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第188話:ちょっとずつだけど、前進


ーレント視点ー



 私自身が毒で死地を彷徨い、完全に回復するのにかかったのは1週間。

 刻印の魔女であるティルの作る薬も合わさって、かなり早く回復できた。


 ……もう、彼女の作る薬は決して飲むまいと誓いながら。あんな苦いもの、2度と飲みたくない。


 毒には強い耐性を持っていたと自負していただけに、サソリの毒で動けなかったのが情けない。そう思っていたら即座に否定が飛んできた。




「普通は即死よ」




 そう言っているのはティル。彼女の後ろから来ていたシグール王子は、笑みを浮かべながら「確かにね」と肯定してきた。そこから私が受けたのがただのサソリでないと聞いた。

 魔法で生成されたサソリ。

 野生の見た目に反し、その毒は通常よりも致死性が高く刺された瞬間に終る。同時に魔法での治療を阻害する為に、複数の毒を合わせているだけでなく魔力によってその性質を変化させている。


 だから、魔法だけでなく薬草や毒消しに特化した薬も意味をなさない。


 なら、私はどうして平気だったのか。

 兄様の事があって、毒に耐性を持てるように様々なものを試した事とウィルスの使う白銀の魔法。偶然、居合わせていたティルの手助けもあって助かったのだという。




「正直、私だけだと対処のしようもない。だから彼女がいる事もだけど、白銀の魔法に目覚めていて本当に良かったと思うわ」




 そう言われて、自然と嬉しくなる。

 彼女の魅力を知って欲しいと思いながら、同時に私だけが独占したいという気持ちがせめぎ合う。何とも難しい話だ。


 にしても、白銀の魔法か。


 知れば知る程、謎が多い魔法だ。

 魔獣に有効な唯一の魔法。上級魔法を使っても、魔獣を完全には倒せず足止めが出来て成功な位だ。

 だが、その魔法は魔獣に掠っただけでも致命的。魔獣にとっては厄介な力であり、だからこそその術者を見付けようと必死になる。

 魔女達が扱う魔法も少なからず魔獣に対抗できる。だが、ミリアやネルのように攻撃に特化した魔法はなかなか現れない。


 もう少し彼女達から話を聞きたいが、彼女達は迫害を受けて来た経緯も含めて私達という王族や国を嫌っている。彼女達の中には、王族だった者もいる訳でありその力を呪った事だろう。




(昔も私や兄様の様に、柔軟な思考の持ち主だったら彼女達も平和に過ごせたのだろうに……)

「どうしたの?」




 ふと、協力してくれているティルを見る。

 彼女の見た目を見て、驚く者の方が多いだろう。顔だけでなく、服から覗く腕や足にも白いが淡く光っている。線で模様のようなものが見えると、言うよりは私自身がそう感じる。


 聞いた話では彼女の育った一族の特徴は、その刻印を物体に移し、様々な効果を操る。だから、私が感じているこれは魔力なのだと納得した。


 古い遺跡や風化した所の一部には、移した刻印の力が宿っている。今はひっそりと暮らしているが、昔は旅をしながら転々としていたのだという。彼等が残した印は、当然ながら魔力を帯びている。


 一般の人達にしたらただの白い線が書かれたもの。だけど、分かる人には分かる。現に、魔法師団達の研究により後世にと色々と文献を残している。

 

 ラーファルから教わったウィルスとの刻印も、その文献から得られたもの。相手の心の内が分かるだけでなく一気にその場所へと転送できる力。今にして思えば、規格外な力だったと理解する。


 


(ラーファルが怒るのも、無理はないね)




 今にして思えば、かなりの賭けであり危険極まりない。

 でも、私は既にウィルスに一目ぼれをしていた。何が何でも手に入れたくて、手段なんて幼い私が考えられるものは少ない。


 せめて、私と同じ印を持ってもらおう。単にそんな事しか考えてなかったから、ラーファルに言われていた失敗した場合の事は深く考えていなかった。




「いえ。ただ……私とウィルスが繋がれるきっかけをくれた刻印が、元は貴方方の残したものだった事を考えるとなんとも幸運だなと思って」

「あぁ、それね。彼女から聞いたわ……危険性を理解してないから、指摘はしなかったけど」




 そう言いつつ、冷ややかに睨んでいる。

 と言う事は……お互いに魔法を失くすリスクを知っている上に、何でそんな危険な事をしたのかと責めている。


 魔女の迫力といえるものか、彼女から感じる魔力がピリピリと感じる。早々に白旗を振った私は、包み隠さずに全てを打ち明ける事にした。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「はぁ……飽きれた」

「ふふっ。若いって良いね」




 顔が赤いのを自覚しながらも、そっぽを向く。そんな姿が意外に映ったのか、シグール王子からはからかうような声色で言われる。むっ、と思いながら睨みたい気持ちはあったが……それをしても意味はないと気持ちにフタをする。


 私が完全に動けるまでの間に、ハーベルト国では様々な動きがあったと聞く。

 まず兵士の出入りが激しくなってきた事。

 武器商人の行き来がそれなりに増えて来た事が上げられる。




「武器商人の中に見た事がある人を何人か見た事があるし、兵士の出入りが激しくなった事から戦の準備をしている。と、見るのが妥当だよね」

「連合対1国。……普通なら勝ち目なんて無いけど」




 私達はその可能性がひっくり返せる手段を知っている。

 ハーベルト国が何かしらの手段で、人を魔獣に変えるものがある。そしてそれはまだ実行には移されていない。まだハーベルト国内にあると言う事を示している。




「これ以上、時間が過ぎるのは危険とみるべきか。……それに、その出入りが激しい今を使わない手はないしね」

「でも、夜中に出入りするのは危険すぎるでしょ。兄は暗殺者を嫌っているが、今の兄は……」




 彼の言いたい兄と、今のゼストとは違うとはっきり聞いた。

 それもそうだろうなと思った。弟を魔獣に変えて自身の傀儡にしようとした。その手段が出来ないと分かれば刺客を放つ。


 弟の第3王子の事が心配だから、早めに戻りたかったらしいし。

 でも、その時には自分は魔獣と言う姿をしたままで人間には戻れない。途方に暮れていた時に、見付けたのはウィルスが魔法を使っている場面。


 私達も、ここに来るまでに魔物だけじゃなく魔獣にも何度か遭遇した。

 恐らくその時にウィルスが白銀の魔法を使う場面を見て、魔獣が倒れさまた憑依した人間に戻った所を確認した。




「かなり強引だったけど、ホントごめんね。あの時、話せる手段も無かったし可能性にしか賭けられなかった。お陰で君には迷惑をかけたし、死にかけたし」

「ホントですよ……」




 さっきのやり返しとばかりに睨む。

 参った様子でいるが、彼からすれば涼しい顔をして受け流されているのだろう。……歳の差だと思い悔しい気持ちになる。


 人の出入りが激しい今を狙わない手はない、か。そうなると中を把握しているシグール王子を上手く使わないと。途中で裏切られても困るし。




「安心しなよ。途中で裏切る様な真似、出来る訳ないじゃん。命の恩人に対してそんな事が出来ると思う?」

「やるんじゃないかしら」

「人を騙すのは上手そうだと思うけど」




 速攻で私とティルが否定すれば、引き攣った顔で固まる。

 すぐに反論できない所を見ると……自覚あり、だな。




「レント。もう平気?」




 そこに声を掛けて来たのはウィルスだ。 

 完全に回復した手助けをしたのは彼女だ。だから、最初に来て貰いお礼を言う。

 それだけで、嬉しそうにしているから可愛い。

 自然に引き寄せて、愛おしそうに抱きしめる。初めは恥ずかしがって逃げてたけど、今では抱きしめ返してくれる。嬉しいと思う反面、ちゃんと実感したいんだと分かり申し訳なくなる。




「ウィルス。ナークとリベリーはどんな様子だった?」

「……それが」




 途端にシュンとした上に、声が小さくなる。

 それだけで私達は同時に目を合わせ、溜め息を吐いた。中に入るのには、周囲を見ているであろう暗殺者達を把握しておく必要がある。


 それにはどうしたって、あの2人の力が必要だ。

 だが、何故だか……あの2人に流れる雰囲気は前よりもギスギスしている。原因は分からずじまいだし、何度かラーグレス達が聞くも口を閉ざしている。


 あとは――。




「きゃっ」




 横抱きにして、ウィルスの事を逃がさないようにする。驚いたように目を見開くも、私が聞こうとしている事が分かったのだろう。すぐに目を逸らした事で、確信へと変わる。

 ウィルスは……事情を知っていると。




「さて、私の愛しい人。何を隠しているのか……じっくりと聞こうか」




 ひえっ、と悲鳴を上げるから心当たりがあるんだろう。

 逃がさないとばかりにティルとシグールが、目の前へと来れば観念した彼女は話し始めていく。


 自分がナークの過去をなぞる様にして、体験したという話を聞く事となった。

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