表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
猫になった私は嫌いですか  作者: 垢音
王子と彼女との出会い篇
18/256

第17話:宰相の苦労

ー宰相視点ー



 リグート公爵家の起こした出来事。

 レント王子が見初めた相手であるウィルス姫が夕方に攫われてから、数時間のうちに証拠と屋敷へと王子達が向かったあの出来事……あれから2週間が経った。

 ナークと言う少年の証言を元に宰相である俺はあらゆる手を尽くし、父親のラベーリックの薬物などの余罪を調べ上げた。彼等はそのまま国外追放と言う事を他の貴族達に告げた。


 衝撃は大きいだろう。


 公爵家の人間が起こした罪。

 薬物、人身売買を積極的に行い他国へと流していた。他国にはそれとなく注意をし、恐らくは既に家が潰されるだろなと他人事のように流す。ざまぁない、国王の息子である怒りに触れたんだから仕方ない。


 父親も怒らせたら怖いんだから、その息子達だって同じなんだよ。気を付けろよ、父親は軽いが息子達は倍返しだ。本当なら屋敷ごと破壊したいと言う王子達を必死で宥めたこちらの身を分かってくれ。


 大事なものに手を出されたら怒るだろ? 

 それと同じだ。ただ、王子達は徹底的にやるから気を付けろ。流石の部下達も体を震わせながら「あ、あんな王子達の相手は……」、「普通にしていて殺気を漏れていました」と別の波紋が広がっているんだ。


 頼む、俺にこれ以上の負荷をかけないでくれ。




「ギース、隣国のアクリア王からの伝言だ。優秀な部下がいる所は凄いな、息子のエリンスが妙にやる気だったぞ。レント王子と何かあったか? 助かったぞと、言う事だが」

「何故そこで隣国の殿下の名が出てくる。訳が分からない」




 国王――ギース・セレロール・リグート。

 周りからは国王様と呼ばれ、内心でそれにショックを受けている器が大きいんだが小さいんだが分からない同年代の男。彼いわく、名前があるのだから読んで欲しい!!! と声を出して言いたいらしい。


 バカ、そんな事くだらない理由で言わせるか、アホ。


 ギースはどうも国王様と言う言葉が嫌いらしい。……名前を言ってくれなくてしょぼくれる辺り大人としてどうなんだ。王妃様であるラウド様が名前で呼べば子犬のように喜ぶ。犬の耳を生やしていないのに、まるで生えたように見えてしまう程の幻覚を見えてしまうのだ……お前、王だよな? と、言いたくなる。


 こんなふざけた王の性格を重鎮達に見せてみろ。絶対に引かれるし、戸惑いが広がる。そう言ったら、俺に名前呼びを強制してきた。しかも、内密に話をする時や私用で俺に用がある時に限る。


 だが、お前には言っていないが俺が扱っている機関の者達には全員知られているから安心しろ。公務での厳格ある国王から、名前呼びをして貰えずにショックを受けていると言うだらしのない様は全員知っている。


 知らないのは俺の家族と国民達だけだ。


 それはもう笑いを超えるのに必死だと聞いたぞ。最初の1年、それに耐えきれなくて暫く国王の顔を見れない位にだ。ギースは気付かないから、よく俺の部下でもあり諜報員として動いている機関の者を使って頼みごとをするがな……最初に必ず噴き出すのはギャップの激しさを思い出すからだ。




「では今日もよろしく頼むぞ。期待している」




 と、頼んだり仕事を振る様はまさに王だ。なのに、俺に用がある時は人払いを必ず行う。そして――。




「……当たり前なんだがな。名前を呼んでくれんのは……ちとキツイ。安心しろ、ラウドに呼んで貰って今日もウハウハだ!! お前にも呼んで貰えるからな♪ 今日も頑張れる!!! さぁ、どんどん仕事を寄越せ」




 と、子犬が喜んでいる様を見せてみろ。全力で嬉しさを表現してくる姿を見せてみろ……全員、頭を打ったのかと思う位に驚くぞ。現に機関の者達からはあまりにギャップにやれているんだ。




「ダ、ダメです……国王様、可愛すぎです」

「一生ついていきます、可愛い国王様!!!」

「子犬国王様、万歳!!!」




 と、ある意味良いのかよ……と思いたくなったが忠誠心がさらに高まったのだからよしとした。聞かなかった事にして無視を決め込んだ。


 そして、そんなギースの素性を知っているのは俺だけではない。


 隣国のアクリア王。

 彼とギース、俺は同盟を結ぶ前はちょっとしたいざこざがあった。資源が豊富で魔法が優れたリグート国と、資源に限りはあるが魔法が同じく優れたディルランド国。


 隣同士と言うのもあり、昔から続いていた戦争にも似た争い。殺し合いをしていたが、どういう訳かギースとアクリア王は気が合うのだろう。

 会ったその瞬間から「気に入った!!!」と言いながら剣を交え、魔法を打ち合うんだ。何が気に入ったんだ、何が……と呆れている内に気付いたら2人で笑い合いながら腹に剣を刺す。


 致命傷にも近いその傷を瞬時に治した互いの魔法の高さに感謝した事か。俺と呆れながら治癒を施した相手は、今では同じ宰相の立場だ。今でもたまにだが、酒を飲みかわし苦労話や心境などを報告し合っている仲だ。


 気が合った事と互いに腹を刺しても笑っている事から争うより仲良くした方がよくね? と、皆が唖然となりシンとなる。そんな空気すらあの2人は笑い飛ばして、同盟を結び互いに祝い事があれば夜会を開くと言う程に他国から仲が良い事で有名になった。

 




「そうは言うがな、感謝してるから後日お礼したいから予定を空けて置けとも言っていたな。また夜会を開く準備でもしておけと言うんだろう」

「後日か……いつなんだ」

「連絡なく来るから息子共々よろしく、だ」

「連絡くらい寄こせ!!! しかも、エリンス殿下も来るのか……あぁ、待て、また頭が痛い」 




 ギースは頭を抱えた。よし、もっと痛くなれ。俺はその何倍にも、ギースの行動に頭痛が起きる位に、胃痛すら覚えるのだ。……もっと苦しんで行動を慎めと思うが、奴には効かないのも事実。少し位やり返しても文句はない。


 しかし、彼の言葉に疑問を持ったのも事実。


 自国の問題である公爵家の処分。詳細は語らなくとも他国へ犯罪を広げさせ、または蔓延させたラベーリックの事はそれとなく伝えた。人身売買の市場に他国を介している可能性があるから、自国の貴族達に目を光らせておいた方がいいと。




「レント王子がエリンス殿下に何か言った、か?」

「それについては再三、しつこい位に確認したが返答は同じだ。知らない、ウィルスとの時間取るな、だ」

「……あれからさらに自分を責めながら、彼女の傍を離れないからな」

「彼女は変わらず、か」

「あぁ、まだ熱で全く動かない状態だ。ラーファルによれば魔力が安定した証拠だから、目が覚めるのもあと少しだそうだ」




 ウィルス姫は城に着いた途端、心配で帰りを待っていたラウド様の前で倒れたのだ。すぐにレント王子の部屋に運び、ラーファルだけでなく薬師長のラークを呼び彼女の様子を見て貰った。

 ラークによれば全身に付けられた鞭の後を見て思わず顔を逸らしたそうだ。かなりキツいだろうに、ナークによれば叫び声も上げずに我慢したと言う報告。


 それが原因かとも思った。それ以降、彼女は熱にうなされたように苦しんでいた。しかし、ラーファルが言うには違うと言ってきた。




「彼女のチョーカーを見て下さい。青い水晶の隣に赤い水晶がありますよね。これは君との契約の印……だね」

「……ボク達、トルド族との契約です……。ボク個人ですけれど、彼女のその水晶には魔力を溜められる性質があるのは見抜いていた。だから、契約を行えると判断した」




 ウィルス姫の傍に控えながらも、彼女の手を握る。しかし、こちらとの距離は一定に離された状態で詳細に話される内容。ラーファルはその契約が彼女を正常に戻すきっかけを生んだと言い、責めている訳ではないと言った。




「……正常、と言うのはどういう事だ」




 疑問を提示してきたのはレント王子だ。ラークが彼女を診ている間もナークとは反対の手を握り、苦し気にしているのを見ながら質問してきた。


 ラーファルの話によれば、呪いの解明は難しい事だと言う。

 人の命を奪う、病気を誘発させる、意識を別のものにすり替えるなどの要素がある。そう言ったものはあらかた治癒力の高い魔法でどうにかなると言う。ウィルス姫の場合、1人の身体に猫としての意識と体も入っている事から、普通なら共存できなくて死に至らしめる可能性を秘めている、と。

 



「同じ人間でも、自分以外に別の意識は入ると言うのは嫌悪感を生みます。しかし、彼女と猫のカルラにはそう言ったものは感じられず共存を可能にしています。……本当に大事に育ててきたのと同時に、互いの気持ちを理解しているのでしょう。心も体も壊れず、5年の月日を経ても活動していたのが奇跡としか言いようがない。でもこのまま行けば内部に保有する魔力で、彼女の身体は限界に達するのも早かった筈です」




 対等での関係、互いを想い合った事での奇跡。

 それを長く持つことが出来たのもレント王子と結んだ魔法刻印の力。その助けがあり、また刻印を授けた本人と近くに居た事が出来たからこそだとも言った。




「……私が、傍に……」

「王子も知っての通り。刻印は結んだ者同士で様々な効果を発揮します。今回、彼女の内部にある魔力は暴走の手前まで来ており、本人の気付かない内に崩壊を招く事があります。そんな時、刻印を授けた王子が居た事で彼女の魔力は安定して来たんです。傍に居た事は無駄ではなかったんです」




 その言葉にレント王子は優しく手を握り直し、熱でうなされるウィルス姫の額に触れる。さっきまで苦しんでいたが、彼が触れたのが分かったのか少しずつではあるが治まっている様子。

 それにほっとするレント王子に、ナークを含めた私達は驚いて互いに顔を見合わせた。陰ながら見ていた機関の人間も驚いて、ガクリと隠れているのがバレる位の音が響いた位だ。




「……今なら怒らない。隠れてないで傍に居てくれないか」




 俺が命令を下す前に言った王子の言葉。即座に姿を現し、頭を垂れたまま俺の傍に来たのだから、自分の命が危ういのだと瞬時に判断したのだろう。




「次……容赦しないから、ね」

「ボクも手伝う」

「うん、ありがとう」

「も、申し訳、ありません……でした」




 お願いです、王子。部下を怖がらせないで下さい。

 涙目です、大人が涙目で訴えているんです。そして、暗殺の仕事をしていたと思われるナーク。君も一緒になって脅さないでくれ……。




「安定してきた魔力も外に放出させないと体に負荷が掛かります。トルド族の契約は主となる者の魔力を受け取る事での儀式。そこで彼女はようやく外に放出する事が出来た。その証拠が儀式で得た赤い水晶。……負荷が掛かる例としては感覚を失うものがあります。……ナーク君、姫猫ちゃんは声も上げずに我慢していたと言っていたけど他に変わった様子はあるかい?」




 殺気に近い雰囲気を無視するラーファル、君も君だな。

 彼の質問にナークは我慢しているよりも痛さを感じた様子はないと言った。それに空腹時での食欲が凄かった、と告げれば「それは平気」と笑顔で告げて来る。




「猫ちゃんの分も含めて、彼女が食べているんだ。食欲が旺盛なのは勘弁したあげて」

「いえ……その時の、表情が可愛かったので……また餌付けしたいです」

「あ、それは私も思うよ。可愛いよね、素直に受け取るウィルスは」

「はい……!!!」




 こら、そこで妙な同盟を組むんじゃない。王子、貴方は彼の事をどうしたいんですか……!!!




「トルド族は誓った主には絶対の忠誠を誓う一族。ウィルスが目を覚ますまでは彼の面倒は私が見るよ」

「……そう、ですか」




 サラッと心の中を読むのは止めて下さい。もう、部下が震えているではないですか。


 王子からそう言われれば俺はあまり手が出せない。姫が目を覚ますまでは協力的なのだからと、公爵家の別荘やら屋敷から追放できる証拠を次々と差し出し、証言もしてくるのだから本当に姫に手を出した事での報復とも取れる行動に驚きを隠せないでいた。まぁ、そのお陰でこちらも行動に移せるのだからその部分だけは感謝か……。


 ウィルス姫が目を覚ましたのはその日から2週間後。

 レント王子が嬉しさで彼女を連れて、ギースの部屋に飛び込んでくるまであと少しだと部下から話を聞きすぐに駆け付けた。


 また騒がしくなるのを予想し、彼女が来てからのレント王子は暴走気味だからそれを止めるのに必死で考えを巡らす。大型犬と子犬に喜ばれ、どう反応を返して良いのか分からないウィルス姫は、俺に助けを求めて来る。



 あぁ、どうやら俺は暫く休む事も出来ないのだな。

 だからはしゃぐな、子犬国王、大型犬王子!!! ラウド様も入ってこないで下さい!!!



 国王の部屋に俺の怒号が響いたのは言うまでもない。その後、兄のバーナン様も来るんだから勘弁してくれ。


 この家族、本当にどうにかしてくれ!!!!


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ