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猫になった私は嫌いですか  作者: 垢音
王子と彼女との出会い篇
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第31話:大慌ての騎士

ーラーグレス視点ー



 姫様と夜会で別れて既に1カ月は経とうと言う時。リグート国から魔獣が現れたと言う報告をエリンス殿下から聞いた。


 一瞬で血の気が引き、俺が考えたのは姫様の安否だ。




「ナークが魔獣になったが、姫が元に戻したんだ」




 ナークと言う少年は覚えている。姫を主と慕っていた彼の事を思い、同時に姫が魔法を扱った事に驚きを隠せなかった。そんな俺の反応を殿下は不思議そうに見ており「2人共、無事だからな」と優しく微笑まれた。




「………」




 俺は姫様が魔法を扱える事を知らない。

 初めて使ったのであれば、体に負担が掛かっただろうと色々と考えていると自室にノックが響く。




「すまない、ラーグレス。至急、話したい事がある」




 ディルランド国のラーガ宰相の養子として俺が入るが、この家には既に長男のバーレルト様と弟のリンガレート様が居る。その上で俺を引き取ったのは俺が、バルム国の生き残りであり悪用される前にと養子として迎え入れたんだ。


 

 慌てたような声を出して俺を訪ねたのは、長男のバーレルト様だ。俺は慌てて扉を開ければとんでもない言葉を聞いた。




「君が探していると言っていた姫を、攫ってきてしまったかも知れない……」

「え………」




 何故、そこでウィルス様の、姫様の名前が?


 バーレルト様から詳細を聞き、俺は思わず窓から飛び出した。慌てる声が聞こえたがそれに構う事無く、俺の足は自然と城の方へと向かっていた。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


ーナーク視点ー



「ナーク君、もう良いから。ねっ、ねっ?」




 主が必死で止めるけど、ボクは許さない。


 場所はディルランド国の国王の執務室。ギース国王のと違い必要最低限の物しかないし、壁には剣とか斧とか戦闘に駆り出されても平気な装備が多かった。

 その執務室でエリンス殿下が笑いを堪え、主と一緒に居たアクリア王は頭を下げこの国の宰相であると名乗ったラーガ様も同じく頭を下げていた。

 無論、主であるウィルスに対してだけど……文句ある?




「あーー、笑った笑った。ラーガが失敗するのなんて珍しいからな」

「こ、この度は申し訳ありません。リグート国のレント王子の婚約者だとは知らず……」

「すまんな、ウィルス」




 謝り方が軽いと思い思わず武器を取る力がこもる。

 慌てた主が「だ、大丈夫です!!!」と言い、ボクを後ろから抱きしめて来る。むぅ、そんな顔されたら何も出来ない……。




「お願いナーク君。今日はこのままディルランド国に泊まるから。レントに伝言をお願い」

「……分かった」

「レントに明日帰るからって言えば、機嫌も良くなるよ」

「無理だと思うぞ」




 しれっと会話に混ざるエリンス殿下。主は「うっ」と気まずそうに顔を逸らす。頭を下げたラーガと言う人物が「お詫びも兼ねて、今日は私の屋敷に泊まって下さい」と言って来た。




「姫様!!!」




 そこに大きな音を立てて入って来た人物に目を見張る。

 主と同じ国の……そう、ラーグレスって言う騎士だ。主も驚きながらも「ラーグレス、どうしたの?」と戸惑ったように聞いてくる。




「っ、はあ、はあ………あ、あの……」




 相当、急いで来たのだろう。

 すっごく汗をかいているし、疲れている様子。殿下が「ほらよ」って主に出していた水を渡す。ボクと主の事を見て、一瞬だけ驚いたから……恐らくボクの事を聞いているのだと確信した。




「あ、の……姫様も、君も無事……なんですよね」

「う、うん。ナーク君も大丈夫だよ」




 ねっ、と笑顔を向けられてボクも同じように笑顔で答える。




「主のお陰。……アイツは絶対に倒す」




 魔獣を知っていたアイツ。仮面の不気味な相手を近付かせない。次は絶対に始末すると心に決めた。その決意を見たからかラーグナスさんは無言で頷き「俺に出来る事ならなんでもする」と言ってくれた。




「じゃ、主の事お願い。ボク、王子に伝言して宥めて来る」




 暴れられても困るし、と言えば主とラーグレスさん以外は「そうだな」と口を揃えて言っており主はかなり驚かれた。


 主、覚えておいた方が良いよ? 


 王子、嫉妬深いし優しいのは主だけ。敵意を自分に向けただけでなく、主にも向けた時点で敵認定だから。



 国が相手とか関係ないよ。

 主に牙を向いた、その時点で……あの王子は容赦が無くなる。



 だから、主は怖い人を好きになったって言う自覚を少しは持った方が良いよ。まぁ……ボクも容赦しないけどね♪



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


ーラーグレス視点ー



 ラーガ様から事情を聞き、ウィルス様を……姫様を預かる事になった。エリンス殿下も「久々に話せば良いだろ」とか意味が分からない事を言っている。まぁ、確かに夜会ではそんなに話してはいない。


 けど―――。




「何でこうなる……!!!」




 と、大声で言いたいが実際は小声だ。何故かと言われれば、場所は浴室だからだ。し、しかも……姫様、姫様と!?





「ひろーい♪」




 くっ、未だにニヤニヤしていたバーレルト様。

 あぁ、明日は質問攻めかと気が遠くなる。そんな俺の状態も知らないのか、姫様は体をタオルで隠しながら別のタオルで体を洗っている。


 浴槽は柑橘系の匂いがしてリラックス効果をしようとしている。だと思うが、俺はさっと姫様から視線を外す。

 彼女は彼女で、幼い時にも入ったから良いよね? みたいな発言をするが、気付いてい欲しい……。



 あれは幼いから出来た事であり、今は互いに大人として成長しているんだと。俺は意識するなと言われているのかも知れないが、無理だと言いたい。




「ラーグレス? どうしたの?」




 体を洗い終えたのか、姫様はいつの間にか俺の傍まで来ていた。返答に困っていると「髪……久々に洗ってくれる?」と小首を傾げられ、俺は自然と「はい」と返事をしていた。


 姫様の声には……俺は弱いのだと、改めて思わされた。


 1人で洗うのは苦労すると言いながら、姫様の髪を丁寧に洗っていく。幼い11歳の時には首下まであったからそこからの成長がよく分かる。浴槽に温まったからか肌は少しだけ赤くなる。でも、艶のある肌は隠せないし肩や背中に小さな赤い痕が見えている。


 それが……妙に色っぽく見えてしまう。




(貴方も……女性なんですから、分かって下さい)



 

 ゴクリと生唾を飲みそうになるのを抑える。

 いけない、いけない。男としてこのシチュエーションは喜ぶべきものだろうが、理性がそれはダメだと告げる。




「ふふっ、ラーグレスに髪を洗って貰うの久々♪」

「そ、そうですね……」




 姫様は嬉しそうに俺に預けている。それが何だか嬉しいような、そうではない感じの様な……何とも言えない感じになる。




「髪……かなり伸びましたね」

「うん。切るのも面倒だったし……そのまま伸ばしっぱなしにしてたかな」

「……でも、ダンスでは凄く綺麗でしたから、このまま伸ばされた方が良いですよ」

「本当? じゃあ、そうしようかな」




 嬉しそうに呟き、俺が髪を洗い終えるのを待っている。何だか幼い時に、自分も姫様も戻ったような気分に何だか心地よくなった。

 何度か痛くないかなど聞き、ようやく髪を洗い終えた時には俺は疲れ切っていた。




「……平気?」

「あ、はい……」




 今は湯船に入るが背中合わせだ。タオルを付けて入りたいが、姫様が背中合せて良いのでは? とまた恐ろしい事を言って来た。先程、声に弱いと自覚したばかりなので自然と従ってしまう。




「……ごめん、やっぱり迷惑だった?」

「いえ。自分も幼い時に戻ったような気がして……良かったです。成長した姫様も見れましたし」




 やましい気持ちはない。素直な感想だ。


 姫様の美貌は健在で、笑顔が癒されるのも変わらない。姫様が居るリグート国は俺が思っていた以上に良い所なのだろうと思い、ほっと胸を撫で下ろす。

 

 姫様はそこから今日の出来事を俺に話してくれた。


 アクリア王が自分の両親と知り合いであり、夜会の分の含めてドレスを1着くれたと。今度はレント王子と共に行きたいと話しており、凄く嬉しそうに話すから俺まで嬉しくなった。




「姫様が幸せなら俺は十分です」

「ラーグレスは?」

「え」

「私ばっかり話してる。……そんなのずるいよ」




 首だけを振り向き少しだけ頬を膨らませた姫様。俺は困ったように顔をそらし「聞いてもつまらないですよ」と言っても、姫様は引き下がらない。こういう頑固な所は変わっていないなと思いつつ、先に俺は上がる。




「夜着を用意します。……もう少し、ゆっくりしていて下さい」

「はーい」




 ちょっとむすっとした声色に思わず笑いを堪えてしまう。

 急いで出て夜着を用意し、熱い体を冷やす。姫様が上がるまではまだかかるだろうが、こんな情けない状態を晒す訳にはいかない。




「よぅ、お楽しみは済んだのか?」

「……バーレルト、様」




 宰相と同じ黒い髪に母親であるベーナム様と同じ灰色の瞳を持った、ニヤニヤした男性。俺が姫様の事を好いていると思ってのこういった行動だろう。

 そして、本人は高みの見物であり反応を楽しんでいる。

 弟のリンガレート様は兄と違い素直で可愛らしい方だ。

 年齢は……確か姫様と同い年だったか。




「ごめんなさい、ラーグレス……わぷっ」




 追って来た姫様が俺に勢いよくぶつかる。その拍子にフラフラとなりバーレル様にぶつかる。「うー」と頭をさする姫様に彼は「お、おぉ」と感嘆の息を漏らしたのを聞こえた。




「バーレルト様……?」

「っ、べ、別に!!! 胸が当たったとか別にそんなこと思ってねぇし」

「そうですか……」




 黒い笑みの俺に命の危機を感じたんだろう。

 バーレルト様はすぐに姫様を俺に預け「じゃ、じゃあな!!!」と慌てたよう逃げていった。




「……誰かに、ぶつかった、よね」



 

 幸いなのかバーレルト様の顔を覚えていない。でも、勢いよくぶつかった事で少しだけ記憶が飛んだようだ。何でもないと説明しながら自室へと入る。




「ふかふか~~~」




 ボフンッ、とベッドの感触を楽しむように姫様はダイブする。その時にワンピースのスカートがフワリと舞ったとか、青いパンツを履いていたとか……不純な気持ちを一気に叩き落とす。




「姫様……もう少し、はしゃぐのを抑えて下さい」

「だってラーグレスが相手だもん。良いじゃない」




 何です俺が相手って。まぁ、それだけ気を許しているんだと思っておく。あと「もん」って言うのが可愛いです、姫様。




「ねぇ、ねぇ、隣に来て来て」

「はいはい」




 俺のですけどね、と思いながらも姫様の隣に体を潜り込ませる。すると、嬉しそうに姫様は寄ってくる。動く度にさっきの柑橘系の香りをさせるので、どうしても風呂場の事を思い出しかあっと赤くなる。




「んーー。温かい♪」




 姫様は嬉しそうにしているし……。それを見てもう怒れなくなった。あやすように頭を撫でれば途端に「ふふん♪」と嬉しそうに体を密着させてきた。




「っ………」




 女性特有のフェロモンで言うのか、何だか甘い匂いがすると思った。ふいっと顔を逸らすと「話、聞かせて」と甘えた声を出す。




「で、では……まずは俺が拾われた部分から話しますね」

「うん♪」




 俺は夜中になるまで姫様に話した。姫様がリグート国で過ごした事、俺がディルランド国で過ごした事を含めて話していたらいつの間にか……時間は経っていた。


 恐らくは俺も姫様も、幸せそうに寝ているんだとなんとなくだがそう思った。翌日、バーレルト様に質問攻めに合うなどこの時の俺は知らないで幸せそうに寝たのだった。

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