表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
212/256

第176話:起こった惨劇


ーウィルス視点ー



 目の前に迫る炎と誰かが逃げ回る足音。それが複数から聞こえ、思わず自分とカルラが体験したあの場を思い出してしまう。




(っ、違う……これは、ナーク君の身に起きた事。私じゃない)

【平気か?】




 すぅ、と私に寄り添うのは聖獣さんだ。

 顔色が悪い私を心配して出て来た様子。大丈夫だと何度も言ってくれた事で、私の方も少しずつ落ち着きを取り戻していく。


 そうしている内、私の目の前で起き上がる人を見る。肩で息をし、顔は見えないがとても辛そうに見える。




「はあ、はあ……。何だって、いきなり」




 汗を拭い、その人物は外へと素早く躍り出る。

 そのまま真っすぐに向かっていく人を見ながら、私はどこかぼうっとしていた。バキッ、と何かが折れるような音と軋む音が聞こえ「あっ」と自分の状況を思い出す。


 私の方へと向かって来る木の柱、既に動かない人を見て思わず手を伸ばす。それを聖獣さんが防ぎ、背に乗せてそこからの脱出を行った。




【無駄だ。過去への干渉は元より、既に起こっている事を変える事など出来ない。そこまで魔法は万能じゃないし、そんなものは許されない】

「っ……」




 そう、だ。

 ここはナーク君が育った場所で、ハーベルト国に襲われた。それを変える事は出来ないし、それをしたことで未来に何か知らの影響を生んでしまう。


 万能じゃない。

 

 分かっていた筈だ。

 ラーファルさんからも、私とレントが結んだ刻印が危険なものである事。互いの魔力が高くなかったら2人して魔法を扱えなくなるというリスクがあり、そういう表に出てこない魔法は確実に存在する。




「……。ごめんなさい。聖獣さん、ナーク君の後を追って!!!」




 これを見て私が泣くのは間違っているのかも知れない。


 私はこの時、カルラと生活している事にも慣れて来てのんびりとしていた。リグート国には着いたけど進展がなにもなく、猫の姿で出来る事などないに等しい。


 人の噂や話し声から得られる事はない。魔法について理解がある人は、どうしても城に集中してしまう。何度も中へ入ろうとして、何度も見張りの人達に丁寧に追い出される日々。



 私が過ごしている間、他の人達の身に起きた事は知る機会がないのは当たり前だ。だから、それに後悔するのは止める。


 今は出来る事を。私にしか出来ない事をやってみるだけだ。

 いつの間にか流れた涙を拭い、決意を込めて聖獣さんにお願いをする。そうした決意を汲み取ってくれたのか、彼は分かったと頼もしい声で答えてくれた。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 夢の中とは不思議なものだ。

 初めての体験もあり、少しずつだけど私の身に起きている事が理解し始めている。


 まず、私と聖獣さんの体は周りから全く見えていない。当たり前な事だけど、少なくとも私はそれを納得するのに時間がかかった。

 次に実体がない。自身の体が半透明であり、これは南の国で1度起きた事だからすぐに理解出来た。




「不思議な、感覚……だね」

【俺もこうして空中に止まれる事は助かっている。夢とは言え、逃げ惑う人々が、自分の体がすり抜けられていく感覚は慣れない】




 密かに息を吐いた聖獣さんも安心した様子。

 私も同じ感じだよと意味も込めて、安心させるように撫でれば【すまないな】と軽く返される。


 気のせいではない。聖獣さんは凄く優しくなっている。

 それが嬉しくてクスリと笑うと、聖獣さんの尻尾は照れたように左右に揺れる。




【よし、彼を見付けた。行くぞ!!】




 流石と言うべきか目が優れているのか、目標のナーク君を発見した。

 突進するように空を駆け、彼の背後へと回る。


 一方のナーク君は当たり前だけど、気付く事はない。必死で何かを探している様子なのか、周りを見ながらも倒れている人を立たせて遠くへと逃げるように指示を出している。




「うぅ、ナーク……」

「ごめん、遅れた。リフィさん、風が南から流れてるから逆から行って」

「でも、お前は」

「ボクは父さんと母さんを探す。何処かで見なかった?」

「ごめん。見て、いない」




 同じ里の知り合いだろう。

 ナーク君より年上で、リベリーさんと似た様な年齢の男性だ。そうか、お父さんとお母さんを探して必死なんだ。

 答えを聞いたナーク君は、心当たりがあるのか迷わずに真っ直ぐに進んでいく。あとを追って行けば、火の手がない場所に出た。


 ただ、その光景は異様だ。

 2組の夫婦が兵士により囲まれている。その回りは同じ里の人達だろう。全員が倒れ誰も動いていない。




(死んでいる……。じゃあ、あの夫婦達は)




 中には子供だっていた。

 抵抗しようとしたけど、返り討ちにされた。じりしりと迫る兵士達の中に飛び込んで来たのは、ナーク君だ。


 一気に3人を無力化し、4人の前と守るようにして兵士達に立ち塞がる。


 そのスピードが、速すぎて私には理解が追い付かなかった。あっという間過ぎて、ポカンとしていた。




「ナーク、何で来た」

「お父さんとお母さんを置いてなんて出来ない。リベリーのお父さんとお母さんだって同じ。再会したら1発殴らないと気がすまない」




 リベリーさんの……?

 試しに赤い目の女性の腕に触れる。当たり前だけど、私の体は透けた。現実じゃないって分かっているけど、何も出来ないままなのはもどかしい。


 そこに兵士達が左右に分かれ、道を開けた。

 歩いてきたのはお腹を大きく突き出た男性。着ている服は高い物ばかりで、この場には不釣り合いな格好だ。

 長い髭を触りながら、気持ちの悪い目でナーク君を見ている。




「今なら、まだお前達だけは助かる」

「なに……」

「ふざけるな!!! いきなり襲って来て、なんのつもりだよ、バカ王!!!」




 ピクリと、バカと言われた人物は分かりやすい位に眉をひそめた。

 ナーク君は怒って、今にも飛び掛かろうと動く。でも背後にいたお父さんと思われる人が、止め周りを見ろと冷静になれと抑える。




「っ。でも!!!」

「うるさい奴だな」

「うあああっ……!!!」



 

 バチン、と突然の雷がナーク君を襲う。その衝撃が強いのか、ヨロヨロと倒れた。何が起きたのかと思わず「大丈夫?」と言いそうになるのを我慢した。様子を見ようと近付けば、倒れながらもナーク君は負けじと睨んでいる。




「ふんっ、生意気なガキだな。お前達は奴隷であり、ワシの所有物だぞ?」

「う、くぅ……」




 何とか起き上がろうとするけど、さっきの雷の所為なのか力が入っていないように見える。すると聖獣さんが【奴隷……。そうか】と納得したような声色を発した。




「聖獣、さん?」

【ずっと不思議に思っていた。さっきの動きもそうだが、暗殺者としての技量がある割に……何故、反撃しないのかと】

「……何かが、彼等の動きを封じてるって事?」

【恐らく魔力封じの物と似た様なものだな。彼等は契約しなければ魔法を扱えないが、それでも無意識の内に体中に魔力を巡らしている】




 だから身体能力は高いんだという説明に納得した。

 でも、ナーク君達には目立ったような、私が付けられた物はない。

 

 一体、何処にあるのだろうかと彼の周りを回る。足首に黒い紐のような物を見付けた。……あれ、かな。




「逃げなさい、ナーク!!!」




 聞こえた方へと目を向ければ、リベリーさんの両親が数人の兵士達を相手に戦っている。その間、王の様子は驚愕と体の震えからか「何故だ」と繰り返し言っている。




「何で物が歯向かうなどと……!!! 貴様等、何をしている反撃しろ」

「危ないっ……」




 起き上がるのに時間がかかるナーク君へと向けられた剣。

 それが真っすぐに振り下ろされる、その寸前。女性がナーク君を抱きしめるようにして守る。




「あ、そんな……。そんな……」




 何度も違うと繰り返し、認めたくないからとナーク君は叫ぶ。母親がナーク君を守ったんだ。背中から血を流す母親は、苦しそうに息を吐いている。思わず、聖獣さんの方へと寄りかかる。


 大きなしっぽが私の頭を撫でるように動き、【辛くとも、今は見るんだ】と厳しくも優しい声色で伝えてくれる。




「ナー……ク。貴方、は……にげ……」




 ナーク君の頬を撫でようとしている。でも、その前にパタリと力を失くす。完全に動かなくなった母親をナーク君は強く抱きしめ、何度も苦しそうに言った。


 嫌だ。何で……と。




「うああああああっ!!!!!」




 ナーク君の獣のような叫びが聞こえる中、対峙した王は満足げに笑っていた。

 物が歯向かうからだ、と。


 人を人とも思わないその言葉に、私は怒りを覚えた。


   

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ