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第167話:温泉


ーナーク視点ー



 主と共に連れて来られた洞穴。

 空間がかなり広くて小さな穴から外の日の光が漏れている。それが照明代わりにもなるんだけど、奥に行けば行くほどその光はなくなっていく。

 

 なんだが、光った先から掘るのを止めて別の所を掘った、みたいな感じ。


 不思議な造りだと思っていると光が殆ど入らないのか、奥へ奥へと連れて行かれる。ボク達は魔獣に対処が出来る魔法がある。だから先に封じて来たのかと思えば、何だか違う様子……。




「シュ、シュシュ」




 ボクはこの暗い中でも多少は見える。そして、この魔獣は暗さに関してはボクよりも高いから、障害物があろうがなんだろうが進んでいく。


 鼻歌交じりっぽいのはなんなのかが謎だけど。




(なんでかお湯をぶっかけられるし)




 暗くてよく内部も分からないけど、大きな空間が広がってる所に出ると湯気が見えたんだ。ちょっとだけ薄緑色の湯気。ゆっくりとした足取りで近付くとその正体が分かった。


 お湯だ。


 驚きすぎて開いた口が塞がらなかった。

 多分、ポカンとした表情だと思う。主の方も驚いているし、本当にお湯なのかと思ったら魔獣にぶっかけられたんだ。


 いきなりすぎて避ける事すら思い浮かばなかった。熱いなと思っていたら今度は急に寒くなった。

 外でないのもあるし、日が当たらない場所。しかも、奥は入り組んでいるし多分だけどそのお湯は下がった場所にある。下に行けば行っただけ寒くなるのかも知れない。




「くしゅんっ……」




 そんな事を考えていたら我慢できなくなった主がくしゃみをした。

 ボクも寒く感じでガタガタしてる。護衛として情けないけど、仕方がない。仕方ないんだ……。




「シュシュ」




 目の前に下げられる、幅の大きい葉っぱ……?

 思わず魔獣の方を見る。


 これを体に巻けとそう言ってる、気がする。

 薄緑色に発光したお湯は不思議な感じだ。何でこんな色を発するのかと思っていると、主が何の躊躇もなく服を脱ぎ始めて――えっ!?




「ちょっ!!! ま、待って」




 顔を逸らしたボクに主は不思議そうに「えっ」と言っている。

 いやいや。お湯をぶっかけられて服を台無しにされたけど、普通ここで脱ぐかな?

 このままだと風邪を引きそうではあるけれども。

 (いさぎよ)すぎるというか、もうそれしか方法がないからと色んな事を考えてしまう。 




「ナーク君、早くしないと本当に風邪引いちゃうよ」




 そう思っていたら主は普通に入っているし……。

 しかも魔獣から渡された葉っぱで、器用に体に巻いている。


 順応高すぎない?

 ボクがおかしいのかな?

 

 つい、そんな風に思っているとボクも「くしゅっ」と同じようにくしゃみをした。

 深く考えるのはよして、さっさと服を脱いでしまおう。

 



「シュ~、シュシュ~」




 楽しそうにして何かを作っている様子。

 その行動が気になるが、それよりも冷えた体をどうにかしたい気持ちが勝った。



======



「ん~~。丁度いい湯加減だね」

「……温泉って、これもかな」

「温泉?」




 主と2人でお湯が溜まっている穴に入る。

 かなり深いから、肩までちゃんと入れるのは助かる。……あの魔獣、上がったら蹴りを入れておきたい。


 温泉を知らなかった主に説明すれば、色んな事を知っているんだねと褒められた。


 思わずふにゃと、笑顔になるのは仕方ない。あの子猫達の気持ちがよく分かる。褒められると嬉しい……。


 ふと気になって薄緑色に光る石を取り出す。

 小石から小さく光りだすのを見て、魔力を感じ取れた。この石は魔力を溜め込むと熱くなる仕様のものだ。


 ちょっとしか触らなかったけど、段々と熱く感じたから多分そんな感じ。光を発するだけじゃなくて、熱を溜め込むのか。




(いっぱいあるから、温泉みたくお湯になった……?)




 ラーファルさんが見ればもっと詳しく分かるかも知れないから、ちょっと残念だ。考え込んでいたら主の驚いた声が聞こえたから、なんだろうかと思って振り返る。




「き、傷が治ってるよ。背中の傷とか腰辺りの」

「えっ……」




 思わず自分で触れた。

 だってその傷は初めて行った任務で負った古傷だ。剣筋は鋭かったけど、浅い事もあってギリギリで逃れられた。

 

 だけど、あの時ボクは避ける事に精一杯で足を踏み外した。

 夜での戦闘っていうのもあるし、雨でぬかるんでいたからバランスを崩したてそのまま崖下に転がった。


 今でもその時の痛みを思い出すと吐き気がする。

 相当強く打ち付けたから、気絶しかけたのを覚えている。だけど、見付かる訳には行かないと思って無理に体を起こした。


 里に戻った時には、意識は朦朧としていたと父さんから聞いた。

 その時には薬草での効果が期待できなくて、傷跡だけが残った。もう治らないと思っていた箇所は、綺麗にツルツルの肌になっていた。


 試しに主にもペタペタと触って貰い、確認して貰った。幻覚作用があったら困るからね。




「うん。ホント、ビックリしたの。傷跡が見えたと思ったら、スゥと傷口が塞いでいくからね。魔法で治したみたいにだったから本当に驚いたよ」

「……治癒の効能がある、のかな」




 ポツリと言ったボクの言葉に主は「毒にも、効く……かな」と悲し気に言った。毒で動けない王子。その容体をボク達は詳しく知らない。


 あのサソリを使った人物の嘘とも考えたが、そうなるとボク達の位置を把握していた事になるから除外した。

 愚痴っぽく言っていたし、イライラした感じだった。魔獣を倒されるのが迷惑だと言わんばかりの態度。


 でも、それよりもあの声には見覚えがあった。




(どこかで、聞いた。……最近? 主と一緒じゃない時にだと――)




 ボクが主から離れたのは1度だけ。

 ギルドの依頼で受けたあの村の事。男性達が魔獣にされている現場をボクはこの目で見ていた。

 向こうも気付いたような節があったし、魔物を使役して邪魔をしてきた。そうだ。ギルダーツ王子が言っていたのと被る。


 魔物を使役できる使い手。

 魔獣と共に攻めてきた時に連れて来られた魔物は、いつもの野生の時と違ってまとまった行動をしていた。操られているからこその、陣形の取り方だったから騎士団達も上手くさばけなかった。


 そう、悔しがっていたのを思い出す。

 

 


「レントに、このお湯を試しに浸からせてみない?」

「解毒薬がないなら、その方が良いね。特殊な毒だったら急がないといけないし」




 互いに頷きあって、魔獣の方へと見つめる。

 未だに鼻歌交じりに行うからボク達の動きに気付いた様子もない。リベリーに念話をしてみると、向こうから焦った声が聞こえて来る。




《どこにいる!? 今、弟君が――》

《知ってる。毒で動けないんでしょ?》

《っ、お前……どこからそれを》




 案の定、驚いた声で言葉に詰まっている。

 説明を省いて現状を伝えると《なに、してんだ……》と、地を這うような低い声で言われた。

 ……お、怒ってる。


 ボク達だって好きでそうなった訳じゃないのに。

 ちょっと泣きそうになりながら、古傷が治った件を伝え解毒にもなるんじゃないかって伝えると場所はどこだって聞かれた。


 


《どこかの、洞穴……?》

《は?》




 だから……怒ってても仕方ないよ。

 知りたいのはこっちだって同じなんだから!!!




「おわっ……!!!」




 ヒュン、と風が通った様な音が聞こえ続けざまにバシャンと湯の中に何かが飛び込んだ。一体何だと思っていると……びしょ濡れのリベリーが居た。




「姫さん!!! ナーク!!!」

「うきゃ」

「う、ちょっ……」




 感激のあまり抱きしめて来るリベリーに戸惑いの声をあげる。

 だけどそれも無視して「心配させやがって」と言われてしまい、何にも言えなくなる。


 その自覚は、あるからね……。




「なら急ぐぞ。弟君の所、に……」




 ハッとしたリベリーは顔を赤くして、ワナワナと震えていた。何だか見ちゃいけないものを見た様な、そんな感じ。チラッと主の事を見て、リベリーを湯船に沈めた。


 み、見てない……!!!

 主が巻いてた葉がズレていたとか、見えたらいけないものまで全部見えちゃったとか、色々!!!


 恥ずかしさをごまかすように、ボクは顔を上げたリベリーの事を思い切り殴った。

 

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