第202話:集結する王族達
ーリラル視点ー
あれから3日後。馬を走らせ、立ち寄った街の様子を見ながらの移動で遅れたけど拠点に到着。距離が近付くにつれ、ピリピリとした緊張感が伝わってくる。私は落ち着かせる為に、息を小さく吐いた。
(うん。大丈夫……私なんかよりも、あの子達の方がもっと危険な所にいるんだ。何のために、お母様の反対を押し切ってまで来たんだ)
バーナンにも驚かれた。まさか私が参加するとは思わなかったのだろう。それはそうだなと、自分でも思う。
理由として私の持っている宝剣が反応したと言えば、彼はすぐに分かったと告げた。あの時、私が宝剣を握っているのを見た1人だ。あれ以来、反応がなかったのも知っているだけに彼なりに心配してくれたんだと思う。
「リラル。こっちだよ」
「わざわざごめん。遅かったでしょ?」
「状況を整理したいと言ったのは私だ。迂回でもなんでも、情報を取って来てくれたのは嬉しい事だ。遅い早いもないよ」
そう言った彼の表情はとても嬉しそうだった。
そんなに私に会えたのが嬉しいのか、と頬をかいた。なんだか生ぬるい視線を感じるなと思い、その視線を辿ると……イルーナを含めた部下達が、とてもいい笑顔で見ていた。
「な、なんだよ……」
「いえ、別に」
「嬉しそうだなぁ、と」
「バーナン様が嬉しそうなので、微笑ましいと思いまして」
「リラル!!!」
「う、うわっ!? バ、バカ。引っ付くなって」
あぁ、もう何で突撃してくるかな!!!
そんな事をするから、更に微笑ましいとか言って誰も止めないし。恥ずかしいから止めろと言っても言う事を聞かないし……。
「人の目があるんだから、もう止める!!!」
「いった!!!」
その後、誰も助けてくれないんだと思った矢先にジークが注意してきた。王子を相手に容赦のない手刀が繰り出される。ようやく脱出できホッとしていると、地面にうずくまるバーナンにジークはその後も説教を続けた。
幼馴染みだからこその遠慮のないやりとり。
私は慣れているけど、その光景に周りが驚いて見ている。私の部下達も含めて、だ。
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ーギルダーツ視点ー
リグート国からもう1人、連合軍に参加すると聞かされたのはついさっき。嬉しそうな表情をしていたのに、護衛のジークが嫌そうな顔をしていた。何だあの落差はとちょっと不安に思ったぞ。
「あの時以来ですね。お久しぶりです」
「こちらこそ。妹と弟がご迷惑をかけて、本当にすまなかった」
軽い挨拶をすませ、握手をする。
バーナン王子の従兄弟であるリラル王子。彼には色々と助けられているし、内緒でリグート国へと来たルーチェとバーレクにも温かい対応をしてくれた人物。そして、護衛であるリバイルの危機を助けてくれた……本当に、感謝しても足りない位だ。
「さて……。これで参加する者達は揃ったな」
そう言って、集まった者達を確認する。
リグート国、ディルランド国の王子達に、俺とルベルト、弟のバーレクとで確認をしていく。事情を把握している護衛の面々達も、話し合いに参加してもらう。地図を広げて話しを進めていくのは、魔獣の目撃情報だ。
「そうそう。リラルに頼んで、ここに辿り着くまでにそれらの情報や、魔獣の目撃情報がないか探って貰ったんだ」
さらっと言わないで貰いたい。そして、頼まれた方も普通にやってきたのか。思わずルベルトを見るが、彼は笑顔を向けるだけで参加してこないのだとわかる。弟のバーレクは、彼と面識があったからか明らかにほっとした様子だ。
「魔物の姿がまるでなかったから、順調だと言えば順調だったよ。ただ、レントから聞いていた魔物を操る魔法が敵側にいた場合の事も聞いていたからね。逆に何もないのが怖いかな」
「それを頭に入れつつ……。んで、ギルダーツ王子。これからどうします?」
さも当然のように俺に意見を求めるのか、バーナン王子。
思わずジト目で見ると彼はキョトンとして、思わず護衛を務めている2人に合図を送った。その2人は面倒だなと言わんばかりの態度で、彼に耳打ちする。
「あぁ、そういうこと。……だって、東とやり合った事があるのは君達でしょ? 経験者に指揮権を任せるのは普通じゃないかな?」
そうは言うが、今回はかなり特殊だ。
ここに集まっている人達、いや……魔法師団と騎士団と合わせてもかなりの規模。同盟国が戦力として出せるものを出しているが、全ては囮だ。
相手にするのは魔獣だけではない。魔物を操る術者に、魔法付与が出来る者もいる。これらを抑えるのに、俺達が動く訳だから独立して進めるべきかとも思ったんだが……。
「彼女達が東の領域に入ってから既に10日以上は経っている。レント王子の容体も回復したのを合図に、どう進めるか話し合うべきだろ」
「だから彼女達にも協力して貰っている」
「年寄りをコキ使っているの間違いじゃないか?」
ストン、と姿を現した大ババ様に俺はスッと視線を逸らした。ギロリと睨まれた自覚があるだけに、どうにも合わせずらい。
バーナン王子が「いつも弟とウィルスがお世話になっています」と仲裁に入るように、遮りその後も何気ない会話が続く。
「アンタとこの弟は、姫様にしか眼中にないからね。あの姫様は、私達にとっても重要だし協力は惜しまないよ。ついで……アンタ達の国王がこっちに全面協力すると言ったんだ。借りは返すよ」
「あー、なんかごめん?」
「私達は迷惑がってないので、それは気にしなくても平気ですよ」
「……ホント、調子を狂わせる国だよ」
「あぁ、分かる。リグート国の恐ろしい所だよ。隣国だけど、懐がデカすぎてて驚くばかりだ」
大ババ様の言葉に納得したように言うのは、ディルランド国のエリンス殿下。リグート国とは隣国でありながら、彼等の父親の代になってようやく戦争を終結させた。その前までは、お互いに争い合っていたのだから信じろと言う方が難しい。
だが、国民達に不安を与えない為に頻繁に連絡を取り合い夜会や交流をして良く中で、バーナン王子達が生まれた時にはわだかまりも多少は減ったと聞く。
エリンス殿下とレント王子は、年齢も同じ事に加えて頻繁に交流をしたから幼馴染に近い関係性。その為か、彼はよくレント王子に振り回される……らしい。今回、ディルランド国が参加してくるとは思わなかった為に理由を聞いてみると――。
『散々、引っ掻き回してきた上に巻き込んだんだ。最後まで付き合うのが筋ってものだろ。なにしたって危険な事には変わらないんだし、1人だけ安全な所に居てたまるか』
あの2人を心配し、1度は死にかけた。だが、彼はその恐怖にすら負けずに立ち向かう。
若いからこその元気さだと思っていると、ルベルトから「歳じゃない、それ」と失礼な言い方をしたのを思い出す。
一方で、大ババ様とエリンス殿下の言われた事にキョトンとするリグート国の王子達。
護衛達にすがる様な視線を送るも、向こうは理由を分かっているからか「諦めて下さい」という一言でバッサリだ。
「あー、そうそう。いつまでも隠れてないでさっさと出て来てくれ」
「うがっ!!!」
カン、と大ババ様は持っている杖を地面に叩く。
その瞬間、ドサリと勢いよく倒れ込んできたのはリベリーだ。俺達が驚いていると、彼は申し訳なさそうに起き上がり大ババ様を睨む。
「地面に叩きつけることはないだろうが」
「さっさと出てこないのが悪い」
「うぐ……」
悔しそうに顔を歪めつつ、俺と視線が合うと気まずそうに逸らした。
嫌われるような事をしただろうかと考えていると、非情に言いずらそうにしながらも彼は話してくれた。
今、ウィルス達が何処にいるのか。
そして、俺が送り出したイーベル兄様達とも合流を無事に果たしたそうだ。それを聞いて安堵していたのに、彼がもたらした報告に頭を悩ませた。
なんでそうなったのかと全員で思いつつ、どうしてもトラブルに巻き込まれるのかと深く溜息を吐いた。




