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聖獣の願い


 ナークとリベリー、2人の仲が戻ったという知らせはウィルスの念話により全員に行き渡った。魔力を持っているが、母親が特殊な光の使い手――魔獣に対抗できる力を持っていた為に、娘であるウィルスは早い段階から魔法を学ばないように徹底させていた。

 

 バルム国でそれを知っているのは、両親以外には宰相。そして、彼女の世話係と合わせて護衛をしているカーラスという少数に留めた。

 この時点で、ウィルスの護衛はラーグレス1人だったのだが、魔法の兆しが分かるのは騎士よりも魔法師団の方が優れている。師団に所属していたカーラスは、両親が共に師団に在籍していた事もありその才能は注目されていた。


 初代王妃と同じ氷の力。それを持ったカーラスは好奇な目だけでなく、妬みなどの非難も浴びていた。見た目が女性に近しのもあった事にも拍車をかけ、せめて師団で実力を伸ばそうと頑張った。


 最年少での師団長と言う地位に収まり、そういった非難も無くなった。だが、好奇で見られるという部分は収まる兆しにすらならなかった。




「凄い、キラキラしてる。綺麗な魔法ね♪」




 密かに練習をしていたカーラスは、声を掛けられて驚いた。

 娘のウィルスの特徴は聞いていた。

 薄いピンク色の髪に濃い紫色の瞳。その瞳は、氷のようにキラキラとさせてカーラスの魔法を褒めていたのだ。




「良いなぁ~。私も早く魔法を学びたいのに、魔力がないのなら仕方ないわね」




 うーっと悔しそうにしている頃を思えば、今のウィルスは念話を扱うにまで至った。それが嬉しくて目尻に溜まった涙を拭う。その仕草を見ていたラーグレスは不思議そうにして一言。




「気分が悪いなら休むか?」

「……」




 さっきまでの高ぶった気分が、すっと冷えていく。

 無表情で睨めば、長年の勘からすぐに悟り防御魔法を展開し魔法の攻防になってしまった。


 リベリーが連れ戻すまでに、派手に続き理由を聞いて頭を抱えた。

 いい大人が何をして……と思った矢先、氷の流れ弾に当たり運悪く気絶。気付いたら、秘密基地に戻っておりレントから文句を言われる。




「何で呼び戻して行ってるのに、担ぎ込まれてんのさ」

「弟君もあれを浴びれば分かるわ!!!」




 当の2人はすまし顔でいるのが何ともムカつく。

 事情を知ったウィルスが、2人の代わりに謝れば流石にマズいと思ったのだろう。ご丁寧に謝られたのを見てリベリーは思った。




(流石、姫さん……。扱いにくいカーラスさんをいとも簡単に)




 そう思った途端に、睨まれた気配を感じてさっと顔を逸らした。やっぱり同じバルム国だからというのもあってか、ウィルスには頭が上がらないらしい。何とも面白い関係性だと思いながらも、それを面白おかしくすれば間違いなく罰を受けるのだろう。


 そんな想像通りに、カーラスから心配させた罰と評して氷をぶつけられるまであともう少し……。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「すぅ……すぅ……」

「すげー事になってる……」




 そうぼそりと言ったのは、ぶつけられたリベリーだ。

 彼の目の前では、ナーク、ウィルス、レントの3人で寄り添って寝ているというもの。

 レントの部屋でも同じような事をしてたなと思いつつ、場所が変わっても変わらず実行しているのが凄いなと素直に思った。




「3人はいつもあんな感じなの?」




 不思議そうに聞くのはシグール。

 秘密基地での生活にもだいぶ慣れて来たが、東の国も南と同じように夜は寒い。焚火を起こしたいが、そうすれば煙が辺りを包み隠れ住んでいるのがバレてしまう。


 そんな時、ティルが持ってきたのは魔力が宿った石。

 レントの治療の時にあったのはかなり大きいが、彼女が手にして持っているのは小さな石ころの程の大きさ。

 だが、カーラスはそれを見てすぐに他と違う事に気付いた。思わず珍しい、と口に出したほどだ。




「あらやっぱり分かる?」

「これ程の純度のもの……正直見た事もないですね。場所は一体」

「貴方達も何度か来た事があるでしょ? あの温泉の所にあった石よ」




 緑色の淡い光の石。それは魔力を通さなければ何の変哲もない小石にか見えない。だが、魔力をその石に込めればこうして淡い光を灯す。

 手に取ればほのかに暖かく、ずっと握っていると額から汗が少しばかり出る。ティルの説明によれば、1度魔力を込めればずっと温かい。永遠とはいかないが、灯る光が弱まればまた補充すれば何度でも使えるのだという。




「そう言えば、魔力を溜める性質の石……なんですよね。何故、この国の人々はそれに気付かなかったのでしょう」

「簡単な理由だよ。ハーベルト国だけじゃなく、東の地域は魔法に特化した人が居ないんだよ」

「……居ない?」




 理由を答えたのはシグールであり、思わずカーラスは聞き返した。

 この後、彼はこう答えた。


 東の国は魔法を扱う人があまり居ない分、他と違い珍しい力に目覚める傾向があるのだという。それが――精霊士という存在。

 この世にいる精霊の声を聞くことが出来る唯一の存在。契約を交わせた者は、その精霊の力を扱う事が出来るという恩恵を受けられる。だが、良い事ばかりだけではない。


 精霊の力は人には過ぎた力。

 それをコントロールするのは難しい。その難易度は、珍しい魔法を扱うのと同等らしく文献も残されていない。後世に残したくても、契約できる精霊の種類は人によって違う。

 それだけに種類が豊富な精霊を操れる精霊士は、昔はかなり重宝されてきたのだという。




「ま、それも魔獣が現れてから激減した……。と、言うよりはその魔獣狩りに精霊士も参加したんだよ。結果、生き残りがほぼ居ない状態になって、今も言葉としてはある。もし、今回の戦いに精霊士の力を借りたいだなんて思うなら止めなね。居ないんだから」

「……そう、ですね」




 落胆したカーラスの声に、周りも同じように肩を落とした。

 彼等はウィルス達と共に来ただけでなく、可能であれば精霊士の力を借りたいと言う別任務を言い渡されていた。


 魔獣に対抗できる手段が少ない。

 魔女達の力か、ウィルスとナークが使う白銀の魔法。そして、連合にある宝剣。


 別の手段をと思ったが収穫はない。

 どうしたものかと思いながら、寝ようとした時だった。




【少し、話しをしても平気か】




 もう見慣れたであろうウィルスが契約した聖獣。

 これから寝ようとしていた時、しかもウィルスの寝ている隙間を縫うような現れ方に少し警戒を持った。




【貴方達になら、俺の事を話しても平気だ。……特にウィルスには聞かせたくないからな】




 その寂し気な目は、ぐっすりと寝ているウィルスへと向けられている。

 これから言う事は3人に伏せる事を条件に、聖獣はカーラス達にあるお願いをした。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「ん……ふわぁ~」




 目が覚めたウィルスは起き上がろうとして、サンドイッチになっている事に気付く。前にはナーク、後ろにはレントがそれぞれ抱き留められるのが分かりどうやって抜け出そうかと考える。




(ん~~。前にも同じような事があった)




 その時はリベリーにお願いして貰ったが、さて今回はどうしようかと考える。体をずらそうとしたりとどうにか出来ないかと思うも、やっぱり何も出来ない。

 そこにすっと現れたのは馴染みのある聖獣だ。




「あ、おはようございます」

【あぁ。……出られそうか?】

「無理ですぅ」

【ふっ、そうだろうな。よし、俺に掴まれ。引き上げて強引に起こす】

「う、うん」




 幸いにも両手は動くし、聖獣に手を伸ばすことが出来る。

 嬉しそうに手を伸ばすウィルスを見て、聖獣はふっと顔が緩むのを感じた。




【では、行くぞ】




 グイッとウィルスの体を持ち上げ、そのまま背に乗せた。その時にゴロンとレントとナークの2人が転がる。共に頭を打ち付け、痛がりながら起きる。そこには寝起きのウィルスと助け出した聖獣がいるのだが……仲良くしているの気に入らないのか不機嫌になる。


 


「あ、起きた。私、今日は王都に行く用事があるから大人しくててよ」




 そう言ったシグールは髪と目の色を真っ黒にし、装いもボロボロの布を使った旅人風。どういった目的で行くのかと聞いてみれば、彼は交渉をしに行くのだと言う。




「行き来した商人の中に、ちょっとした知り合いがいたんだ。……詳しい情報を聞けるかもしれないから、留守番してて」

「あ、はーい」




 そう言いながら、聖獣の方へと一瞬だけ見る。

 昨日のお願いを聞きながら、シグールは聖獣の話を思い出す。


 ウィルス達に言えない事。自身も言わないといけないと思いながらも、その口は重く言わせるのを拒む。




(……まだ、早い)




 彼等に言うにはまだ期間を空けなければ。

 心の底から信じられると分かったその時に、彼等に言おうと決意する。シグールは懐かしい商人の顔を浮かびながら、自分出来る事をしようと出て行った。

 

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