第165話:馴染む武器
ーリベリー視点ー
カラン、カラン、と鈴が鳴る音が店内に響く。外はもうすぐ夜になる。武器屋だと言うのに中に居るのはオレだけだ。
中の剣や槍の類も綺麗に整理され、防犯の為にと1つ1つに鍵付きの鎖が巻かれている。
「……なんだい、あんちゃんは」
のそっと店内を見ているオレを見る男が1人。
額にタオルを巻き、首にもタオルを置いている事からして自分でも武器を作っているんだと思った。
オレが宿に泊まれないからと話せば「お気の毒に」とタイミングが悪いなと言われてしまう。
「そうか。幻滅したか、ここの兵士達に」
「いや? なんか向こうも訳が分からないって顔していたし……もうここに人が来た事ってないのか?」
「……数週間前からだ。アンタ、本国に帰りたい口か?」
「ん、まあな。でも行くなって言われるし、実家があるから心配なんだよ。戦争の準備だったか? なんかバタバタしてたぜ」
戦争の準備をしているのは本当だった。
ただ、国王のやり方が気に入らないからとクーデターが出ていたのも事実。ゼストが王に就いて平穏が訪れるとも思った矢先、再びの準備だ。
この町のように人が居るのは店を経営する人達なんかがいる。
とは言えまともに収入がないのも事実。そんな時、ここ一帯を買い占めたのが準備を進めていた兵士達だって話だ。
「まっ、金があれば良い。とは言え、女子供は危険だからとここを出て行った」
「……その後の消息はどうしたんだ」
「全員が全員って訳じゃないが……人食いにあった様だ」
「人食い?」
「なんだ、聞いてないのか」
いや、言ってたが冗談だと。
ほんの2週間前に鳥や犬の死骸が見られるようになり、ついに人まで被害が出たんだって話に、一応の反応として「ふーん」と返す。
「あんちゃん。何が欲しいんだ」
「ん? あ、えっとぉ~」
欲しいのも、ね。
オレとナークが使うのはナイフが殆ど。弟君達は剣だ。姫さんに武器を持たせる訳にもいかないし、と色々と考えて唸る。
買う気がないと見たのか「冷やかしなら帰れ」と言われてしまった。
いやいや。その人食いについて知りたいからと、ちょっと粘れば意外にも許してくれた。
「ま、話し合い相手になってくれんならな」
「おー。全然いいよ」
「酒……は良いか。なんかつまみを持ってくるから、適当にしてろ」
そう言って店の奥に消えていく。
ガタン、と色んな音が奥から聞こえてくるから、探してくれてるんだろう。酒の匂い……するか。まぁ、昼間からずっと飲んでるから匂うわな。
(お、持ちやすそうだな)
オレがそこで見たナイフに思わず足を止めた。
握りの部分がフィットする感じだ。まだ戻らないからと試しに握れば、手に馴染む感じに前から自分の物なんじゃないかと勘違いした。
それ位に、不思議な位に体の一部みたいな感じ。
思わずワクワクした。こんな気持ちになったのはいつぶりか……。
「何だお前、それが欲しいのか」
「うえっ!?」
思わず変な声が出た。
あー、驚かされるのは気分が良いもんじゃないな。振り向けば酒のつまみを持って、面白そうに見ていた。
パッと手を離すも既に欲しそうにしていたナイフをチラチラと見る。何と言うか、秘密を見られたような気分で……恥ずかしい。
「くっ、はははっ。そんなに欲しいんならタダでくれてやるよ。俺の傑作だし、試しに付けた魔法石があるからな」
「へ、へぇ……」
タダと言うのはちょっと怖い。
そう思って見ればニヤリとされ、オレから土産話を聞きたいんだと言った。旅をしてきたかどうかは、恰好からでも分かるがその人の雰囲気でも読み取れるんだって。
オレの場合、見た感じに何だか面白いにように見えたらしい。
「その魔法石はなここじゃ珍しい色なんだよ、翠色だからな。アンタ、魔法の適性があるのか」
「……まぁ、あるかもな」
「こっちじゃそういうの居ないから、売れないんだよなー。試しに持ってみるか?」
そう言って鎖を外し、オレにとさっきまで持っていた武器を渡してくる。
馴染むのはナイフだからかも知れない。自由に持ってみようと、グルグルとナイフを回し右から左へと握ってみる。
魔石が埋め込まれているのは持ち手の方だ。
数ミリ程の翠色の玉。
無意識だったのかナイフ全体に翠色の光が纏う。オレの使う魔法はバーナンの魔力を受け取った力である風だ。
反応をした、と言う事で良いんだよな。
「なんだい、魔法を扱えるのか。綺麗なもんだな」
ほぅ、と物珍しい様に見つめられ居心地が悪い。
しかもそのまま座り込んでお酒まで飲み始めた。おいおい、このまま行くのか?
店の看板を閉めておいた方が良いじゃねぇか。
「おっとマズい。もう店じまいしないと……」
慌てた様に店の看板を閉店中に替えて、どっしりと座り込んだ。そのまま魔石が分かった理由を聞けば、オレみたく入って来た客の中に鑑定が出来る奴が来ていて教えてくれたんだって話。
天然石には大体の確率で魔力が溜まりやすい。
その欠片だけでも力は健在し、魔法を扱える者が握れば力が膨れ上がるだそうだ。
「その客は俺にそう言って、剣を買ってくれたんだ。なーんて言ったかな、名前は……」
その時の事を思い出そうとする中で、どんどん酒を煽ってる。いや、逆効果じゃないかとツッコみたいのを我慢する。こういうのは、自分のペースを崩されるとへこむからな。
どうもその鑑定をしてくれた人は漆黒の髪に、綺麗な顔立ちの男性なんだってさ。群青色の瞳かあ。
(ハーベルト国の王族特有のものと、被る……?)
んー。
オレもナークも嫌いだからと特徴がいまいち覚えてないな。上手く情報がまとまらないのは、昼間から酒を飲んでここでも飲むからか。なんだが、酒を進められているから断るのも難しいな。
「お前さんに反応したのならそのまま貰ってくれ」
「良いのか?」
「俺も初めて作ったからガタが来るかもしれんし、細かいメンテナスも含めて今後も来てくれるんなら、な」
チラっと見る辺り、乗っかられた気分になる。
だけど使い手がないままの武器を破棄するのももったいない。使ってくれるんなら、その方がマシなのかな。
「じゃあ、言葉に甘えさせて貰おうか」
「代わりに旅の土産話とメンテナンスに来てくれよな」
「はいよー」
その日の夜、オレは笑い話をしつつこの店の主人と仲良くなった。酒で潰れた主人の手元にはタダでくれると言ったナイフのお代と、朝まで付き合ってくれた礼としてお金を置いておく。
「お陰で楽しかったぜ。近い内にまた来るだろうから、その時はよろしくな」
オレはそう言ってふっと姿を消す。
手に馴染むナイフを持ちつつ、嬉しさに噛みしめる。武器を持ってこんな気持ちになるとは思わなかった。だけどそんな気持ちも朝早くからの念話によって一気に急降下する。
《お願い!! すぐに戻って、レントが……倒れた》
切羽詰まったのはラークさんからだ。
弟君が倒れたという話と姫さんが魔獣に攫われたと言う問題が、同時に発生した。
人食いが魔獣なら……姫さんが危ないっ。
オレはすぐに彼等が居る場所へと急いで向かった。




