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擬態


 それはリベリーが町に情報を仕入れている時の事。

 ラークは岩場の近くにあるジャングルの中を散策するようにして進んでいた。その後ろをラーグレスが歩きつつ、自身の目の前に葉があれば切っていく。幹が太い木に、バッテンとその下に線を引くようにして印を付けていく。




(南の国の時はあまり気にしなかったが、ここはジメッとした暑さだな)




 ふぅ、と息を吐きながら額に流れる汗を拭う。

 ラークも同様に汗を拭うが、表情はどこかしら楽しそうにしている。




「ん……。あれは」




 歩いていた先でラークは足を止める。

 ラーグレスもそれに習って足を止める。彼はその中で獣の足跡とは違うものを見付ける。思わずそれに近付き、じっと観察する。




(四足歩行……にしては、バラつきのある足跡だな。魔物の親子連れか? けど、それらしい足跡はないな)




 念の為にと周りを見る。自身でつけた印以外に目立ったものはない。と、言うか無さすぎる。体の大きさに関わらず木々を通ればそれなりの跡はあるはずだ。

 横切ったような様子もなく、通った痕跡もない。




「上……か?」




 ジャンプしながらの移動なら木々を横切る必要もない。そういった不自然な痕跡を見ていく。木の幹に何かを引っかけた痕はないか、一定の間隔で同じようなものはないかと見ていく。


 そうしている内にラーグレスが見つけたのは洞穴だ。

 見た目は誰かが掘ったと分かる位にあからさま。何かが掘り進んできた穴と言えばいいだろうか。




「どうしたんです」

「あ、いや……。人工的に作った様な洞穴だな、と」

「どれどれ」

 



 ラーグレスの後ろから顔を覗かせたラークは中を覗いていく。そのまま中へと入っていくので、彼も慌てて着いて行き「大丈夫なんですか」と思わず聞いてしまった。




「ここを見付けるまでに、妙な痕跡が無いか見てたよね? 木々を見るよりも上ばかり見ていたようだし」

「そ、れは……」




 まだ確証を得られていないからと思い、黙っていたがラーグレスは観念したようにラークに話した。この洞穴は魔物に作られたものである可能性がある事、もしくはそれと類似する何かが作ったのではと。




「……不揃いな足跡、か」

「はい。四足歩行なのに、途中で二足歩行に変わったような足跡で……。群れ、でしょうか」

「魔物が群れで行動するなら、もっと複数にある筈だから違う気がする。それよりも種類の違う魔物が、行動をしていると思った方が良いね」

「なら住処を見付けてからウィルス達に知らせますか?」

「そうだね。痕跡だけでも見付けて急いで帰ろうか」




 どちらも魔物に対しての対処を心得ている。

 自分達が帰らない事で、ウィルス達に心配を掛けないようにし同時に不測の事態に備える行動を起こす。

 

 幸いにもまだ日は高く、夕方になる前に戻るよう心掛けて調査を開始する。中は薄暗く壁伝いに沿って歩いて行けば、開けた場所へと出てくる。この先にもっと深い穴があるのだと理解し、一旦戻ろうとラーグレスに意見を促す。


 埋められる可能性もあり、また魔物の巣がある場合に餌にされかねない。そう言った考えから早々に帰ろうとして、ふとラーグレスの足が止まる。




「どうしたの?」

「あ、いや……」




 一瞬、寒気にも似た様な何かを感じた。

 そんな漠然とした何かにラーグレスは言葉を濁らせ、伝えようにも理解していないからと諦める。


 気を張り詰めているから、何に対しても敏感なのだろうと思い気持ちを切り替えてウィルス達に居る場所へと足を向ける。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「おかえりなさい」

「ただいまです、ウィルス……様」




 慣れないラークは小さく「様」と言いレントの方へと見る。

 見られた方の彼は気にした様子もなくキョトンと返された。何だかビクビクした方がバカみたいだなと思いつつ、レントに今までの事を報告する。


 その間、ナークとウィルス、カーラスの3人で人数分の夕食の準備に取り掛かる。カーラスの氷の魔法で魔物を仕留め、ナークの魔法でさばいていく。2人がそう活動している間、ウィルスは聖獣により守られ手を出せないでいた。


 


「あの、何か手伝う事は」

【傷を付ける訳にはいかない。怒られるのは俺だから、窮屈でも大人しくして欲しい】

「……はい」




 しょぼんとしたウィルスは、じっとしていると聖獣の長い尻尾が頬をつつく。フワフワとした毛並みは宥めるようにウィルスの頭や頬を器用に撫で、暇つぶしをしている。

 そんな様子を見ていたカーラスとナークが、その雰囲気に悶えているとは本人も聖獣も知らない所だった。


 そんなこんなで、夕食様にと魔物を捕らえては食事を進める。氷のお皿で載せられたそれらは、見た目は冷たくとも熱は逃げずいつまでも温かいまま。使い終えればそれを炎で燃やして痕跡を消す。

 その後、見張りを交代しながら朝になるのを待っている時だった。




「ん……」




 まだ慣れない外での就寝。

 ウィルスは目をこすりながら起き上がり、隣にナークが寝ているのを確認する。少しだけ眠気から冴えたからか、ちょっとだけ歩こうとして目の前にぽすっと何かに当たる。




「……?」




 あれ、と思った。

 寝ぼけているだけだと思い、ちゃんと起きるまでに時間はかかったが未だに当たっている何かを見る。生物がいる訳でもないだろうと思い、ペタペタと触ると確かな感触が伝わってくる。




(え……)




 首を傾げながらこの事をレント達に言おうとして、ウィルスの目の前に現れたのは赤い瞳の黒い毛並みを持った魔獣だ。風景に溶け込んでいたその魔獣は、闇に紛れるようにだけど声を発していない。


 静かに息を吐く呼吸が妙にうるさく聞こえ、固まったままのウィルスはどうして良いのか分からなかった。瞬間、その魔獣の目の前を光の壁が遮る。




「ナーク、君……!!!」




 さっきまで隣で寝ていた筈のナークは既に魔法を展開しており、自分の方へとウィルスを引き寄せる。続けざまに氷と水が上下左右に降りかかり、魔獣の動きを封じにかかる。




「すぐに王子を――!!!」




 ゾクリ、と確かな悪寒がナークの動きを鈍らせる。

 せめてウィルスだけでもと思い、カーラスとラーグレスに預けようとしてぐんっと後ろへと引っ張られる。




「っ!?」




 振り落とされないようにとさらに抱えたのがまずかったのか、2人まとめて片腕だけで取り押さえられる。腕が長く体を少しだらけさせたその魔獣は、シュー、シューと言葉の代わりに息を吐く。

 

 さっき引っ張られたのはその魔獣の長すぎる腕。

 その真上に躍り出たのは、宝剣を持ったレントだ。その剣先を魔獣の頭へと狙いを定め、魔力を宝剣へと集めていく。




「シュ!?」



 

 集められた魔力は風を纏い、鋼色の刃が呼応するようにエメラルド色へと変化。頭を狙い切り伏せようとすると、魔獣の姿が段々と消えていく。




「なっ……」




 居た地点に降り立つも、姿が消えただけでなく気配も探れない。その事実にカーラスとラーグレスも驚きを隠せないでいる。騒ぎを聞きつけたラークが何事かと尋ね戻ってくる。




「で、では2人は……」

「急に分からなくなったんだ。今、刻印で――」




 そこまで言ってグラリと視界が揺れた。

 全てがスローモーションのようにゆっくりとした流れに、レントは(あれ……)と変化に気付く。

 自身に刺された黒い針。腕にさされ、力が出ないばかりか声を発するのが出来ない事実に驚かされる。




「っ……っ!!!」




 霞む視界の先にはカサカサと動く小さなサソリ。


 そのサソリはレントの傍を離れ、役目を果たしたと言わんばかりに砂の中へと潜る。その場所にカーラスの剣が突き刺さる。せめて足か針だけでもと思ったが、上手く避けられて終わった。




「レント!!! 待て、私達が分かるか? 意識を失うな!!!」

「今、治癒を施します」




 焦る声はラークのもの。隣で刺された腕に治癒を施しながら毒を取り出そうと試みるのはラーグレスだ。サソリ自体が小さすぎるのか、その毒を抽出することに成功しても解毒にはなるには量が少ない。


 カーラスが刺された部分を氷で冷やしながら、どうにか毒の進行を遅らせようと持ってきた薬で色々と試していく。



 夜中の襲撃で、ウィルスとナークは連れ去られレントは毒により動けなくなった。そうリベリーに説明している間にも、彼等は知らなかった。こうしている間にも、ウィルスにと刻み込んだ刻印の効力が消えていっている事を。


 何かのカウントダウンのようなものを、レントは苦し気に唸りながらも感じ取っていた。

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