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第158話:支える為に

ーウィルス視点ー


 どうにかギース様を説得して執務室から出る。リラル様が荷づくりならこっちで用意すると言われてしまい、思わず首を振った。




「い、いいえ!!! 自分の物は自分で」

「下着関連は流石に私も手は出せないよ。向こうで必要な物を?小型化にして用意するよって話」

「あ……」




 ボッ、と顔に集まる熱。

 そ、そうですね。男性だもの。女性の下着とかそう言うの……用意するはずないですね。

 

 な、何を言ってるんだか……!!!




「ふふっ。そんなに慌てるだなんて……可愛い反応だよね」

「リラル兄様。それ位にして下さい」




 ギュっとレントが後ろから抱きしめ、ついてとばかりに距離を離される。戸惑う私をナーク君はさっと目を逸らす事で、参加しないという意思表示をしている。


 う、どうしよう……。




「ホント。レントの婚約者なのが勿体ない位に可愛い人だよ。……私が欲しい位だ」

「へっ!?」

「荷物の用意はそちらに任せますから、どうぞ仕事に戻って下さい!!」

「はいはい。嫉妬深い君に、これ以上は触れないよ」




 じゃあねと言って手を振るリラル様に、私も応えるようにして手を振る。さらに力を込めてレントが抱きしめてきた。

 これもダメだって、ことなのね。

 どうしよう、ギルダーツお兄様達と密かに水晶でやり取りしているの言えなくなった。


 ルベルトお兄様との手紙も、言えるタイミングがどんどん減っていく。むしろ彼の場合、それも見越しているような感じがするけども。




「じゃあ、私も仕事に戻るよ。そうだ、ウィル――」




 名前を呼ぶバーナン様が止まる。

 それもそうだろう。だってレントが……急にキスしてくるんだもん。




「ちょっとーー。ここ城内の廊下だよ? しかも国王の執務室の前なんだけども。ほら護衛の騎士だってバツ悪そうにしてるし」

「んんっ!!!」




 わーーー!!! レント、止めてよ。

 お願いだからと背中を強めに叩く。やっと離れてくれた時にはフラフラで、ナーク君が支えてくれた。その時に、すっとレントから離れたから警戒してるんだよね。




「リラル兄様に手を振るからだよ。その罰を受けて貰っただけ」

「従兄弟もダメなのか……。心狭すぎだな、ホント」

「ウィルスに関してはそうですから。え、知ってましたよね?」

「まあね。私にだってなかなか接触させないんだし……。クレールと3人で出かけようかなって思ってたのにさ」

「兄様はウィルスなしでクレールの事を誘えないんですか。どうなんですか、それ」

「……前よりも毒を吐くようになったね」




 真顔でそんな話しないで……。

 うぅ、恥ずかし過ぎてまともに見れない。ナーク君にポンポンって頭を撫でられて「主、ファイト」って言ってくれる。


 頑張るしか、ないのか……。




「ウィルス?」

「う。な、なに……」




 また刻印でよくない事を言ってしまったか。そう思って恐る恐るレントの方を見ると目が笑っていない。




「お昼、一緒に食べたいからサンドイッチをお願い。ついでに兄様の分も」  

「わぁ……ついで扱いとか」




 酷いなと言いつつレントの肩を叩くバーナン様。

 そんな姿が微笑ましいのか見張りをしていた兵士達からは、クスクスと笑う声が聞こえる。

 

 ジークさんからは前よりも城の雰囲気が明るくなったと前に聞いた事がある。

 

 今、明るくしているのは私のお陰だとも言われ前はピンと来なかった。でも、今はちょっとだけそうなのかなって思っても……良いのかな。




「主?」




 ナーク君の呼びかけで、私ははっとする。

 何でもないと言い、レントの言う様にサンドイッチを作る事にした。


 厨房に行くとリーガルさんが「よう」と声を掛け、周りも私とナーク君に気付いて声を掛けてくれる。




「あの、厨房の奥を貸して貰えますか?」

「今頃そんな謙虚になるなよ。姫様なら全然、好きに使って良いんだし」




 変な事を言うなとリーガルさんに背中を押される。

 それが嬉しくて、私に守りたいものが出来たのだと言う実感が持てた。


 私は……この国の為に出来る事をしたいんだ。この場所を暖かな人達に囲まれた、この空間が好きなのだ。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



ーギルダーツ視点ー



「分かり、ました。こちらでもそのように、動きます……」




 自分の声が、ある意味では思い描いていたものなのか分からない。ただ、呆然とした様子で国王である父を見て……思った事を言ってしまう。




「ウィルスを……東に行かせる事。よく許しましたね」

「本当なら行かせたくはない」




 東はもうハーベルト国だけだ。覇者として君臨する為に、あの国の侵攻はこれまでよりも攻めるスピードが速い。

 こちらの準備などお構いなしに、戦場を引っかき回しながら自分達が手に入れるものを確保する為。

 

 分かっている。分かっているが……どうにも苛立ちが収まらない。

 ウィルスが魔法を扱える。嬉しい筈なのに、その力は魔獣達からは危険とみなされ命を狙われる。


 優しい性格の彼女に、何の恨みがあるのだろうか。

 



「だが、リグート国の言う事も分かる。現状、魔獣に対抗できる力を持っているのは彼女の魔法だけ。そして……彼女には聖獣が現れ契約を交わしたのだという」

「聖獣、ですか」

「白銀の魔法の使い手を守る為の存在。ただ1人の使い手を守る為と言う使命の元、その魔法によって作られた。精霊はこの世に生きる者全てを庇護する存在。聖獣は使い手を、守る為だけに生まれた存在という違いがある」




 つまり、使い手であるウィルスが死んだ場合。次の使い手が現れるまで、その聖獣は使い手を探すことになる。だが、聞けばその聖獣は最後だと言う。


 チャンスは……もうないのだと言う事か。




「ウィルスが交わした聖獣が最後なら、次はもうない可能性がある。……なら、これで潰すしかないという状況になる。彼女はそれでも進む道を選んだというそうだ」




 笑顔でレント王子と共にある、と。

 彼とならどんなことでも我慢しやり遂げる。自分を駒として使うのなら、命を張らないといけない場合なら懸命にやる。

 

 彼との幸せを願う為。

 その為なら全てを投げ打ってでも、全てを差し出す覚悟で臨むのだと。




「彼女らしい答えです。ウィルスは前を向いて、怖くてもやると決めたら、絶対にやり遂げる女性です」




 実際、無理だと思っていたこの国の結界を張り直しただけじゃない。さらに強力な結界にした。そのやり遂げる姿は、俺が幼い時に会ったレーベ様と重なる。




「納得はしないが、それでも確実に俺達で餌になるのなら囮でもなんでもやりましょう。……彼女が、ウィルスがまたこの国に訪れる時に、恰好が悪いだなんて言われたくないですし」




 そう言うと驚いたように目を見開かせた父。


 魔力の高い人間を襲う習性のある魔獣。  

 レント王子とウィルス、ナークが自由に動ける時間を稼ぐ為に仕掛けるのにはまだ時間がある。そのつもりでいく様子のバーナン王子は、すぐに従兄弟であるリラル王子と組んで色々と案を考えていると聞く。明日にでも連絡をして、対策を練ろうと考える。




【ごめんなさい、お兄様。その、報告が遅くなってしまって……】




 自室に戻り水晶に魔力を注げば、申し訳なさそうにウィルスから謝罪をされる。半透明で映し出された彼女は水色の薄手のものを着ている。時々、ベッドから降りてはルベルトとの手紙を持ってくる。


 ワンピースを着ているのだと思ってなんとなしに見つめる。そしてルベルトと手紙を交わしていたのだと言う事実に、思わず何で言わないんだと心の中で思った。




【ウィルス。何を話しているの?】




 ギクリ、と。俺とウィルスの肩が呼ばれた声によって震えた。


 俺は恐る恐るウィルスの後ろを見れば……無表情で俺を見ているレント王子。そして、こそっと俺を見たナークからは申し訳なさそうに頭を下げる姿を見えてしまった。




【え、ナークも知っているの?】

【い、いいえ!!!】




 後ろを振り向いていないのに何で分かるんだと思い、ナークは思い切り首を振る。拒否をしているが、レント王子は信じた様子はない。


 これは……マズい。




【ギルダーツ王子。詳しく聞かせてくれますよね? ウィルスとナークは正座で待ってて】

【【はいっ……】】




 2人してガタガタと体を震わせている姿を見ながら、俺はどうウィルスの負担を減らせるかと思いながら彼に話した。


 だが、俺の努力は空しくウィルスとナークはお仕置きを受けてしまったのだと聞く。

 これからはウィルスにではなく、レント王子に確実に連絡を取っておく必要があるようだ。これ以上、ウィルスに負担をかけてはいけない。


 これは従兄妹としての義務だ。


 なにもレント王子が恐ろしいとかではない。

 そう言い聞かせながら、俺はルベルトと今後の対策をと話を進める事にした。

 仕事に逃げてない? と鋭い弟のツッコミを無視しながら。 

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