第179話:明かされた事実
ーバーレク視点ー
何で、なんでこんなことになった……!!!
ルーチェの愚痴を聞いて、僕の愚痴も聞いてただ過ごす。自作で作ったハーブティーだって、勧められたから作った趣味みたいなものだ。
でも、今は違う。第3魔法師団は、魔物と魔法の研究もしているけど、アーサー師団長が自作のバーブティーを作っているのをたまたま見た。
あの時は、ルーチェとで真面目過ぎるギル兄ぃのイタズラにと何かないかと思って来てたんだけど……。
『興味があるんですか?』
不意に声を掛けられて思わず「うわっ」と声を上げてしまった。こそっ、と来ていたのにあっさりと居場所がバレた。アッシュ、じゃない。カーラスにバレたんだ。
あの人、記憶が戻る前も戻っても人の気配に敏感なのかよく隠れている僕達を見付けてはすぐにアーサー師団長の元へと連れて行くんだ。
彼を助けたのはルベ兄ぃだから、てっきり報告でもするのかと思ったが……ちょっとだけ、植物に興味があるのと僕の魔法もあって気になっていた。それが話してもないのにバレてて……流石、元師団長と言うべきか鋭すぎてて困る。
『課題で疲れているのなら、ルーチェ様と共にハーブティーでも楽しんだらどうです?』
いい気分転換になる、と。
ルーチェはイタズラ出来る材料がないかと思って、来ている上での事だ。僕にこっそりと言うのはアーサー師団長で、アッシュも何故かニコニコしてて居心地が悪かったのを覚えている。
ちょっとした休憩に、落ち着きたい時にと少し飲むのがいつの間にか習慣になったし自分で作ってみようとまで思ったんだから。ルーチェも気に入ってくれるし、嬉しそうにしているのを見ているだけで……心が和んだ。
あの時の兄様達には、ちょっとした壁があった。
幼い頃から僕達はそれを肌で感じ、どうにか仲良く出来ないかって色々と考えた。
真面目過ぎるギル兄ぃに、何を考えているのか分からないルベ兄ぃ。
纏う空気が、表情が……その全てが、僕達には怖かった。本当に血のつながった兄弟なのかって。でも、その反面……2人は優秀で、国民からの信頼も厚い上に人気だ。
国民の前だけでは2人も、笑顔で対応するけど家族の前だと途端に変わる。
こんな生活は嫌だ。息をするのが苦しいなんて、初めてで……どうして良いのか分からなくて、ルーチェも仲良くしたいのにって小さい時にはよく泣いていた。
それを間近で見て、心苦しそうにしていたのはムジカとアースラだ。
それもお姉様が来た事で変わった。
国の結界を直しただけじゃない。お兄様達の誤解も、見えない壁も取っ払って仲良く出来るきっかけをくれた。
「凄い……」
それを見て、僕はただただ純粋にそう思ったしそう口にした。
共に過ごしている僕よりも、お姉様のお陰で元に戻った。それを悔しいとか、何でだとかなんて思わない。
ギル兄ぃに頼られたのだって初めてのことだ。
頼むぞって、僕に頼って……くれた、のに……。
なのに!!!
「バーレク様、すぐに――」
「ダメ!!!」
「っ」
ムジカがギル兄ぃに知らせよう、と言おうとしたのが分かって止めた。
驚いたように目を見開き、僕は落ちている扇を拾う。
少し、考えてあらゆる可能性も考えて……指示を出した。
「知らせるのは早いよ、ムジカ。僕も、ルーチェも勝手に居なくなるのは普通だ。これだって、イタズラなのかも知れない」
「で、ですが……」
「分かってる。違うかもしれない……。だから、材料を集める」
王族でしか起動できない仕掛けは、互いの部屋に繋がるようになっている。特に僕とルーチェはよく行き来をしてるし、ギル兄ぃ達の部屋に黙って入って脅かすのだってよくやっている。
……その度に、説教を食らうけど。
だから、ルーチェが消えたのだってその秘密の通路が原因かもしれない。あとは……考えたくないけど、襲撃者の場合か。
「まずは通路の捜索と並行して、ムジカはルーチェを見なかったかを聞いて回って。近衛騎士の一部を僕の護衛と捜索に回すから」
「分かりました。すぐに秘密裏に知らせて来ます」
「うん。ありがとう」
秘密の通路は僕が起動できるし、道も分かる。
互いに念話で知らせ合って、それでもルーチェが城に居ないって分かったら……ギル兄ぃの前に、父に知らせる。
怒られるのは分かってる。でも、せめて……勝手に騒ぎ立てるのは違う気がした。
少しでも材料が欲しい……。
何で急に居なくなったの、ルーチェ。
そう言えば……何で1人で来たんだ。従者のアースラは……一体、何処にいるの?
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
ールーチェ視点ー
バーレクがいつも以上にゴロゴロとしているから、つい怒ってしまった。
でも、まぁ……言っている事は分かる。お兄様達は優秀だし、注目度もある。お姉様には言っていないけど、2人には既に決められた人が居る。
だけど国の結界を直したりと忙しそうにしていたから、なかなか会えないでいるけれど……。
バークレの所に遊びに行って愚痴を聞いてと、いつものように過ごす筈だった。
「……ここ、は……一体」
暖かに部屋に居たのに、今は少し寒く感じる。
勘違いではない。周りを見ると、怯えた様に私を見ている同年齢の人だったり、年上の人だったり……幼い子もいる。
「貴方達、一体どうしたの?」
「ひぃ……」
私は近くに居た7、8歳位の女の子に聞いてみる。
親しみやすいようにと笑顔で言ったのだけど、凄く怯えられてしまった。どうしよう……お姉様は、国民の子供達とすぐに仲良くなっていたし、動物にも好かれているし……。
仲良くなれる秘訣を聞いておけば、良かったと後悔した瞬間だ。
ショックを受けていると、ぎぃぃと扉が開けられる音が聞こえ、そこから数人の兵士が入ってくる。
「おい、今度のターゲットはもしかして」
「あぁ……にしても、上玉だな」
何やら気持ち悪い視線を受けてるわね。
イライラして睨み付けてると「お、強気だな」とか、聞いているだけでこう……ムカムカしてくると言うか。……殴っても構わないわよね。
ヘラヘラした顔で見るなと思って睨んでも、意味をなさないし。こんなのお姉様が居たら絶対に泣いてるわね。
そんな想像したが、すぐにレント王子が来るだろう事が予想出来る。
うん。大丈夫。お姉様に危険が起きないのを分かっただけでも良かったと安心した。
「ここは一体何処なの。どういうつもりで、人を攫っているのか理由も聞かないといけないしね」
「ダメですよ、ルーチェ様」
さっと姿を現したのは、私の従者であるアースラだ。
だけどいつもと様子が違うし雰囲気も違う。笑顔で対応する彼なのは、確かだけれど何でかゾクリと怖いと感じた。
すぐに下って、距離を離し何か武器になる物はとざっと見渡す。
ここには年齢がバラバラな女の子だったり、女性もいる。けど、皆の服は同じ服装だ。質素なワンピースに同様の靴。
容姿は皆、金髪だというのが分かる。それと、黒い首輪が全員に付けられていた。ちゃんと数えてないけれど、10人前後は居るのではないかと考えていたのがいけなかった。
「隙ありです」
聞こえた声にはっとなるも、下がるよりも早くアースラが近くに居た。
気付けば彼女達と同様に、私にも黒い首輪が付けられ――その首輪から黒い光が発せられた。
「う、ぐぅ……!!!」
全身に走る電撃のような痛み、そして同時に襲ってくるのは倦怠感。
それは数秒の内に一気に体の中を駆け巡り、魔法で対抗しようとしたら更にその質量が上がった。
これは、まさか……!!!
「気付かれましたか? そうですよ、ディーデット国で使われている魔物を弱める為の道具。まぁ、人用に改良するのは大変でしたけどね」
「っ、アースラ……まさか、貴方が」
ギルダーツお兄様は言っていた。
結局、内部の犯行だと思っていたがその人物、もしくは組織の全容が掴めていないのだと。
結界が脆くなっている時、それに合わせて魔獣が現れた事。1度目は防いでも2度目では魔物まで引き連れて来た。タイミングが良すぎるし、ルベルトお兄様が襲われた時にも不自然な事があったと言っていた。
カーラスも、記憶が途切れ途切れで不自然。何で自分がその人物に支配されていたのかも分からない。記憶を消された、と考えて何で私達はすぐに気付けなかったのか。
アースラが使うのは忘却の魔法。
記憶を操作したり、逆に部分的に消したり改ざんだって出来るのに。
その可能性を、私達は消していた。いや、もしかしたら――。
「貴方、私達の事を都合のいいようにっ……」
「えぇ、勘が良さそうな人達が多いですからね。大変でしたよ? あと少しで、ウィルス姫を攫えると思ったのに、傀儡が妙な真似をした所為で出来なかった」
すると、彼の体は大きく変貌していく。
地下室であろう部屋に納まらないような、黒い毛の巨体。狼に近いようなその姿に、私は愕然となった。
「っ、魔獣……。貴方、本当は魔獣だったの!?」




