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猫になった私は嫌いですか  作者: 垢音
心のカケラ篇
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第210話:第3王子の状態


ーレント視点ー



「――と、言う訳なんです」




 まさかこの国で、クレールだけじゃなくてルーチェ王女とも会うとは思わなかったな。

 そして、2人からある程度の事情を聞いても、連れて来られた理由がよく分からない。


 金髪の女性だけを集めている。

 しかも、無差別にだ。リグート国だけじゃなくて、各地で人攫いがこの所頻繁に起きていると、兄様から聞いてはいた。


 兄様の護衛であるリベリーへと視線を向けると、彼は首を振っている。知らなかったではなく、外されたんだと読む。……私達の方に集中させる為、か。




「ですので、今も彼女達はこの城の地下室に閉じ込められています。食事は3食ありますし、作って下さる方の腕が良いんです。何だが懐かしい感じがして」



 

 ルーチェ王女は南の国の王族。

 そして、魔法と剣を扱える事から軟禁するにしても場所は違う。捕まっている人達とは別室な上、丁重に扱われているって事だね。


 確か彼女は魔法も剣も扱えた筈。

 それはクレールも同じだったが、何故2人はギリギリになって行動を起こしたのか。




「本当に……アークが、弟がそんな指示を出したのか」

「え」




 そう疑問を投げかけるのはアークの兄であるシグール王子。

 話を聞いている間、彼も信じられないとばかりに目を見開き感情を殺していた。


 確かに。彼から聞いていたアーク王子の印象とかけ離れている。ウィルスとナークから聞いた時、会ってはいないが正直に言えば弱気な感じに思えたからだ。




「あの、この人は……?」

「アーク君の異母兄弟で、第2王子のシグール様。えっと、彼も事情があって今まで来れなかったの。今、私達に協力してくれてるから危険な人じゃないよ」




 ウィルスの説明に、一応の納得を示したクレールとルーチェ王女。

 だが、ルーチェ王女は「もしかして」とハッとした。




「あの、もしかしてアークの言っていたお兄さんって……」

「彼が、何を言ったんだ」




 しかし、そこで2人はぐっと押し黙る。

 やがてルーチェ王女から聞かされたのは、第3王子の状態だ。


 断片的にだが、彼は記憶障害に陥っている。

 自分の名前も、自分の父親だけでなく母親の事も分からない。言葉として発しているのは金髪という単語だけ。

 そして、少し前まで彼は寝たきりな状態だった。食事もそれなりに食べれるようになり、体力が回復した今ではルーチェ王女と剣の稽古をしているそうだという。


 ただ、その時のアーク王子はただ与えられた事をこなしている印象だと聞く。

 言われた事を実行しているだけで、自分の意思と言うのを感じられない。それがルーチェ王女が感じ取った事。




「見張りが居る中での稽古ですから、逃げだすチャンスなんてありませんが」

「それ……主が付けられていたのと、同じ?」




 ナークが気付いたように声を掛け、私達も注目する。

 ルーチェ王女だけではない。クレールの手首に黒い鎖が巻かれている。聞けばこれは、ウィルスが嵌められた魔力封じの物なのだという。


 手錠と言っても、両手を拘束するのではなく片方だけ。

 ウィルスが付けられていたのと違い、様々な改良がされている。見た目も手錠と言うよりは、ただの鎖にしか見えない。




「お父様は、この負の遺産を全て処理してきたのですが……。この制作に関わった生き残りが、密かにこちらに流していたんです。しかも、それは私の世話をしていた執事であるアースラなのです」

「!!」




 ウィルスは息を飲み、ナークも驚いている。

 私はあまり彼と接触はなかったが、そうか……。2人はルーチェ王女と行動をしていたから、自然と接点もあるんだったね。




「私はアースラによって連れて来られました。彼がハーベルト国と繋がっていた事に気付けずいたのは、彼の魔法によるものです」

「どんな魔法だったの?」




 ウィルスがなるべく平静を装いながら、話しを聞いている。

 どうやら彼の扱う魔法は、忘却と呼ばれる記憶の操作を得意としたもの。自分の存在も含め、あらかじめそこに居た。

 もしくは相手の記憶に自分の存在を、刷り込ませる。




「記憶を扱う魔法、か……」




 この世には数多の魔法が存在する。

 私やエリンスのように、自然の力を扱う風の魔法や炎の魔法。ギルダーツ王子とルベルと王子も、その類の魔法を扱っていた記憶がある。


 そして、ナークのように魔獣に特化した魔法である光に白銀の魔法。

 それは主として結んでいるウィルスから受け取った力。


 防御、治癒。探索や鑑定などの魔法も存在するが私達が知らないだけで、その種類の多さと幅は計り知れない。

 記憶の類を扱った魔法は正直厄介だと思った。


 良いように操作されるだけじゃない。扱い方によって、良くも悪くも作用される。

 今回、ルーチェ王女が自分の世話係であるアースラを信頼していた。その裏をかいて、上手い事この国に連れて来ただじゃない。


 自分の事を調べられる可能性も含め、名前や出生も偽装されている可能性だってある。


 色々と考えていた私達に、ルーチェ王女は更なる追い打ちを告げた。彼は――魔獣に変われるのだと、そう言ったのだ。




「今は……。いえ、この所は城内が騒がしくあり見張りの人間も最低限しかいない。前に、アークに本を持って行こうと思いここを訪れた時に……隠し扉を見付けて」




 成程。

 ナークが教えてくれた隠し通路は、トルド族が独自に作ったもの。

 反逆するにしろ、避難するにしろ。いくつか通り抜けが出来るように作っていた。クレールと相談し、捕まっている人達の避難をと考え――下見しに来た時に私達と遭遇した、という訳か。


 ん、待てよ。そうなると……。




「リベリー……もしかして、途中で誰なのか分かったんじゃないの」

「さあ……。ただ、姐さんに似た剣筋だなとは思ったが」




 疑問をぶつけるナークに、目を逸らしながらも必死で言い訳をしているリベリー。

 ……確信犯だね。

 ぶずっとしているナークを、ウィルスが宥めるように頭を撫でればすぐに綻んだ。それを見たルーチェ王女は「なっ!?」と驚き体を震わせている。


 羨ましいんだね、きっと。




「ず、ずるいですっ。私だってお姉様に会えなかったの辛かったんです。そうでなくても、貴方はいつもよりも甘えていませんか」

「ボク、主の従者だもん」

「自慢げに言う所ですか!?」




 あぁ、そう言えば2人の仲は悪いんだよね。忘れてた、忘れてた。


 さてと。

 ここで新たな課題が出て来たね。人攫いで、連れて来られた金髪の女性達。目的も未だに分からないが、シグール王子が「まさか」と思い本を探す。

 この書斎、厨房の人達も使う事から料理に関するものしかないかと思ったけど……。




「金髪と聞いて、まさかとは思った。記憶障害が出ているのなら、それだけの事をアークはした。恐らくは……精霊士としての力を使ったんだろう」




 そう言って私達に見せて来たのは、背表紙がボロボロな本が1冊。

 元は金色の刺繍で、森と泉の絵があったというが何度も読み込まれたからか、保存の状態が悪かったかで開くのも一苦労。




「……絵本のようだね」




 小説なのかと思ったが、シグール王子の説明では絵本なのだという。

 海の女神の物語。

 それは金髪に蒼い瞳の美しい女性。荒れ狂う海を鎮める為に、その力を使い崇められる話。

 そう言えば、リラルから聞いた事があったな。


 漁や海の管理を行う所では、金髪が女神の印として有名であり場所によっては神格化されているのだという。実際、クレールがそうだったというのだから驚きだ。




「海上都市リーフラのギルドで、私の髪を見た人達が泣いたり祈っていたりしていたので」

「……どんな所だよ、それ」




 リベリーが思わずそう言った事に、私も納得するように頷く。

 そして、アーク王子はその女神の話が大好きでありよく話を聞いていた。だからこそ、記憶を失っていても自分を保とうとした結果――女神と同じ金髪の女性を集めていたのでは、と結論をした。 

 



「母親からよく聞いていたお伽話だから、アークにとっては心の拠り所なのかも知れない。うわ言の様に言っていたのなら――可能性はある」




 そう言ったシグール王子は、とても苦し気に言った。

 ある意味、彼の予想通りになってしまった。自分が抜けた穴も含め、第3王子にしわ寄せがいく。その経緯は分からないが、精霊士の力を使った影響で記憶に障害を増える、か。


 これでは、精霊士の力を使いこちらに協力をして貰う計画は難しくなった。

 魔獣に対抗できる力は、多ければ多い程いい。とはいえ、その可能性を秘めたアーク王子は自分の事も思い出せていない様子。


 ……いつまでも彼がそのままでいるとは限らない。シグール王子が危惧しているのは、弟の処分だ。

 初めの内、自分の名前も含めてどこまで記憶を失っているか調べたんだろう。寝たきりになっていたが、回復した今は何処まで体を動かせるのか。

 

 ルーチェ王女の監視も含めての稽古。だとするとマズイ!!!



 即座にウィルスを庇うように、抱き寄せた。驚く彼女に構うこと無くすぐに距離をとる。それと同時、壁を突き破って入って来たのは大きなサソリだ。


 サソリの背の部分には、2人組の男がいた。

 侵入した私達を見て、瞳を輝かせたのが見え嫌な予感がした。私達の事をオモチャだと思っている顔だとすぐに分かった。


 

 その予想通り、サソリは私達を標的として追いかけて来る。毒針はもう勘弁だ。2度も死にかけたくはないからねっ!!






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