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第182話:予想外の攻撃⓶


ークレール視点ー



「何だか悪いね、付き合わせて」

「いえ。私もこの子達の世話をしていますから」




 リラル様の腕の中で、今も可愛く鳴いている子猫。

 手を振っていれば、応えるように鳴いてくれるからついつい構いたくなる。結局、ショックで動けないバーナンをほっとくように私はリラル様と行動を共にしている。


 とにかく、憩いの場に向かいこの子達と遊ぼう。

 ウィルス様だってよくやっている事だし、こういうのもありだ。




「そう言えば、3人が居ない間の世話ってクレールがしているの?」

「はい。私だけではなく、見回りをしている兵士達や魔法師団の人達もですが」




 ウィルス様が遊んでいるのをずっと見てきたから、だと思うがあの子達も私には楽しそうにしているし。とはいえ、やっぱりウィルス様が居ないのが寂しいのだろう。

 たまに空を見ては、鳴いているのを見る。互いに寄り添って、本当に悲しそうに鳴くのだ。


 ウィルス様は厨房に行かない時があれば、その時間の大半をこの子達と過ごしている。時には、なん匹かを連れて王城を探索している。

 あの子達からしたら、冒険をしてくれるし癒しをくれる存在。そして、同時に飼い主だと認めているからこそフラッと居なくなるのが寂しいんだ。


 猫も時々、フラッとその場に居ない時もあり帰って来ない日なんてある。

 でも、あの子達はウィルス様に対して好感度がマックスだ。


 だから、一緒に居る時間が少しでも思い切り甘えるし時々ではあるが、レント王子とで仲良く寝ている日もある。




「……あの子達、本当にウィルス様の事が好きですしレント王子の事も、好きですから」 

「そうだね。愛情を持って育ててるのが分かるもの。……こんなに人懐っこいしね」




 いつの間にか、私も猫が好きになっていたのだ。

 不思議な引力と言うべきか、スティングのように可愛さがあるからなのか分からないけど。


 リラル様も「私も、いつの間にか猫好きになったし」と言うのだから、彼女達の影響力は凄いと思う。




「ニャウ~~」




 こうして、嬉しそうに鳴くこの子が可愛い。

 心優しい3人が育てたこの子達は、ちゃんと育っている。寂しいけれど、ちゃんと帰ってくるのが分かるのだろう。


 私達に甘えているのが、寂しさからくるものだとしても良い。ウィルス様達と同じ位にこの子達の世話をしようと強く思った。



 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「あれ、珍しい組み合わせだね」

「こんにちは、ラーファル様」

「フシャーー」

「遊び道具じゃないんだ。あーー、破るな!!!」




 何とも珍しいものを見た。

 師団の副師団長であるラーファル様は、よく来ているのは知っていた。だが、師団長であるレーナス様も居るなんて。

 

 今も、レーナス様が持っている書類がビリビリに破かれている。

 子猫達が、新しい遊び道具として跳躍を使い、自分達の身体能力を生かして飛び掛かっている。




「全く、たまには外にと思って来てみれば。なんでこんなに人懐っこいんだ!!!」

「だってあの2人が面倒を見ているんですよ? ナーク君だって、この子達と一緒に居る事もあるし、様々な人がここに来るんです。自然とこうなりますよ」




 そうなのだ。

 初めは騎士団の人達から始まり、猫と戯れるウィルス様の噂を聞いたのか師団の人達も来ている。そして、厨房の人達もこぞって来て皆で世話をしているのだ。

 

 猫達の憩いの場、とは言うが殆どはウィルス様の癒しを求めてと言うのが理由だ。そうだと知ったのはスティングからの情報だ。彼は可愛いものが好きだからか、今はウィルス様の行動を見ているのが日課だ。


 ラーファル様からは護衛として頼まれているから、良いのかも知れないが……。




「ミウ~」

「ミャ、ミャミャ」




 するとリラル様に抱かれていた子猫が鳴いた。

 どうしたのだろうと思い、子猫の視線に合わせて見ればそこには不機嫌だと醸し出すビーが居た。

 ただ立っているだけなのに、それが凄く怖い。

 どうみても、子猫に対して怒りを覚えているの。……勝手に居なくなったからか。




「悪いね。あんまり怒らないでやって。冒険が好きなのは、ウィルスの影響を受けているって事で、ね?」

「……ミャウ」




 仕方ない。

 そう語る様な瞳で、リラル様を見れば子猫を降ろしている。のだが、怒られるのが分かっているのだろう。離れたくないとばかりに、ピタッとくっついている。




「こら、離れなさい」

「ミー、ミー」

「勝手に居なくなったのは事実なんだから。怒られてなさい」

「ミ、ミウゥ~~」




 酷いと言わんばかりの、子猫の必死さ。

 その間にも、無言で近付いているビーに気付いたのだろう。ビクリと驚いたように振り返り、体を縮こまって震え出した。




「……」

「……」




 無言のビーとガタガタと震える子猫。

 リラル様が押し出す様に子猫をビーの前へと連れて行く。せめてもの抵抗か、体全体を使って留まろうとするが子猫の力ではどうにも出来ない。


 簡単にひょい、と持ち上げられて差し出される。


 パクッ、と首根っこを咥えありがとうと言う感じで頭を下げそのまま離れていく。

 



「凄いな。あの責任感があるから、カルラも安心してるんだね」

「えぇ、理解力が凄いです」




 そう言いながらふと、思い出す。

 リラル様の方を向けば、ちょうど私を見ていたようで……なんだかバレているような気がして恥ずかしい。

 コホン、落ち着け。

 そう心の中で言い聞かし、バーナンの執務室での事を思い出す。




「あの、情報共有……とは一体どんなものですか」

「あぁ……あれね」




 そう言って、何故かラーファル様の方を見る。

 そう遠くない所に居るので、気付ているのに何でか視線を合わせない。どういうことかと思っていると「聞いていないのか」とレーナス様に聞かれる。




「すみません。全然分からなくて」

「……最近、令嬢が突然居なくなる話を聞いた事はあるか?」

「はい。噂程度、ですが……」




 ウィルス様達がここを離れてすぐ、隣国からの連絡を受けた。


 人攫いにあった。

 目の前で、突然消えた。


 それがここ最近ではよく聞くようになり、最近では親友ともその話題を話していたばかりだ。確か、全員が金髪と言う特徴……だったか。

 親友であるファムも、私も金髪でお互いに気を付けようという感じで別れたのが3日ほど前。




「……ここでも被害にあった。名前はファム・リーベルト。リーベルト公爵家は、王族に忠誠を立てている所だ。騎士団の中でも、近衛騎士に抜擢されている。兄にシザーク・リーベルトが居たと記憶している」

「!?」




 嘘……。彼女と会ったのは3日程前だ。

 まさか、別れたその日に?




「座れる、クレール」

「は、はい……」




 顔色が悪い自覚はあった。リラル様が気遣うように言い、場所を変える為なのかラーファル様が自分達の執務室へと転送した。

 信じられない、理解が追い付かない……。

 じゃあ、バーナンが私の事を呼んだのは……彼女の事を聞く為? 




「バーナン様から聞いてないのなら、私から告げるよ。クレール。君は、しばらく家に戻らずに王城に居て欲しいんだ」

「……」




 ラーファル様から、丁寧に説明される。

 今回、リグート国の中でもファムと同様に居なくなった人達は名家の令嬢が殆どであり特徴として挙げられているのは……皆、金髪である事だと言う。ディルランド国でも同様の被害があり、対策を講じていた矢先に私達の国でも起きてしまった。


 ……。お兄さんのシザークは大丈夫なのか。

 彼の家は、娘が攫われた事を公にはしていない。ギース国王からも、周りに知られないようにと手筈を整えている。

 宰相の所に居る諜報員達は、元は私の家の者達だ。彼等も、全力で痕跡や情報は無いかと探してくれているらしいが……成果はないに等しい。




「こういう時、リベリーやナーク君の存在って貴重だよね。2人が居ない時に、タイミングよくやるだなんて」




 リラル様の管理している港町でも、髪の色が目立つ人を特に金髪の人が居なかと注意深く見張っているのだと言う。次に狙われるのであれば、私だろうからと護衛をつけるのだと聞いた。




「……バーナンは、それを伝えようと?」

「うん。しかも、ファムと言う子はクレールの親友なんでしょ? ウィルスみたく無茶しかね――」

「誘き出すのに、餌が必要ですよね」




 スティングは「ほら」とリラル様を小突く。ラーファル様とレーナス様は、バーナンと宰相であるイーザク様に連絡を取っている。




「情報が見付からないのなら、炙り出して捕らえる。攫われた人達が何処にいるのか、聞き出す必要がありますよ」




 頭を抱えるのはリラル様で「うわ、そんな性格なの?」と、私の事を止めようとする。でも、ごめんなさい。

 親友が攫われたからじゃない。それもあるけど、自分だけ安全な所に居るつもりはないからです。


 バーナンだって危険な所に向かうのだ。私だって、茨の道を歩む覚悟はあるし彼を支えたいと思うのだから。


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