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第155話:半魔獣

ーレント視点ー



 振るわれる腕は魔獣の腕。その威力が凄まじい。

 紙一重で避けるだなんて危険な行動は出来ない。現に振るわれた衝撃で木々が薙ぎ倒され、さらなる被害が起きているんだから。




(他に人が居なくて良かった)




 正直にそう思った。

 恐らくは兄様が止めてくれているのだと分かった。あとから行くと言っていたが、騎士団と魔法師団が来るのはマズイ。


 今はまだ私達に集中している。

 木々を軽々と持ち上げ槍のように振るう。そんな姿を、強大な敵を見て即座に動ける者は果たしているのだろうか。


 苦し紛れの特攻を仕掛け、相手の気を苛立たせてしまうのはいけない。


 私はリグート国の王子だ。

 当然、彼等の命を守る立場の人間だ。それは向こうも同じだ。その王子を守る立場だし、特攻せざる状況なら躊躇なく行うだろう。


 でも、私はそれを許さない。

 兄様が毒殺されかけた時、自分の大事な人が失われる感覚を知った。巻き込まれたバラカンスも、一命を取り止めた。幼い頃から兄様と共に居て、いつまでも一緒に居ると思っていた。


 バラカンスもジークも、私の護衛にと言ったのだって失いたくないからだ。

 臆病な私は、自分の手元にあるのを大事にしたい。守られるのが当たり前で、ひっそりとは嫌だ。


 もう、何もしないまま何かを失うのは嫌だ。

 幼い時、ウィルスを失ったと思ったあの時から……そう、思うようになった。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「おわっ!?」




 向かって来る木の根が槍の如く、地面へと突き刺さる。

 それを横目で見ていたリベリーからは冷や汗が流れていくのが分かる。私の場合、宝剣を振るえば風が斬り裂いていく。

 そうでなくても、私の傍には聖獣がいる。その後ろには倒れたウィルスとカーラスがいる事から、守る為にと力を貸してくれる。




「どうしたの、王子様。勢いよく出てきておいて、さっきから避けてばかりでさ!!!」




 苛立ったように私の目の前に現れるガナル。

 気付いた時、予想もしていなかった事に体が一瞬、硬直する。




【させん!!!】




 私とガナルの間に聖獣が割込み、そのまま噛みつく。

 その勢いを使って前進した聖獣は、押し倒す様にして抑え込んでいる。




【今の内に攻撃しろ!!】




 その呼びかけに私とリベリーが同時に攻撃を開始した。

 聖獣の間を縫うようにして放つ風の刃を別々に放つ。それを影によって全て阻まれ弾き返される。




「くそっ!!」

「リベリー、下がれ!!」




 苛立つリベリーに私はすぐに回避するように言った。

 察知した彼は即座に離れるが、四方から来た影の刃で肩を負傷する。そのまま、進路を変えて私へと向かって来る。




「なっ……」




 回避行動をしようとした私の足に影が絡む。

 自分の影から伸ばされたであろうそれは、ギリギリと食い込むようにして動きを封じる。




「弟君!!!」




 肩を抑えながら向かおうとするが、抑えていた筈の聖獣がリベリーへと投げられる。

 はっとした彼はすぐに風を使って距離を稼ぐ。当たらなくて良かったと思うが、既に目の前には爪が迫って身動きが取れない。




「っ!?」




 これまでかと思ったのを、分厚い氷が阻んだ。

 その壁は壊れる事なく、触れた先から這う様にして凍っていく。これにはガナルの方も予想外とばかりに動きが止まる。


 ギロリと睨んだ先にはカーラスが居た。


 手の平サイズに輝く魔力は自分が使う氷の力。

 自分の周囲には氷の粒が作られ、それが少しずつ大きくなっていくのが見える。




「お返し、です」




 彼にしては珍しく怒りが読み取れた。

 壁とカーラスの周囲に作り出した氷が形を成して、魔獣と同じ大きさの氷人形が対峙する。


 互いに振るわれた拳の衝撃に、空気が更なる振動となって伝わってくる。

 その隙に絡みついた影を宝剣で切り、ガナルの腕に向けて風の魔法を放つ。




「目障りな!!!」




 自分自身の影を覆い、風を通さないように壁を作る。

 氷人形はそれに構わず、その影を覆うようにして形を変えて飲み込んでいく。




【同時に行くぞ】

「分かった!!」




 聖獣の体から銀色の光が発せられ、私の握る宝剣からエメラルド色の光を発して力を溜める。

 包まれた氷の膜からは、ガン!!、ガン!!と出てこようとする音が響く。一瞬、カーラスの方を見れば彼は負けじと閉じ込める事に集中していた。


 ——これで!!!


 聖獣の振るう力と私の扱う風が合わさり、氷へと向けられる。

 上から包む様な風は、竜巻となって衝撃を生む。その上から聖獣が押し潰す様にして叩き込む。




「危ない!!」




 そのぶつかった衝撃で、半壊する形になった森。

 根を張った木が簡単に持ち上がり、周りを薙ぎ倒す様にして襲い掛かる。リベリーに押し倒される形で私は守られる。




「ううっ……」




 気絶、していたのだろうか。

 うっすらと目を開け、自分が倒れた訳を思い出す。すぐに体が動けなかったのは、上にリベリーが乗っているからだ。

 彼の方も私と同じタイミングで目を覚まし、周囲の様子を見る。




「く、邪魔ばかりする、聖獣が……!!!」




 ユラリ、と起き上がる影に私とリベリーが同時に体を固くした。

 聖獣の方を見れば息を荒くしながら、ウィルスとカーラスの傍に立っていた。ただその姿は足先から半透明へと変わっている。


 ウィルスの魔力で具現化していると聞いている聖獣。

 彼女が気絶しているのが原因なのか。もしくは力の使い過ぎなのかと思っていると、魔獣の体がみるみる人の姿へと戻っていく様を見る。




「くぅ、まだ調整が……必要、か」




 悔しそうに呟かれる言葉にまだ理解が追い付かないでいる。

 だけど、リベリーは反射と言うべきが止めを刺そうと首を狙う。


 ガキン!!、とガナルの作る影とリベリーが作り出した風の刃がぶつかる。

 

 寸前の所で阻まれ、悔し気に舌打ちしガナルを睨む。 




「コイツっ……!!」

「お前、ころ……はっ? 何、それ。本気で言ってる?」




 目を細め攻撃しようとしたガナルは、まるで1人ごとのように呟く。すると、彼の周囲にユラユラと炎のようにして囲んでいく影。

 攻撃を仕掛けて来るのかと思い、剣を握る手に力が込められる。




「時間切れか。そこに聖獣さんの力は知れたし、弱点も分かった。……傷が残らないと良いね」




 ゾクリと私の背筋が凍った。

 見つめた瞳はウィルスを見ているが、何だか空虚を見ているようなそんな感じ。




「じゃあね、王子様と同族。次に会えるのを楽しみにしているよ」

「くそっ!!!」




 影で包まれるガナルに接近し、魔法を炸裂させたリベリー。

 だけど向こうの方が一歩早い。

 包まれる影が風を通さないまま、紐を解かれように自然と消滅しガナルの姿は見えなくなっていた。




「すまん……」




 今になって自分が怪我をしていた事に自覚したようだ。

 痛そうにするリベリーを横目に、氷人形が砕ける音が聞こえる。その後で、ドサリと倒れるカーラスへと急いで向かう。




《すぐに治療士と薬師を呼んでおいて!! 怪我人が私を含めて4人いる。襲撃者は取り逃がしたけど、まだ潜んでいる可能性がある。門の周囲だけじゃなく、隣国にも連絡して連携をとるように》




 念話で警備をしている隊長に告げる。


 相手がトルド族と言うのもある。

 だけど、まさか自在に魔獣になるとは思わなかった。予想を超えたやり方に自然と不安を覚えた。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



ーウィルス視点ー



 私が意識を失ってから5日。

 ファーナムからは「何度も何度も」と静かに怒りを滲ませ、ルーチェちゃんとバーレク君は目が覚めるまで傍を離れなかったそうだ。

 

 休んでいる間にさらにショックを覚えたナーク君。2人と同じように傍を離れずにいる所がずっと泣いていたと聞いた。

 今、そう伝えてくれるラーグレスなんだけど……。




「主!! ごめん、ボクもう寝ない!!!」




 ナーク君、それはダメ。絶対にダメだよ。

 そう言っても聞いてくれない。……どうしよう、さらに落ち込ませてる状況なんだけど。




「お姉様!!! こちらを食べて下さい。元気になるまで私達で看病なるものをしますから」

「ルーチェは分かってない。お姉様にそんな珍妙な物を食べさせるな」

「どこかです!!!」




 見た目、かな。

 ミリアさん達とで作った薬膳料理、らしいんだけども。どうしよう、見た目が薬草の色んな色と混ざって緑色じゃなくて黒。

 黒……黒かぁ。

 大ババ様から貰って飲めた赤い飲み物よりは、マシかな。……なんか違う気がするような。




「姫様、無理しないで下さい」

「ラーグレス!! 私が困らせているような言い方をしないで」

「実際、困らせてる。捨てて良いよ。レント王子に睨まれたくないし」

「見てるから平気だよ」




 あ、レントに取られた。

 ルーチェちゃん達が作ったから頑張って食べようとしたのに。そう思っていたらレントに「これで食べて、実際に効果があるのに時間かかったし却下」だって。

 誰が食べたのだろうかと思ったら、スティングさんとバラカンスさん、ジークさんにだと言う。




「ただし、今も3人はベッドに沈んでるけどね」

「やっぱり危険な物じゃないか」

「なっ!? そんな筈は」

「だから危険じゃないって。……効果が表れるのに、時間が掛かるだけで気絶してるだけだから」

「「それ、危ない!!!」」




 バーレク君とナーク君がすぐに取り上げて、破棄しに出ていく。ショックを受けているルーチェちゃんを、ラーグレスが静かに連れて行く。


 何だか、可哀想だと思っているとレントにぎゅっと抱きしめられる。




「レント……」

「そう何度も心配させるって事は、反省はしてないんだという事だね。これから移動する時にはウィルスの傍に離れる訳にはいかない、か」




 なんだか黒い笑みを浮かべてるレントに、引き攣ったのは仕方ない。


 あ、あの。真剣な表情で「抱っこして行くか、自室で仕事か」って、悩んでいるんだけど!!

 認知されてる中で恥ずかしい思いすれば、勝手な行動できないよねとか本気で言ってる。


 あっ!! バーナン様、逃げないで下さい。今、完全に目が合ったのに……!!!


 誰かレントの事、止めてーーーー!!!


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