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第170話:優先すべき事


ーリベリー視点ー



 何でこんなことに、と思いつつオレは仕方ないとばかりに服を脱ぐ。

 まさかナークからの呼び出しで、湯の上に転移されるなんて誰が予想出来るかよ。ったく、面倒な事をと思っていたが体はそうではない。


 目当ての2人が見付かり、嬉しさのあまりに抱き着いたんだ。あぁ、それは認める。心配でしょうがない分類で、バーナン以外にも増えた。


 ……ナークの言葉を借りるなら、大事な者が出来た、だな。


 目の前に……姫さんがある意味半裸でいた。予想出来るかよ!!!

 いつぞやの公爵家での事が思い出され、かあっと熱くなる。ナークが反撃とばかりにそのまま湯船に沈めた時には感謝した。


 ……オレ、弟君に殺されないだろうな。

 大丈夫、だよな??


 そう思っていたのも束の間だ。

 濡れた服をどうにか乾かそうと試行錯誤し、乾くまでに仕方なく湯に入る。姫さんと距離を置き、なんでこうなったと思っていると見張っているであろう魔獣が降りて来た。


 しかも、ラーグレスを抱えてだ。


 オレ達がそっちに視線を奪われている中、魔獣は多分ここに入ったんだろう。だけど、まさかその時に男と1匹の犬が現れるなんて……。




「姫さん、そっちの服は乾いたか?」

「い、いいえ。ナーク君もすぐに動けないので、このままじっとしていたんですけども」




 段々と声が小さくなる姫さんに、オレは無言で頭を撫でる。

 途端にコテンと肩に顔を乗せて「うぅ」と小さく唸っている。まぁ、予想はつくぞ。


 たまに大胆になるからな、姫さんは。


 ナークがチラチラと見て、ブクブクと泡を作っては会話に参加しないという意思をオレに訴えかけて来る。そこに近付くのはジルって呼ばれている犬だ。




「ワン」




 どうしたのだろうか、と2人で見ると何でかお湯をぶっかけられた。

 犬に恨まれるような事したか?




「助かったよ。あのまま魔獣になって死ぬのかと思ったけど」




 そう言って嬉しそうに近付いてくるのは、さっきの男だ。

 人懐っこそうな笑みで姫さんの隣に行こうとした。が、ナークがさっと陣取って「来るな」と牽制。

 突然の事にビックリした姫さんは、オレの事を見て「何で?」と言いたげな表情で訴えて来る。




「アンタは病死って噂だった筈だ。説明しろ――ハーベルト国の第2王子」




 目をスッと細め、自然と睨むのは仕方がない。

 ナークはそれに反応して、姫さんの事を遠ざけたし聞いていたラーグレスからは鋭く睨まれる。

 一方、睨まれた側の第2王子の……確か、シグール・リーゼルト・ハーベルトだったか。


 何でかヘラヘラと笑って「知ってるんだ」と驚かれる反応を示す。




「って事は君、同じ国の人間なんだ」

「アンタ等が手元に置きたがってたトルド族の生き残りだ。ついで、姫さんの前でピッタリくっついてるナークも同じだ」

「……そう」




 ん? 何で悲し気に目を伏せる必要がある。

 ハーベルト国の国王、つまりは王子の父親は俺達の力を欲していた。だが、契約を結ぶ判断はあくまで俺達の意思が必要。無理矢理にやった場合、契約を結ぶ時にオレ等は自動的に死ぬからな。


 意外に契約って命懸けだぜ?




「父の愚行を止められなかった我々にも責任はある。里を根絶やしにしたのだって、あの人が焦ったからだ」




 バーナンよりは年上っぽいし、言葉から滲み出てるのは後悔が読み取れる。

 黙ってナークを見れば、姫さんを前にしているからか我慢しているようにも見える。何も言わず、唇を噛んでいる様はどう見ても我慢している証拠だ。




「どういうことだよ」

「そのままの意味だよ。全土を支配したい父は、躍起になっていた。我々は彼と考え方が異なるからね」

「何……?」




 ナークの事も考えて話題を切り替える。

 それを察したか分からないが、理由を答えてくれた事に少なからず驚かされる。

 ハーベルト国とイーゼスト国が元から争っているのは知っていた。今はないイーゼストも暗殺ギルドを抱えてはいたが、ハーベルト国程じゃない。


 暗殺を請け負うのにギルドを立ち上げるのは優秀な人材を確保しやすいって所か。まぁその中で例外は居た訳だ。オレとナーク、リバイルと同じトルド族のガナルだ。


 まぁ、アイツと相対して生き残った奴はいないのは想像つく。そこをスカウトしたのがハーベルト国の国王だったって訳か。




「父が妙な奴を雇ったのは知っていた。ただ、その姿を見た事がなかったんだ。……多分、兄なら知っていた可能性もあるけど」

「なんだって、アンタは魔獣にされたんだ。その、犬も一緒ってのがよく分からんが」

「ワン」




 オレは敵意を向けてないのに、ジルって言う犬は怒ったように吠えて来る。さっきまで姫さんにべったりとしていた態度とは思えない。




「ジルは相棒だよ。弟もジルに好かれてるから遊び相手に良いんだ」

「弟……? 王子が3人も居たとは驚きだ」

「外には知られないようにしたしね」




 頷きながら流石だと思った。

 情報規制をして外部には殆ど素性が知れない、ハーベルト国。それは国が抱える暗殺ギルドの所為でもあり、近付いたら殺されかねないという噂もあった。

 そう思うとバーナンが外交で向かってたのはある意味では凄いよなって思う。まぁ、国王のギース様は出来れ良いな位の軽い気持ちだった様子だし。宰相からは怪我されても困るから、和平が無理なら速攻で帰って来いって言ってたし……。




「あら、お楽しみの所だったの?」




 そんな時、女性の声が真上から聞こえた。

 えっ、と上を見ればフードを深く被った女性が浮かんでいた。座った状態で実に楽しそうに笑うその人。

 思わず誰だと睨んでいるとナークが後ろで「魔女……の仲間?」と困惑気味で聞いて来た。




「あれ、何で知って……あぁ、貴方ねミリアに会ったっていう子は」

「どうも……」




 普通にお辞儀をするナークに姫さんも習う形で挨拶をする。

 ラーグレスさんとオレもそれに習っていると「何、してるんです」と冷えた声が聞こえる。


 振り向くオレは嫌な予感しかしなくて、でもここで振り向かなかったら絶対に後悔する。そんな気持ちでさっと見れば満面の笑みなのに、氷点下化と思う位の怖いカーラス、さん。




「ウィルス様、ナーク君、無事ですね!!!」




 ほっとした様子で駆け寄るのはラークさんだ。

 その後、何でお風呂に入っているのかと事情を話して代わりの服を魔法道具で出して貰いって感じでやり過ごす。


 姫さんはさっきの、ティル? って言ったか。

 その人と奥で着替えてる真っ最中だ。そこで問題が起きた。それが――。




「ねっ、何で私は除け者?」

「ワフッ?」




 未だに湯に浸かったままの、第2王子。

 相棒だっていうジルは既に上がって、不思議そうに鳴いている。主人も上がらないのかと言わんばかりの雰囲気と何でか悲しげに見える目。……知らない間に動物の意思を読み取れるようになったか?


 密かに姫さんと弟君の飼っている猫達のお陰だと思いつつ、無視して移動を開始した。

 情けない声が聞こえて来るが、それがどんなに呼び止めようとしても無視だ無視。


 今は弟君を優先と思い、カーラスさんとラークさんに事情を説明しながらその場を去った。



 

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