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第154話:楽しいのも程々に

ーバーナン視点ー




「——以上が報告になります」




 真っ青のまま私に報告をするのは、襲撃を受けたスティング達の治療を施した治療士と駆け付けて来た近衛騎士の2名。

 スティング達の方はしばらく目が覚めないが、重症とまではいかない具合だから良しとした。


 ナーク君から報告を受けていた神経毒の事もある。

 聞いてみれば予想通りと言うべきか、スティング達の体から毒が発見されて処置を終えた様子。




「おそらく3日程は目が覚めないかと、思われます」




 どうやら毒の種類が1つだけではない複合されたもの。

 普通なら処置を行って回復するのを待つんだけど、ウィルスと契約したナーク君は特別過ぎるのだろう。

 

 彼女が使う魔法をそのままナーク君が扱えるのだ。

 その魔法の効果で毒が半減される所か、なかったことになっている。これが分かっただけでも、白銀の魔法の効果が高い事が分かる。


 それともウィルスが治癒の力が強いからこんなことが起きるのだろうか?

 それも白銀の魔法と言う規格外なものだからなのか。




「そして、レント王子とバーナン様の護衛であるリベリーさ…リベリーとでウィルス様の救出に向かっている報告を受けています」




 あぁ、リベリーは自分に様付けとか大嫌いだからね。しかも、一回そう呼んだ時に隣で凄く嫌な顔をしたから言い直したね。

 まっ、2人が向かっているのは予想通りだ。


 しかも、今、ウィルスと共にいるのかカーラスだと聞く。

 うん。彼はウィルスの護衛でもあり世話係でもある。ただの護衛じゃない。自国の師団長を務めていた経歴の持ち主だ。そんな人が何でウィルスの傍に、護衛だけでなく世話係をしているのかと思ったが……。




『カーラスは姫様に心酔しています。俺もその自覚がありますし……姫様の前では態度が急変します。あと秘密にしているそうなので、うっかり姫様に言わないで下さいね』




 あとが怖いから……と何処か遠い目をしたラーグレスの事を思い出す。


 師団長の仕事もしながらウィルスの事もやるのって、相当の覚悟と気力が必要だ。

 確かに心酔している、と言うのがそれでも分かるな。




「バーナン様。今すぐに師団と騎士で編成し、王子達の救出に向かおうと思い――」

「ダメだよ」




 救出に乗り出そうとしたのは近衛騎士のシザークだ。

 彼は驚きで目を見開き、私の事を凝視するように真意を読み解こうとしてくる。


 救出したい気持ちは分かるが、相手がトルド族の……リバイルの言うガナルだった場合は危険すぎる。

 暗殺者は依頼のある人物を秘密裏に殺す役割を持つが、恐らくガナルはそれと同時に危険な思想の持ち主だ。


 8歳で自身の育った場所である村を壊す程、危険な存在。

 魔物に襲われたというカモフラージュまで行う徹底ぶり。それが成長していると考えれば、知識が増えていく。


 神経毒を使って相手を鈍らせ、首を狩る戦闘スタイル。

 ナーク君は翌日に動けたけど、普通ならスティング達みたいに動けなくなるし安静にしないといけない。


 その被害を考えると危険すぎる。




「何故、です……」

「相手は暗殺者だ。騎士が暗殺者を相手にどれだけ耐えられる? 魔法の支援も、近接を行う君達が居る状態で手を出せる範囲も決まっている。……それを相手に利用されれば、壊滅される危険を含む」

「……っ」




 悔しそうにする彼には申し訳ないと思う。


 だけど言わせてもらう。


 相手の裏をかくのが上手い暗殺者が、それ等を利用しない手はない。

 助けに行って余計に被害を生むのなら行かせない方がいい。


 トルド族には同じトルド族でぶつけさせてもらう。

 リベリーはそれも理解しているし、ナーク君より冷静に立ち回れる。彼はウィルスの事を大事にしている分、隙が生まれやすいし彼女にも危険に立たせてしまう。




「君達には城周辺の警戒を怠らないで欲しい。他にも襲撃者が居ないとも限らない。バーレク王子とルーチェ王女の2人も狙われている可能性でだってある。ウィルスだけ守れば良いという問題ではないよ」




 暗に国際問題にしたいのかと告げる。


 南の国、ディーデット国とは友好条約を結んだばかりだ。それを早々に取り消す様な真似を出来るのかと、悪いと思いながら睨む。




「分かり、ました。すぐに再編成し、警備隊に引き継がせます」

「悪いね。そうしてもらって」




 礼をして出て行く2人。

 それを見届けた後、私は1人息を吐く。入れ替わりに入って来たクレールが「お疲れですね」と言って隣に立つ。

 



「まぁね。彼には悪いと思うんだけど……」

「ですが仕方ないですよ。トルド族の事を言えば、ナーク君やリベリーに非難の声があがりますから」

「ナーク君はウィルスを攫った前例もあるし、ね」




 クレールが傍に来るのは私の護衛の為。

 リベリーの代わりに行っているいつもの事。だけど、一応そこは婚約者だからとかそう言う事を理由にして欲しいんだけど。




「何か?」




 うん。この仕事モードのクレールに何を言っても無理だなと思って淡い期待なんて無理だなと切り捨てる。

 レントにはあとで追うとは言ったが、正直トルド族が相手だと人数が多くいる場合は相手にとって隙を与えかねない。


 


「襲撃者の狙いはやっぱりウィルス、かな」

「どうでしょう。彼女だけが狙いとも言えません。貴方だって狙われる要素を持っています」

「……分かってるよ」




 狙う要素は今、この城に集中し過ぎている。

 私やウィルスも含めてだし、バーレク王子、ルーチェ王女もたまたま来ている為に狙われる可能性を含んでいる。


 ウィルスが狙われているというのが陽動の可能性もある。


 ……その事も含めて、自分の腰に剣を下げる。無事も戻ってくれる事を願いながら、私はやるせない気持ちのまま外を見た。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


ーレント視点ー



 刻印の反応がはっきりと分かる内に、と風を使ってスピードを上げる。リベリーも同じ事をしているのを横目で見ながら急いでいると、彼から「止まれ」と言われてしまう。




「なん――」




 何故かと聞こうとすると、口に手を当て声を出すなと口パクで知らせて来る。リベリーが指を指す方向を見て飛び出しそうになる。だけど、それを必死で止められる。




「ははっ、昨日と違って防戦だな!!!」




 振るわれるのは人間の手ではない大きさの腕。

 魔獣の腕と何ら変わらないそれを、人の身で軽々と振るうのは忘れもしない昨日の襲撃者。


 トルド族の、ガナル。

 だけど彼の容姿は昨日とは随分と違っていた。


 長い黒い髪は変わらない。チラッと見た限りでは瞳にも変化がないように見えた。瞳が紅い中に黒が交じったような不思議な色合い。




(あれは……魔獣、そのものになっている?)




 片腕は魔獣のような腕。そして、その体毛は黒く獣を思わせる。そんな変貌を驚きながらも、私は聖獣の近くでいるウィルスが心配でならない。


 彼女が今日着ていたのは、ファーナムとで決めたと言うエメラルド色のドレスだ。私が好きな色でもあるし、自分の瞳の色でもある。そして彼女は積極的にその色の物を好んで着るようになった。




『き、気に入ってくれると思って……。レントの瞳の色でも、あるし……』




 なんとなしに聞いてみれば彼女からの返答に、私は笑みを深くしたのは言うまでもない。そんな私の反応にウィルスはますます顔を赤くしてそっぽを向いた。

 そんな朝のやりとりをしたドレスが引き裂かれている。


 腕やスカートの裾が細かく斬りこみが入ったような裂け方。苦しそうにしているウィルスを見ていられなくて、すぐにでも行こうとするのをリベリーに止められる。

 思わず睨めば「我慢しろ」と冷めた目で告げられる。




「っ……」




 あぁ、そうかと納得した。

 リベリーは暗殺者としての視点から飛び出すべきタイミングを見計らっている。そして、それを私が台無しにすればウィルスとカーラスを助けるタイミングすら見失う可能性がある。


 最悪の場合、ウィルスを連れ去れるかも知れない。

 その事態を防ぐ為に少しでも有利になる為に、今、我慢をしていろと言うのだ。




「うっ……!?」




 そんな時、ウィルスの苦しそうな声が聞こえてしまう。思わずそちらに目を向ければ、片膝をつきながら手を前へと突き出しているのが見える。




【くうっ、すまない!!!】




 聖獣の周りに銀色の光が膜のように包まれていくのが見える。

 それを見届けたからか、張っていたであろう気が緩んでいきドサリと倒れた。


 もう、我慢しなくて良いだろ。


 そんな私の目を見たリベリーはため息交じりで首を振った。仕方ないとばかりの態度をしていると、ドンッと強い衝撃を生みながら聖獣が突撃しているのが見えた。




「良かったな。気絶した状態だと使い手が怪我を負わずに済んでさぁ!!!」

【チッ、これを狙っていたのか……!?】




 ピクリ、と聞き捨てならない言葉を聞いた。

 そう思った私の行動は早かった。




「!?」




 聖獣との戦闘に集中していたからだろう。あっさりと私の斬撃を受けた相手は片腕を斬り落とされている。それでも気味の悪い笑みを崩さない相手に、どうにも腹が立ってしょうがなかった。




「楽しそうにしていたようだね。……程々にしないと怪我するよ」




 続け様にリベリーからの援護が入る。

 一瞬の内にいくつもの傷が負わされるが、振り向き様に振るった腕はさっき斬り落としたはずの腕だ。


 驚きながら上手く回避した彼は焦ったように言う。




「おいおい。お前、人間を止めたのか!!!」




 その問いには答えず、相手はただ笑みを深めるだけ。

 代わりの答えとばかりにその体を大きくさせていき、本来ではあり得ない姿を私達に晒した。


 体長5メートルほどの、巨大な体を持った魔獣が私達の事を見降ろしていた。



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