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第153話:混ざりもの

ーレント視点ー



 ナークからの話を聞き、あの時の相手が同じトルド族である事。そして、名前がガナルだと分かっただけでも大きな進歩だ。




「どう、レントから見てナークは落ち着けたように見えた?」

「今、絶賛ウィルスに甘えているので平気ですよ」



 

 全く……。

 さっきまで泣いていたのが嘘のように、ウィルスに甘えてる。密かに睨んでいたらジークに「許してあげなよ」って言うけど無理だね!!




「レント。また怖い顔してるよ」

「……いつもこんな顔です」

「そう? ウィルスに怖がられるよ。それでも良いのなら――」

「それは嫌です」




 全力でニコッと笑顔を作れば、兄様が満足そうに微笑んだ。

 やられた感はあるけど、ウィルスを出されたら私は終わりだよ。自覚してるし、周りに幾度となく「重い」だとか「息が詰まる」とか言われるよ。


 ふんっ。別に良いじゃないか。

 ウィルスはこんな私が好きなんだ。恥ずかしがっても応えてくれる彼女に、私は全力で応えてる。それだけの事だ。


 ……何でそれが重いのかが未だに謎なんだけど。




「ウィルスがレントをコントロールしてくれたら、俺もいくらか楽なんだけどねぇ」

「兄様。素に戻ってますけど」

「良いだろ別に。今は2人きりなんだから」




 互いに笑顔を向けるが、恐らく見た側は震え上がる位の気迫を感じる筈だ。


 今更だけど、ナークも重症者だ。疲れてるのは当たり前だものね。

 気絶してすぐに痛がる体を押して、リバイルからの話を聞いた。その後のケアが大事だろうに、今頃ウィルスと引き剥がされてるであろう図が思い浮かぶ。

 

 どうもあの後、リベリーはすぐに怒られ、傍に居て注意しないリラル兄様も同様に怒られた。


 誰にって? 魔女を統括している大ババ様に、だよ。




「若いもんは無茶がするからいけないね。それをイコールとするなんてバカのする事だよ!!!」




 そう2人まとめて一括されたとミリアから聞いて、兄様とで笑ったけどね。遭遇したリラル兄様も可哀想にと言うのが私達の意見だ。




「影の魔法、か。そうなるとあの時、ウィルスが急に動けなくなったのは彼の魔法って事なのかな」 

「私達の婚約祝いの時ですね。……影、か」




 他国との交流でもあり、私達の婚約祝いとして東の国のゼスト王太子と南の国のギルダーツ王子、ルベルト王子と対面した。けど、あの時にナークに確認の為に聞いたけど魔法を使ったような気配もないと聞いた。


 影……。

 誰かを通してウィルスの動きを封じた?

 でも何でそんな事をしたのか。


 そう考えていた時。ドクンッ、と嫌な音が私の頭の中に響く。

 この危険信号……これは、まさか!!!




「警護を固めるように言っておく。先に行って!!」




 私の表情を見た兄様はすぐに察した。

 

 1度の失敗で諦める程、向こうは簡単じゃない。

 今思えばウィルスを狙う時には大体の確率で()()()()()()だ。




(やられた!!! ウィルスを通して全て見ていたって事か)




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「な、なんだ、これは……」

「すぐに近衛騎士達を集めろ!!! それと治癒が出来る魔法師をすぐに呼べ!!!」

「レーナス師団長がもうすぐに来ます。ですが、この状況は一体……」

「急いで状況を確認するんだ。ここにはウィルス様が居たんだ。昨日の襲撃者が来ている可能性がある。すぐに周囲を警戒し、索敵を急がせろ」




 私がその場所に来てみれば、既にその場所は騒然としていた。

 破壊されたであろう壁が大きく穴を開けている。そこから入り込んできた風が、土煙も巻き込んで嫌な匂いを運ばせる。




「っ、レント王子!!!」




 現場の指揮をとっている人物の所に無言で近付き、中の状況を見る。

 ウィルスがナークと休んでいた部屋は客室に使う所だ。ネル達と行動を共にさせようと合流を図る為にやっていたのに……。




「何があったの……。っ、スティング!?」





 部屋の出入り口付近にぐったりとしているスティングを見付ける。

 彼を抱き上げれば彼はうっすらと目を開けて必死で動かす。でも、小声だからすぐには分からない。

 耳元まで近付き、じっと内容を聞く。




「すま、ない……ウィルス、様が……」

「襲撃だね。分かったからゆっくりして」

「っ、兄さん、も……ジークもやられた。今、カーラスが……居るけど」




 そこまで言ってふっと力を失くす。

 気絶したのだと分かり、ゆっくりと休ませる事にした。すぐに辺りを見ればスティングの言う様にバラカンスとジークも、奇襲を受けたからかぐったりしていた。




「大丈夫です、王子。深手よりは軽いようです。ですがここには確か……」

「うん分かってる。悪いけど、治療を頼むよ」




 了解だと言う返事を聞き、刻印の反応を追って私は向かう。

 スティングの話だとウィルスとカーラスは一緒に居る可能性がある。今、ナークはやっと落ち着けた所だ。

 そうでなくても完全に傷が治っていない状態だ。無理をさせる気はないし、私もそんな無茶を頼む気なんてない。




「弟君!!!」




 ウィルスの後を追う私にすっと姿を現したリベリー。

 兄様に言われなくても彼の考えは分かる。

 こうして2人で行動するのは、ナークが魔獣になった以来だ。そう思ったらフッと私はリベリーを見る。




「また、頼むよ」

「分かってるって。すぐに姫さんの後を追うぞ」




 頼もしい護衛だと感じながら、私はウィルスの無事を祈るしかない。

 聖獣が傍に居る筈だけど、それでも不安が残るのは何故なんだ。


 ……無事でいて、ウィルス。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


ーウィルス視点ー



「カーラス、後ろ……!!!」

「くっ……」 




 私を抱えた状態でカーラスは振り向かないまま、氷の壁を一瞬で作り出す。すぐにぶつかる音が聞こえてくるが、四方に氷が砕けて破片となって私達を襲う。


 それはカーラスも想定済みなのか、破片が瞬時に水へと変わる。

 バシャッと地面に落ちていくとそこから人型を形成されていく。水人形を作り時間を稼ごうと動く。


 でも、その水も攻撃を仕掛ける前に影に潰される。

 どちらも魔力が込められている。だからそんな簡単には壊されない。


 だって私が幼い時にいつも守ってくれた。

 魔物を相手にしてきたし、水人形で魔法師団の人達の訓練相手にもなっている。だから……壊されても少しは時間稼ぎになってくれると思った。


 そんな考えが全部、無意味だと言わんばかりに影に侵食されていく。透明な水がどんどん黒く染め上げられて、ガラスが割れるような音が聞こえる。


 攻撃が……効かない。




「きゃあっ」




 突然、カーラスが私を放り投げた。

 まともに受け見なんて取れなくて、ゴロゴロと転がっていく。木の幹に軽くぶつかる事でようやく止まれた。

 そこまで計算してこうして投げれくれたのだろうか?




「逃げ足はやいなぁ~」

「ぐあっ……」




 苦悶の声が聞こえてすぐに顔を上げる。

 追って来たであろう襲撃者がカーラスの腕を踏みつけている。ただ踏みつけているんじゃない。

 影がカーラスを縫い付けて動きを封じてる。さらにその上から足を踏みつけてるんだけど、足を纏う様にして黒い力が炎の様に揺らめいてる。


 それが爪のように鋭く長い。カーラスの上に食い込むようにして踏みつけた。あれじゃあ……逃げたくても逃げられない。




「ねぇ、姫様。彼を助けたい? さっきの部屋に居た人達より酷い目に合わせたくないなら……分かるよね?」

「……それは。ハーベルト国に、来いって意味なの」




 震える声で答える。そうしたら相手はニンマリと笑みを作る。

 ゾクリと悪寒が走り、金縛りにあったように動けなくなる。


 怖い……。

 心の底から私は彼を恐ろしいと感じた。




「!!」




 突如、彼の体を氷が阻む。

 瞬く間に氷漬けにされ、時が止まったように動かなくなる。左腕を抑えながら私を抱えたカーラスが再び動く。

 魔法師団がある西の塔、その敷地内の森の中を駆け抜けていく。


 足取りが重くなり、木の幹にカーラスは体を預けぐったりとした。

 慌ててカーラスの事を見る。傷付けられた左腕から流れる血は止まらず、表情もかなり苦しそうにしているのが分かる。




「今、治します」




 大ババ様から薬草について学んだし、ラーファルさんから講義も受けている。それに聖獣さんが言っていた。私は守りと治療が得意なのだと。


 なのに。

 パシッとカーラスが手を振り払う。拒否を示した事に今度は私の方が呆然となる。




「行って、下さい……。狙いは姫様だ。ここで、時間を稼ぎます」

「ダ、ダメッ。そんな事したら、カーラスが……!!!」




 はっとして振り向く。

 ナーク君の言う殺気かは分からないけど、睨まれている感じにカーラスを庇う様に前に出る。


 長い黒髪をなびかせた黄色い瞳の男性。

 私の事を眠らせた襲撃者がまた来るだなんて。……何でこうも場所が分かるの。


 ヒュン。と風を切る音が私の真横を通り過ぎる。


 嫌な予感がしてカーラスを見る。腕だけじゃない両肩を正確に、斬り裂かれている状態に眩暈を覚えた。荒く息を吐いているのが尋常じゃないって伝えて来る。


 どうしようっ、どうしようっ……!!!




「や、やめて……。もう、傷付けないで!!!」




 拒絶の声を、力を込めて吐き出す。

 零れた涙がチョーカーに伝う。私の声に応えるように銀の水晶がとてつもない光を輝き出す。


 強烈な光は柱となって天を貫く。


 自分の傍に力強い存在を感じる。目を開ければ目の前に私を守る様にして、聖獣さんが降り立つ。




【気を付けろ、あれは既に人間じゃない。()()()()()だ】

「くっ、くっくっ。くはははははっ!!! やっと姿を現したな最後の聖獣!!!」




 警告する声と聖獣さんを見て喜ぶ相手。

 次の変化に私は今度こそ言葉を見失う。だって……あれは日の光が苦手だと言っていたのに、何故?


 赤い目に黒い体毛の大きな腕。姿は人のままなのに片腕だけは、異形な姿は魔獣と被る。


 何でと思う疑問と目の前で起きている現実に私は戸惑う。でも周りは待ってくれない。目の前で聖獣さんと半分魔獣の姿を取る暗殺者が、激しいぶつかり合いを開始した。



次回11月19日(火)更新。

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