第213話:イーベルとギルダーツ②
ーギルダーツ視点ー
イーベル兄さんは結局、俺の言葉を全部笑って受け流した。
不安を抱くなと言うのが無理だ。
「ったく、真面目の次は頑固かよ」
やれやれと言いながらも、俺はガッシリとイーベル兄さんの事を掴んで離さないでいた。
ルベルトが見たら、卒倒するんだろうなと分かる。それ位に必死だからな。
「真面目過ぎるのも辛いぞ」
「うるさいっ」
「はいはい。……ギルダーツ。お前は一番上だ。下に生まれてくる分までしっかりしろ」
「……生まれてくる?」
「なんだよ、知らないのか? お前、4兄妹の一番上になるんだ。真面目過ぎるなんて、つまらんだろうが」
「は?」
なんだそれは。
どう言う意味だよと言えば、頬を搔きながら教えてくれた。
どうやら、ルベルトの下に2人生まれてくるらしいのだ。
しかも双子で男女だと!?
「アハハハッ、傑作!!! そうそう。そんな感じに驚いてらりゃあ子供らしいんだよ」
驚いた顔がよっぽど良いんだろう。
真面目なのは父の影響だ。試しに一緒に居れば……いや、居ても変わらない気がする。何故だかそんな風に思い静かにため息を吐いた。
「こうしてお前達の世話も出来なくなるし、寂しいもんは寂しいからな」
「何で冒険者なんて目指す」
「ん~~。金が儲かるからだな」
「おい……」
どう考えても違うだろ。
睨む俺に困ったように目を逸らす。
「冗談だよ。さっきも言ったろ? ランクが上になれば、王族や貴族達に頼まれる事も多くなる。それだけの実力を付ければ、表立ってお前達と会っても不思議に思われないだろ」
「……。俺達の、為か?」
「勝手に言ってろ」
そう言ってまた乱暴に撫でられる。
……こうも力加減をしてないのは意地なのか、意地悪なのか。いや、兄さんの事だからどっちもあり得るな。
「まだ剣では負けないが、魔獣には程遠い。せめて魔獣を倒せる位には実力をつけたいんだよ。その為には、冒険者になるのが手っ取り早いからな」
「……そう思っておく」
「はいはい。生意気だよな、ホント」
結局、その後も生意気だと言われ続けたけど俺の性格は変わらない。
真面目過ぎると言われようが、頭が固すぎてつまらないだろと言われようが――これが俺だ。
「……俺以外の奴にも甘えろよな。雁字搦めで、辛くなるだけだぞ」
「辛く……?」
この時、俺はその意味が分からなかった。
だから分からない顔をした。それが良いのか悪いのか。この先、辛い事ばかりが出て来るのか。
何が辛くなるのか。
子供の俺には分からない。だが、イーベル兄さんは笑っていた。
「そう簡単には死なねぇよ。――俺達の代で終わらせるぞ、魔獣との因縁も魔女達の苦労も。全部、報われねぇと何のために俺が生き残ったのか……分からないんだからな」
「……っ」
あぁ、この人には何を言っても通じないのだと分かった。
必死で止めても、意思が固いのも知っている。でも、ほんの少しでもワガママを聞いてくれると思っていた俺はダメだ。
大馬鹿野郎、と言うんだろうか。
「だからそう寂しい顔すんなよ。ほら、今日だけだ。一緒に寝てやる」
「こ、子供扱いするな!!!」
「子供だろう。国王に告げ口するぞ?」
「ぐぅ……」
こんな事を父に知られたら、確実に怒られる。
いつも甘えるなと言われてきたから……。
「きょ、今日だけだ。男同士の約束!!!」
「はっ。お前にはまだ男同士の約束なんてのは早いんだよ」
そう言ってバカにして、でもその中でも感謝しているって言われているのは分かる。
その翌日、城の裏口から出て行き分かり次第連絡することを約束して……彼は国を出た。
事情を知っているのはギルドマスターだけで、いくらかのサポートはするそうだ。でも、その後のイーベル兄さんの事は報告で知っている。
剣も出来る人だし、俺よりも魔法が上手い。
なにより、口は悪くとも面倒見が良いのは知っている。そう言う所は、何かと世話を焼こうとする人柄に集まる人は多い。
彼はSランクの冒険者として名を連ねていくのを聞き、やっぱりなとも思った。
あの人が負けるはずがない。
だって、俺が目標にしている人なんだから――。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「ルベルト、居るか!!」
随分と昔の事を思い出していた。
それもこれも、イーベルが言いたいことを伝えるだけ伝えて勝手に切ったからだ。
前は兄さんと呼んでいたが、それだと周囲にバレるからとすぐに直した。と言うか、父にそうするように強要された。
ルベルトはすぐに直せたが、俺はちゃんと言えるまで暫くかかった。
その時にニッコリと笑顔を向けられた弟に、見抜かれているようで気分が悪かった。
「どうしたの、ギル」
宝剣を所持している俺達は、なるべく同じ所に居た方が良いとなった。
宝剣同士で何かしらの共鳴をするかも知れない。大ババ様の助言を元に、王族同士で集まった。
だから、自然とルベルトだけでなく他国の王子達も一緒だ。
護衛をする方もまとまってくれると助かるからか、俺の様子がただ事でないのを察しすぐに集まりだす。
一方で、呼ばれた方のルベルトはかなり落ち着いていた。
鞘をしっかりと持ち、いつでも攻撃に備えられるようにしている。逆にバーレクの方は、俺の慌てように驚き成り行きを見守っている。
「ついさっきだ。イーベルから連絡を受けて、ウィルス達が城に突入した。そして、妹のルーチェが居るのを確認した」
「!!」
「それって、今なの!?」
目を見開くルベルトとバーレク。
俺に詰め寄って来たのは、リグート国の第1王子であるバーナンだ。
そう言えば、彼の婚約者もルーチェと同じ金髪の女性だったな。そして、剣も扱うし魔法も使える。……妹が成長したら、あんな感じになってくるとどこかで思ってた。
「ギル兄ぃ、今思った事はルーチェには言わないでね?」
「あぁ、大丈夫。言わない」
俺の表情を見て、すぐに察したバーレクが注意するように言った。
だがそんな俺達の会話を無視して、必死で聞くバーナン王子。名前は確かクレール譲……だったか。
「それで!!! クレールは無事なの!? ルーチェ王女と、一緒なの。ウィルス達と一緒なの」
「ちょっ、ま」
「バーナン、落ち着け!!」
そこに彼の護衛をしているジークが思い切り頭を叩いた。
その痛さに思わずうずくまるバーナン王子。「ぐぅ」とうめき声を上げながらも、叩いたジークを睨み上げていた。
「ここで乱すな。それで、ギルダーツ王子。どんな連絡を受けたんですか」
別の話題を振っておかないと、このままでは話が進まない。
その意味も込めて進行を促したジークに、俺は無言で頷きイーベルからの連絡をそのまま伝えた。
とりあえず、妹のルーチェはウィルス達と合流している事。
そしてイーベルの方は、魔物使いと思われる相手をしている事が分かった。
向こうの出方が分からなかっただけに、俺達の方に魔物が差し向けられる可能性はぐっと低くなった。これからの事を話そうとした時だった。
「緊急!!! 緊急!!! 魔獣が現れました。その数は20。繰り返します――」
リグート国の魔法師団からの通信に俺達はゾッとした。
タイミングが良すぎるっ。ウィルスの居場所が分かった途端、向こうは遠慮なく刺客を差し向けて来たのだ。
「なおもその数は増えて続けている模様!!! 至急、指示を――」
レント王子からこれまでの経緯を聞いて来た。
第2王子のシグルド王子と行動を共にし、そして魔獣を生み出している種と呼ばれるものを破壊する。
死体を使っての魔獣の製作。
向こうには資源が多くあり、いつでも侵攻出来るのだというプレッシャーをヒシヒシと感じた。
「よし。各国、陣形を崩さず魔獣に1つずつ対処をする」
「だったらすぐに援軍を呼ぶ」
俺の指示に、皆が頷いた後でエリンス殿下がニヤリと不適な笑みを浮かべた。
どういうことだと俺が思うが、バーナン王子とリラル王子は納得したような表情をしている。
エリンス殿下が俺達の空を見るようにと促す。
「な、なんだ……。なんだこれは!!!」
見上げた空はまだ夜中というのもあり、星空が見える。
そこに重なる様に、赤い魔方陣が次々と浮かび上がり――空を埋め尽くした。




