第24話:カルラの導き
「聞いた? バーナン王子とレント王子の事」
「聞いたもなにも、私は見たの」
「「何を?」」
「レント王子が婚約者と仲睦まじいのを。いつも笑顔で私達にも優しいんだけど……婚約者といる時は甘い笑顔で、こっちまで顔が赤くなるもの」
「え、そうなの?」
「あ、信じてないわね。なら今日の夜会、見てみなさいよ。もうデレデレだし見ている方が恥ずかしくなるから」
こう話すのは城で働く女官達。
昨日の夜会に数名で、空になったグラスやらお皿を片付けた時に目撃されたのは第2王子のレントがウィルスといる所。普段は真面目で、物腰も柔らかい事から、女官だけでなく騎士団からの好感もいい。
その彼が、自分達には見せなかった甘い顔を見せた人物がウィルスである事。それは昨日の夜会で知ったし、その日の内に知らせられた人数も僅か。ファーナムや、一部の人間には1カ月間程前から知られているウィルスと言う人物。
「気になるわぁ。どんな方なの?」
「この間から食べさせ合ってる方ですか?」
「「「ちょっと待って、どういう事!!!」」」
別の女官からの新しい情報。いきなり3人も迫り来れば、言った本人としてはビックリしてしまい、話さないと逃げられない状況に内心で溜息を吐く。周りにいる女官達も素知らぬ顔をして準備をしているが、耳はしっかりと内容を聞き逃すまいとしている。
彼女の話によれば、夕食を一緒にされながらもレント王子がウィルスとで交互に食べさせ合いっこしている、と言う場面。女官長のファーナムから何も言われないので、既に彼女の中では了承されている形となる。
「つい、先ほども……朝食の時に」
「「「もっと、詳しく教えて!!!」」」
女官達はそれからレントが猫を飼っており、国王から丁重に扱うようにと知らされた猫である事。少し前まで丁重に扱うようにと一部の女官に知らせた女性がウィルスであると、次々と知らされる事実に興奮気味に周りとで話がなされた。
──ここまで順調だ。と、騒ぐ彼女達の声を聞きながらファーナムはクスリと笑う。
いつもなら仕事の時間だと注意をするが今回は見逃す。噂好きや恋愛などが好きな彼女達を上手く転がし、ウィルスの身の回りを固めているなど誰が思うだろうか。
「さて。あと5分経ったら注意をしないと」
今日も1日、当たり前の日常が過ぎるように願う。その為にも、2度の夜会の為にウィルスにはどんなドレスが似合うかと、楽しみに考える。
自分に子供が居たら母親とはこんな気持ちになるのだな、と1人考えた。しかし、時は戻らない。ファーナムはきっちり5分を計り、未だに話を続ける彼女達に怒鳴り付けた。
リグート国の城内では昨日の夜会での話題が盛り上がっている。第1王子のバーナン、第2王子のレントに婚約者がおり発表されと言う事。
クレールはバーナンとの婚約を条件に、子爵から公爵家として地位を確立しギース国王は「長い間、苦しませて悪かったな。……今後も、変わらぬ忠誠をしてもらえんか」との言葉にクレールの父親は忠誠は変わらないと言い固い握手を交わした。
彼は長年の、当主の願いが叶ったのだ。
言われの無い噂や中傷に苦しめられてきた。娘の幸せを願いながらも、何処か娘を名を上げさせる為の駒として見ていた節がある。
(気付いていたから、素っ気ないのも分かる)
昨日の夜会での状況は彼等の耳にも入っている。優雅に躍り、会場を魅力したこと。いつからバーナン王子と合わせていたのかと思う程、息のあったダンスには信頼関係が見え2人の仲の良さが分かると言うくらいに。
「昨日のドレス可愛かったから、これからも着ようよ」
「公式以外で着る気はないです。屋敷にも来ないで」
「えーー」
「バーナン?」
「う……。で、でも」
「はぁ……分かりました。ウィルス様とで着ますから」
「やった♪ ねぇ、ウィルスを探してきてよ」
「今!?」
と、言うやり取りをしていたと宰相の諜報員経由で聞いていた。宰相のイーザクには自分が使っていた諜報員を全て渡し、面倒を見て貰った経緯がある。
イーザクとは幼馴染み彼は個人的に聞こうと思えば聞けるのだ。
(……王子にその態度は良いのか)
本人は気にしていない様子。側近だからと言われればそれまでたが……と、これからは娘に振り回される未来を想像した。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
ージーク視点ー
レントの執務室には、私とバラカンス、ナークがおりレントはカルラを幸せそうにじゃれていた。
「城内はレントとバーナンの事で大騒ぎだな」
「その為の夜会だもん。当たり前だよ♪」
「巻き込まれたエリンス殿下。気を悪くしなければいいが」
バラカンス。そのエリンス殿下も、参加済みだ承知した事だから平気なんだよ。王も息子も、盛り上げ役に徹しながら自分達も十分に楽しんでいるから問題ない。
「王子、主とのダンス見てた。綺麗で格好いいね。見てて飽きなかったよ」
ナークはキラキラト目を輝かせ、カルラの頭を慎重に撫でる。時々、猫パンチを喰らい「あうっ」と声を上げてそのまま撃沈するように床に倒れた。
……大丈夫か? 暗殺者なのに、猫の攻撃で倒れて。
「っ、ダメ……可愛い……」
あぁ、可愛いから顔をあげられないって?
ちょっと、何でレントが勝ち誇ったみたいな顔してるのかな。
「さて、今日軽くすまして夜会に備えないと」
「書類は少ないだろ?」
「うん。これなら昼食にウィルスと食べれるから。ね、また食べさせるから逃げないでよね?」
レントに背中を撫でられてビクリとなったカルラ。振り返り、鼻や頬などにナークにしたみたいな猫パンチを繰り出す。意識は共有されてるっぽいから、ウィルス様が恥ずかしがっているんだなと予想をつける。
今日も平和な1日になると信じて、バラカンスと共に和む姿勢を貫いた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
ディルランド国用の控えの部屋に、男性が1人ベッドの上で横になっていた。瑠璃色の髪に浅葱色の瞳の真面目そうな彼の名はラーグレス。
バルム国、筆頭騎士であり密かにウィルスの婚約者として国王に推されていた。その話を聞かされたのは自身が15歳の成人を迎えた時であり、その時ウィルスは10歳。王妃はずっとレント王子を推していた様子で、よくその話を聞かされていた。
姫である彼女とは彼女が5歳の頃から面倒を見るようになり、それが段々とが側近としてまでなっていった。国王から仕掛けられた事であり、ゆくゆくはラーグレスとで結婚して貰おうとしていた位に彼は世話係として、護衛として優秀なラーグレスを推していた。
「ニャーン。フフニャ、ニャアアアンッ」
突然、目の前が真っ暗になった。
フニフニと彼の顔を触りながら、踏んでいる何か。でも、この鳴き声に見覚えが合ったのかすぐに起き上がる。
「カルラ……!!!」
「フニァ~」
驚いている間にもカルラからの押し付けは続いている。抱き上げれば甘い声を、もっと甘えさせてと言う仕草をする。
「……そうか。君は姫様の傍を離れずにいたんだな」
肯定するように「ナァ~」と尻尾を振り、肩に乗り移っては頭を寄せてきた。いつもの甘えたポーズに優しく頭を撫でれば、ラーグレスは「俺が傍に居なくとも……」と言葉を続ける。
ピクリと耳を動かし、彼の目をじっと見る。まるで話せば気が楽だぞ、と言われているようで彼はそれに甘えた。
「俺は姫様の側近だった。……パーティーで祝われるから、俺は終わった後にでもプレゼントをと思っていたんだ」
姫様は俺が婚約者であるのは言っていないし、と言葉を言えばカルラは気まずそうに顔をそらす。気にしないでくれと言い、再び抱き寄せて頭を撫でる。
「あの時……魔獣が現れたんだ」
魔獣。
獣の姿、巨人、動物とは違う黒い体を持つ人間に取っての敵。魔女が作り出しとも、自然に発生した共言われているが解明はされていない。
それらは気まぐれに現れ、破壊をし、町を村を大国を襲うと言う。バルム国に突如現れた魔獣の形は巨大な狼の黒い体。
それが1つ、2つと徐々に数を増やし城を守りながらも戦うも倒れていく者達が多かった。1人1殺と言う犠牲を払うも、増殖するスピードが明らかに早くすぐに劣勢に追い込まれていく。
「城の中にまで入られて、俺も深手を負った。……その時に炎が魔獣達を焼き払ったんだ」
瞬く間に燃え上がり火柱となって包まれた。魔獣を焼き尽くしたのは緋色の髪の女性。瞳も同じ色の炎が似合う美しい女性。
「城内を見ていくけど……大事な人が最悪の状態であっても恨まないでね」
「彼女は……そう言って、一瞬の内に城へと向かったらしい。……俺は途中で意識が無くなったからどうなったかは分からない。でも、次に目が覚めたのは全部が終わっていた」
バルム国が炎に焼かれた事で、呪われた国だと言われた。魔女の制裁、魔女の呪いによって滅ぼされたと言う信じがたい事実。
「拾ってくれたエリンス殿下には感謝している。……昨日からここに来たのも殿下に無理矢理にな」
彼はとても楽しそうに言って来た。
捜し物、もしかしたら居るかも知れないと。
「あの方の言う通り……リグート国に姫様も、カルラもいた。なら、俺が居なくとも平気だろ」
「……ニャ~~!!!」
話を聞き終わりカルラはラーグレスと向き合うように立ち、チョーカーにはめられた水晶が輝き出す。眩しい中でも彼は見てしまった。
猫が体を大きくしていき、やがて人の姿へとある女性へと変化していくのを……目に焼き付いてしまった。
「……っ、そんな……貴方は」
「ラーグレス!!!」
揺れる髪、涙を流して自分に抱き付いたのは忘れもしない人。自分が守り切れず、ダンスで楽しそうにしていた人。昨日と違い今日は、赤いプリンセスラインのドレスで、フリルをふんだんに使われた可愛らしい姿のウィルスがいた。
「カルラと……貴方は……」
「っ、ラーグレス……本当に……よく無事で、無事で……」
一瞬、ラーグレスは抱き寄せていいのか迷った。でも、それはほんの一瞬だけ。彼は涙ながらウィルスを抱き寄せ謝り続けた。
再会した2人が落ち着くまで、扉の外で待機していたのはエリンスとレント。これらの演出を行ったとも知らずラーグレスは再会出来た喜びを噛み締めた。




