第207話:分かっていたが許せない
ーレント視点ー
「打ち合わせ中に悪い。一旦、止めて欲しいんだけど」
夜中になって行動を起こそうと考え、それぞれの役割を割り振っていた時だった。
シグール王子の静止と連れて来られたウィルスの泣きそうな顔。不機嫌なナークもくっついて来て、嫌な予感しかしなかった。
まぁ、大体はウィルスの心の中の声が聞こえてきたから大体は把握しているけど。
そして、流れるようにナークの不満も聞こえているんだけどね。
……やっぱり、あの2人にはもう1度キッチリ話さないと。
魔女であるティルも交えないと後々、大変そうだ。
「ハハハッ、そうかそうか。泣くわなそれは」
意外な人がウィルスの味方になった。
Sクラスの腕を持つ冒険者のイーベル。
ディーデット国の王族の1人で、ギルダーツ王子達とは年が離れた従兄。何気にサラッと、ウィルスとも繋がっているから少しムスッとなるのは仕方ない。
隣でリベリーから「弟君、範囲広げすぎ……」と呆れられたけど無視。
ウィルスの母親は、隣国のディルランド国へ嫁ぐことが決まっていたがその直前だが顔合わせの時にバルム国の王子と一目惚れ。しかも、バルム国に嫁ぐはずだった人も今ではアクリア王の王妃だし。
……エリンスから詳しくは聞いていないけど、十分に荒れたんだろうね。お互いの国にも、お互いの関係にも。
現に、アクリア王は未だにディーデット国の国王とは顔を合わせずらい様子。だけど、そんなものは待ってられない。今回ばかりはと、向こうは断腸の思いで向き合う形にしたらしい。
一方で、息子のギルダーツ王子達と私達との仲は良好。これもウィルスのお陰だ。
だからとは言わないけど、ウィルスは人の懐に入るのは上手い。
あんまり顔を合わせていない筈のイーベルが味方をするくらいだ。南の国で会った時の回数としてはかなり少ない筈……。おかしい。
「おい。そんなに疑うような視線を送るな」
「……気のせいですよ」
「嘘つけ。文句ならギルダーツに言えよ? 英雄様を何かと気に掛けて欲しいと言ったのは向こうだしな」
「そう、ですか」
じゃあ、全てが終わった後でギルダーツ王子とは改めてじっくり話し合う必要があるようだ。
「アイツから聞いたが、バルム国では魔法の基礎の学べなかったんだろ? だとしたら、その辺の知識もないのは仕方ないだろう」
その言葉でビクついたのはカーラスだ。
なんせウィルスと同じバルム国で、彼女と過ごした上に魔法の先生もしていた。師団長と言う役職を全うしているのだから、彼女に魔法の有無があるかなんてすぐに分かるもの。
チラッと見ると、彼は視線を外して静かにため息を吐いていた。
……反省中のようだ。
「ま、バルム国はディーデット国と同じ位に、魔法の技術がそれなりに発展していた場所だ。魔力の有無も合わせてだが、王族として生まれたのなら持っている確率は高いぞ。一体、どんな教育をしたんだ?」
「……魔力は持っていない、と聞いていたので」
ウィルスはそこで、カーラスに聞いたからとは言わなかった。
恐らく彼女自身は、自分が扱えないであろうもの。だけど、それよりも興味が勝った。なんせ近くにその魔法に関して知識量も凄い人が居たんだから。
ラーファルから聞いていた。
ウィルスが魔法に関してもっと知りたいのだと。だから、時間があれば城内にある図書館によく行くしそこで魔女のマリアからも話しを聞いてた。そこに混ざって、働いている人達とも談笑を初めているからかいつも明るいって。
……レーナスが聞いたら、しつこそうだしまた泣かせる可能性もあるから、絶対に言わないけどね。
ラーファルもそこは理解しているからか、言うつもりはないとも言っていた。
「魔力はってことは、頑張れば力はつくってことだろ。今にして思えば、全部が嘘だったんだろうし……一体、誰の仕業かねぇ。酷い事を教えた奴がいたもんだな」
しかし、ウィルスの発言を聞いてもイーベルは逃がす気がないようだ。
今も、ニヤニヤ顔でカーラスを見てるので、その辺の事情も知っているのだろう。
かなり苦い顔をした上に、射殺さんばかりに睨んでいるカーラスが珍しい。悔しい上に、彼の言う通りだからと飲み込んでいる……と、思いたい。
ラーグレスも同じように反省しているので、2人を集中攻撃したいってことかな。
本人は連絡を取ってないと言うが、絶対にギルダーツ王子から聞いている。もしくは、ルベルト王子からかな。……あの人の方が、連絡をこまめにしそうだし面白がって言っている可能性はある。
「ま、冗談はその辺にしてっと。魔力を流しても耐えられる程の魔法石はそうないからな。……売ったら、一生遊んで暮らせるだろな」
「へうっ!?」
驚きすぎてて、ウィルスの反応が可愛い……。
ナークも一緒に和んでいるから良いね。心の中でも(主、可愛い。驚いているの、可愛い……)と連呼しているんだから。
「で、でも、でもっ、イーグレットもデートル様も、そんな事を一言も……」
欠片にした人物とは思えない程の変わりよう。
恐らく、聖獣はその辺りも理解して止めていた筈だ。震えるようにして、取り出したお守りである魔法石。
今はウィルスの魔力も含まれているからか、紅く輝きながらもキラキラとした白銀の粒子が纏っている。
白銀の魔法の影響だと思いつつ、眺めていたら彼の仲間も珍しいのか近くでじっくりと見ていた。
「もう、いい……」
ん? ウィルスがなんかブツブツと言っている。
もっと聞こえるようにと近付いたら、キッと睨まれる。ギョッとする私達をウィルスは気にした様子もなく早歩きで離れていく。……あれは、拗ねたのか?
「レント、来ないで!!!」
「!!」
その言葉に衝撃を受けて、動けなかった。
ガクリと膝から崩れ落ちて――ショック過ぎて何も声を発せない。
「お、怒らせちゃった……?」
「……どうするんですか、イーベルさん」
「待て、何でこっちなんだよ」
ナークが何度か声を掛けてくれたけど、正直に言って返答したくなかった。あんなに、あんなにはっきりした拒絶は初めてで……泣きたくなった。
その日の夜。
私達、全員分にシグール王子と同じように欠片が渡された。身に付ける物が良いだろうと、ティルと相談したらしく指輪を渡される。見た目は指輪でも受け取ってすぐに分かった。魔力が宿っている上に、なんだか魔力が増幅された――その急激な変化にウィルスは、にんまりとしていた。
「シグール様だけじゃあ不公平だと思いましたし、この魔法石をどう使うかは私が決めます。皆、平等に渡せば解決だよ」
「そう言う意味じゃないんだけど……」
ティルがクスクスと笑っている。ナークはウィルスから物を貰った事に感激を受けているし、シグールは文句を言っていた。
ラーグレスは苦笑いだし、カーラスは「頑固ですから」と諦めた感じだ。
……止める気がないっていうよりは、無駄だと分かったからか。
そんな私達の反応が面白いのか、ティルがいつものように例の物を渡してきた。
そう。カーラスの氷の魔法で作られたコップの中に見える、ドス黒い液体を。
あぁ、そうだ忘れていた。記憶の奥底に入れたいけど、これは仕方がない。諦め半分、悟り切った気分でそれをグッと飲み干す。
うぐぅ。仕方ない。仕方ない、と繰り返しつつもイーベルを除いた私達は――1時間、強制的に気絶することになった。




