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いざ、東へ


 東の国境は、南と同じく砂漠地帯。

 ディーデット国は東といざこざが多い為に、国境付近には兵士が多い。魔物の処理やギルドとの連携も考えられているが、本来の目的は東の監視だ。




「ここがリックナ。……人が少ないのって、やっぱり」

「物々しい雰囲気だし、険しい顔をしている人が多い。気が立っているんだろうね」



 

 レント達は国境を管理している街、リックナに転送されていた。事前にナークと打ち合わせをし、バーナンだけでなくギルダーツ王子ともルートを決めていた。


 リックナに立ち寄るのは最新の地図と、現状の東の国を知るためだ。

 ナークが里を襲撃され、生き延びてから約1年。関わりを絶ってはいたが、そのズレを埋めたい。彼としては戻る気もなかったが、ウィルスという主を得た事とリバイルが南側のトルド族だった事が彼に変化を与えた。


 関わりを絶ったが、逃げていると感じきちんと向き合う覚悟を決めた。ナークが自ら里の場所を教えるといったのもそういった経緯がある。




「こら、君達。ここは観光地ではない。子供が遊びに来ていい場所じゃないんだ」

「え、あ、あの」




 リックナの入り口には、南の国の兵士がいた。上下薄い青色の制服に、腰には剣を下げている。中には槍を持った人も居た。

 事情は知っていると思っていたレント達は戸惑いの声をあげる。




「彼等は良いんだ。通せ」

「っ、ギルダーツ様」




 そこに声をかけたのは、ギルダーツ王子とルベルト王子の2人だ。ウィルスが「お兄様」と呼べば兵士はギョッとしたように驚かれる。


 その様子にマズイと思ったウィルスは、慌てて口を塞ぐ。彼女の様子にルベルトは笑い、ギルダーツも少し笑っていた。

 



「うぅ……」




 恥ずかしい気持ちになった彼女は、レントの後ろにコソッと隠れナークに優しく撫でられた。ギルダーツ王子が変わったと噂で聞いてはいたが、実際目の当たりにして開いた口が塞がらない様子の兵士達。




「どうした、ルベルト」

「ううん……気に、しないで……」




 不思議そうに尋ねるギルダーツと違い、ルベルトは兵士達の変化にすぐに気付き笑いを堪える。ウィルスも不思議そうに周りを見ており、ギルダーツも分からないとばかりに周りを見る。


 こういう所が似ているんだな、とレントとナークな内心で思う。彼等がほっこりと微笑ましいなと、思っているのに本人達が気付いていないのだからと教える気がない。

 

 鈍感な2人を引っ張りながら、ルベルトはリックナを管理している領主の元へと案内したのだった。




「今の東の状況はこんな感じだよ。ナーク君も確認しといて」




 屋敷に着けば客間へと案内され、南が把握している地域を記した最新の地図が広げられる。ナークがじっと見ながら、自身の記憶とのズレがないかと確認している中でレントは、改めて国の広さを思い知る。




(兄様は外交で国内に居ない時が多い……。ディーデット国は海に面した城だったし、水が豊富だという印象だ)




 だが、と思ったレントはハーベルト国の位置を見る。

 南と違い海に面していない上に、資源となる水も少ない。水が湧き出た事で観光地となったオアシスがある。だけど、それがあるのはハーベルト国周囲辺のみ。

 資源の独占ともとれる位置に城がある。


 城の周りはオアシスがあるが、水と言う必要不可欠なものが本拠地近くにしかないという点。思わず睨むように地図を見ていると、ギルダーツも「そうだろう」とばかりに説明をした。




「東がこちらを狙うのは水が欲しいからだ。同時に魔法を扱える人員も欲しいんだ。向こうにはその手の使い手が少ないからな」

「……だから、トルド族を自分の手元に置きたいのか」




 自然とナークに集中する視線。

 一方の彼は集まった視線にビックリして固まり、ウィルスの後ろへと隠れてしまった。だけど話は聞いているし、顔を覗かせて頷いているので会話の参加はしている、らしい。




「彼等は契約した主の魔力を受け取り、その力を自分に扱えるように変換する一族だ。彼等にとっても恩恵があるからこそ、知られれば手中に収めようとする者達が多い」




 だから奴隷のような扱いだっただろうと悲し気に目を伏せたギルダーツに、ナークは「気にしないで」と言う。そこには死なないだけマシだとも言える。そんな視線を受けつつも、それでもギルダーツは謝った。


 自分に力がなかったばかりに、と言うがナークは困り顔だ。そんな事を言ったらリバイル兄さんに注意される。そう言われては口を閉じるしかない。ルベルトが話題を変える為に、レント達に渡した魔法道具がある。




「これに魔力を込めれば、同じ物を持っている人に繋がるよ」




 渡されたのは小さなダイヤモンドが埋め込まれた片耳用のピアス。それが6個ある事にウィルスとナークは同時に首を傾げ、レントは「まさか……」と分かりやすく不機嫌になった。




「やっぱ弟君は鋭いなぁ」

「いえ、絶対に途中から気付いてたでしょう」

「そう、ですね……」




 ばっとレントが睨むようにして振り返れば、そこにはリベリーとカーラス、ラーグレスの3人が居た。そこに「どうも」と頭を下げながら来たのは薬師長のラークだ。




「ラークさんも、一緒に……?」




 思わずウィルスはそう言ってしまった。

 彼女は薬師としての彼しか知らないが、実は彼は騎士団出身だ。ラークは各地の薬草や珍しい薬を知りたいが為に、異動を申し出た位に今の仕事場が好きなのだ。

 騎士団に居た理由としては自身の家系が、警備隊や騎士団など人を守る立場での役職に就いているからとラークにも強要させた。しかし、幼い頃から両親に隠れては城の庭園に遊びに行ったり、国外の森へと出たりと割と暴走気味。




「魔物も出る所にも要請が、掛かりますから自然と剣は扱いが慣れています。あとスティングと組んでいた事もあるので、これで腕は立つ方ですよ」

「す、すみません。薬師の印象が強くて……」




 彼の経歴を聞いたウィルスが謝るも、ラークは気にしていない。

 レントは兄のバーナンが送り込んだのだと言うのが分かり、ラークを同行させたのには理由があるのも分かっていた。


 これから足を踏み入れる東の国は、砂漠が多いのも含めて未知の領域。

 砂漠に強い植物もあるだろうし、ガナルが使ったとされる毒はリグート国では使われない珍しい種類のもの。

 複数に混ぜた毒の原料がこの国にあるのなら、解毒を作るのにはちょうどいい。加えて魔物が使う毒にも警戒するなら、薬師であり騎士としての経験もあるラークが来るのは当然の事。


 そこまで考えて、自身の兄の頭の回転の速さと用意の良さに叶わないなと呟く。




「お兄さんって、時に信じられない位に頭の回転早いよね?」




 そう聞いてくるのは同じ弟のルベルトだ。

 こそっと話しかけてくる辺り、レントの心情も読み取っての事だろう。察しの良さに貴方もだろうと一言いいたくなった。

 

 


「それでは皆様、お気をつけて下さい」




 領主であるナント・フェルルグはレント達にそう声をかけた。

 ウィルスとナークが出された紅茶が美味しかったとか、お菓子も美味しかったですとお礼を言う。それを受け取りながらも、2人の事を心配そうに見つめており思わず会話が止まる。




「自分は何も力になれません。ただ、ギルダーツ王子の命によりここを守るだけです」

「あの、ここの住民達は」

「あぁ、言っていませんでしたね。周辺の管理している所は全て、王都へと移っているのです。ここはもう領地でありながら、兵を置く軍事基地でもありますから」




 その答えにウィルスは分かりやすく、あっと声を漏らしてしまう。

 ナークは声に出さないものの、彼女と同じくシュンとなる。そんな2人に彼は優しく頭を撫でる。




「そう落ち込まないで下さい。私達よりも貴方方の方が危険が多いのです。気を付けて下さい。東の国は危険であり、前以上に難民が増えているんです」

「難民……が?」




 彼は言った。

 東の国は、奴隷制度が1度廃止されたのにまた復活しているのだと。特にウィルスのように美しい容姿の人間は狙われるから要注意だと伝え、彼女に渡したのは黒いマントだ。

 これも魔法道具だと説明され、周りと風景が同化するから隠れるのに最適である事。ただし気配や音は消えないので、その点に注意するように勧められた。




「あの、どうしてそこまで……」

「ギルダーツ王子の命によるものですが、見てわかりました。貴方は狙われやすく、また珍しい容姿ゆえに苦労もしているのだと」




 珍し系統の魔法を使う者の共通しているのは紫色の瞳。

 ギルダーツ王子と同じ瞳であり、彼は王子達とは学生時代からの親友だ。それ故に、王子の悩みも瞳の色の所為で狙われた事があるのを思い出した。だから、ウィルスにもつい優しくしてしまう。




「リグート国の王子にも渡しました食料は、どうぞ気になさらずに使って下さい。協力できることは限られておりますから」

「は、はい。そう……させて貰います」




 渡したと言われればウィルスはそう返すしかない。

 本当ならこの魔道具もと思ったが、言われる前にと封じられれば素直に受け取るしかない。




「ギルダーツ」

「なんだ」




 リックナを出れば東の領域。

 南と同じく皮膚の固い魔物が多く、縄張り意識が強いのが特徴だ。魔物だけでなくここ最近は、魔獣の目撃も増えている為に簡単にハーベルト国へ行けないのは……予想出来る。




「君が支えたい気持ちも分かるよ。……彼女達に期待するしかない現状が悔しいね」

「魔法の知識と土地によって、他よりも魔力が溜め込みやすい国だ。俺達の国は他と違い魔法道具を作る事が出来る」

「だから無理に探せたんだろ? なかったら作れって急かすんだから驚いたさ」




 その時の事を思い出したのかルベルトは密かに笑う。

 やるせない気持ちのまま、彼等はウィルス達を送り出した。姿が見えなくなった途端、彼等は覚悟を決めた面持ちのまま各方面へと指示を飛ばした。

次回投稿、27日(金)です。

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