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彼女の願い、従兄弟の覚悟


 シグール王子から聞かされたものは、その日の内に全員に知れ渡る事になる。彼自身が声を荒げた理由も、リベリーが力づくで止めたのも含めて、だ。


 そんな思いの中、リベリー達は1度王都へと戻り様子見と新たに武器を取り入れられるのかなどの調査を開始した。秘密基地に残っているのは魔女のティル、シグール第2王子、ラーグレス、ラークが残る形になった。



 一方で、レントとウィルス、ナークの3人は報告と話し合いが開始されていた。


 レントは、ウィルスとナークに対してあやす様な手付きで頭を撫でている。これは、怒らないから包み隠さず言うようにというもの。彼の両サイドに収まるのは恒例ともいえ、密かに見に来ていたラーグレスは(やっぱり)と思っていた。




「そう。ナークの想いも分かったし、ウィルスの考えも分かった。というより、2人共アーク王子の事を報告していないよね?」

「「うっ」」




 優しい声色たが、心当たりがある為に2人の肩が揺れ気まずそうに視線を逸らした。

 同じような反応にレントはもう慣れたのだろう。仕方ないとばかりに息を静かに吐いた。




「ま、過ぎた事はもういい。ただ、それに他国の王族も居たのはちょっとまずいかな」

「ルーチェちゃんとバーレク君の事?」

「そうだよ。アーク王子と接触していたのが知られたから、バーレク王子は狙われたのかもっていう可能性はあるんだし」

「……どういうこと?」




 ウィルスの疑問にレントが答える。

 あの時、バーレクを狙ったような動きとウィルスを攫おうとした動きがあまりにもタイミングが良かった事。

 もしかしたら、アークとウィルスと同様の事をしていたのでは、と。




「それって、影にあの人が……いた事を言っているんだよね」




 トルド族のガラム。

 交流時にウィルスの体が一時的に動けないことがあった。もし、魔法での拘束なら魔力を感じ取ることが出来るのだが、レントがナークに聞いた時に彼は感じ取れないとはっきりと言った。




「あの時、王子が慌てたように聞いて来たからビックリしたんだけど……。でも……うん。やっぱりあの時、感じる事はなかったよ」




 その時の事を思い出すようにナークは答える。

 では、どのタイミングでなのか。レントとナークが悩んでいる時に、ウィルスが思い出したように「あっ」と声を出す。


 彼女はもしかしてと思い、その時の状況を話し出していく。

 途端に2人の表情はどんどん険しくなり、不機嫌が悪くなるのを感じた。生きた心地がしないと思いつつ、ウィルスはどうにか話終えチラリと2人を見る。




「……そう言えば、ギルダーツ王子とルベルト王子に助けられたんだよね」

「う、うん」

「そうだ。あの時、アイツが居るからってボクは近付きたくても近付けなかったんだ……。気にしないでいいなら、あの時に飛び込んでいたのに~」




 悔しそうに言うナークに、思わずウィルスは彼の頭に手を乗せて撫でる。途端に、ナークの表情がどんどん蕩けるように変わっていく。これでイライラした気持ちも落ち着いただろうと手を離そうとする。が、シュンとした表情を見てピタリと止まる。




「……もっと、かな?」

「うん♪」




 ナークの要求にウィルスは動きを再開した。

 困ったようにそれを見たレントは、彼女から聞かされた内容を整理する。


 ゼストがウィルスと接触したのは、交流会の時の夜会の時。その翌日にも接触した事を聞いた。その時にはルベルト王子とギルダーツ王子によって助けられた事を聞き、その後にバーナンが来ていた事を思い出した。


 もし――。

 近付く事で相手の影に、潜り込むような魔法を発動していたのならそんなに魔力を使わないで良いのかも知れない。エリンスやアクリア王のように、自分の魔力を印として移動する転移魔法。

 1度、訪れた事がある所なら良い事を考えると影を利用して、同じような事が出来るのだろう。




(こればかりはレーナス達の専門になるけど……。影に仕掛けされた事での襲撃は受けた訳だし、アーク王子にも同じように施してると考えていいか)




 彼が訪れた村や町、国が印としてガラムが襲撃しているのなら、前に宰相が言っていた被害と重なるのかも知れない。様々な可能性を考え、未だじゃれている2人をぎゅっと抱きしめる。




「王子?」

「どう、したの……?」

「無茶する2人がいるからね。しっかり見張らないと」

「違うよ。無茶するのは主だよ」

「ナーク君が無茶するんだよ。私はしないってば」




 むむっと2人は口を尖らせ、睨み合う。

 見ていたレントとラーグレスは(どっちもどっちだ)と、言葉には出さずとも思っている事は同じだった。

 そうとは知らないウィルスとナークは、睨み合ったまま自分ではないといつまでも言い張っていた。そうした攻防が終わり、夕方近くになって王都に様子を見に行って来たリベリー達が戻ってくる。レントは戻って来たメンバーを見て思わず「えっ」と驚いたように発した。




「よぅ。久しぶりだな、英雄殿達」

「イーベルさん!!」




 浅黒い肌の金髪。

 顔だけでなく腕や体の至る所に、傷を作った男がニヤリとレント達に声を掛ける。イーベルは、南の国、その王族の一員だ。

 彼が任された土地は、魔獣達によって蹂躙され家族もろとも奪われた。


 その時に生き残ったのは、彼だけであり未だに仕組まれたものか真相は分かっていない状態だ。もしかしたら、南の国の王族を減らそうとして狙った可能性もある。その可能性を聞かされ、イーベルは王族としての籍を残しつつ、ギルド本部の冒険者として隠れ蓑に使っている。


 と、されているがイーベル自身は王族に縛られないこの暮らしも良いとしている。彼と組んでいる人は、その素性も含めて知っている。今回、彼がこの地に足を運んだのはギルド本部からの特別依頼の為だと言う。




「特別、依頼……?」




 首を傾げながらウィルスが、イーベル達が来た経緯を聞いている。

 レントが面白くないと言う表情をしながら聞いているのは、彼女の周りに彼が組んでいるパーティーメンバーがいるからだ。南の国で、結界を張り直したと同時に魔獣達を沈静化させた。この偉業をしたウィルスにぜひ会いたいと言い当然のように人が集まっているのだ。


 それを見たティルは「あの子は人を寄せ付ける魅力があるのね」と。レントに聞こえるように言ったのはワザとである為に、思わず睨んだ。その予想通りの反応に、彼女は楽し気にしており内心で(やられた……)と遊ばれる始末。




「英雄様にお会いできて嬉しいです」

「故郷を救って下さりありがとうございます」

「まさか女性だとは知らず……。イーベル殿が気に掛けるのも分かります」

「おい、待て。最後のはどういう意味だ」




 睨むイーベルを気にしないで、話す辺り度胸があるのだろうと思いつつレントはカーラスへと話しかけた。聞けば王都で様子を見に行った時にばったり会ったのだと言う。




「私は元々、ギルダーツ王子の命で動いています。姫様の護衛を任されていますが、ルベルト王子からは連絡が出来る時には詳しくとも言われていました」

「その報告で、俺達に特例が下ったんだよ」




 カーラス自身、イーベル達が来る事は予想外であり援軍を送るとは聞いていた。

 ギルドの特例としてねじ込んで来るとは思わず、会った時の衝撃は計り知れない。チラリと疲れ果てているリベリーを見る辺り、ここに居ない武器商人達と何かあったんだと予想がつく。




「お前達、それ以上は止せよ。リグート国の王子が怒るから」

「へっ!? お、おおおお、王子が居るんですか!?」

「え、じゃあ、噂の溺愛されている方って、英雄殿の事なんですっ!?」

(こ、ここにまで広がっているの……!!!)




 他国に広がりつつある自分の評価。

 城内でのレントの溺愛ぶりには、諦めていたがまさか他国にも広がっているとは思わずウィルスは頭を抱えた。

 それを好機と思ったレントは、素早く彼女を連れ出しナークと3人で寝に向かうのだった。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 同時刻。

 夜の港町を眺めているのは、レントとバーナンの従兄弟であるリラル。彼はいつもの正装ではなく、鎧を身に着けていた。騎士団が来ているのと同じ造りであり、自分がこの格好をするとは思わずに笑みを零した。




「準備が整いました、リラル様」

「うん。ありがとう」




 彼に膝まつき報告をするのは、幼い頃からずっと見守って来たイルーネ。黒い髪をきちんと整え、キリッとした表情から分かるように生真面目な性格だ。レントの護衛を務めているバラカンスといい勝負だなと、密かに思っている。




「リラル……本当に、行くのですか」

「お母様」




 そこに声を掛けて来たのは、彼の母親だ。

 潮風が肌を撫で、かなり寒いだろうに母親の恰好はドレスだ。彼女の考えている事が分かるからか、リラルは困ったように頬をかく。




「すみません。……私も、行かないといけませんから」

「戦う事が嫌いだと言っていた貴方が、どうしても行かないといけないのですか」

「はい」




 短いながらも、息子の覚悟を感じたのか諦めた様に静かに息を吐いた。その母親に上着をかけてきたのは父親であるハルートだ。彼は無言でリラルの事を見つめること数秒。




「お前も、あの子達と関わって変わったからな」

「えぇ。自分でも思います。あの子達と関わって、自分がこうも変わるんだなと実感している所です」




 そう言いつつ、リラルは腰に下げた宝剣に触れる。

 今まで反応がなかった宝剣に、リラルが初めて触れたのは10歳の頃。それから約10年経っても、沈黙を貫いていたのに急に宝剣が光りだしたのだ。


 まるで、今離れているレントに加勢しろと言わんばかりに輝いていた事を思い出す。




「行ってきます。あの子達の助けになるように」




 そう言って彼は歩き出した。向かう先は東と中央大陸との国境付近。魔獣の姿は確認されていないが、被害が出てからでは遅い。既に部隊をまとめているバーナンの補佐として、彼も合流するべく出立していった。




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