第157話:次の目的地
ーナーク視点ー
夜中に王子からの呼び出しがあった。念話を使っての呼び出しは大事な話をする時か、主が寝ている時だけだ。隣に居るリベリーを見れば「行ってこい」の一言だ。
「弟君からの呼び出しだろ? オレの事なんか気にするなって」
「……一緒に行く?」
「いやいや。何でワザワザ弟君の怒りを買うような事をするんだよ」
「なんとなく聞いてみただけ」
そう言ったら睨まれる。
それに笑っている自分がいる。その表情を見たリベリーが安心したように、気を付けろよと言われて思わずキョトンとなる。
「リバイルの事、もう引きずってないなら良いんだ。お前はそうやって誰かの為に強くあろうとする。姫さんでも弟君でもいい」
そうやっているのがボクだと。
ボクを心配してくれる人の事を思い出して、無茶をするなと言われてしまった。
……。
無茶した記憶がないなと思っていると、デコピンを喰らう。
「お前、無自覚で無茶する性格なのか!!」
「いたたっ。痛い、痛いって」
何でか頭を抑えつけられて、ギリギリって音がするんだけど。
え、何でそう無茶しかしないんだよってコソッて言うの。じっと見ていたらまた力を込められた。
だ、だから痛いんだってば!!!
《ナーク、早く来てよ!!》
「ふぁい!!!」
わ、忘れてた。王子の所に行かないとっ!!
「ご、ごめん……」
謝りながら王子の部屋に入った。寝室にコソッと顔を覗いてみれば、愛おし気に主の事を見る王子が見える。
そのまま黙って後ろから見れば、モゾモゾとベットの中を動くのが見えた。その表情が幸せそうにしているからポカポカとした気持ちになる。
(あぁ~。癒される)
「すぐに来ないだなんて何してたの」
「……」
幸せな気持ちから一気にブリザートが吹いたようにボクの心が冷たくなる。ぱっと王子が振り返るも、ボクは何も答えずに視線を逸らして許して貰う。
「まぁ、良いけどさ。ウィルスにも言ったんだけど、ナークにも聞いて欲しくて」
「なにを……?」
「ん? 私達の覚悟」
その時の笑顔が何故だが……怖く思ったのは多分、気のせいだと思いたい。こうなった時の王子って、言う事聞かない感じがする。
どうしよう、ジークさん。助けて……。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
その日の朝、主が寝ぼけてボクを枕代わりにした。
手付きが優しいし時々、ポンポンしてくるから思わず笑顔になる。すぐに王子から「止めろ」って言われて引きずり降ろされる。
「ミャア」
「ミャミャ」
「フニュ……フミャミャ」
ボクが居た場所に子猫達が我先にと場所を取り合う。
主の真上に位置するのは飼い猫のカルラ。子猫達が暴れ回るのを、ビーが見張りながら主を起こさないようにしている。
(うぅ。ボクも混ざりたい……)
ミャアと泣く猫達に羨ましい気持ちで眺める。
それから主が起きて来るのに約30分。寝ぼけながら頭の上に子猫を乗せて歩く。それが可愛いから受け止める体制でいるも、当然のように王子が受け止める。
「おはよう、ウィルス。今日も可愛いね」
「ミャア~」
「おは、よう……。レント、ナーク、君……」
フワフワと定まらないように、眠そうにしている主。目をこする仕草が可愛いと思い、ペシッと子猫のパンチを食らう。
「ミャミャ」
「そっちは主の寝顔見たんだから良いじゃん」
「ミャ?」
分からないと言う様に首を傾げる。
無自覚で主に近付いてるなんて……。動物だから許されるのだろうか。
その後、3人で朝食をとりながら周りでカルラ達がご飯を食べる。なんだかいつもの日常に戻った様な感じで、ついクスッと笑ってしまう。そんな食事を終えてから、向かったのは……国王の執務室だ。
「ならん。そんな事を許すと思うのか」
王子から聞いた内容に、当然と思える反応にやっぱりかと思った。だけど、主も王子も引かない。
「ですが、時間が経てばその分だけ魔獣を増やす結果になる。遅かれ早かれ……戦争が起きる」
「それを防ぐ為に対策を練っている」
「それでは遅すぎます。対策を練ろうとも魔獣に対抗できる人間が少なすぎる。魔女達の協力を得られても、攻め手が少ないんです」
そう。王子と主の起こそうとしている行動は、東の国ハーベルト国へと向かう事。あの国で魔獣が人工的に作られていると聖獣から聞かされてから……ずっと考えていた事だと言う。
「私達が使う宝剣。ディルランド、ディーデット国にある宝剣でも少ない。攻撃を担う魔女も少なくなっているこの現状。どうしたってウィルスが使う魔法が要になります」
「……戦場に彼女を出す、と言うのか」
「酷い事を言っているのは分かっています。でも、ウィルスも覚悟の上です。でも、それでも数には勝てない」
ボクも全力で抵抗する。
でも、それでも王子からすれば負けるのが見えている。一番、マズいのは抵抗出来る力を根こそぎ奪われた状態で、主がゼスト王の元に連れ去れる事。
「向こうは兵士の中に魔獣を忍ばせられる。人間に憑依するだけじゃないし、死体からだって作れる技術。それがある限り、絶対的に戦力は埋まらない」
リナールがその例だ。
彼女は国外追放を受けた時に、魔獣に殺されたがそのまま体を乗っ取られた。意識は潰れるけど、ボクは必死で抵抗したしリナールの場合は、王子と主に対する憎しみで耐えた。
王子の言いたいことは分かる。
その技術を潰せる事が出来たなら……魔獣の製造を防げるのならば、数で圧倒されても簡単には負けない。
宝剣の力も凄まじいし、ボクと主が使う魔法も強力だ。
「……」
そうだとしても、王子の父親なんだろう。
息子の発言に困ったように顔を曇らせる。隣に居て今まで黙っていたイザーク宰相はボクに質問してくる。
「君から見てこの国は、どれだけ魔獣に耐えられる」
「……ガナルのような成功例がそんなに居ないなら、1週間は耐えられる。けど、成功例が居た場合は2日保てれば……良い方、かな」
そう答えると「そうか」と言い、ざっと思案した様子。そして、このまま主を国に置いてもガナルのような件がある。危険に飛びこむ様な真似だけど、魔獣を憑依させる力を壊せれば戦局はまた違う形になる。
「ギース。レント王子の意見、俺は良いと思う。勿論、ウィルス様も一緒に行くのでしょ?」
「昨日、レントから聞いて……私からお願いしたんです。どんな危険な場所でも、レントと一緒なら大丈夫って。私の力が役に立つのなら、使って欲しいんです」
ギュっと王子の手を握りそう答える主。イーザクさんが良いだろうと言った途端、国王が慌てて止める。
「お、おまっ!! なんてことを言うんだ!!!」
「彼女の周りを固めても、息子達のように撃退されるのなら無意味だ。何処に居ても危険がつくんだったら、東に行っても同じ事」
「敵の本拠地に行くんだぞ!!! 危険があって当然だろうに」
なら、とボクは手を上げる。
言い合いを始めようとする時にあげたからか、2人は注目してくれる。ひとまず喧嘩は止まりそうで良かった。ハーベルト国に行くのに正面から行く必要はない。
「ボクが居た里の抜け穴を使えば、ハーベルト国の城と繋がっている場所にでる。もしもの為に食料を貯蔵したり、過ごせる空間を作ったんだ」
流石に食料は無いだろうけど、その場所でなら数日間の間だけ住む事は出来る。知っているのは里に住んでいる人達だけで、ハーベルト国の兵士達には伝えていない。
裏切る真似はしないけど、もしもと言う時の為にと準備をしていた。
「約束します。絶対に主は傷付けさせないし、王子だって守ります」
ボクにとっては王子がもう1人の主だ。そして、ウィルスの事を幸せにしてくれる人。ボクの決意にさらに頭を悩ませた様子の国王。どうしようかと思っていると、予想外な来客が来た。
「だったら前線を仕切る人が必要だよね」
「補佐役も必要でしょ?」
「お前達、もう少し我慢を知ってくれ……」
そこに現れたのはバーナン様とリラル様。リラル様の父親のハルート様だ。驚きすぎてボク達3人はじっと見てしまった。人って驚きすぎると声も出ないんだね……。
「兄さん。レントの言う様に元を止められるならそれだけ、戦局は有利に働く。ウィルス姫を狙うのが、白銀の魔法を使えるという理由なら……何処に居ても狙われてしまう」
「だ、だが……」
ハルート様が説得とばかりに理由を敷き詰めていく。その間にバーナン様が来て、王子の頬を引っ張る。ボクはリラル様に同じ事をされる。
「全く……昨日から様子がおかしいと思ったら、そんな事を考えてるだなんて。何で頼ってくれないの。寂しいじゃないか」
「本当だよ。無茶は無茶なんだけど、止められるとでも思ったんでしょ? 君もだよ、ウィルス」
「はうっ」
ポン、と軽く主の頭を叩いたらそのまま頬をつねられる。ちょっとヒリヒリするからそれだけ、ボク達の行動に対して怒っているのが伝わる。
「わ、分かった!!! ラウドにも納得させるし、隣国のアクリア王にも伝える。だが……文句を言われたらお前達で説得させろ。良いな?」
「えぇ、分かっていますよ」
「そんな事だろうと思いましたよ」
予想済みとばかりにいい返事をする2人。
ボク達3人はヒリヒリする頬を抑えながら、東へ行く許可を貰えた事にほっとした。
ボク自身、自分の育った場所に戻るのに戸惑いはある。でも、これは自分で整理しないといけない。
そんなこんなで、ボク達は東に向かう為に準備を進めた。荷造りも含めて2日で用意して急がないと。戦争になる前にどうにか止めたいといけないから……。




