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第191話:久々の王都


ーシグール視点ー



「ワフッ!!」




 ドンッ、と私の足元を目掛けて飛んでくるのは相棒のジル。

 グリグリと頭を押し付けて、連れて行けと言わんばかりにじっと見て来る。




「あ、ダメだよ。ジル。これからシグール様はお出掛けなんだから」 

「ワ、ワフッ!?」




 ウィルスがジルを探していたらしく、引き剥がそうと奮闘中。嫌々を繰り返し、しまいにはカプリと服を軽く噛む暴挙にでた。




「あ、だからダメ。服、破くような事をしないの」

「ウウゥ~~」

「シグール様、出掛けられないからダメ」




 さてどうしよう。

 ジルは軽く噛んでいるだけだから、乱暴にしなければ破れる心配はない。何とも微笑ましいやり取りに、私は止める気も起きずに眺めている。




「うぅ、シグール様。止めて下さいよ」

「なんなら一緒に来る?」

「へ?」

「ワフ♪」




 ピタリと動きが止まる。

 ジルは嬉しさのあまり尻尾を振りまくり、言われたウィルスは目が点になっていた。




「それなら――」

「オレも行く」

「なんでええぇぇぇぇ!!!」




 さっと立候補をしたナーク。だけど、被る様にリベリーに言われて猛抗議。いや、気配はしなくても彼女を1人で行かせないのは分かるから良いんだけね。

 元暗殺者とは見えないな。仕える主の為に力を振るうのと、組織に言われるまま働くのとではそのあり様は違う。




「リベリーの意地悪、バカ!!!」

「お前が居たら、問題起こすだろうが!!!」

「当たり前でしょ!? 主に手を出す奴は全て敵だ」




 認めちゃったよ、この子……。

 自分から問題を起こすって。まぁ、ウィルスの容姿はこれ以上は変えられないし難しいんだよね。




「だからオレが行くんだよ。弟君にバレる前に――」

「バレないと思ったんだ」




 分かりやすい位に空気が凍る。

 ナークとウィルスは揃って、ガタガタと体を震わし自分から行くと言い出した筈のリベリーは表情が固まっている。


 チラッと彼を見る。

 魔法で髪と瞳の色を黒に変えたリグート国の第2王子であるレント。彼は普通に立っているだけだが、雰囲気がかなり悪い。リベリーの言うように、バレる前にでもと思ったのだろう。

 ……既にバレてるんだけど。




「いだだだだだっ」

「コソコソするなんて君らしいと言えばらしいが。迷惑かけた割に随分とデカい態度だね」



 

 ポンと肩に手を狩れる。だけど、ギリギリと力が込められ痛さで崩れ落ちる。今の内にと移動を開始するとまだジルが、諦めないとばかりにくっつく。

引きずられるようにして、ウィルスもいるから非常に歩きずらい。


 ……諦めが悪い相棒だな。




「グウゥ……」

「ダメ、です……」




 どっちも諦めないし、どんどん体が重くなってくるんだけど。

 その状況を楽しそうに見ているのは、魔女であるティルだ。見ているだけで助けない辺り、最初から見ていた可能性がある。

 ……そこは助けろよと言いたくなった。言葉には出していないのに笑顔を返されたから、察してて何も言わないと言う選択をとったか。




「露店がそれなりにあるんですね」

「そうだね。戦争しようと思っているだなんて、傍から見えないな」




 フードを深く被ったウィルスが遠慮がちに声を掛けて来る。

 結局、私とウィルス、リベリーにレントの4人で王都へと行く事にした。と言うか……いつの間にかそうなっていてビックリだ。

 ティルと話をしていたからいけないんだな。


 昨日のレーグさんの話だと、最近兵士の出入りが激しくなってきている事から準備に入っているのは分かる。

 となると……多分、あの人もいる筈なんだよなぁ。




「ごめんなさい。その、無理に付いてきてしまって」

「ん?」




 私達は旅人の装いをしている。

 この国は1年を通してそれなりに暑い。南ほどではないが、こっちの方が夜の気温がぐっと下がる。だからフードを深く被っても不自然じゃないし、日差し除けにと周りも似た様な服装ばかりだ。




「気にしないで良いよ。私は知り合いがいるかもっていう可能性だから。君も殆ど引きこもっている状況なのに、意外に耐えるね」




 彼女がバルム国の王族だと言うのは聞いた。

 私がハーベルト国の第2王子であると知ってから、彼女は自ら自分の正体をあっさりと言ったのだ。

 父が何度かバルム国へと赴いているのを知っている。


 姫と繋がりを持ち、そこから中央大陸を支配しようといていた。父の考えがバレていたのか分からないが、兄と政略結婚でも持ち込もうとしていたのだろう。

 

 そんな考えを持っているのは、ここだけではないのだろうから競争率は激しい。聞けばバルム国以外の外を知らないと言うウィルス。意外にも魔物の肉は食べるし、野外での生活も辛そうにしてない。

 好奇心が旺盛だから、こういう生活でも平気なのかも知れない。




「ナーク君とリベリーさんの故郷というのもありますし、1人だと辛いと思いますけど……皆さん優しいですから」




 言いながらそっとレントの事を見る。

 未来の夫が居る訳だから、彼に恰好が悪い所を見せたくないのだろう。だとしても、ワガママも言わずによく耐えていると本当に思う。




「まぁ、いつまでも引きこもると体が鈍るし気も滅入るだろうからさ。たまには夫とデートしてみれば?」

「お、おおおお……っ!?」




 小声で言えば効果はありすぎだようだ。

 急にオロオロとし始め、レントを見る回数が増えていく。チラッと見ていた筈が、じっと見ているのに流石に気付いたのだろう。彼が不思議そうに声を掛けた。




「どうしたの?」

「べっ、べべべ、べつにゅ……!?」 

「にゅ……?」




 言葉に詰まった挙句に、噛んだのをはっきりと聞いた。

 集まる視線に耐えきれなくなったウィルスは、フードの下でも真っ赤にしているのが分かる。

 数秒後、何も言わずに走り出しレントも追いかける。


 それを笑って見ていたら、リベリーに睨まれてしまった。




「おい、何を言った……」

「別に。ただ未来にそうなるような事を言っただけだよ?」

「未来?」

「夫になる人とデートすれば? って、言ったんだけど」




 あぁ、と納得し「ワザとか?」と言われて参った。

 流石に私の事を見張ると言っただけのことはあるよね。ナークと喧嘩っぽい事をしている時でも、私の行動には目を光らせてるし。




「疑り深いね」

「病死として国を出されたなんて聞いたら、復讐するんじゃないかって疑いたくなるだろ。前の国王はオレ等の里の人間の事、道具としか見てないんだし」




 復讐、ねぇ。

 どうなんだろうか。今の私って、そんなに憎い気持ちを持てるのかな。……そんなに長く、父を憎み続ける事って出来るのか。




「少なくとも、私は兄を止めたい。あの時の兄は……明らかに様子がおかしかった」




 母が死んで、弟はそれが自分が生まれたからだと言う暴論にまでいたった。

 そんな事はないと兄と何度も説明したが、それが逆に弟の事を追い詰めたのかも知れない。




「懐かしい顔だな」

「えぇ。お久しぶりです、ドール」




 賑わう露店の中で、1人の男が話しかけて来る。

 国を追い出された先、ジルと生きていくしかなかった時に拾ってくれた人だ。

 ドールは無精ひげに、頬にバッテンの傷がある。

 傭兵でありながら武器商人としての顔を持っている。兵士の出入りが激しい事で、武器の流通もあるだろうと思って来た。


 当たりで良かった。




「なんだ、知らない顔だな」

「どうも」




 リベリーの事を見てそう言うが、彼も長年傭兵をしていたからか実力があるのは分かるだろう。同時に私達に目配りをして連れて来られる。


 荷馬車がいくつかあり、その中で大きな布を被せられたものが3つほどあった。その内の1つに入っていき、そのまま付いていく。




「茶とか出す気はないぞ。何処で誰が聞いているか分かったもんじゃないからな」

「それで良いですよ。君も良いでしょ?」

「おう」




 リベリーもそう言いながら、ざっと周りを見る。

 荷物を置けるよなスペースがあるだけで、何もない。その場に座りながら、外に何人かの気配を感じたのだろう。

 良いのか、と聞いて来た。




「外の見張りは近付く奴を警戒しているだけだよ。暗殺者が居たら君が気付くしね」

「ほぅ……。お前、裏の人間なのか」

「元、裏の人間だ」

「そりゃあ、さっきまでいた女と男もか」




 あぁ、あの場面を見ていたのか。

 リベリーが睨んでいるのを止めてもらい、あれが噂の人物かと核心をついた言い方で聞いて来た。ホント、情報収集が得意だから助かるんだけど。




「うん。ならもう1人も分かってるんでしょ?」

「随分と豪華なメンバーだな。リグート国の王子がこんな所に、何が目的でいるのやら」




 ニヤリと悪い顔をしているが、彼は私とジルを知っている上にまだ魔獣に体が変異する前までお世話になった人だ。

 こうして話の場を設けてもらえただけでも、私的には嬉しい事だ。



 




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