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猫になった私は嫌いですか  作者: 垢音
王子と彼女との出会い篇
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第20話:兄の政略結婚②

ークレール視点ー



 私はこの人が嫌いだ。


 この人、と言うのはリグート国の第1王子であるバーナン様だ。国 王と弟と同じ銀髪の髪、そして同じ水色の瞳……雰囲気も国王に似ている事から、自然と期待を寄せられる。

 彼の妃になろうとする令嬢達は公爵から男爵家まで数多くいる。国民からの好感度も高いと言う完璧な第1王子。


 孤高であり、誰にも隙を見せないと言う彼だが家族は大事にしているようで、5つ下の第2王子のレント様とお城に居る時にはまた違った顔を見せる。



 仮面を張り付かせたような笑み、傍に寄らせないような雰囲気。


 それが私が抱いた彼の印象であり嫌いになった部分。


 でも、弟と話している時の彼は完全に兄として振る舞うその姿に……驚いた自分がいる。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「クレール……断らないよね?」

「……」




 目の前には変わらない笑みのバーナン様。

 ただし、私の隣にごく自然にいる。……距離が近くて、ちょっとずつ移動するも、彼も追って来るから諦めた。


 今、2人だけでいるこの場所は屋敷の中でも一番奥の部屋。

 いきなり屋敷に来たバーナン様は私に妃になる為にと婚約を申し込んできた。……とりあえず、腹に一発殴った。


 お父様、お母様、使用人達には見えない。この部屋に通したその瞬間に行ったからだ。


 語らいだけの部屋。

秘密裏に話したい事、諜報員の報告を聞くのにこの部屋は使われていた。

エドリック家は子爵と言う爵位だが、実際は公爵家であったと常々お父様からは聞いている。


 騎士として優秀な者も多く、私も女ながらで騎士をしているのもある意味ではこの家のお陰だとも言える。様々な貴族の家の意地悪はあった。なんせ、王族に忠誠を誓い傍に控えていたのだ。彼等の恩恵も少なからず受ける訳であり妬みの中心に晒された。

 


 でも、何代目かの継いだ長男なり長女には、その妬みに晒される事に耐えきれずに倒れたそうだ。ストレスにより体調を崩し、万全になった時には、言いように叩かれ酷い噂が流された。


 「おい、エドリック家の者が倒れたそうだな」

 「まぁ、王に負担が掛からなければいいですね」

 「聞いたか? あそこの家は薬物をやっているだそうだ」

 「あらあら。品がないこと」

 「あれで王に忠誠などと……」

 「どうも、高級品を幾つか独占もしているようだ」



 当時の王は、何度も不要な噂を立てるなと言ったそうだ。でも、王族が守れば噂に火が付く。勢いが増していく仲で、ついには格を下げると言う事態にまで発展した。


 当主となった者はどんな出来事があったかを日記として書いている。だから、今まで家督を継いだ者達の歴史を知っている。お父様はそれを私に伝え、貴族として目立つより騎士として功績を残せとでも言いたかったかも知れない。


 しかし、レント様の婚約者の立候補として名乗りを上げろと、言うのだ。お父様はまだ諦めていないと、読み取れた。




「はぁ……」

「え、平気? 今日、激務とかだったの?」

「いえ、そう言う訳では……」




 いけない、いけない。つい、余計な事を考えてしまい溜息が漏れてしまった。バーナン様の服装も、いつもと違うからだと考える。


 

 彼は式典や外交で赴くような服装を着ていた。水色のスラックス。上着は少し淡い色の水色、金の飾りが花のように彩られ、胸元を華やかにする。

 その飾りに、エメラルド色に染め上げられた羽が添えられており、頭には同様の羽で作られた髪飾りを付けていた。




「……正装、ですよね」

「婚約を申し込むんだよ、本気を出さないとね」




 そう言いながら、ストンと彼の膝の上に自分の頭が置かれた。その直後、使用人が紅茶とクッキーと言った軽めのお菓子も持って行き、ピタッと止まる。


 ノックしたからと入る許可を出した途端にこれだ。ワザとね、何が面白いの!!!




「彼女、ちょっと疲れた様子なんだ。その紅茶とお菓子、ここに置いといて貰ってもいいかな?」

「は、はい……。も、申し訳ありませんでした!!!」




 間違ってない。バーナン様が悪いの、全部この人が悪い。

 タイミングも何もかも、全部計算尽くしてやるから嫌いなのに!!


 顔を真っ赤にし慌てて出て行く様を見て、既に屋敷の使用人達に知られるだろうなと思う。お父様、お母様になんて説明をすれば……と、人が考えを巡らせる中でバーナン様がクスクスと笑う。




「いやー、面白い位に引っ掛かるね」

「……」




 無駄だと分かりつつ、彼を睨み付ける。相変わらず、端正な顔立ちに微笑みを崩さない姿勢。レント様とは違い、こっちは胡散臭い笑みだ。




「レント様の方がまだ良いです」

「……」




 さっきまで笑みを浮かべていたバーナン様が、驚いたように目を見開き笑みが消えた。それにゾクリと背筋を凍らせたが、彼の方が早く動いた。

 手を封じられたが、フワリと風が舞ったような髪を見た後にごく自然にキスを受け入れていたのだから。




「!?」




 自分でも驚いた。

 訳が分からず暴れようとするも、男と女とでは力に差がある。少しの我慢、我慢だと思っていると意外にも早くバーナン様は離れた。と、同時に頭突きをして蹴り上げる。




「う、ぐっ……!!!」




 その時に床に転げ落ちたとか、王を蹴ったとかそんな事よりもいつも笑顔なのに、急に真剣な表情しないで。


 心臓に悪すぎ。だから、こんなにも顔に熱が集まるんだ。バーナン様には1度仕えた身だ。それはまだ構わないが、隣にしかも……妃として傍に居て欲しい、となると別問題だ。




「いたたっ、頭突きと蹴りとは……予想外な事するね」




 そう言いながら、すぐに顔をそらした。頬が赤くなっている事で分かった。蹴り上げたまま、足を降ろしていなかったんだ、と。


 つまり──。




「み、み、みみみみ見るなあああぁぁぁ!!!」

「それはごかっ……!!!」




 問答無用でビンタした。馬鹿力は凄いわね、バーナン様が吹っ飛んだもの。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「その見返りは、公爵と名を上げれると言う事。それを条件にしてくれるなら、お父様は泣いて喜びます」

「名誉の回復に繋がるなら良いよ。クレールはウィルスの事を気に入っているんでしょ?」

「まぁ、それは……」



 さっきまで晒した醜態は互いに無視して、話を進めていく。


 自分に来るのは交際の申し込みのみか、騎士団の仲間のように訓練をするかの2択しかなかった。だからウィルス様みたいに、私を慕ってくれた人は……今、思えば居なかった。




「クレールさんがお姉さんなら、下の子達は安心ですよね」




 ウィルス様にそう言われ思わず頭を撫でてしまった。レント様がよくやるのを見ていたから……つい、やってしまった。そしたら笑顔で「ふふっ、クレールお姉さん。……なんちゃって」と、イタズラが成功した顔をした。


 物凄く可愛い笑顔に、私の心がコロッと彼女に傾くのは当たり前だ。笑顔が癒やされるんだ。レント様は幸せいっぱいになる筈だし、私も幸せだ。




「妹の為にこの身を犠牲になるのは構いません」

「……え、そこまで? まず妹って誰?」




 顔に叩かれ跡を残しながらバーナン様は訪ねる。しかしすぐに誰か分かったのだろう。「手強いな……」と困ったような表情に、何故そんな顔をするのか疑問に感じたが質問はしない。




「ウィルス様の件が片付くまで護衛を離れる気はないんですけど」

「そうしてくれないと困るからね。あの子、レントの隣に居たいのも含めて表に出るって事だし。ほら、女の暗殺者とか出て来たらリベリー達だけで対処するのは難しいからね」

「……」

「ウィルスから聞いてた?」

「いえ。ただ、ウィルス様が目を覚ましてからレント様が、積極的に隣国のディルランドに連絡を入れているのを見ていますから……ウィルス様もラーファル様と居る事があったので」




 何か理由があるはずだと、そう付け加えればバーナン様は「流石」と褒めてきた。


 ウィルス様をレント様の婚約者として表立つ事。

 今までレント様に婚約者として名を上げていた令嬢を含めて、貴族を黙らせる事らしい。同様にバーナン様にも婚約者として、私が隣に立てば2人にこれ以上の縁談はないはずだ。


 披露するのが夜会で、と言い何故レント様がディルランドと密に連絡を取っているか気付いてしまった。




「あの、もしかして」

「うん。隣国も承知してる事だよ♪ まぁ、細かい所は幼い時からの付き合いのあるエリンス殿下に任せるけど」

「……ちょっと、待って下さい。何がなんやら……」




 クラッとなる頭に自然と体も落ちていく。

 さり気なく引き寄せられ、今度はそのままお姫様抱っこ。無抵抗なのが良いのかずっとニコニコとしている。




「ほら、公爵家は1つ潰したし空きはあるしね。不満があるなら今度こそ黙らせる」




 前言撤回。そうでしたね、貴方はそう言う人だ。大事にしている人が痛い目に合えば、倍返しは当たり前。報復に近い事をサラッと何気ない顔をしてやるんだ。


 笑顔で毒を吐くなんて普通なんだ、この人は。




「せめて、私の前では止めて下さい。辛そうにされるとこっちも辛いですから」

「ク、レール……」




 思わずバーナン様を抱き締めていた。毒を盛られ昏睡状態に陥ったこの人は……毒から回復した後。それから変わったとジークは言っていた。


 笑顔は変わらないが、前よりも近寄りずらい雰囲気である事。常に人を疑うようになり、報告に来る部下やジークやバラカンスとも一定の距離を置いていた時期があったと言う。

 唯一、警戒がなくなるのは家族の前だけ。


 彼は……それにしか安らぎがないのだと。

 壁を作り、人を遠ざけても、彼は王族であり第1王子の立場がある。常に彼の周りには期待がある目、令嬢達からは自分を妃にと注がれる視線に晒される。




「私なんかでバーナン様の安らぎにはなりませんが。……せめて、今は気を楽にしていて下さい」




 隣に座らせもらい、ずっと頭を撫でていた。バーナン様は何をするでもなく、ただされるがまま。やがて彼の目が少しだけトロンとしているのが目につく。




「ねぇ、クレール。……お願いがあるんだけど良い?」

「私が出来る事ならばなんなりと」



 向き合い視線を外す事なく伝えれば、彼は少し考えて気まずそうに言ってきた。




「なら……クレールにやった、膝枕……をして欲しいんだけど」




 バーナン様が気恥ずかしそうに言う。

 さっき私にもしてきた事を、何故自分が言う時に限って顔を赤らめるのか。普段は笑って誤魔化すのに、こういう不意打ちは……心臓に悪い。


 こっちまで気恥ずかしくなってくるではないか。




「良いですよ。夫婦になるんですから」



 そう言ったら、ぱっと見て花が咲いたのではないか、と思う位に明るくなる。……キュンとなるな。これは、そう……ウィルス様だと思えばいい。あの子の笑顔だと思えば軽い、軽い……筈だ。




「ありがとう、クレール♪ これからもよろしくね、私の妃」




 子犬が尻尾を振るかのような喜びようのバーナン様。

 密かに妃と言われ、ドキッとなる。すぐにはっとなり、幻聴だと頭の中で繰り返す。


 そんな私の気も知らないバーナン様は、嬉しそうに膝の上に頭を乗せてくる。そのまま、彼が眠りにつくのは早かった。


 自分より年上の寝顔を見るとは思わずに、ついマジマジと見てしまう。寝ている姿は無防備そのものでほっとした。



 いつか彼が心の底から笑ってくれるのを願う。他を威圧するでもなく、萎縮させるような笑みではないものを。だから、彼の耳元で囁いた。せめて、彼が心地良い夢を見れるように、と。


 


「幸せな夢を見て下さい、バーナン」

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