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猫になった私は嫌いですか  作者: 垢音
王子と彼女との出会い篇
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第2話:彼の追憶

ーレント視点ー


 バルム国。

 5年程前に魔女による粛清を受けたと言う報告を聞き、その場に崩れ落ちそうになるのを我慢した。




「父上……確か、その国には……許嫁にと言われていた人が、居たはずです。その者は……未来の妃となる、その方は……!!!」

「レント……」




 父上は俺の質問に対し、すっと視線を逸らした。

 瞬間、理解しろと言われているようでガクリと……今度こそ崩れ落ちた。




「兄は……兄は今……バルム国へと向かっていますよね。なら、私も──」

「無駄だ、レント第2王子」




 ピシャリと思考を着るようにして、割って入ってきたのは第1王子であり私の兄のバーナンだ。その兄は俺の横に立ち、父であり国の国王へと頭を垂れ報告を開始した。




「ただ今戻りました。……バルム国があったと思われる場所は既に燃やし尽くされており、今は魔法で消火作業をしていますが、なかなか火の勢いは止まりません。ですので生存者は居ないと思われます」

「っ……!!!」

「どうされますか、王」 



 兄の淡々とした報告に王へと意見を聞く態度も……何もかも気にくわなかった。


 生存者は居ない。

 燃やし尽くされた、国。



 では……彼女は、前に出会った彼女は……もう、居ないのか。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「……」




 あの時、自身の部屋に着きそのまま寝た。しかし、次の日すぐにビリビリと自分の体から何かを知らせるような感覚に目が覚めた。



「……あれは……」




 窓から見えた白い何か。

 すぐにその付近に魔法を使って、飛び立ち静かに様子を伺った。




(白い……猫?)




 白い毛並みの赤い瞳。

 しなやかさの中に気品が漂っているその白い猫には見覚えがあった。しかし、今はその体の所々に汚れが目立つ。昨日の雨に打たれたのだろうと予想はついた。


 そして、その猫はずっと城の中心をじっと見ておりそのまま微動だにしなかった。やがて諦めが付いたのかすぐに引き返しながらも、チラチラと城を見ながらその場を後にした。




「……あの猫」




 約6年前の事だ。

 私は父上と共に友好国であり、父にとって思い出深いバルム国へと赴いた事はあった。その時の私は6歳、兄は11歳だ。

 兄は優秀で剣での才で私は一度も勝てた事がない。今も、騎士団に所属し場数を踏み将来の王としての教育を受けている。


 バルム国には近況報告と言う名目の父と幼馴染であるバルム国の王との語らいが目的だ。それに1週間も国を空けるのだから、仲の良さがよく分かる。




「はぁ……つまらない」




 当然、視察として来ている私はやる事は殆どない。観光をして自国に取り入れられる部分はないか、子供目線で探れと言う父上の教育だ。適当に城の敷地内を歩いているとガサガサと音が聞こえた。




「ニャアア!!!」

「あっ、こら!!!」



 勢いよく飛び出した白い物体と後から追って来たと思われる女の子の声。それを聞いたのを最後に私の意識は飛んだ。




「ウニャア……ニャ、ニャ」

「う、ううん……」




 ペチペチと頬を叩かれゆっくりと目を開ける。

 目の前に白い毛の赤い目を宿した猫がこちらを覗き込んでいる。すると、その猫はひょいと持ち上げられ「ほら、謝って」と窘めるような声が聞こえてきた。




「……フニャ」




 ペコリと頭を下げて来る猫に思わず笑ってしまった。

 元気がよく駆け回っているのに、主人には勝てないのだと分かり妙に面白かった。




「お怪我はありませんか……?」




 謝った瞬間、その猫は興味を無くしたようにまた別の場所へと移動していった。声を掛けられた方へと目を合わせて息を飲んだ。


 薄いピンク色の髪が印象的。そして、何よりも目を惹かれたのは濃い紫色の瞳の色。ピンク色の髪とマッチしていて、何処となく浮世離れしたような儚さがある女の子。





「……」

「あ、あの……?」




 キョトンとし首を傾げる仕草が可愛らしい。

 ピンクのドレスがよく似合っており、私の頬に熱が集まるのがよく分かった。




「あ、いや……大丈夫です。元気なんですね、あの猫は」

「はい。ずっと私の傍に居てよく遊ぶんですよ」




 フワリと笑うとまた印象が違って見えた。

 儚い感じだと思ったら、一気に元気な印象を与える不思議な笑顔。思わずそれをボーっとしたまま見ているとまた猫に突撃される。




「うぐっ」

「こらっ、お客さんに突撃しないの」

「フニャア……ニャウ」




 くっ、何でそんなに睨むんだ。なんだ、近寄るなって言っているのか?




「ニャ!!」




 元気よく返事するな。そして、私を敵だと認識したのかカルラと言う名前だと知り、そこからよく私を除け者のようにして女の子との仲を邪魔してきた。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 あの日から6年。

 12歳になった私に父上が許嫁だと言って、見せて貰った絵を見て驚いた。……あの時の女の子だ。名前もその時に知った。


 ウィルス・ディラ・バルム。


 同じ年であり、教育もしっかりとなされている。

 友好国として一層の親交をして欲しいと言う思惑も含まれているのだと分かった。でもそんな事は私にはどうでも良かった。

 だって、あの時の女の子と会ったのがきっかけで猫が好きになり……私にとっての初恋なのだと理解した。だから、何が何でも自分の物に出来るのだと理解して心の中で喜んだ。


 迎えに行くのは彼女が誕生日を迎える日。

 誕生日を迎えながら、私だけの物になると分かり嬉しくなった。なのに……その日に、バルム国は魔女に襲われた。兄の報告で生存者が居ないと聞かされ、抜け殻のようになった私に一筋の光が差した。


 見覚えのある猫。

 そして、6歳の時にあの女の子に残した……私と彼女だけの印。

 それが襲われた日からずっとビリビリと私の体を、感覚を伝って教えてくれる。


 ”生きている”


 そう確信が出来た私はそこから我武者羅に剣を磨き、魔法を学び兄と同様に優秀な王子として周りから期待の目を向けられ始めたんだ。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




「フナァ~……」




 17歳となった私、レント・セレロール・リグート。

 剣を訓練を終え、1人で木陰に休んでいた時にそれは来た。


 白いはずだった毛並みは見る影もなく汚れていた。いや、足を引きずっている所から見ると……暴れたと言うより喧嘩をした様な悲惨さ。




「大丈夫かい?」




 フラフラとした足取りでこちらぬ歩み寄る白い猫。

 なるべく優しく声を掛け、ふっとこちらを見た。



ー銀髪……?ー


「えっ……」




 ドサリ、と倒れた猫を抱き寄せ気絶しているのだと気付きほっと安心した。

 しかし、その前に頭の中に聞こえてきたあの声……間違いない、あの時の少女の声だ。

 もしかしたら、何処かで違うのかも知れない。そんな疑念は、今の声で全て確信へと塗り替えられた。




「そうか……自分から来たんだ……ふふっ」




 思わず笑みが零れた上に部下には見せられない位の表情をしているのが分かる。加えて猫だ……猫好きとして保護しない訳にはいかない。


 別に下心なんてない。

 これは保護だ、保護。


 スキップしたくなるのを抑えつつ、私はその猫を大事に抱えすぐに自室へと飛んだ。




 包まれている温かさに心地いいのだろう。私に全てを預けてくれるその仕草に愛しさが、守りたい衝動が強まる。ふっとその人物は目を開ける。




「………」





 キョトンとした仕草は間違いなくあの時の女の子の仕草。

 嬉しい気持ちがまた込み上げるが、ここは我慢だ。驚かす訳にはいかないから、優しく優しく声を掛ける。




「目覚めはどう?……怪我をしていたから治しておいたよ。気分は悪くない?」

「……大丈夫、です」




 スリスリと自分に寄りかかり、頬ずりをしてくる彼女。

 猫の様な仕草……いや、今まで猫だったのだから今もそれを継続しているのだろうと思い無視を決め込む。


 しかし、ふと気付いたのだろう。

 この異常な空間、自分の起きている状況に。




「っ……!!!」



 バッと私と目を合ったかと思えば、その次の瞬間にはシーツを包みベットの隅へと移動している。

 おぉ、流石の俊敏さに思わず拍手を送りたい気持ちになり……実際にそうなりそうなのを必死で抑えた。




「なっ、な、ななな……!!!」




 一方の彼女はこの状況に早くも気付き、顔を赤くしているのだろう。その場でのたうち回るようにしてゴロゴロとしている。ピタリ、と止まりおずおずと顔を覗かせて来る。


 薄いピンク色の髪に濃い紫色の瞳を宿した女性。

 間違いない。彼女は――




「ウィルス……ウィルス姫だよね?」




 ギクリとマズいと言った表情をしている。

 ダメだ……君にそんな表情は似合わない。君は……笑顔が一番似合うんだ。

 悲しそうな表情はしてはダメだよ?




「あ、貴方……貴方は一体……」

「うん、自己紹介だね。じゃあ、改めてだね。私はレント・セレロール・リグート。6年前、姫の事を許嫁として父に紹介された身だよ」




 怯える彼女に一歩一歩近付いていく。

 目を固く閉じる彼女の頬を触る。軽く触れ、猫を撫でる様な手付きに警戒していた彼女は少しずつではあるけれども、目を開けてこちらを見てくれている。




「レント……リグート国、第2王子のレント様?」

「そうだよ。姫……やっと、やっと見つけた」




 シーツごと彼女を抱きしめ頭を撫でる。

 不安を与えない様にしていれば彼女は涙を流していた。色んなものがグチャグチャになって溢れているのだろう。


 だから私は彼女が泣き止むまで待つことにした。

 今は互いに話し合う時間が必要だと認識して、声を殺して泣く彼女を優しく撫で続けた。


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