女から感じ取り、俺は助けられなかった事を未だに後悔しているのだと気付いた。その後悔からせめて娘のウィルスには幸せになって欲しい気持ちが強まった。
「リグート国は既に覚悟を固めている。……友好国として、また友人の1人として俺は彼女を守りたいしその幸せを祝福したい」
「なら今度は私にもきちんと紹介をして下さい。あの夜会の時、私だけ行けなくて寂しかったんですから」
「す、すまん……気を付ける」
「突然、行動を起こすと迷惑する人も居るのだと理解して下さいね」
「はい………」
「ラーガに負担を掛けるとまた怒鳴られますよ」
「………き、気を付けます」
俺はイナールに叱られるとシュンとなる。どんなに体格が大きかろうが、恐れられようが惚れ込んんだ女にはどうしても弱い。
最初にウィルスに会った時にビックりがられた事が未だにショックなのだ。女性に何かしらで嫌われるのがどうも苦手なのだと気付く。
あとお詫びに何か送ろう。……食べ物が良いのか、服飾系が良いのかと悩む。
しかし、どうしても思い出されるのは昨日での彼女の美味しそうに食べる姿だ。……よし、イナールはお菓子作りが得意だから、あとで何か作って貰おう。
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ーレント視点ー
「ウィルス!!!」
ラーガ宰相の屋敷を見付けたとリベリーから報告を受け、ナークが既にウィルスの居るであろうと予想をつける。
「ふぇ?」
パチパチ、と数度私を見たウィルスは頬をパンパンに膨らませながらも器用にモグモグと食べている。思わずガクリと全身の力が崩れ落ちてそのまま倒れる。
それを爆笑しながら入って来たエリンスがうざい。
私の事は知らなくともエリンスの事は知っているのだろう。その場に居た者達のピリッとした雰囲気と、使用人達が気を引き締めたのを確かに感じた。
「よっ、ウィルス」
「ふむむっ!?」
「あ、気にすんな。コイツの見張りだからな。にしても、夜会の時でも思ったけど美味しそうに食べるよなぁ~」
そんなに美味い? と軽い調子で聞くエリンスにウィルスは答えられない代わりにとコクコクと頷く。さっと顔をそらしたのはラーグレスであり、私も同じ気持ちだ。
あぁ、ダメだ。なに、あの可愛い生き物………!!!
バン、バンと床を叩く私に奇異な目で見て来られても構うものか。ウィルスが可愛すぎるんだ……あんな行動を見せられる私の気持ちを考えて欲しい。
「あー、気にすんな。好きなんだよ、なっ?」
キョトンとするウィルスに悶えているとエリンスが同意を求める様な視線を送ってくる。だからモグモグしながら答えないで……!!!
「あの、殿下……このような場所に何故」
「だから王子の見張りだって。あぁ、バーレルト俺にもなんかくれないか? アイツ等の所為で朝食抜いて来たんだよ」
「っ、すぐに用意いたします!!!」
バタバタと慌てたように散らばる使用人達。エリンスは気にした様子もなく、未だに微動だにしないラーガ宰相に「良いよな?」と今更ながらに許可を取る。
「事前にお願いしますよ……っ、ギース国王!?」
「むっ。おぉ、ラーガか。夜会以来だな」
私の後に父が入って来たからか、初めは平静を装っていたがすぐに姿勢を正す。その間にもウィルスは頬張っていた物を消化しようと、静かにモグモグとしているので私は十分に癒されている。
本当なら隣で見ていたいが、ラーグレスが左側を抑えており、反対側にと思ったらいつの間にかエリンスが座っていた。
あとで覚えておけ………!!!!
「………」
まさかの隣国の国王、王子の私達の訪問に予想はついていたのだろう。事情を話せばラーガはすぐに謝罪をしてきた。
エリンスはニヤニヤとしていたから思い切り睨んだ。ウィルスはじっとしており、ラーグレスは癖なのか彼女の斜め傍で立っていた。
「じゃ、帰るよ。ウィルス」
「ちょっと待て」
事情を説明し、用はないとばかりに行こうとしたらエリンスに止められた。しかも、私がウィルスの左手を持っているのに対してエリンスは右手を握っている。
思わず睨む私に向こうも負けじと睨み返してきた。
「そんなこと言ってまたウィルスを閉じ込める気だろ。事故で来たんならいっその事、ディルランド国を見て行けよ」
「公式で呼べば良いでしょ」
「いや、お前の場合絶対に彼女を連れて来ない。公式なんて言ったら兄弟揃ってだろうに」
「………」
舌打ちしそうになって止める。ダメだ、ウィルスの前でそんなことはしない。いや、エリンスはそれを見越してワザと言ったなと思い腹立たしくなった。
「あ、のエリンス殿下」
「どうした」
「こ、今回は私がデートル様と食事した事で起きてしまったので……次の機会でも平気ですよ。ねっ、レント」
「ウィルスが……そう言うのであれば」
「エリンス殿下。なので今日は」
「……まぁ。貴方がそう言うのであれば」
どうにかして場を収めたのが彼女なので文句はない。やっぱり私は彼女に弱いんだと思わされる。慌ただしくリグート国に戻り、父から彼女を奪い取っていつものように自室に駆け込む。
「あ、ちょっ、レント」
「フニャア」
「ミァー、ミャー」
着いた途端にウィルスをソファーに降ろした。直後、猫達が彼女に気付いて甘えた声を出す。足に纏わりついたり、肩に乗ったりと猫達に埋もれる彼女は可愛いなと思いながら髪を撫でる。
「ご、ごめん。この子達の世話、レントに任せっきりに……」
先の言葉を言わせないようにキスをする。その間に猫達はお仕置きとばかりにウィルスの匂いを嗅いだり、甘く噛んだり舐めたいりしている。
「っ、んっ……く、くすぐったい……」
「私もこの子達も寂しかったんだから……。一緒にお仕置きしようって言ってたんだよ」
「お、お仕置きって……ひうっ」
ペロペロと色んな所を舐められて、可愛い反応をするウィルスの肩にキスを落とす。猫達は主人を舐め回して満足したのか、思い思いに外に駆け出して庭へと遊びに行く。
ガクリとソファーの上で倒れる彼女を置いて、暫くは戻らないだろうと猫達が出て行った窓や扉の鍵を閉めていく。
「どこ、行くの?」
「うきゃ……」
力が入らないのに無理に逃げようとするから、後ろから抱き込んでソファーに座り込む。既に顔が赤い彼女は「も、もう、許して……」と訴えて来る。何とも言えない魅力に思わず深いキスを落とす。
「ダメだよ。まだ私のが終わってない」
「なっ……!?」
「巻き込まれたとしてもね。私も含めてあの子達も寂しい思いをしたんだから……。ねっ、今度は私の番だよ」
「つっ………」
さっと顔を青ざめたけど私は気にしない。見て見ぬふりをして、彼女の唇にキスをし自分の物だと言う印を落とす。
その後、私は宣言通りウィルスに愛を囁き続けた。可愛い反応をする彼女を貪り尽くしたのは……言うまでもない。




