第22話:夜会と言う名の披露②
「うんまい。ギース、今度良いからこの食材こっちと共同で広めんか?」
「広めても良いがこっちに丸投げだろ?」
「………お、おう」
「肯定か……」
「むっ、そう言うお前だって宰相に任せきりだろ」
「それは……」
「「………」」
互いに見合い、数秒後には豪快に笑い合う王が2人。
それをピキリ、ピキリと青筋を立てて聞いている互いの宰相の心情など知らずに笑い合う。
「互いに大変だな、イーザク」
「そちらも大変だな、ラーガ」
「「はぁ………」」
互いに互いを慰め、未だに大笑いをする王を見て不安しかないなと思う。行動も性格も似ているからこそ互いに助け合うのは、当たり前のように広がっている。
今回の夜会、宰相を労うのも含まれているのだが……恐らくはさらに疲れさせる自体になっているなど誰が思うのか。
リグート国主催の夜会。
その城内のダンスホールでは夜会を行う事から、貴族達がこぞって集結していた。男爵から公爵家まで名だたる令嬢も含めダンスパーティーに参加していた。出入口は騎士団の者達で固め、ドアの開閉も彼等の仕事として行う事になっている。
そこで自国の王たるギースと隣国のアクリア王が仲良く食事をしつつ、今回のメインイベントとも言える披露会を物凄く楽しみにしていた。2人共、顔が緩みっぱなしなので、集まって来た貴族達は何か別のイベントがあるのではないかとハラハラしていた。
「おぉ、エリンス殿下だぞ」
「隣にいるご令嬢は一体……」
疑問に思いながらも互いの王が話をしている中、エリンス殿下とその婚約者であるイーグレットが入りまた華やかさが会場を支配する。エリンス殿下は正装として黒のタキシードを着込み、堂々たる姿勢で入る。
彼の胸元には国の象徴とも言えるガーネットの宝石が光る。花のような見た目のそれは魔力で加工され、国のシンボルとも言えるもの。リグート国がエメラルドの宝石を象徴としてるように各国では国のシンボルになるものは宝石なり、魔法の力だとも言われている。
一方でイーグレットの方も一段と綺麗にそして一層の美しさを醸し出し、エリンス殿下の隣で同じく堂々として共に歩いてくる。そのままギース国王の元へと向かい、軽い自己紹介が行われる。
「この夜会、楽しみにしていたので参加できて良かったです」
「うむ。して、息子のレントとは話せたのか?」
「はい。噂に聞いてた通り、お優しい王子ですよね。殿下にも見習って頂きたいな、なんて思いましたから」
「聞こえてるぞ、イーグレット」
「ワザとですよ殿下」
少し前までは王子のバーナンとレントも居たのだ。しかし、ちょっと用事があるといい2人は早々に会場をあとにした。エリンスは内心で(よしっ、これで見れる!!!)とテンションが上がっているなど周りは知らない。
そして、イーグレットもアクリア王も、今か今かと興奮一歩手前で待っているのだ。……この国の婚約者として名を上げるウィルスとクレールの事を待っている、などこの会場に参加している貴族達は知らないのだ。
「……キラキラして、目に痛い」
「アホっ、そんなんで護衛が務まるかよ」
うー、と目をこするのはウィルスを主と付き従うナーク。その隣では彼の保護者兼バーナンを主として付き従うリベリーがひっそりとダンスホールの中を見てボソッと呟く。
2人はいつもの大き目な布を自身の身体に纏い、夜に紛れる様なその格好で外から襲撃に備えている。が、ナーク自身このような王族主催のパーティーと言うのを見た事がなく今もキラキラとした目で中を覗いていた。
「おい、もう少し気を引き締めろよ。いつ何時、襲撃があるかは分からないんだ。隣国同士の王が集まって何もないないんて――」
「あっ、主だ!!! 可愛い~♪」
「聞けっての!!!」
声を潜めているがテンションが上がるナークに思わずリベリーは羽交い絞めをする。うぐぐぐっ、と苦しむも手がナークの言う主を指さし思わず動きを止める。
「ほわぁ~~やっぱり姫さんは似合うねぇ」
「ん、ボクの主だもん♪ 当たり前だもん」
「うっせぇな」
2人が思わず感嘆を漏らすのは、レント王子にエスコートをされるウィルス。彼はバーナンと同じ正装だが、ダンスをメインにしたためにとエリンス殿下と同じ黒いタキシードに身を包んでいた。
その前にはバーナンが同様にクレールをエスコートしており、前は同じ側近の立場としていたリベリーとしてはニヤニヤが止まらない様子。
ウィルスは自身と同じ髪の色のドレスを着込み、彼女の耳には国の象徴とも言えるエメラルドをメインにしたイヤリング。それは、王妃であるラウドが婚約、結婚式で発表する為にと王が送った物。
王妃たるラウドの物。
それを何故、レント王子の隣に居る見た事もない女性は身に付けているのか。この時点でその意味を分かる貴族達が果たしてどの位に居るのか……もしくは見て見ぬふりをするのか、とリベリーは思った。
バーナンの隣ではエスコートを受けているクレールが居る。
金髪の彼女は普段では見ないドレス姿であり、その様を見て何名かの令嬢は顔を赤らめているので人気があるのはよく分かる。その反応をしないのは、エドリック家に対して散々な噂を流し、格を下げた公爵家の令嬢のみだ。
「うん、似合ってる。綺麗だよ」
「嘘言わないで歩いて。ウィルス様とレント様に追いつかれる」
「嘘なんて言わないのに……」
ガックリしていると分かるのは自分だからか、と思いながらクレールのドレス姿を目に焼き付ける。彼女はバーナンと同じ正装である水色を使ったドレスに身を包んでいた。
そして、彼女にはエメラルドを主張した首飾りを身に付けていた。
胸元を華やかにし、尚且つ光が当たる度に輝きが違う首飾りがさらなる演出が行われている。幻想的なその輝きに、「ほぅ……」とつい感嘆の息を漏れる貴族達を見て密かにバーナンが微笑む。
「おぉ、久しいなバーナン王子、レント王子!!!」
アクリア王は集まった主役達を見て興奮気味に言って来た。
クレールとウィルスは頭を下げ「お初にお目に掛かります、アクリア王」とそれぞれで言えばそれだけで彼は嬉しそうに目を細めていた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
ーウィルス視点ー
レントから隣国のアクリア王とエリンス殿下の事は聞いてた。バルム国でもリグート国の隣であり互いに切磋琢磨している国だと父様から聞いていたからだ。
もしかしたら、私が幼い時にエリンス殿下に会っていたかも知れない。……あとで聞いてみよう。
「むっ、君は……」
私の事を見たアクリア王がピタリと動きを止める。でも、それも一瞬の内でありすぐに私の近くまで来てじっと見下ろす。
アクリア王はお父様よりは年上の……恐らくは50代だと思う。昔は武功を上げていた事もあり、鍛えられている事から今でも鍛練を怠らないのだと考えた。
身長はおよそ180センチと大きく巨人を相手にしているような威圧感がある。瞳はエリンス殿下と同じ紅い瞳、その目にじっと見られどうしようかと迷う。
レントからは私の事情は話していないとの事であり、設定的にイーザク宰相の遠縁の伯爵家の娘、と言う風に振る舞う様にと言われていた。
「あの、何か……」
「あ、あぁ。すまんすまん……知り合いの風貌にとても似ていてね」
思わずギクリ、となった。
知り合い……やはりお父様とお母様の事を知っているのではないか。思わず縋る様にレントに目を合わせれば彼も予想外と言った様子で困った感じだ。
「これ、アクリア。そう巨体で見下ろされると委縮してしまう。……事情は後で話す。今はこの流れに乗れ」
声を掛けてきたのはギース国王だ。最後の方はアクリア王に耳打ちするような言い方に、察したのか豪快に笑った後で「ではな」と言いクレールさんの方へと挨拶に向かって行った。
「……ビックリ、した」
「私もだ。……やっぱり無理があったかな」
レントと共に溜め息を漏らす。しかし、エスコートを受けた時の手は離さないままだ。どうしたのかと見ていると「ウィルス」と優しく声を掛けられる。
「似合ってる。……やっぱり部屋に居て欲しかったな。君を、他の連中になんて見せたくないのに」
「おうおう、随分な溺愛ぶりだなレント」
「……エリンス」
ちょっと不機嫌な声のレントにクスリと笑ってしまった。見れば紅い髪の同色の瞳を持つ、野生染みた雰囲気のエリンス殿下とそれを微笑ましく見ている隣の女性に目がいく。
茶色の髪が1つにまとめられ、ディルランド国の象徴とも言えるガーネットをコサージュとして互いの胸元に付けられている。それだけでただ隣にいる女性ではないことが分かり、レントの言うように婚約者なのだと理解した。
「初めまして、ウィルス様。私はイーグレットと言います。レント王子から聞いていましたので、この夜会で会えるのを楽しみしていたんです」
「こ、こちらこそ……初めまして、イーグレット様」
「ふふっ、可愛らしい方ですね。レント王子が褒めるのも分かる気がします」
「………」
チラッとレントを見る。待って、一体どんな風に私の事を言ったの!?
え、待って!! いつから連絡とってたの!?
「ディルランド国とは頻繁に連絡を取り合う中だからね。……その時にチラッとウィルスの事を言ったんだ」
「何がチラッとだ。……こっちは幼い頃からお前が一目惚れしたって言う子の事をずっと聞かされぱっなしなんだ。やっと実物が見れるんだと思って楽しみにしていたのに……1カ月もお預け喰らうとか」
ごめんなさい、エリンス殿下。それ、私の所為だ。あれだよね……私、熱にうなされてた時だよね。って事はその前から……いや、レントは幼い頃からって言ってたよね!?
………えっ、そんな、前から私の事を話してたの!? ど、どどどんな風に話しているの!?
「ふふっ」
脳内で慌てている私を見て、イーグレット様はまた微笑んだ。えっ、顔に出てる!? と、思わず顔を触り変な顔をしていないよね、と確認する意味でプニプニと触っていると隣に居たレントは堪え切れなくて笑っていた。
あ、あれ、何でエリンス殿下も一緒になって笑っているの!?
「ぷっ、くふふふ。ウィルス……平気だよ、別に変な顔なんてしてないから。気にし過ぎだよ」
「っ、だ、だって………」
「ほら、夜会は始まったばかりだからね。まずは食事をしようか」
ん?
レント……何でかな? その、いつもの笑みなのに妙に威圧を感じるのは。
「ほら、いつも夕食にしてる事……するよ」
耳元で囁かれ、思わず耳を抑える。でも、顔に集まる熱を払う前にレントが行動に移るのが早い。
ちょっ、ちょっと、待って!!!
夕食にしてるのって、あれだよね!!!
え、ここで!? 隣国の王と殿下と婚約者が居る前で!?
いやいやいやいや、と必死で抵抗するもレントには効かないのかそのまま腰を抱かれて無理矢理に歩かされる。
「さっ、ウィルス。あーんしようね♪」
そこまでする必要ある!?
レントそれは意味があるの!!!
そこまで見せ付ける必要はないよね!!!!!




