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第152話:トルド族

ーナーク視点ー




《情けない姿で悪いね、ナーク君》




 そう気遣う声がボクの頭の中で聞こえる。


 ガラス1枚を隔てた場所では両目に包帯が巻かれている、痛々しい姿のリバイル兄さんが居た。




「しっかり聞け。お前に用があるって言ったのは……アイツだ」




 リベリーがボクの頭を無理に上げて来る。

 涙で前が見えなくて、自分が酷い顔をしている自覚があった。例え見えていなくても、ボクの情けない姿を見せたくはなかった。

 

 ボクが目を開けたときには全てが終わった後だった。


 助けに来た王子から話を聞いて、主であるウィルスが無事だと聞きほっとした。同時にあの時にリバイル兄さんを置いて行った事を思い出し、すぐに聞いたんだ。


 あの後どうなったのかって。


 王子は言いにくそうにしていけど、ボクが真剣だと分かって静かに息を吐いた。

 王都に広げたと思われる結界はラーファルさん達が補足して、現場に向かっていたんだって。でも……。結界を作っていたと思われる術者は既に死んでいた。


 魔法道具の可能性もあるからとすぐに捜索した後だけど、敵と思われる痕跡はおろか術者が誰なのかすら分からなかった。


 その術者の……首がなかったからだと、王子は言った。

 ボクと王子は誰が行ったのかすぐに分かった。南の国で、同じ事をした人物に心当たりがあったから。


 あの時は何処の誰かなんて言わなかったけど、今は違う。アイツははっきりと言ったんだ。ハーベルト国の暗殺者だって自分から言った。リベリーも探していた人物だから、これで尻尾を掴めると思った。

 

 そう思った矢先に駆け込んできた人物に驚いた。




「来い!!! お前に用があるって言うから」




 訳も分からず引きずられるようにして、リベリーに連れ去られた。 



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 兄さんが危ない所を助けた人物が居たのだとリベリーは言った。一体、誰なのかと思っているとボク達に声を掛けて来る人物が居た。




「リ、ラル……様」

「君もウィルスも無事で本当に良かったよ。私も役に立っているようで良かった」




 王子と被る笑顔。

 今、思うとこの国の王族は笑顔が多い。芝居がかった時もあるけれど、基本的にこの国の王族はよく笑っている印象を受ける。


 それが少しだけ、ボクの心を軽くする。

 不安定になるのを安心させてくれるんだ。


 


「でもごめんね。私が駆け付けた時には彼は凄い怪我を負っていた。辛うじて両目を取られる前だったから……それだけ防げたのは良かったかも、ね」




 この国の王族は自衛が出来るようにと、昔から剣術や魔法を教わるのだと言う。王子やバーナン様みたく両方が得意なのは本当に稀。

 剣術が得意でも、魔力があんまりなかったりその逆もある。


 ボク等が結界に閉じ込められていた時、リラル様達はいつもの見回りをしていたのだと言う。ボク達が居た所はちょうどその見回りのコースだった。 


 兄さんの所に来れたのも、バーレクを連れて飛び出したボクを見付けたからだった。




「対峙していた相手は私の攻撃を避けてすぐに退散したよ。あれで引いてくれたんだと思ったのに、そのままウィルスの所に向かってたなんてね」




 大変だったね、とボクの頭に手を置き優しく撫でる。

 リベリーが後ろで「甘やかしたらダメですよー」と言われるが、今のボクにはリラル様の優しさが身に染みて、何にも言えなかった。

 

 治療をする中でリベリーがボクを探していた訳を伝えて来る。


 同じトルド族同士で念話が出来るのだと言った。

 王子みたく、互いに了承してからの念話ではない。これは……主を持つトルド族同士だからこそのものだと。




「ほら、リバイルはお前に伝えたいことがあるからってさっきからオレに頼んで来るんだ。……ちゃんと聞いとけ」




 向き合いたくないのに、リベリーが無理に前を向かせる。

 集中治療を受けている兄さんはリベリーから聞いたのだろう。ボクに念話で語りかけてきた。




《君は優しい子だから、私のこんな姿を見たら……悲しむと思ってね。本当はやりたくなかったけど、リベリーに言った事は君にも共有して欲しいんだ。私があの時、アイツの事を裏切り者って言った意味を、教えてたくて》




 決意の込められた言葉。兄さんには見えなくても、ボクは何度も頷いた。1つ1つの言葉に相づちを打つ様に。




《彼の名はガナル。私達と同じトルド族。同じ南の人間だけど、東の国に同じ一族が居るのだと言う噂を確かめる為に1人で出て行った》




 その時のガナルは当時8歳。

 彼は既に一族の中でも異様な強さだったのと聞く。彼が居た村では誰1人として彼には勝てなかった。

 鬼神のような強さ。

 見た目は子供だと言うのに、同じトルド族の大人が手も足も出なかった。

 


 才能は時に残酷だ。


 同じ一族だけど、あまりにも力の差があり過ぎる。しかも相手はまだ子供。だけど……その村の大人達は彼を外に出すのに恐怖を覚えたのだ。

 一族の恥になるとかではない。

 

 何か取り返しのつかない事が、起きてしまうのだと言う予感。リバイバル兄さんは直感でそう思った。


 


《そして……私達は最悪の形で知った。彼は自分の育った村を全滅させる為に、魔物に襲わせるというカモフラージュをした。まだ、子供の彼は既に危険な存在だ》




 リバイル兄さんの居た村はガナルの居た村と交流があった。

 ある時、その村から定期的に来るはずの報告書が届かなかった。互いに物資のやり取りをするのと同時に、その村の中でずば抜けた人が居れば早めに国に報告し管理する為のもの。


 いつも来る報告がない時は交流のあった所が様子を見に行く。


 そして、ガナルの居た村は酷い有様だった。

 家は全て焼かれ、女も子供も関係なく全員が死んでいた。人だけじゃない。住んでいた家も全て壊され、一見しただけでは魔物の襲撃を受けた様にしか見えない。


 だけど、仮にもトルド族の村があった場所。

 自衛も出来るし、生き延びる為に女でも子供でもそれなりに訓練を受けている。でも……生き残りは確認されなかった。




《盲点、だった。8歳の子供がたった1人で育った村を壊す筈がない。村の人達はそう思い込んでいた。だけど……私はガナルと何度か会った事があったから分かる。彼は決して弱くなんて無い。子供であっても彼は強いんだって、何より私自身が知っている》




 だから兄さんはすぐに言った。もっとよく調べて欲しい、他に生き残りは居る筈なのだと。

 だけど……兄さんも子供だったから誰も聞いてくれなかった。相手にされなかった。




《特殊な力があると言っても子供だ。だから密かに調べ続けた。そうした過程で私は主と……ギルダーツ様とルベルト様に会った。あの2人に出会えた自分の幸運に感謝した》




 それまで話を聞いてくれないと思ってた事を、あの2人は真剣に聞きすぐに行動を起こした。

 そしてあの村があった方向から、傷だらけの少年が東の国に向かったという事が分かった。でも、それが分かった時は既に東とは小競り合いが続けられていたし、入ろうにも暗殺ギルドばかりがある国。


 入れたとしても戻れる保証は……限りなく少ない。




《諦めかけていた時……。君達に出会ったんだ》




 手がかりを掴みたい兄さんはどうにか探れないかと思った。そんな時に、ウィルスの婚約祝いにとリグート国に行く話がなされた。


 魔獣の存在が確認された国と言う事であるのと、バルム国の生き残りとされるウィルスの存在を確かめる為。


 そして、兄さんの気晴らしになればいいと思って王子達が連れて来た。


 目的はウィルスの存在を明らかにするだけじゃなくて、兄さんと同じトルドであるボクとリベリーに会った。

 それだけでも一歩前進した。ボクと王子が対峙した暗殺者がガナルだという可能性が高くなった。


 特殊な殺し方だから、兄さんも覚えていた。

 幼い頃から彼は相手の首を狩る戦闘スタイル。一撃で終わらせ、反撃を許さない。そして……自分が殺したという証の為に首を持ち帰る。




《生まれた時は何ら変わらない子供だ。だけど、成長するにつれて彼の中にある狂気を……私達は見落としていた。そして、彼は自分の村で起こした事を君の村にも実行したんだ》




 ボクの……本当の仇。

 ずっとハーベルト国の兵士がやったのだと思っていた。でも、ボクを逃がせたのだって奇跡に近かった。


 父さんが逃がしてくれた。そして、里の抜け道を通った後は父さんが通れないように細工をした。


 だから……ボク、だけ生き残ったんだ。




「っ、うぅ……」

《私は運が良い。ナーク君、君は主を大事に思うのなら1人で飛び出したらダメだ。リベリーと組んで彼を……ガナルを止めて》




 可能なら殺して欲しい、と。

 

 同じ一族として、けじめとしてボクとリベリーに託す。今の自分では役に立たないのを自覚している。

 本当なら……自分が実行しないといけない。

 ガナルの危険性を分かっていて、止められなかった自分自身。


 あの時に止められたのなら、と。


 情けなくてごめんと謝る兄さん。

 そこで兄さんは眠くなったからと言って静かに眠った。ボクは自分も怪我をしたいたのを思い出して、痛む体に鞭を打っているのだと気付いてふっと力を失った。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「ラークさんが峠を越えたって教えてくれて……。あとは兄さんの回復を待つだけだからって、言って……」




 そこまで話してぎゅって抱きしめられた。

 主であるウィルスが「もういい」って言った。辛そうに話すボクを優しく、包み込んでくれる。


 緩みたくない、のに……。ダメだな、ボクは……主に甘えてしまう。守らないといけない存在なのに。頼ってたらいけないのにって思うのに。




「なにも出来なかった……。主を奪われそうになったのに、手も足も……出なかった」




 圧倒的な力の差。

 ボクは自分の力を過信していた。だけど、兄さんに託されたのならやらないといけない。


 それが……ボク達、トルド族の使命だと思うから。


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