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第156話:2人でなら


ーウィルス視点ー



 私がようやくベッドから起き上がってもいい位に、体力が回復したその日。微かな揺れを感じた。




「……?」




 思わず外を見る。

 夜にはレントが迎えに行くからと聞き、出入り口の両側に近衛騎士が配置されている。中には護衛のナーク君とクレールさんが居て護衛中だ。


 ルーチェちゃん達はギルダーツお兄様の怒りに触れたからと、強制的にディーデット国へと戻された。

 回収しに来たルベルトお兄様から手紙を貰い「またね」と笑顔で言いながら、容赦なく連れ出す所は……流石、お兄さんなんだなと思ってしまう。

 

 カーラスはまだ安静にしていないといけないから、別室で大人しくしている。帰るギリギリまでアーサーさんが心配そうにしていたのをナーク君から聞いた。




「主?」




 不思議そうに聞きながらナーク君も私の後を追う。

 夜空が見える、城から見たいつもの庭園。綺麗に整備され、私が居る治療士さん達の働いているこの場所にも、綺麗に咲いている。


 私が居るのは治療士さん、ラークさんのような薬剤師さん達が共に働いている塔。その中で外部からの患者さんや、お城の中での起きた事故での怪我人の人達を集めて診る為なのか中は広い。


 レントの婚約者だと既に周知されているからという理由で、王族専用の部屋を使っている。良いのかなと思っていたら、国王様からの手配だという。


 ギース様。なんか、ごめんなさい……。   


 大きな施設なのは今に始まった事じゃないけれど、隣国との繋がりもあるからと共同で使う施設が多い……らしい。


 いつの間にかディルランドの人達にも認識されるし、お話もする。その際にエリンスから、私とレントの事を聞いていたからすぐに分かったのだと言う。


 ……エリンス、何を言ったの?




「なんだか地面が揺れた様な気がしたの。ナーク君は何か感じない?」

「……地面?」




 そう言って、地べたに耳を当てて音を拾おうとする。

 しばらくじっとして見守っていると、難しい顔をしたナーク君が顔を上げる。

 どうやら分からないみたいだ。




「ごめん」




 シュンとなって、ガックシと肩を落とす。

 そ、そんなに気にしないで。ほんのちょっとだけだったし、私の勘違いかもしれない……と、色々と理由を言いナーク君の機嫌を良くする。




(まだ悔しいし、情けないと思ってるんだよね)




 そう思っているとひしっとナーク君が腰辺りに抱き着いてくる。


 私が眠らされている間に負わされた大怪我。

 無理を押してリバイルさんの所に行き、大ババ様に怒られながらも私達にその事情を伝えてくれた。

 そうして休んでいる間に、再び起きた襲撃。


 同族の、ガナルさん……だったかな。

 凄く強いと私が思う位だ。危険を潜り抜けて来たナーク君やレントが感じない筈がないし、リベリーさんも怪我を負った位に強いのだと思った。


 ううん。

 レントの護衛としているバラカンスさんとジークさん。私の護衛にとスティングさんも居たあの場で、咄嗟に私ごと守ってくれたのはカーラスだ。


 もしかしたら、カーラスがそう動くのを分かった上で3人は動いてくれたのかも知れないけど。




「ナーク君。何度も言うようだけど、責めないで。私もレントも無事だったんだから。リベリーさんもカーラスも、皆無事なんだよ? 大丈夫、大丈夫だから」

「……」




 その返事かは分からないけれど、グリグリと頭をこすりつけている。

 拗ねた子供のようでクレールさんが静かに笑い、私は彼の頭を優しく撫でた。


 見てみるとぷくっと頬を膨らましたナーク君が見える。




「ふっ、あははははっ」




 思い切り笑ってしまった。

 クレールさんも同じようにだけど、さっきよりも声を上げている。どうやらナーク君のむくれた顔が面白いようだ。




「えっ、と……これは一体……」




 不思議そうに声を掛けて来るレント。クレールさんの迎えなのか、バーナン様もいる。2人揃って首を傾げ、そんな2人の様子を不思議そうに見ていたであろう近衛騎士達も見ている。


 これが私にとっての日常。

 レントの隣に居て、ナーク君が守ってくれて……。バーナン様もクレールさんも、リグート国の人達は本当に暖かい。


 密かに涙を堪える私を、察したようにレントは優しく撫でる。その行為に甘えるように、彼の部屋に戻ってからの私は静かに泣き続けたのだった。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


ーレント視点ー



「そうか。依然として魔獣の姿は目撃され、数も減った様子はないと」




 ウィルスの心が温かさで震えているのが分かった。

 私が残した刻印から伝わる、確かな温もり。それは彼女が感じた心の温かさだと、気付くのに時間は掛からなかった。


 最初にカルラを見付けた自分の幸運にこれ程の喜びを覚えた事はない。今でもあの時の事は忘れていない。他でもない私が見つけ、そしてカルラとウィルスは私が伸ばした手をとってくれた。

 それが例え気絶に近かったものだとしても、だ。


 昨日はそんなウィルスの感じた温かさを私も共有した。

 彼女の心があの時と比べれると、劇的な変化であり笑う事が増えた。それを嬉しく思うのに、どうしても他には見せたくないという気持ちも同時に生まれる。


 ……嫉妬とは厄介なものだ。




(あっ、カルラ達と遊んでいる)




 今居るのは国王の執務室。

 私の他に宰相のイーザク、兄様、私と言うメンバーを含めた4名だ。当然、ここからウィルスが遊んでいる様子が見える訳がない。

 彼女が居る猫達との遊び場はこことは逆の方向。


 では何で分かったのか。


 ウィルスの心の変化がよく分かるようになり、それが私にも伝わっているからだ。些細な事でも、昨日のように嬉し涙を我慢するのが分かる位に。

 レーナスにその詳細を伝えれば、私達の絆が固く結ばれたものからの変化だからと言う結論。


 魔法刻印は解明されていない事が多い。

 互いの心の中が伝わるだけでなく、些細な心の変化も流れ込んでくる。ある意味、私達は実験台にされてる訳だけど……。これはウィルスには内緒にしておこう。




「どうしたんだ、レント」

 



 そう思って微かに笑った私を不思議そうに呼ぶのは兄様だ。イーザクはワザとらしく溜め息をし、父からはウィルスかと聞かれたから素直に答えた。




「えぇ、ウィルスがカルラ達と遊んでいるので嬉しくて」

「そうか♪」

「ギース」

「はい……」




 ウィルスの事を既に娘同然にしているからか、すぐに嬉しそうになる。だけど宰相から睨まれて、シュンとなる辺り力関係が明らかすぎる。

 



「私に表舞台は似合わん。せいぜい後ろから支えるのが自分に合っている」




 私の視線から察してそう言った。

 なるほど、影の支配者か。睨まれたような気もするけど、気のせいだね。




「いえ、今頃ならウィルスとの新婚生活を楽しんでいるんだなと思って」

「え。今の生活とどこが違うの」




 真顔で兄様に質問されてしまった。

 おかしい、父は同意するように頷くのに。そう思っていたら宰相からも、兄様と同じような反応をしている。




「まずは3食共に食べる事が出来るし、仕事から帰れば妻がいる。もうそれだけで違いますし、今までと違って長く過ごせる時間を得られます」  

「……うん、やっぱり変化ないよね」 




 おかしい。十分に違うのに。

 婚約者と妻って結構な差じゃないかな。あと、ウィルスが私の為だけに着飾ってくれる。

 嬉しい事じゃないか。はっきりと自分のものアピール出来て、牽制にもなる。




「……話を戻します。ハーベルト国の王はゼスト様になり、魔獣らしきものの目撃が報告であがっています。その影響か各地で小競り合いと奪い合いが起きている、とも」




 コホン、とワザとらしく咳をし宰相は話を進めてきた。私と兄様が呼ばれたのはこの為だったか。




「ディルランドからは協力は惜しまないと言う話。ディーデット国は、万全ではないものの協力していくと言う返答を得ています。それと――ウィルス様の今後の予定も含めて」  




 空気がピリついたのは仕方がない。

 私と父様が同時に睨んだからね。兄様は予想していたのか無言だし見守るスタイル。

 そんな空気も流れる中での話し合いは夕方まで続いた。だけど、結局いい案は浮かばないまま解散となった。




「はぁ……」




 頭が上手く働かないと言った方が良いのか。自分の状況がよく分からないでいるとウィルスがじっと見てくる。




「レント。何か、あった?」




 首を傾げながら聞くウィルスが可愛いからと頭を撫でる。もっと近くに感じたくて、そのまま抱き寄せる。そんな私の様子にウィルスは、頭にハテナが沢山あるだろうなと、思いつつ「何でもない」と嘘を言う。




「……私。レントとならどんな事でも我慢するよ? レントからいっぱい贈り物をくれたし、居場所を作ってくれた」




 だから大丈夫だよ。


 ニコリと笑顔を作るウィルスに、申し訳なくて力いっぱい抱き締める。迷っていることがあるのは事実だし、巻き込むのは……決まっている。


 微かに震えた体も、見栄をウィルスが張るのがどうしようもなくて自分が情けない。




「……ウィルス。私の話を聞いて欲しい」




 今朝の事。

 迷いはあるが、ウィルスと同じく私も彼女とならどんな事でも我慢しよう。

 

 王族として、彼女の婚約者として。

 進まないといけない事を彼女に話した。


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