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第201話:宝剣の導き


ーリラル視点ー



 リグート国を出てからずっと馬での移動をしている。

 最初は海路で南の国が管理している港に着いてから、馬での移動をとも思った。だが、東の国境付近で連合軍の基地に向かうにはかなり遠回りだ。

 それでは、バーナンの補佐も出来ないからと陸地での移動をするのだと決めたんだ。




「ふぅ……。もう国が見えないのか」

「リラル様」




 ふと立ち止まり、振り返ればリグート国があったとされる場所はもう見えない。母の言った事に反発したのは初めてにも思う。戦う事は確かに苦手で、でも……自衛の為にと剣を扱い魔法を少しずつでも扱ってきた。

 腰に下げた宝剣を見て、思わず触れる。




「イルーナ。覚えているか、私が宝剣を持った時の事」

「はい。覚えています」




 イルーナ以外に、私に付いてきている者は5名だ。港町の警護をしつつ、私の護衛もしている。彼等との付き合いもそれなりに長くなってきた。だが、宝剣に選ばれているのを知っているのはイルーナだけだ。

 他のメンバーは私が宝剣を扱えるという事実に、驚き口をポカンと開けていた。




「あぁ、そう言えば知らなかったね。そうだね。次の街までは掛かるし……ちょっと昔話しをしようか」




 そう言って、私は懐かしさを思い出しつつ彼等に語った。

 リグート国は、奇跡的な確率で宝剣が3つもあった。私が手に持つ宝剣は、エメラルドが採れる原石の中で形成されたもの。


 今、思えば初めて見た時から不思議な感じだったなと思う。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 それは、私がちょうど10歳の誕生日を迎えた時の事。

 あの頃はレント、兄のバーナンもよく一緒に居た。3人でよく城を抜け出して、エメラルドが採れる山脈を遊び場としていたこともあった。


 きっかけはレントがエリンス殿下と話していた時だったかな。

 秘密基地という単語が気に入ったのか、内緒で基地が欲しいのだと言い出した。城の中で作るのは難しいと思い、3人で考えていた時の事。


 山脈に目を付けたバーナンは、ひっそりでも作ろうとしたのだ。

 今思うと、私達を護衛していた騎士達には迷惑ばかりをかけた。その自覚はありつつ、あの時の私達には息抜きが欲しかったんだ。




「はぁ、毎日毎日……疲れる」




 ほぼ地面と一体化したとばかりに、倒れ込むバーナンにレントは何度も起こそうとする。助けようとしたら、「じゃまぁ~」とゴロゴロと転がしていく。兄に対しての扱い……と思いつつ、バーナンは起きる気配がない。

 このまま溶けたいとまで言い出すから、私は叩いで無理矢理に起こす。




「王族に生まれたのって、何の意味があるのかな」

「……どういうこと?」




 レントは私達の話に、興味がないのか山の表面に突き出ているエメラルドをペタペタと触れている。


 原石が山の表面を突き出ている通常では、あり得ないものだ。実際、原石を取り宝石を作る職人達も驚いたが、正体が分かるとお手上げだと言った。


 専用の道具を用いても、このエメラルドは固い。

 なんせ魔力が込めれた魔石なんだから。

 これを取り出せるのは、魔力を熟知している魔法師団達だけ。


 装飾品として売りに出す宝石にも、ほんの僅かに魔力をある。だが、国民が身に付けても魔法が発現したという報告も、暴走をしたとも聞いていない。

 反応するのは、魔法を扱える者達くらい。その恩恵も僅かなものだ。




「いつかは妃を持つ。けど想像つかない」

「不安か?」

「もちろん。未来が見えないのもあるし、国が荒れないという保証はない」

「わたしは、自分のものにしたい人。います!!!」




 いつの間にか割り込んで来たのはレントだ。

 話したいというのが、全身で伝えてくる。なんだろうかと思って聞くと、バーナンが溜め息を吐いた。




「それでですね」

「平気。レント、もう……大丈夫だから。大丈夫」

「……そう、ですか?」




 何故、まだ語りたいみたいな顔をする。

 あれから、視察に言ったバルム国でのことを聞き私は白旗をあげた。

 確か1週間は向こうに居たんだよね? その殆どの時間を、姫と過ごしたのは分かった。猫に遊ばれたのも分かった。

 ……何で、姫はもう自分の物だと言わんばかりの言い方なのか。

 断られると言う選択すら予想していない。何でそんなにも真っすぐなのか。バーナンに抗議の意味も込めて見ていると、彼は無言で顔を逸らした。




「彼女はきれいです。でも、可愛いところもあって、一緒に居て和みます。可愛い。彼女は可愛いんです」




 未だに嬉しい顔で語りだすレントに、私は苦笑いを向けるしかなかった。

 参ったと言ったのに、何で続けるのかな。もう話は止めてと言っているのに……振り出しに戻ったかのように、語り出したのだ。

 

 可愛いを連呼している姿に思わずバーナンを見た。


 彼は耳を塞ぎ、目を閉じてうずくまっていた。……私が聞いたばかりにと思ったが、もしかしたらバーナンも聞いたのかも知れない。兄である彼は、弟の視察がどんなものだったのか聞いたのだろう。結果、今、私が聞いている状況……なんだと思う。




「だから言ったのに……」

「ごめん。まさか、あんなになるなんて」




 レントは未だに「可愛いんです。あの子は――」とまだ語っている。

 私達が少しだけ距離を置いていても、彼は私達に話しているという前提で話を進めて来た。夢中なんだろうね。ちょっとずつ離れているのに、全く気付く素振りがない。




「レントにとっていい経験になったんだね」

「妃になる人が可哀想だ」

「……重い、もんね」




 遠い目をしてレントを見る。

 将来、彼が一目ぼれをしたという女性はどんな感じなのか。迷惑がっているなら私達で、それとなく防ごう。そう思いながら、壁代わりにと岩肌に寄りかかった。

 その瞬間、突き出ていたエメラルドが光りだした。

 突然の事に私達3人は何も出来なくて、光が止んだ事でそっと目を開けた。




「なんだ、今の……」

「わ、分からない……」

「リラル兄様、それはなーに?」

「え」




 目をこすりながら私に指をさすレント。バーナンと私が、その視線を追っていくと剣が見えた。そして、実感した。その剣を持っているのは私で、何故だか馴染んだように最初からあったかのような、不思議な感じ。

 太陽の光の反射によって色が変わっている。本来の鋼色にも見えるが、エメラルド色にも見える。

 どういうことかと思わずバーナンを見るも、彼も分かっていないからか首を振った。




「あ……」




 私が出た言葉に、バーナンはその視線を追った。

 レントがさっきまでペタペタと触れていた筈のエメラルド。その魔石が綺麗になくなっていたんだ。そうなれば、自然と注目するのは私が持っている剣。




「見付けましたよ!! 全く、3人して勝手に居なくなって!!!」

「「げっ……」」

「イルーナ!!!」




 レントは彼に抱き着くと、追って来たであろう彼は慌てて受け止める態勢になった。足元にしがみつくレントをひょいっと肩に掛け、そのまま私達の方へと走り出す。




「また怒られたいんですか!? それに……ん?」




 イルーナが私の持っている剣に反応を示す。困惑の表情でいるであろう私の異変に気付き、彼はさっと近付く。その後ろから「居た!!!」と大きな声で言ったのは魔法師団所属のラーファル。キッと私達を睨む迫力は、レントとバーナンの魔法の師匠なだけあって凄い。




「リラル様、その剣……」

「えっと、自分でもよく分からなくて」

「そうですか」




 そう言いつつも、私が握っている剣を見る目は鋭い。魔法に関しての熱意は知っている為に、ちょっとだけビクビクしたのは内緒だ。一通り見た後で、いきなり国王に説明しようとか言って連れて行かれた。

 突然の事なのに、普通に居る自分の父親に思わずギョッとなった。

 

 魔石のエメラルドが光りだした事で、剣を作り出した現象に思わず触れてはいけないものなのかと真っ青になった。でも、そんな私に優しく頭を撫でたのは父様で……そこから宝剣の存在を知ったんだ。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「と、言う訳。以来、あの時に反応があったんだけど音沙汰がなくてね。でも、また反応をしてくれたから赴けって事なんだろうなぁと」




 目的地の街に着き、バーナンに連絡を取るのに魔法を使った。

 返事はすぐに来て危険はないこと、魔獣の目撃情報がないと報告も知った事で泊まっても平気だと判断。

 この街中は、活気があり被害を受けていないというのが分かる。

 それに安堵しつつ、懐かしく語った昔を思い出す。聞いていた部下は、頷きながらチラリと私が下げている剣を見る。




「聞けば聞くほど、不思議な剣ですね」

「昔の人達が編み出した武器。魔法で作り出された奇跡の象徴。意思を持った不思議な武器……色々な呼び名があって、価値が伝説級になっていますからね。納得です」




 宝剣の存在を知っているのは、各国の王族、冒険者のギルド本部のマスター、価値を知っているトレジャーハンターくらいなものだ。特に各国にとっては、宝剣の所有している数で警戒すべき判定にもなっている。

 ……そう思うと、3本もあるリグート国はかなり特殊なのかな。まぁ、南の国のディーデット国には負けるだろうけどね。




「にしても、レント様はその時から一途なんですね」

「まぁ、ベタ惚れっていうのを体現しているような方だ。……彼女も応えているのだし、本人達が幸せならばいいのだろう」




 その後、話題になったのは当然と言うべきかレントとウィルスの事だ。

 俄然やる気に燃える部下達を微笑ましく思いながら、私達は一晩過ごし連合軍の拠点へと急ぐのだった。



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