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第180話:泣くな、諦めるな


ールーチェ視点ー



 アースラが魔獣だった……。幼い頃から居た彼が、いつも優しくしてくれた彼はずっと裏切って来たんだ。


 私達を、お兄様達を……国民達を!!!




「その首輪を外そうだなんて考えない事だ。それはウィルス姫にも使われていた物だぞ」

「お姉様、の……。魔封じの枷を言っているの!?」




 バカな。

 あれは随分前からお父様によって、廃止されて摘発したものだ。制作に関わった貴族家も含め、裏で動いていた人物達は捕まえた上で処分をした。


 じゃあ、皆付けられている首輪は……言う事を聞かせる為のもの。

 だとしても何で私がハーベルト国に、来ないといけいないんだ。




「じゃじゃ馬な、お姫さんだな」




 体が思うように動かないのは、枷の効果。私もお姉様と同様に魔法が使えるから、魔力を封じられる上に判断を鈍る。


 その隙をつくように来ていた兵士達によって、私は組み敷かれた。アースラが魔獣に変化した事で、集められていた彼女達は恐怖を顔に張りたように怯えた。


 ある者は身体を縮こませて、数人で寄せあったりしてるのも見える。パクパクと口を開けて何か言おうとしても、声を発せない人。

 反抗的な態度を見せたらどうなるのか。しかも、人から魔獣に変化したのは初めて見たのだろう。


 凄く怯え切っている。

 私が……そうさせてしまったんだ。




「これからはちゃんと状況を考えるんだな、お転婆なお姫様」




 一瞬の内に人の体に戻り、アースラが歩いてくる。

 抑えつけられても、睨む事だけは忘れない。騙した上にお姉様を攫おうとした、ですって?

 



「連れて行け。ただし、丁重に扱うように」

「はっ」




 乱暴はされないけど、無理に立たされてスピードを考えずに引きずられる。アースラはその後ろから付いてくるだけで、それから何も発しなくなった。


 これから拷問でも始まるのかと思ったが、意外にも綺麗な部屋と連れて来られた。兵士は目的の部屋に到着したらすぐに出ていった。

 アースラの姿を見ても驚いた様子はなかった。無理をしている様子でもない。


 王族だと知っているからか、もしくは別の目的があって人質にとでも考えているのか分からないけど……。




「ご期待に添えなくて悪かったかな」

「……」

「おや。今度は無視か……酷いな」

「酷いのはど――くぅ……!!!」

 



 そこでまた魔封じの、力が……。

 その場に倒れる私は、必死で起き上がろうとする。でも魔力を封じられているならまだしも、体力も取られてるだなんて。


 力が、入らない……。




「下手に反抗したら、あの地下室の彼女達……どうなるか」

「っ!?」

「大人しくすれば、君達に危害を加えないと約束しよう。彼女達が可哀想な事にならないように……どうするのが良いのか。貴女なら分かりますよね?」




 彼女達が何処から来たのか、いやこの場合は攫われたと考えるべきね。危害を加えられている場面を想像し、嫌でも血の気が引いた。

 その反応に気を良くしたのか、アースラは約束は守ると言い残して出て行った。




「バーレク……今頃、泣いてるかな」




 お姉様の前では甘えん坊だけど、私と同じ剣を扱うけど……。彼の魔法は植物を介したり作り出したりする魔法だ。自然を大事にしたい彼にとって、それを魔法として武器として扱うのに抵抗がある。


 それなら自分が傷付く方を選ぶ位にお人好しだ。

 植物と言う特性からか、そこから自作の薬を作り出すから代魔法師団にはよく呼び出されている。


 誰も傷付かないようにって、安全に使える薬――この場合は、魔物用に改良したのを使い活躍しているとアーサー師団長から聞いている。




「……私、は」




 得意な事は剣を振るう事。

 でも、魔法を封じられれば武器がなければ何も出来ない女だ。


 乱暴にされないだけマシだろうが、それよりも……私が余計な事をすれば人質として彼女達に危害が及ぶ。アースラの本気を見て分かり、ゾッとする。


 思わず、お姉様の笑顔を思い出す。彼女は……こんな心細い思いを、5年も過ごしたのだろうか。飼い猫のカルラが居るからだと言うけれど、味方が1人もいない状況はさぞ寂しかっただろう。




「泣いては、ダメ……」




 負けた感じなのがイラつく。

 ここがハーベルト国だと言うのなら、アースラの言葉通りならお姉様達が来る。それまでに私に出来る事を模索する。いや、しないといけない。




(お兄様達には……心配ばかりかけてる。でも、今日で終わりにする)




 ワガママで、いつも困らせてばかりいる私は終わりだ。

 今日からは違う。違うと見せてやると決めた。


 早速とばかりに私は、部屋の中を見渡し家具の配置から抜け道に繋がる場所はないかと静かに移動させて探す。


 大人しくしていると思ったら大間違いなんだから!!!



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



ーバーレク視点ー



 結果、場内をくまなく探し王都にも捜索をしたけど……ルーチェの姿を見たという目撃情報はない。考えたくない事だけど、ハーベルト国かそれに与する者達の反抗だと思い国王に進言した。




「……」




 執務室には僕と宰相。護衛をしているムジカと近衛騎士の隊長が無言で待っていた。

 静かに息を吐く父は……悲し気にしたが、すぐに切り換えた。




「痕跡すらなかったのか」

「ありませんでした」

「……宰相。至急、同盟国へと知らせろ。だが一握りだけに留めるんだ。ギルダーツとルベルトにも知らせておくんだ」

「はっ」




 そう言って連絡を取りに出ていくのを見送る。

 ムジカは重たい空気と言うのもあって、辛そうにしているし近衛騎士隊長はじとりと汗をかいている。

 



「いつ、攫われた」

「僕がルーチェと過ごす予定だったので、夕方になる前だと思います。同時に従者のアースラを捜索しましたが同様に見つかっていません」

「……奴が、東と繋がっていたと言う事か」




 考えたくないけど、アースラが居ないのを考えれば誰だってそうなる。ムジカはショックだろうけど、一応はそうだと告げた。そこで近衛からある報告がなされた。


 アースラの家族構成、それまでの履歴が綺麗になくなっているというものだ。




「何も、なかった……?」

「はい。彼の両親もですが、あったとされる場所には屋敷がありました」




 アースラの家、屋敷に行けば何か手かがりがあればと思った。

 その屋敷の所有者はターナス家。僕は聞いた事ない名前だと思ったが、その家は魔封じの枷の製作に関わっていた。


 国王は前からこの枷や、首輪を使っての魔法使いの人身売買を阻止したかった。証拠を掴み、製造元や関わった貴族家を処罰した。


 まさかアースラは、その処罰された貴族家の関係者……?




「もしくは当事者の息子、か」




 先を読んでいた父が鋭く言い放つ。

 覇気が凄いからか私だけでなく、ムジカと近衛騎士団長も冷や汗をかく。ギル兄ぃも睨むと怖いと思うが、父の場合は心臓を丸ごと握られるというか……とにかく怖いだけでは表現できない、寒気も同時に来る。




「今後、バーレクと関わった騎士達は護衛としてまた捜索隊として動け。前線の指揮は盾代わりに俺が行う」

「それは……」




 それって、僕も動けって事?


 そう言う意味を込めて目を合わせると、一瞬だけニコリとした。それも本当に一瞬で終わり、次にはいつもの父だ。




「バーレク王子。ご指示を」




 どうにかなったなと安心していた矢先、近衛騎士団長であるエリッツは静かに聞いて来た。彼も近衛として国王と対面するなり、話した事もあるが今回は身内に関わる事もある。

 だからか、いつものように真面目であまり表情が動かない彼も、少し疲れたように見えた。




「……僕の部屋で会議しよう。その頃には連絡用の鳩が来てるはずだ」




 しっかりしないと。

 そう気合を入れ、ルーチェの無事を祈りつつお姉様の向かっているであろうハーベルト国である事をどこかで思った。


 もし、もし……。お姉様ならきっとルーチェの事を助けてくれる。そう思った時、人任せにしていた自分の考えを惨めさを思い、ドンと壁に頭を打ちつけた。




(弱気に、なるな……。諦めるな)




 ムジカの止めるように言う声が聞こえる。

 何でもないように言ったが、額から血が出ていると言われ手当を受ける。上手くいかないなと思う。

 そんな私に、エリッツは部下も合わせて僕の部屋に行くと言い早々に行動に移していった。

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