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第172話:強運


ーナーク視点ー



「主!!!」




 ウィルスが王子にと魔力を渡す。


 その行為は彼女達にとっては危険を伴うものだと知っている。ラーファルさんからその注意をされた場面の時、ボクも一緒に居たし呼び出しもされていた。

 彼女が無茶したらボクが代わりにって言う意味だとすぐに理解のに時間はかからない。




『もう、大げさだよ。そんな無茶はしないって』




 それを言った時、ラーファルさんには小声で『無茶するよね』と確認をして来るから無言で頷いた。2人で納得した表情をしているとますますウィルスは、そんな事をしないと言うけれど……ごめん、信用できない。


 だから、だからボクが代わりに魔力を渡すって言うのに!!


 思わず治療を実行したティルって言う人を睨む。例え、ウィルスが心配ないと言ってもボクは信用できないから。




「睨むなら彼の様子を見なさい」

「え」




 支えている王子を見る。

 さっきまでうなされていたのに、今では落ち着いた呼吸をしている。汗も引いているし、何より王子の魔力が荒れていたのに静まっている。




「ど、いう……」

「本来、解毒にそこまで時間をかけない。どんなに特殊な毒でも自然や魔物といた元がある」


 


 自然に生えている薬草は少なからず解毒を促すものを持っている。魔法の生成にはそうはいかない理由があると言った。




「毒は薬になるとは考えられた言葉よね。扱う人間の気持ち次第で本当にそうなるのだから」



 

 特殊な毒に魔法が加わる事で新たな毒が生まれる。

 彼女が言うには、薬草の中でも希少価値のあるものなら解毒は出来るだろう。だが、そこに魔法が加わるとなると性質が変化するとも言った。




「薬の効果はあくまで毒を和らげ、自然治癒を活発にさせるというもの。魔法で変化した毒はその活発を遮る。薬との相性は悪い」




 だから王子は幸運だと言った。

 普通なら即死。刺された時点で意識を失いながら、そのまま息絶える。


 そうならなかったのは、王子が耐性を持っていた事と魔法を扱えるから。変化した毒は魔法による改良版。毒の進行速度もかなり遅くなっていたからこそ、ここまで時間が空いていても平気だったと彼女は告げた。




「あとは、そうね。……貴方達の魔法のお陰ね」




 ほら、とボクへと指をさす。

 未だに体に纏わりつくようにして光る、白銀の光。それが王子へと流れ込んでいるのが見えて、次にウィルスの方にも伸びている。


 白銀の魔法のお陰……。そう言いたいのかと思って見つめていると、肯定するように頷かれる。




「その魔法は今までの使い手と随分と異なる。彼女は治癒に特化したからといって、こんな劇的な変化は今までなかった事よ」

「なかった、こと……」




 今までの使い手と異なる。

 憑依された魔獣を元に戻す力も、今までなかった。もし居ればこんなにも長い戦いを強いられる事はない。


 そう話すティルは、とても悲し気で何で今になって、こんなにも強い力が生まれたのかと呟いた。




「とにかく。彼も彼女もかなりの強運だと言うのはよく分かった。……本来、こんなに立て続けに魔女と出会うなんて事本当ならないんだから」

「……」




 強運……。

 ボクもリベリーも魔女の存在を知ったのは王子達と出会ってからだ。そこに至るまでに時間は掛かったけれど、彼女の言う様に連続で魔女に出会う事なんてまずないんだろう。




「……」




 その時、ピクリと王子の手が動いたような気がした。

 思わず握る手が強くなってしまう程、今のボクは余裕がない。


 うっすらと目を開ける王子は、ボクの姿を見て「痛い……」と小さくだけど訴えた。

 ハッとなりギュッと握っていた力を弱めていく。すると苦しそうにしていた表情も徐々に薄れていく。




「こ、こは……」

「まだ話すのはダメ。彼女の魔力を貴方に移している最中だから、そのままじっとして」




 起き上がろうとする王子を止める。

 体力も減っていたから黙って頷く事しか出来ない王子に、本当に毒は抜けきったのかと心配になる。


 それから周囲を見たりと視線を動かている王子の隣で、ウィルスが目を開けていく。ゆっくりと徐々に開けていく様を見て、やっぱり魔力を渡すと言う行為が危険なものだと実感させられる。


 ……もう2度としないでって言わないと次もやる。


 そう確信が持てるのは、誰よりも助けたいという気持ちがあるのを知っているから。ディーデット国でも、自分が狙われているのに優先したのは憑依され魔獣へと変化していく兵士達。


 近くにカーラスさんが居なかったら。

 誰も味方が居なかったら、あの時に攫われていた。今も居てくれる事がどんなにほっと出来るのか……多分、彼女は知らないだろう。




「レント……?」




 隣で同じように横たわる王子を呼ぶ。

 ウィルスより目を覚ましたのが早かったからか、反応は少し早かった。何も言わずに頭に手を置き撫でる。

 小さな子供をなだめる様なその仕草に、ウィルスはごめんと謝った。


 


「事情は後で聞くけど……無茶した自覚、あるんだね?」

「はい……」

「それは私を助けたかったから?」

「もちろん」

「……」




 秒で答えるウィルスに王子の方を見ると、頬をほんのりと赤く染まった珍しい反応だ。

 さっと視線を逸らすも、見られていた自覚があるからかすぐに睨まれた。




「はあ……叶わない」

「……?」

「だから……。あぁ、もうなんでもない。ウィルスは悪くないから」




 ため息交じりで言う王子にウィルスはキョトンとして、ボクに意見を求めて来る。無自覚で王子の心を乱しているのが分かり、どう答えようかと思って考える。

 すぐに起きられないけど、抱きしめるのは出来るらしい。

 離さないとばかりにウィルスを抱きしめ、ボクに見張る様にと脅してくる。




「どんな時も離れないで」

「うん」

「怪しい奴は片っ端から叩きのめして良いから」

「うん、分かった」




 王子の言葉に頷いているとウィルスが「ダメ。叩きのめすとか、絶対ダメ」と抗議してくる。主が大事だけどその言葉は受け付けない、ごめんなさい。




「うぅ……ナーク君のバカ」




 態度からそう察したウィルスから恨めしそうに言われる。

 気にしないでいると一連の流れを見ていたティルさんからは、何でか微笑ましそうに見られて居心地が悪い。


 ちょっとだけ、ウィルスの言う「空気が嫌だ」と言う意味が分かった様な気がする。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「起き上がれるまで回復したけど、まだ歩くのには難しいから手を貸してね」

「はーい」




 王子を支えるようにして歩き、ティルさんを先頭に元の道へと戻っていく。そう言えばリベリー達の事を置いて来たの、忘れてた……。嫌な汗が流れるのはカーラスさんから睨まれたくないからだ。


 さっきまで光で満たされていた空間は、もうすっかりなくなっている。

 光が止んだ時にボクとウィルスに纏っていた光も消え、今は普通だ。そう言えばあの現象はなんだったのかな。




「あの緑の石には風の力が付与されているの。王子は風を使うから相性がいいと思ってあそこに案内したの」




 王子の方に指を向け、そこから光が灯る。半透明な光は水面が揺れるように動き、何を起こすのだろうかと3人で様子を見る。




「あ……」




 ウィルスが声を上げ、ボクと王子も驚いてそれを見た。

 水面が揺れたかと思ったら急に大人しくなり、王子の事を(うつ)す。魔法で色を変えていた筈なのに、すっかり元の色に戻っていた。


 銀色の髪に、エメラルド色の瞳。いつもの王子の姿だ。




「いつ、から……」

「気付かなかった? 解毒が済んでから徐々にだけど、確実に戻っていったの」

「そう言えば、貴方は一体」




 あ、王子に説明するの忘れてた。

 ウィルスと2人掛かりで魔女である事と、ボク達を攫ったのがハーベルト国の第2王子であると言うのも含めて。




「………」




 頭を抑える王子は「困ったな」と告げる。

 まぁ、逃げたくても逃げられないよ向こうは。服、持ってなかったと思うしね。

 そう思っていたらティルさんからとんでもない事を聞く。




「彼、私と協力関係なの。良い機会だから教えておくわね」




 驚くボク達を他所に、彼女はリベリー達の居る方へと戻っていく。王子の毒は解決したけど、どうやらまだまだ問題がありそうだ。


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