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第171話:治療開始


ーウィルス視点ー



 ティルさんは私にと自分の着ている服よりもサイズが小さめのをくれた。お湯を掛けられた服は未だに乾かないけれど、あのままだと上せるだろうと思っていたので助かった。


 ほっとした様子で着る私に、ティルさんは何でかニコニコと笑顔を向けている。




「あの、何か……」




 思わずそう聞いたのは仕方ない。

 初めて会った筈なのに、彼女のが私を見つめる目は何度も会ったかのような表情だったから。

 首を傾げているとティルさんは「ごめんなさい」と言って、王子の刻印から私の事も見ていたからだと嬉しそうに答えてくれた。


 刻印……。

 あっ、と思って私はレントに祈る様にして呼びかける。だけど、やっぱりと言うべきか反応は起きない。


 リベリーさんが来るまでに何度か試したんだけど、いつもならレントの声が聞こえる筈なのに全然聞こえない。今までだってこんな事はなかった。何でなのかと思っているとティルさんは教えてくれた。


 彼は奥に居るから、と。




「元々、ここには魔力を溜めておく性質の石が多いの。天然の温泉が出来上がるから湯加減はどうだったのかしら」




 レントの所に案内してくれるからとティルさんについていく。

 彼女の説明に頷きながらも、私は殆ど聞いていない。早くレントの様子を確かめたい、本当に毒で動けないのかと心配で堪らない。




「心ここにあらずって感じね」

「っ……。すみません」




 本当の事だから謝った。

 丁寧に説明してくれるティルさんには感謝したいけど、今は早くレントに会いたい気持ちで一杯だ。

 サソリが刺し動けなくした。

 そう聞き、毒の種類が分からないのでは本当にそれだけなのかと心配になる。


 多分、顔が真っ青だったのだろう。

 ティルさんが背中を支えながら「不安がらないで」と、優しく言ってくれる。




「っ……ごめ、なさい……」



 

 ポタポタと流れ出るのは私の……涙だ。

 もう、前が見えない程に泣いている私をティルさんはそのまま黙って傍に居てくれた。


 声をかけないながらも、手はしっかりと握ってくれる。ちゃんとレントの所に連れて行こうとしているのが分かる。それに感謝したいのに、私はずっと泣きっぱなしになった。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「石に魔力を溜める力があるなら、その元があるのが当然なの」




 大分、涙も引いた頃だ。ティルさんが案内してくれたのは洞穴の中でもかなり奥。温泉があった場所も少し寒かったけれど、ここはその倍以上に寒さを感じた。

 そこにピタっと背中に感じる体温に思わず振り向いた。


 ラークさんから服を取り出して、新たなに服を着替えたナーク君が居た。




「平気?」




 思わず何で居るのかと言いそうになるのを飲み込んだ。

 彼は私の護衛だから傍に居るのは当たり前だし、さっきあの場に居た時の彼の雰囲気とは異なる。あのまま、あそこに……特にハーベルト国の第2王子の人とは居たくないって感じ。


 言葉に出さなくても、そこそこ察するようには成長した。

 だから、ナーク君のその言葉に私はありがとうとお礼を言う。するとナーク君も笑顔で答えてくれる。




「良い関係ね、貴方達」




 そこにティルさんの声が掛かり、思わずはっとした。

 いつもナーク君といるから忘れてたし、レントもリベリーさんも察しているし空気に慣れてしまったのがマズいんだ。


 こんなに近いのは、お、おかしい……?




「何でもないから気にしないで。ただ、そこまでべったりだと疲れないのかなって言う疑問よ」

「す、すみません……」




 人前でやらない方が良いって事ですね。どうしよう、護衛だし。そこから違うって事?

 そう思っていたらナーク君から「離れるの、ヤダ」とふてくされてしまった。 


 何故かそれも微笑ましく見られてしまった。な、なんだろうか、この空気に慣れたくはないって思うのは。




「お待たせ。目的の彼よ」




 ティルさんのその言葉ではっとして辺りを見渡す。

 ナーク君が言っていた魔力を集める石。その大本だろうか、目の前には緑色の石が淡く光を灯る様にして周りを照らしている。


 それが宝石のように綺麗にカットされた結晶が、洞穴の天井近くに浮いていた。

 それと同時に私とナーク君の体が、白銀の光に淡く包まれる。この粒子のような光景を私は知っている。




(ティーデッド国の結界を、直した時にも……同じような事が起きた)




 何でここで起きたのかと言う疑問もあった。

 でも、私はその近くでぐったりしているレントを見た。言葉を発するよりも、会えたのが嬉しいと思うよりも先にもう走り出していた。




「レント!!!」

「……っ……うぅ……」




 ナーク君がすぐに支えてくれる。でも、レントは苦しそうにしているし、汗も出ていた。また泣きそうになるのを抑えて、ぐっと唇を噛み気持ちを落ち着かせる。

 流れる涙をゴシゴシと拭いた後、ティルさんにさっと向き直る。

 ここで泣いても状況が変わる事なんてない。彼女がここに連れて来たことには意味がある。だから私に何が出来るのかと思ってじっと言葉を待つ。




「姫様の魔力を私に預けて欲しいの」

「なっ……!!!」




 私が何か言う前にナーク君が先に反応を示した。


 ラーファルさんから聞いていた事がある。

 魔法を扱えるとされているのは、冒険者の中でもごく少数。大国が抱えている魔法師団は、その殆どが貴族の産まれである事。

 王族の生まれの者である私達はもっと少ない。


 王族の結婚で大事にされているのが、魔力を持つ人間の生まれであり他国の王族同士、もしくは魔力を保有した貴族家の者に占められている。

 大国と呼ばれる国は他にはない物を持っている。それが宝石であり、その鉱脈山。

 昔から宝石には魔力を溜め込む性質がある。その加護として自国の魔法師団に所属する者達はその宝石に沿った魔法が扱える。


 バルム国はアクアマリンが採れる事から水。

 リグート国はエメラルドが採れる事から風。

 ディルランド国はガーネットが採れる事から炎。それらに準じた魔法を多く発現しやすい環境が整えられているのだと、研究をしてきてわかった事だという。


 だから宝石の加護を一心に受けて来たとされる王族の魔力は他と違うのだという。

 魔力の純度、珍しい魔法の発現は、王族が起こしやすい。欠点があるとすれば、私達の魔力は生命線にも直結しているのだとも教えられた。




『エリンス殿下も無茶をしました。本来、傷を負った状態での長距離の転送魔法の使用は危険すぎです』




 何故かニコリともしないでラーファルさんが告げるから、何かしたのかと思って身構えてしまった。私やレントが無理をして倒れるのはいけないからと注意を受け、魔力を渡すのもダメだと言うからだ。

 師団の間では魔力回復をするのに、互いに分け与える事が出来るが私達は絶対にダメだと教えられた。




『だから約束して、姫猫ちゃん。他人に魔力を渡すのは絶対にダメ。やるなら扱いに慣れている私みたいな師団に所属している人に代わる事、良いね?』




 そうラーファルさんに教えられたのに、ごめんなさい。

 理由も分かっているし、本当ならカーラスお願いするべき事。でも、レントは他人じゃないし私に出来る事ならなんだってする。


 危険があると言うのは、最初から分かっていたし何度も注意を受けていた。それも分かって行動を起こしたのは……私だ。




「分かりました。私の魔力でレントが助けられるならいくらでも」

「主!!! そんなの――」

「ナーク君、良いの」




 危険な行動をする私にナーク君は自分が代わりにと言いそうだった。だから、先に止めるように言った。彼の心配も分かる。でも、今までレントに助けられてきた。

 何か出来る事は無いかってずっと考えて来た。だから――。




「ティルさん。彼を――助けて下さい」

「……分かったわ」



 私の決意を汲み取ったのかティルさんは私の額に触れる。

 彼女の指先から小さな光が灯り、ペンを描くようにして模様が描かれる。複雑な模様を幾重にも重なって作る間にも、私の魔力はどんどん減っていくのが分かる。

 意識を……ギリギリまで、保たせないと。




「これで良いわ」




 目の前で組み上がった魔法の模様。

 1度完成させたそれが、緑色に光ったかと思った途端に強い光が周囲を包む。




「解毒はこれで平気。あとは彼が起きるのを待つだけよ、姫様」

「よ、か……っ」




 ティルさんの声が心地いい。

 これでレントは大丈夫なんだと思ったら、私は自然と倒れていた。傍でナーク君が呼ぶ声が聞こえる。声が出せない代わりに彼の手を握る。大丈夫だという意味で微笑んだ所で――私の意識は途切れた。


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