第175話:秘密基地
ーウィルス視点ー
シグール王子の言う兄は、交流したゼスト王子の事を指しているのは分かった。ただ、彼から見た兄は私達が話すのと同一人物なのかと疑っているのだ。残念ながら私達は彼を詳しく知らない。
この中で誰が一番、接触しているのかと言えば……私だ。
その後、私の印象だけどなんとか伝えた。シグール王子はその間、思案するようになのかずっと目を閉じている。
「うん。ありがとう……私が居ない間、そんな事になっていたのなら国もかなり荒れただろうね。そして――」
そう言うと私に向けて頭を……下げた。
突然の事に私はポカンとして思わず、レントに求める様な視線を送ってしまった。いつもなら彼からはアドバイスが心の声として聞こえて来る筈なのに、やっぱり聞こえない。
……刻印が不具合でも起こしたのだろうか。
「恐らく、あの人が差し向けたんだろう。姫の噂を聞いて是非にと、何度も国王同士で連絡をしていたようだし」
「噂……ですか?」
「えぇ。姫がとても美しく、愛らしい方であること。加えてバルム国は南と同様に、魔力に長けた国と資産が豊富だ。諸外国とも交流をしているし、大国の1つを手中に収められれば……とでも思ったんだろうね」
な、なんだか、褒められているのが恥ずかしくなる。
と言うか、い、いつから噂になっていたんです。誰がそんな事を言いふらしたのかと巡っていると、カーラスが補足とばかりに私に教えてくれた。
「姫様の容姿が美しいのは勿論ですが、溺愛するあまり国王自ら外出を控えさせていました。余計な虫を付けたくないからと言う理由ですし、王が認めた相手とでしか姫様と会わせないようにしていました」
そ、そうなんだ……。
余計な虫って……何?
「だから諸外国も含め、同盟をしていない国からは姫様を我が物にしようと各国の王族を勧めて来ましたよ。大国の姫様、というだけでも得られる富は多いですからね」
「……多分、リグート国のレント王子と会ったのが悔しいんでしょう。あの時の姫様は、王子と会った時の事を話すと凄く嬉しそうにしていましたし」
ラーグレスがとんでもない爆弾を言うから、顔を真っ赤にして口を止めさせた。じ、自分だと美しいの基準なんて分からない。周りが言うだけで、本当にそうなのかも怪しいものだ。
むむむっ、と唸っているとナーク君が「可愛い♪」と言って抱き着いてくる。
思わず「ゆ、許す」と言った私は悪くない。……何だか暖かい目で見られたけど、気のせいだ。
「南の次に水の資源が多いのはバルム国だ。しかも、その姫様は美しいと噂しているしどんな人物なのか、情報が全然ないからね。狙う国は東だけではなかったと思うよ」
そう何回も言わなくて良いと思うんだ。
シグール王子が意地悪で言っているように思えるのは何故なのか。話がそれたけど、彼は父の行動を止められなかった事で被害が出た事を悔いている様子。
「……私は復讐をしたくて、ここに来ている訳じゃないんです」
それを聞いて驚いたように目を見開かれた。
東の国、ハーベルト国に行くのは魔獣の製造を止める為。私の魔法が……白銀の魔法ならそれを止められるかも知れない。
魔獣に憑依されて元に戻らないからと、殺されてしまう人を助けられるかも知れない。実際、ナーク君がそうだったし南の国でも騎士達が魔獣にされるのを止められた。
アーサーさん、エファネさんの事も元に戻せた。
聖獣さんがこれらを終わらせたいと願っている。私も……同じ気持ちだ。帰る場所を失って、前に進むのも苦しかった。本当ならそれを実行した人なり国に対して、復讐したいのかも知れない。
私がその気持ちに陥らなかったのは、飼い猫のカルラが居てくれたから。
あの子も私と一緒に、苦しい時間を過ごしたけど……支えてくれたのもカルラだ。
「それにレントに出会って、様々な人と触れ合えました」
あの時、幼い時に彼と会っていなかったらリグート国に行こうと考える事が出来なかった。また会えるのを約束しなかったら、多分……私は復讐しようと考えていたかも知れない。
お父様も、お母様も居なくて友人と呼べる人も居なくなった。
よく話す女騎士さんとも、もう会えない。
憎いという気持ちも、確かにあったのかも知れない。
本当なら忘れたらいけないもの。ナーク君と会って、危ない目にもあったけれど。ギルダーツお兄様、ルベルトお兄様と会って、魔女のネルちゃんもミリアさんとも親交が出来た。
色んな人達との交流で、私はそれだけじゃダメだと思ったんだ。
「貴方のお父様は許されない事をした。事実、なのかも知れない。でも、それで私が復讐したとしても何も生まない。……私みたいな人を増やさない事が、大事なんだと思うんです」
魔獣だって、こんな形で生み出されたくはなかったんだと思う。
でも、昔は珍しい魔法を使えるからと言う理由で独占していた時代だ。私が想像しているよりも酷い事だって、行われていたんだと思う。
自分の故郷に帰れない。生まれ育った場所に帰りたいのに、それすらも許してはくれない国の王族達。
死んでからも道連れにしようとして、自分達を縛った国を滅ぼした。それでも魔獣が未だ、この世にいるのは恨みが晴れていないから。もう恨まなくてもいいのだと解放させないと、いけないのだと思う。
「魔獣が悲しみから生まれるなら、それを全部終わりにさせたい。ここにはそう言う理由で来ました。危険なのも理解しています。シグール様も、悪いと思うのならきちんと止めて話し合うべきです」
自分では上手くいったと思う。
なにもレントが行くからと、彼と一緒に行動するからじゃない。私も私の意思があって意見を持っている。
ちょっと胸を張っていたら、シグール様はポカンと口を開けたまま固まっていた。私の意見が意外なものだったのか、もしかしたら罵倒されるとでも思ったのだろうか。
レント達の事を見ると、シグール様と同じ反応だ。
驚いたように、皆で固まっているんだ。
【今代の使い手は考え方からして違うようだな】
聖獣さんの声が首元のチョーカーから聞こえて来る。
だけどすぐに私の背後に現れた聖獣さんは、この洞穴の空間も考えての事だろう。狼くらいのサイズになった。
【今までの使い手達は、自分達の事で必死な者達が多かった。どうやら考え方を変えられる存在が近くにいる影響、とも言えるだろう】
な、なんだろう……。
聖獣さんから暖かい視線を感じる。いつも見守っているような視線じゃない。微笑ましい感じで見られているのが、恥ずかしい。
「ふっ……。あははははっ」
「え」
シグール様が、突然笑った。口を開けて思い切り、だ。
それに驚いているのは私だけじゃない。レント達だって驚いてるから、本当にビックリだ。
「そうか……貴方は、そう言う考えを持っている訳か。この国に居ると毒されているんだって分かるよ。報復が普通に行われているからだし、それに……随分と昔の事も思い出した」
ありがとう、と私にお礼を言った。
そのまま立ち上がるとティルさんに言っている。どうするのかと思っていると、これから秘密基地に行くんだという。
「秘密、基地……?」
ティルさんは何だか嬉しそうにしている。笑顔で「良いわよ」とパチンと指を鳴らした。途端に、グニャリと何かが歪んだような感覚に陥った。酔った感じになって、フラッとなる所を聖獣さんが咄嗟に支えた。
【瞬時に移動したんだ。酔うのは仕方ない】
移動、した……?
まだ上手く処理が出来ていない中で、ティルさんは言った。秘密基地とはハーベルト国からは少し遠い場所。だけどナーク君とリベリーさんはどこなのかを分かった様子だ。
「ここ……ボク達が、育った場所だ」
私達はトルド族が暮らしていた里に、一瞬で移動していたんだ。




