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受難を受ける者達


 バーレクから知らされた内容に、ギルダーツとルベルトは驚きを隠せないままだったがすぐに行動に移した。

 ウィルス達を見送った彼等はその足で、状況の把握に徹していた。




「……全員、金髪だったのか」

「この報告を聞く限り、はね」




 ルベルトの含みのある言い方にギルダーツは静かに息を吐く。

 自分の妹が攫われた。

 それだけでも衝撃を受けたのに、その従者であるアースラが東と繋がっていた事が濃厚だという知らせを聞き舌打ちをした。


 気付けなかった自分自身。

 内部に裏切り者がいる可能性も含めていたのに、だ。




「……」

「ギル」

「分かってる。嘆いて戻る訳でもない……。打てる手は全て打つぞ」




 弟であるルベルトも辛そうに声を掛ける。彼等がここで止まっても、状況は何も変わらない。魔獣との戦いに、ハーベルト国との戦いになる事は既に決まっていたのだ。


 例え、ウィルスが関わろうとも関わらずとも。

 いずれぶつかる事は、運命のように定められている。それを、最初は自分達だけで行おうとした。

 

 東の国はハーベルト国だけでなく、水と言う資源を欲している。悩みを同じくする国同士で協力して対策を立てる。そうした協力関係を築けられるのであれば、南との関係も違っていた可能性もある。


 協力し合うという考えではなく戦で収め、領土を広げる。


 支配するという方針を取った事で、周囲の国とのいざこざも増え巻き込まれる人達が増える。

 それを難民達を受け入れたディーデット国は、これ以上の被害が広がる前にと何度も間に入った。受け入れられる事もなく、逆に南が巻き込まれる事となって長い年月が経つ。

 

 そうしていく内に、全て自分達だけで解決しようとしていたが……今は違う。

 中央大陸のリグート国と隣国のディルランド国という2つの国が協力し同盟を結ぶ事になった。




「この情報を知っているのは俺達を含めて、あとは同盟国だけだな」

「そうだね。ディルランド国のアクリア国王とエリンス殿下。リグート国のギース国王にレント王子の兄のバーナン王子。従兄弟のリラル王子が知っているから、彼等の身内だけに収まってると思うよ。……ギル」




 ルーチェが消えてから、3時間ほど。

 外は既に暗く、綺麗に見える星空が今日はとても憎らしい。思わず夜空を睨むギルダーツに弟のルベルトは休むように、と何度もそう促した。


 だが、彼がそれを素直に受け取る事はない。

 今もバーレクから来るであろう連絡を待ったり、宝剣の調子をみたりなど忙しく動いている。




「君が倒れると、私に掛かる負担も大きい。そうでなくても、ギルは無理をする所があるから休んでよ」

「……だが」

「休むのも仕事、だよ。明日になれば同盟国からも何か情報が届くかも知れない。バーレクにも私から休むように言うから」




 弟にまで倒れられるのはダメだ、と。

 軽く睨まれ、仕方なく休む事にした。だが、何度も目を閉じようとしても目が冴えてしまう。

 



「……」




 出来る事ならば、妹と弟には安全に居て欲しかった。

 自分とルベルトは覚悟があったからこそ、戦いに身を置くという選択も出来る。2人がギルダーツの為にとイタズラをしているのには、最初から気付いていた。

 

 逆に言えばあの2人にさえ気を使わせてしまったのだと、一番上の兄として情けないとさえ思った。




(……無事で、いてくれ……ルーチェ)




 何も出来ない自分。

 これがこんなにも、息苦しくて情けないものだと知らされる。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 翌日。

 目の下にクマを作りながらも、なんとか起き上がる。いつも以上に体が重く、頭が働かない。




「……っ」




 思わず頭を抑える。

 休めと言われてこの状態では、と思うも起こしに来たルベルトは「やっぱり」とこの状況を読んでいた様子。




「ほら。昨日、連絡を受け取ったんだ」




 そう言って渡されたのは、同盟国からの報告の数々。

 最近、人が攫われているという事件が起きている上、相手の正体が掴めないというもの。

 各国のギルド、騎士団、魔法師団が調べていく中で共通点がいくつか出て来た。




(金髪……。しかも、その殆どは10代から20代か)




 裏ギルドが根城にしている場所の把握は難しい。

 拠点は絞れても、数が多すぎる為に仕掛けるには人手がいる。一斉に取り掛からなければ、現場を抑える事も叶わない。一見使われていない場所が、ギルドの拠点としている場合もある。


 範囲を絞って抑える方法も、今行うのにはタイミングが悪すぎる。

 こうしている間にも、魔獣達が仕掛けてこようとしてくる。それを指揮しているであろう、ハーベルト国のゼスト。




(……偶然、か?)

 



 妹の髪の色は確かに金髪だ。

 そして、ギルダーツも同じく金髪だ。それに合わせるように、攫われている人達の特徴をもう1度考える。




「ここ周辺だけならただの人攫い、とまとめるだろうけど……。バーナン王子はこれに意図的なものを感じるって聞いてるよ」

「意図的……か」




 だとしたら理由はなんだろうか。

 金髪の人達を集め、何が行われようとしているのか……。ふと、嫌な事をギルダーツの頭が占めていく。


 魔獣は人に憑依する。

 その工程がどういうものかは分からず、実態を掴めていない。ウィルス達はそれを探ると同時に、破壊を試みて動いている。


 


「あと、ギルに伝言。調査は引き続きこっちで行うから、ちゃんと休めって」

「いや、俺はべ――」

「ウィルスにキスされて、石化した王子なんて知られたくないだろう? って、いい笑顔で脅して来たよ」

「……おい」




 それを聞いてギロリと睨む。

 そもそも、それを実行したのだってルベルトが仕掛けたイタズラだ。なのに、何でそれをバーナン王子に知られているのか。

 ギルダーツが自分から言うような事はしない。あるとすれば……答えは、今、目の前にいる弟だ。




「お前、余計な事を言ったな」

「さあね」

「俺を休ませる為に、ワザワザ他国に言うのか?」

「勝手だなぁ~。そんな意地悪い事して何の得があるの?」

「俺を遊べるだろ」

「……」




 思わず無言になったルベルト。

 肯定だなとイライラする頭を抑え、脅された上に休めていない事も見抜かれている。向こうも待たされることには慣れてしまっている。ウィルスが巻き込まれる事もだが、弟のレントも当然のように巻き込まれる。


 ウィルスが渦中になっているのなら、代わりに自分が請け負う。

 彼は当然のように、自分の愛しい人の為にと盾になる。あとを任される方は大変なのだが、兄のバーナンはそれを分かり切って行動する。




『レントはウィルスの事が、好きすぎてしょうがないんだよ。自分で見付けて、自分の物にしたいって堂々と言ったんだから』




 自分が言った事に責任を持つ。

 その信念の元、レントはウィルスと共に行動するのが多い。例え彼女しか扱えない魔法であろうとも、彼はそれも含めて守る為に動く。


 以前、ルベルトと話した時にバーナンが言っていた事を思い出す。

 2人を信頼しているからこそ、待たされたとしても我慢できる。これまで、巻き込まれて戻ってこなかった事はない。


 だから、今度も大丈夫。


 それを聞いて、彼にも協力して貰おうと思った。もし、ギルダーツが自分の言う事を聞かくなった時の脅し役になって貰おう、と。




「……余計な、事ばかり言って……」

「だって止まらないのは、目に見えてるし」




 こうも弟に操作される。悔しさもあり、やっぱり自分じゃなくても良いのではと思い、ルベルトに叶わないとさえ思った。


 そんな彼等も知らないでいる。

 こうしている間にも、リグート国で変化が起きている事を。それを知る事になるのは、2日後の事になるのだった。




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