第208話:対策
ーウィルス視点ー
「俺等に、一体……何を飲ませやがったんだ。魔女めっ……!!!」
本来なら怒声が聞こえる筈。
だけども、今の私達にはそんな気力もないわけで……。
イーベルさんは、気絶しないまでも立っているのがやっと。凄い、私なんて飲んですぐに目の前が真っ暗になったのに。
Sクラスの腕前を持つ冒険者は、場数が違うのか精神が強いのか。
……見習わないと。
【止めてくれウィルス。……貴方はそのままでいてくれ。ホント、頼むから】
思考が読まれたのか、聖獣さんのフワフワな尻尾が私の頭を撫で上げて来る。
凄く器用だけど、彼にしてみれば体の一部だから気にしていない様子。
と、言うか顔の出ていたのか。
【まだ気分は優れないだろ。彼だって、ぐったりしているんだからウィルスも寄りかかって良いんだぞ? 我慢する必要はない】
うぅ、聖獣さんがカッコいいです。
反対側ではナーク君が、まるで抜け殻のようにぐでーっと寄りかかっている。……気絶しているんだもんね。
ナーク君も寄りかかっているから、私まで寄りかかったらダメだと思ったのに。これ以上甘えないようんいしているのに、どうして聖獣さんは甘やかそうとしてくるのかっ。
文句を言われた側であるティルさんは、すっごく楽し気であり鼻歌まで聞こえて来る。いや、実際にやってるから体力が有り余っているのか耐性が強いのか。
イーベルさんの仲間は傍でぶっ倒れている。
そう……。気絶しているんだけど、傍から見たら倒れているようにしか見えない。
でも、どうにかして起き上がろうとしているのだろう。無意識になのか、彼等の意思によるものなのか分からないけど、頑張って這い上がろうとしている。
「あら、魔女なのは知っているのに今更なの? 悪いけど、意地悪でこんな事をしているんじゃないの。これは対策よ、対策」
「こんのっ、そういうお前はヘラヘラと……」
自分達が苦しんでいる中で、ティルさんはいつもと変わらない。
おかしいな。確かに彼女のお手製の薬を飲んでいるのに、変わらないでいる事が凄いとしか思えない。
あれかな、大ババ様から薬の作り方を学んでいるから平気なのかな。
ん? でも、それだとおかしい事がある。私も大ババ様から薬の作り方を学んでいるし、幾つか売って貰ったし……。
だというのに、この差はなんなのだろうか?
「ふふ、姫様。簡単な答えよ。場数の違い……たったそれだけだから」
「そう、なんですか……」
聖獣さんが私の顔をペロペロと顔を舐めながら教えてくれた。
例え同じ人から教わったものでも、経験や薬草を混ぜ合わせれば効果も違う。貴重な薬草は、その効果も凄いが生えている場所は危険地帯が多い。なんだったら、魔物が多く行きかうような場所にだってあるのだそうだ。
だから、そういった希少な薬草で作った薬はそう簡単には複製は出来ない。
だけどティルさんはサラッと作り出して、私達に渡したんだ。――毒の対策になるからと。
【ウィルスはそのまま、安心で安全な薬を作ってくれると嬉しい。それが世の為、人の為だ】
「失礼ね。まるで私が失敗作しか作らない言い方をして」
【もう少しまともな薬にするか、せめて味を変えてくれないとな……】
呆れ半分、文句半分みたいな声色で聖獣さんが言っている。耳をペタンとしているので、言っても無駄だろうが……みたいな雰囲気でいる。
私の為だとは思うけど、こうして守られているのは何だか嬉しい。
思わず頭を撫でれば、それだけで聖獣さんは嬉しそうに尻尾を振っていた。
「前にも思ったけど、今回の聖獣は随分と主人に甘いわね」
【使い手による。悪いが、今までの使い手は戦いに慣れていたのも大きい。……ウィルスは王族な上に、殆ど戦いの場には出させなかったんだ。怖い思いをして欲しくないと思うのは、普通だと思うが?】
「だから、あんまりにも構い過ぎると姫様が困るんだって。実際に困っているから、こうした事態になるんだし……。興味が先走って、危険な事も分からないようだし」
「ごめんなさい」
そこは、まぁ……謝るしかない。
カーラスもお母様達も、危険な場に合せたくないのも分かるんだけど。その所為で、危機管理がなってないという事ですもんね。
戦いの方面は完全に、ナーク君とレント。聖獣さんに任せっきり……。
ラーファルさんからは補助をメインに魔法を教わり、合流してからはカーラスから本格的に魔法を使う練習をしている。
補助も出来ているのか不安だけど。
「ちっ。事情を聞くと怒るに怒れねぇし……」
その後、ティルさんを睨みながらも一応は殴るという方法を止めてくれたイーベルさん。
私もなんとか回復して、今はレント達に水を渡している最中。
イーベルさんと行動をしている仲間は目が死んだようになっているし、リベリーさんとナーク君も完全に回復していない。と、言うか多分ボーっとしている。
「毒特化の薬と魔法が利かない毒、か。敵も面倒な事をしてきたな」
それでよくレントは生きていたなと言われれば、ティルさんは場所と私が居た事が幸いしたんだと告げた。
「治癒系統の魔法の無効化も、薬草での治療が出来ないのも向こうとしては予想外だったと思うわ。偶然の産物……。ホント、恐ろしいものを作ってくれたって思う」
「それを対策して来るお前も、相当こえーよ」
イーベルさんの言葉に、私達は全員で頷く。
ティルさんは嬉しそうにして「私、負けず嫌いだから」と言えば、リベリーさんは遠い目をしていた。
小声で実験して来たくせに……と聞こえ、ナーク君が全力で頷く。
……巻き込まれたんだね、お疲れ様。
それが通じたのか、表情に出ていたのか分からないけど。今、ナーク君は私にくっついている真っ最中だ。
「時間があれば必ず無効にしてみせる。けど、そうも言ってられないから耐性を付ける位で我慢ね」
「それでも十分すぎるわ……」
「とはいえ……その度に、私達は気絶せざる負えないのはどうかと……」
そう。問題なのは、ティルさんの作った薬の効果の為か味の為か確実に意識を奪われてしまう所。
だから聖獣さんはどうにかして、味を変えるなり気絶するのを防げと抗議しているけど……変わることなく続けられている。
「そんな事したらつまらな――じゃなくて、効果として仕方ないのよ!!」
「おい待て、つまらないって言ったな!? 今、言ったよな!!!」
それを聞いたイーベルさんが暴れるが、仲間も含めてどうにかして止まって貰った。
レント曰く、気付いていたけど楽しんでいるのか分かるから諦めたんだって。
そうだね。私も嬉しそうに作っているのを見ては、助けてくれる為に全力なんだと思っていた時期がありました。
あれは……幻想だったんだ。幻想、幻想っと。
「お前達は悟り過ぎだ!!!」
諦めた私達に、イーベルさんは怒りを露わにする。
でも、ね。現状、対策出来るのはティルさんの薬しかないし、囮の事も含めて別れるのを前提で動く。
私の魔法で治せても、ずっと一緒に行動出来るのかも難しい。
耐性を付けるか、術者を叩くかしないと毒に怯えるしかない。その術者を叩く役をイーベルさん達が囮としてやる訳でと説明すると――。
「まっ、囮だからな。それ位の覚悟はあるが、俺としてはこの魔女にいいように振り回されてるのが気に入らない」
「そうハッキリ言ってくれると嬉しいわ。……イジメがいがあるってものよ」
「お前等、遊ばれてるんだぞ。良いのかよ、それで!!!」
「あは、あははは……」
良くはないけど、ティルさんが居なきゃいつまでも突入は出来ないので。
頷くしかない私達に、イーベルさんは私達の代わりにとティルさんを叱り続けた。本人は全然、応えてないのが笑顔から読み取れる。
そうしたひと時を終えて、私達は夜中――ハーベルト国の王城へと侵入した。




