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第177話:起こった惨劇②


ーウィルス視点ー



【抑えろ。俺達に出来ることなどない】




 分かってる……。

 聖獣さんの言葉は理解できる。でも、どうしても許せないって思う。

 



【移動を開始したようだ。こちらも行くぞ】




 さっと背に乗せてナーク君の後を追う聖獣さんに、何も言えずに後ろを振り返る。

 そこでは兵士達に囲まれながら、抵抗しようとしている1組の夫婦。リベリーさんの両親だと言うのなら、もう……。




「っ……」




 何を……考えてるんだ私は。いけない。

 いけない考え方をしている。


 ナーク君の記憶をそのまま見ているからか、聖獣さんの移動速度がいつもより早く感じる。


 思わず後ろを振り返る。リベリーさんの両親が居たと思われる方向を、怒りを覚えたあの王様の居る方向を……。ナーク君が見ていない場面は全部、黒くなって塗り潰されていく。


 それが、世界の崩壊を思わせる様な……不気味な感じ。

 でも、当たり前だと思った。これはナーク君が見てきた事。彼が負っている傷であり、私やレントだけじゃない。同じ里の出身のリベリーさんにさえ言えない出来事。




(過去を覗く事を選択したのは……私だ)




 ぎゅっと、何かに祈る様に手を組む。

 人の過去を見ている私は、それを体験している私は罪なのだろうか。ナーク君が話してくれるまで、待つことが出来なかった私は……。




【ウィルス】

「え……」




 呼ばれ、た。聖獣さんに、初めて……名前を。




【すまない。何度も呼んだが、集中しているからか反応がない。……あとで王子に怒られるのは俺の方なんだ】

「そ、んな事は」

【いいや、ある。あの王子ならあり得る】

「……」




 そこまで断言されるの?

 聖獣さんにそこまで思わせるって、レントは一体何をしたのかと思ってしまう。でも、ギルダーツお兄様もルベルトお兄様も言っていた。例え、身内であろうとも私と話すのはあんまり気に喰わないのだと。


 バーレク君はレントに気に入られているらしいから、その差はなんだと思うと2人揃って言われた事があった。




『年下だから、脅威と見られていない』




 らしい。

 なんだ、脅威って……。頭にハテナが浮かんでいるであろう私に、2人は分からなくて良いと言われてしまい結局、謎はそのままだ。




「あの、なんだかごめんね聖獣さん」

【謝らなくても……。王子が独占したいのにあまりにも、周りの目に触れる貴方の事だ。互いに苦労するだろう】

「……レントに脅されたの?」

【………】




 あり得ないよね、と思いつつ一応質問すれば返って来たのは沈黙だ。

 それはある意味では答えになっていて、私は思わずごめんと繰り返す。


 気にするなと言われても、何だか私の所為で聖獣さんにも迷惑を掛けていたと分かったのだ。謝るのは普通だろうと思う。……普通だよね?



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



【む、ここは……】




 フワリと降りた場所は、ティルさんに案内された秘密基地。

 聖獣さんがナーク君の傍にくれば、運ばれて来たであろう彼は暴れていた。この場所に着くまでに恐らくは何度も、叩いたのだろう。彼の手からは血が滲み出ており、痛そうだと思うも構わずにずっとお父さんを叩き続けていた。




「んで……何であの場から、逃げて来たの!? お母さん、死んじゃったんだよ。ボクのボクの所為で……!!! 責めろよ!!!」




 泣きながらもお父さんを叩く手を止めないナーク君。

 自分が飛び出さなければもしかしたらと、思ったのかも知れない。言いつけ通りに誘導さえすれば良かったんだと。


 父親の約束を破り、少しでも助けになろうとして……母親を死なせてしまった。

 恐らく、リベリーさんの両親はもう……。




「ダメな息子だって怒れよ!!! リベリーと違って優秀じゃない。周りから一目置かれるような存在じゃない、ダメ息子だって……、おこ、れよ……」




 ペチ、ペチと力のない音が続く。

 静寂に妙に響く音。ナーク君のお父さんはそれでも何も言わずに、ただされるままだ。

 怒って泣いているナーク君に優しく頭を撫で、愛おしそうに見ている。




「ダメ息子じゃない」

「……ぅ、うぅ」

「ナークが来なかったら、俺もあの場に居なかった。全滅だったんだ」




 そこで話されたのは、ハーベルト国の王と息子達とでは考え方が違うと言う事。

 王の息子とは思えない程、息子達の方が平和的にかつ誰もが平等な国づくりをしようとしている事を話す。その筆頭がゼスト様だ。




「あの方は他所から来た我々を、南に返そうと努力されている。外交に積極的でないのも、まずは自国から変えて行こうとする意志があるからだ。だからあまり嫌がるな」

「……アイツ、嫌だ」

「はははっ。それだけの文句が言えればもう平気だな」




 いつの間にか泣き止んでおり、ゼスト様が嫌いだと答える。何ともナーク君らしいなと思い、少し笑ってしまった。

 和やかな雰囲気が続けば良いと思っていたが、父親の方が何か気付いたのかサッと周りを見る。


 ナーク君の足首に付けられた紐状なものに、ナイフに自分の血を付けてから切る。スパッと簡単になくなった。それに驚いたのはナーク君だけではない、私も驚いて開いた口が塞がらなかった。




「……」

「どう、したの?」




 その瞳は鋭く、先程までの和やかな父親の表情ではない。

 ナーク君にしゃべるなと言い、彼を隠すようにして立った。それと同時に父親の腕が何かに斬り裂かれる。




「!?」




 右腕はボロボロで、そこから流れる血がダメージの大きさを物語っている。しかも、怪我を負ったのは右腕だけではない。両足、肩も同様に血が流れていた事から、ほぼ同時に仕掛けられたものだと分かる。


 でも、どこから?


 その疑問は私のすぐ後ろに立った何者の気配。

 振り返るのが怖く、知らない間に汗が出ていた。体が酷く寒いと感じる。




「お前は逃げろっ……!!!」




 そして生き延びろと小さく言った言葉にナーク君の目が見開く。 

 ドンッと押されそのままゴロゴロと転がっていく。急な坂道でどうにか止まれば、ナーク君は訳が分からないと言った表情でお父さんが居た場所を見る。


 何度も登ろうとするけど、仕掛けがあるのか上がれない。

 さっと顔色を変えて自分の手が傷付くのも構わないまま、ナーク君は何度も挑戦する。


 やがて自分の手がボロボロになって、両手から血が出ていても動かす手は止まらない。もう何度も涙を流しているが、ポタポタと服が濡れていく。




「……っ……」




 その場にヘタリと座り込む。もう腕は上がらないのはダランとなり、それと同じ位にナーク君の表情は暗い。




「う、あ……お父さん、お父さん……!!!」




 追って来ない父親。それが何を意味するのか、今のナーク君には痛いほど分かりそして辛い事実を突き付る。


 


「ボク……。ボクだけ、生き残っても……」




 静かに泣き続けるナーク君の事をそっと抱きしめる。

 彼には分からないだろうし、何も感じない。これはもう起きてた事……変えられない現実だ。

  

 ふら付きながらも起き上がったナーク君は上がる事を諦めて、この中を進んでいく。薄暗く、道らしい道も分からないのに彼は気にしない。何度か足に何かが引っかかり、よろける時もあった。時には倒れることだってある。


 でも、彼はそのまま歩き続けて――太陽の光に晒された。

 外に出た。空気を吸い、自分が出て来た所を砂で埋めてからまた進んでいく。




「ナーク君……」




 ここまで一言も発していない。

 それが心配で、大丈夫とも言えない自分がもどかしい。せめて彼がどんな状態なのかと前に出て、私は足を止めた。


 今までの、笑顔を向けていたナーク君じゃない。

 その瞳はとても冷えていた。光を失ったように、何もかもが壊れた様な顔をして静かに笑っていた。


 それが……そんなナーク君が怖くて、でもどうにかして手を伸ばそうとして誰かにその手を握られた。




「ウィルス様!!!」




 はっとした。

 私の手を握っていたのは、ラークさんだ。反対側ではカーラスは小声で大丈夫かと聞かれる。


 ………ここは。




「良かった。目を覚ましたね……急に3日間も目が覚めなくて、私達凄く心配していたんです」

「3日……3日、も?」




 ぼんやりとした視界が段々と鮮明になっていく。

 ラーグレスはホッとした表情をしているし、リベリーさんも同様に喜んでいる。

 そこにポスっと柔らかに何かが目の前を覆う。




「ワフッ!!」

「ジル……。心配かけてごめんね」

「クウ~ン♪」




 シグール様の相棒である、ジルが嬉しそうに私に寄り添う。

 カーラスに支えられながら起き上がり、離れた所でティルさんとシグール様が駆け寄ってくるのが分かる。




「平気? こう熱いと気分が悪くなるものだけど」

「気分が優れないなら、氷の彼にお願いすればどう?」

「えと、じゃあ……」




 おずおずとカーラスを見ると凄く嬉しそうに微笑んで世話をされる。


 私はまだ、あの夢の中にいるような……フワフワした気持ちのままその日を過ごした。 



  



 

 


お待たせしてしまい、申し訳ありませんでした。

これからも頑張って更新していきたいと思いますので、よろしくお願いします。

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