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第190話:2人の元暗殺者


ーナーク視点ー



 王都が近くにあり、ボク達が育った里も近い。

 今にして思えば監視出来るなと思い、幼い頃には疑問に感じなかった事も今は嫌でも分かってしまう。


 生まれてすぐ自分の足に黒い紐を付けられた事も。

 それが、魔力を封じる力があったことも。


 嫌な事を思い出す場所でもあり、育った場所でもある。近付いたら自分の惨めさを思い出す。あの時にあぁすれば良かったとか、こうしておけば良かったとか。

 らしくもない、もしもの話。




「時間なんて……もう、戻らないのに」




 主であるウィルスが何度か話しかけようとした。それも分かってるけど、ボクは避けたし怖かった。

 鋭い事を言う彼女は、話す前にボクの言いたい事を言ってくれる。

 勇気を出して言いたかった事を言ってくれる。


 時々、ボクの思いが主に伝わっているんじゃないかって思ってしまう。ついこの間も、そんな気持ちになった。


 ボクが犯した罪。

 リベリーの両親を見捨てて、ボクが割り込んだ所為で里の皆が殺されて……父さんは腕も足も無くなるような怪我をして。悔しくて戻りたくても、戻れないように父さんは細工をして……。




(何で、主がいるって思ったんだ……?)




 ボクしか知らない事。

 主に話した事はない、ボクの過去。でも、何でかあの時は……居ると思った。1人で生きて行かないといけないって思ったのに、夢で見たあの時は不思議な気持ちになったんだ。


 絶望だけじゃない。温かくなる気持ち。

 あの気持ちがなかったら、リベリーに本当の事を言える機会もなかった。今の関係が壊れるかも知れないからと、甘えていた。




「いたっ……。見つけたぞ、ナーク」

「!!」




 ハッとして振り返る。

 息を乱して来たのはリベリーだ。今までずっとボクを避けて来たのに……何で今になって……。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



ーリベリー視点ー



 正直に言って、オレはナークを責める気なんてこれっぽちもない。

 そんな気持ちは生まれない。里を出たのはオレの意思で、また好きな時に帰って来ればいいと思って……結局、そうしなかったのはオレだ。


 いつか、きっと……。

 オレに主を得た時に、一緒に戻ろうと思ったんだ。


 でも、バーナンの奴は見た目に反して結構ボロボロだった。

 これまでに剣術だけを使う奴を相手にした。魔法だけを使う奴を相手にも、勝ってきたが……両方を使って来る相手は、バーナンが初めてだ。


 今まで死にかけて来たことはあった。

 殺しの技術を学ぶことに何の意味があるんだという疑問を持ちながら、年長者だからと色々と無理をした。




「じゃあ、勝ったら話を聞いてよ」

「は?」




 初めて対峙した時、オレは暗殺をしようと背後から近寄った。

 中央大陸のリグート国。

 エメラルドが採れる風に恵まれた、1年間を通して過ごしやすい環境。暑すぎず、寒すぎない丁度いい気温の心地よさ。

 

 その王族で、第1王子であるバーナンの暗殺の依頼を受けた。近隣諸国だけじゃなく、中央大陸を我が物にしようとしている連中は多い。ディルランド国、バルム国もその大陸に数えられた大国。


 リグート国と同じように1年を通して、気温の変化が少なく住みやすい。

 この国を狙ったのは、王族の人数が多いことにあった。

 バルム国は国王、王妃以外には娘が1人。ディルランド国も息子が1人居たと記憶している。


 その中で、リグート国だけは従兄弟も含めてかなりの人数が居た。

 そして、骨肉の争いといった醜い事が殆どない……良好な関係を築けている、不思議な国。


 王族が多ければそれだけ次期国王に選ばれようと、兄弟を蹴落とし自分が1番になろうと動くのが普通だ。だけど、この国はおかしかった。

 醜い争いも、家族間で傷つけ合うような非道な事もない。周りも含め、従兄弟とも手を取り協力し合う。懐が大きいと言えば良いのか、人を信じすぎている部分があるのか分からない。




(何で、イラつく……)




 何でオレに気付いた。

 夜に森なんか出歩いて、さも殺してくださいと言わんばかりの状況。最初から分かっていたのなら、オレは誘い出された事になる。ヘラヘラ笑っていながら、最初から分かってたのかと言いたい位に……イライラした。 




「やれるもんなら――やってみろよ!!!」




 バーナンを見た時から妙な胸騒ぎを感じていた。

 同時に直感した。この任務は失敗するんだと。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「あ、起きた」

「!!」




 目を開けて声が出なかった。

 驚いて声が出ないのは何年ぶりか……。見れば変わらずの笑顔で、オレを起きるのをずっと待っていたんだという。




「……殺せよ。任務失敗だし、ムカつくけど実力は本物だ」

「いやいや。何言ってんの。最初に言ったでしょ? 負けたら話を聞いて欲しいって」

「いっ……てたな」




 否定したかったが、確かに言った。オレが負けたら話を聞いて欲しいのだと。

 暗殺して来た奴にそんな事をいうなんて、初めての経験過ぎて処理が出来ない。そんなオレを見て、バーナンは勝手に語り出した。自分に起きた事、家族の事。

 人を信じたいのに、信じ切れていないと……。




「バカじゃね」

「え?」




 一通り聞いて、オレはそう言った。

 それをキョトンとバカみたいに、口を開けて「そう?」なんて言ってくる。




「だってそうだろ。アンタが信じたい奴だけ信じれば良いんだよ。なんで、他人まで信じようなんて思うんだよ」

「……」

「王族の務めとか言うなよ。オレ、そういうの嫌いなんだよ。自分の事で精一杯なのに、何で赤の他人の心配もしないといけないんだよ……」

「ふ……ふふふっ」




 聞いていて面倒だと思った。

 やっぱり王族は色々と面倒だし、くだらないことが多い。そう吐き出したらオレの中のモヤモヤも、不思議となくなっている気がした。

 ってか、何でコイツはさっきから声を出さないんだよ。肩が震えてるし、我慢するならさっさと吐き出せよ。




「あはははは。そうか、君はそう言う考えなんだ。……はぁ、なんかバカらしくなったな」




 それはオレを見てなのか?

 ……やっぱり最後に殴りたいな。

 そう思って、狙いを定めようとしたら――「気に入った」とか変な事言ってるんだが?




「行く所ないならさ、私の……。いや、()の護衛してくんない?」

「……バカじゃないか、アンタ」




 こう返したオレは結構ギリギリだ。

 え、何で命狙った奴の事を気に入るんだ。しかも、護衛って……。それ、城に入るよな。

 え、おかしくね?




「色々スッキリしたぁ。ね、何処から来たの? もっと聞かせてよ、君の話」




 今からでも頭ぶつけて、気絶してくんないかな。

 そう思っても叶う事なんてない。普通に連れて行くバーナンがおかしい。いつもなら自分の部屋なんて戻らないのに、この日はオレと話したいからと言って戻っていく。

 ……その間、兵士達から睨まれ生きた心地がしなかった事か。


 そう言った事を1つ1つ思い出し、オレはナークと向き合う。アイツは未だにオレの両親が亡くなった事への責任と、ずっと言えないでいた苦しみもあって……1人で抱えてる。

 



「バカ野郎……。もっと早く言えよ」

「っ」




 息を飲む声が聞こえ、オレは自然とナークを抱き寄せていた。

 幼いナークを育てて、まだ背が低くて恨めしそうに睨んでいたのが懐かしい。

 どんなに月日が経っても、オレはナークを恨むなんてことはない。

 本心を告げても認めないのがナークだ。




「だって、だって……!!! ボクが行かなければ、死ななかったかもしれない。ボク以外に、生きてた人もいたかも知れない、のにっ」

「それでも、生かすと決めたのはオレの両親でお前の両親だ」

「そ、れは……」

「オレは何度でも言う。ナークが生きていてくれて良かった。生きていてくれて、ありがとうってな」




 オレの本心だ。

 ナークが否定しようよも、何度でも言う。死に物狂いで生かしてくれたから、姫さんに会えた。オレもバーナンに会って変わったんだ。だから、その恩返しをちゃんとしないといけないだろ。




「ナーク君、リベリーさん!!!」

「あ……」




 ほら、オレ等が戻らないから心配で来ちゃっただろ。

 姫さんだけじゃなくて、弟君まで来てるし……。ナークを見ると、泣いていたのが嘘のように段々と笑顔になっていく。




「オレ達、良い人に巡り合えただろ?」




 自信を持ってそう言えば、ナークは嬉しそうに頷いた。嬉しそうに駆け寄り「心配かけてごめん」と謝る。振り返ったら、口パクで「ありがとう」と伝えて来るから驚いた。


 自分の耳が赤くなってる自覚はありつつ、戻ればすぐに弟君から指摘される。それが照れくさくて、無視していたら……心配かけた罰とか言って、カーラスさんに氷をぶつけられた。 


  

 

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