第1話:出会いは突然に
ーウィルス視点ー
あれから5年の年月が経ちました。
私は……生き残ったのだと思う。その時の記憶が曖昧だったから。
でも、カルラが傍に居て私を心配してくれていたのは覚えている。
「ニャア~~」
ん~~、良い日差し。体をくねらせ、座り込み真下に行き交う人々を見る毎日。あれから私は……カルラと融合してしまったようだった。
最初に目が覚めた時、私は何故か森の中に居た。
あの女性が連れ出したのか、誰かに抱えられたのは分からないけれど……。起き上がったのに、いつもと目線の高さが違う事に気付く。私に近付く人影に思わず見上げればある一言に声を発するのを忘れた。
「お~お~、どうした猫ちゃん。そんなボロボロで」
えっ?
猫……?
私が? カルラは? あの子は何処? と、辺りをキョロキョロとすれば簡単に持ち上げられる私。
「父ちゃん、昨日嵐があったから多分、その子は泥で汚れたんだよ」
「そう言えばそうだな。……毛並みも良いのに台無しじゃないか」
「ニャ、ニャアアアア!!!」
はな、離して~~~!!!!
おかしい!!! ずっと話を聞こうとしているのに、全て猫の鳴き声に変換? されているのか全く聞いてくれない。
「まっ、王都にこのまま連れて行けば飼い主にも会うか。よし、猫ちゃん!!! おいちゃん達が飼い主を探すよしようか」
だから、私がその飼い主なんですけど!!!
カルラの主人は私なのよ!!!
「父ちゃん、多分この子嫌がっていると思う……」
子供の君!!!
嫌がっているんじゃないの、話を聞いて欲しいの~~~~!!!
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
飼い主探しから5年。
色々と分かった事がある。まず私が住んでいたバルム国と言う名前が言われなくなった事。国を襲ったのが魔女と呼ばれる特別な存在の人による報復とも、呪いを受けた国とも言われておりあれ以来口を閉ざした。
ショックだった。
私はその国の姫なのに……亡国の姫、か。
「ナアァ~~」
今は猫だけど。
日差しが良くて眠くなりそうなんだけどね……。いやいや寝る訳にはいかないと眠りたい衝動を抑え込み、今日も王都の中心であり国の象徴でもあるリグート国のお城へと向かおうと走り出す。
私を拾ってくれたあの人達には悪いけど、私には目的があるの。
あのおじさんは拾って暫くは面倒を見てくれていたの。でも、夜に子供と寝た時にビックリしたわ。
だって……12歳の少女である私になったのだから。
今まで猫の姿で居たのに……夜になった途端に人間へと変わってしまった。窓に移る自分を見て発狂しそうになるのを抑えたわ。
うん、猫って言うか動物は……服を着ないでしょ?
だから、ね。私も……そう、全裸になっていたの。これには顔を真っ赤にして叫びたいのを我慢したわ。
……私、カンバッタ。ガンバッタ……よね。
と、言う訳であの女性の言う呪いとやらの所為で朝から夕方までは猫の姿に、夕方から夜中の間は人間の姿へと変わると言う一歩間違えれば……追放もののような体質へと変えてくれたのよ。
でも、目的の為に我慢に我慢を繰り返した。
このリグート国の王族は代々魔力が大きいのが有名であり、この国を狙って侵略してきた国はことごとく王族の魔法により全て弾き返されて来た強い国。
そんな国と友好を築いて来たバルム国だけど……今や私だけがその王族の生き残りな訳だけどね。
だから私のこの呪いとやらも何か分かるかも知れないと。そう言う期待を込めて毎日通っている。
でも、流石よね。守りは固いし常に周りには兵士達が居るから、野良猫の様な私が近付いたら「ほら、ここはダメだから帰りなさい」と優しい声と手付きで毎回追い出される。
「ニュウウゥ~~~」
今日も、普通に追い出されてしまい茂みの中で観察中。
追い出され続けて4年半……優しいおじさん達に育てられて嬉しいんだけど、私はこの体質をどうにしかしたい。カルラだって気持ち悪いもんね。
いきなり夜になったら飼い主の私になるとか……。
「フシュウウゥ」
「ニャ?」
あれ、気付けば周りには顔なじみの野良猫達。
野太い声を上げたのは王都の野良猫の中でもボスと言われている大猫。毎回、私に足蹴にされるのが嫌で嫌がらせをしてくるのだ。
今日も嫌がらせなのだろうと思い、気だるげに振り返る。
「………」
振り返った事を後悔した。
だって……ボス猫以外にも、沢山の猫達が私を睨み付けており既に逃げ場などない。
「ニャ、ニャア……」
数には勝てない。私だってその辺の引き際位は分かる。
でも、そうだよね。逃がさないわね……今までやり返した分もあるんだし、相当恨みに思うわよね……。
「ウルニャアアア!!!!」
あぁ、もうこうなればヤケよ!!!
受けて立つわよ!!!
こうして私と野良猫達の乱闘が始まったのだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「ウゥ、ニャ、ニャアアアァ~~」
うっ、体中が痛い。それはそうだよね……だって、引っかかれたもん。泥で目つぶし、集団で殴ってきたりと酷い事するわよね。ホント……。
「フニャア……」
あ、フラフラね。
目の前がよく分からないし、何処に居るのかもよく分からない……。夜になる前に何処か隠れられそうな場所を見付けないと……露出狂とか思われる。
そんなの……死んでも、嫌だ……。
「大丈夫かい?」
「ニュ……?」
優しい心地の良い声。
ユラユラと顔を上げても、逆光でよく分からない。
銀髪……かな?
そう確認したのを最後に私はドサリと倒れた。




