第149話:聖獣と白銀の魔法
ーレント視点ー
兄様の執務室で聖獣との経緯を伝える。私の腕で大人しくしている子犬っぽいのも含めて。
「……」
当然と言うべきか兄様が凝視したのは子犬になっている聖獣だ。じっと見られたら顔を背けたい筈だ。特に今の兄様には把握しているからか、疑うような視線を向けている。
「えっと、聖獣であってる? こちらの言葉は分かるのかな」
まるで子供に話しかけるような言い方だ。
今度は私の方をじっと見るのは聖獣の方。話して良い許可を貰う気、なのだろうか?
とりあえずラチが開かないから、頷いた。どちらにしろこっちはウィルスに問うのだし。
そう言ったらあっさりと口を開いた。
【俺の所為で居場所を失くしたくはないからな。何で干渉したのか話す】
あの時にも思ったが、ウィルスを大事にするが自分の事は入れていないような声色。居場所と言ったがそれは私も含んでいるのか?
「失礼致します。ラーファルとスティングを連れてきました」
そこにレーナスが2人を連れて入ってくる。事前に知らせたのだろうといると、何故だか大人しくしていたのに暴れだした。
兄様の方へと駆け寄り、身を潜めた。
その行動でレーナスが何かしたのかと、全員の視線が集中する。
「な、なんだ。動物をいじめるような顔にでも見えるのか?」
「見える」
「ラーファル!!!」
即答したラーファルめがけて、レーナスが叩く。スティングは、目に涙を溜めるくらいにお腹をかかえて笑っていた。
これはウィルスに見せられないな。
本人達は格好良く見せたいんだから。そんな気持ちで見ていたら【魔法以外は普通だな】とポツリと言った。第3者の声にレーナス達は声のする方へと向ける。
兄様の腕の中で縮こまった聖獣を。
「詳しく聞かせてくれ!!!」
レーナスの妙なスイッチが入ったなと全員が思う中、聖獣だけはキョトンとしながら私と兄様へとじっと見つめてきた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「ほう。本来の姿と今の姿とあるんだな」
興奮気味のレーナスをラーファルとスティングが押さえ込む。ただ押さえるんじゃない。何も出来ないようにと、羽交い締めにされ足を縛られている。
……あれで師団長だと誰が言えようか。部下が居なくて良かったと思っているとスティングから「本性知っているから気にしないで」だってさ。日々、苦労しているのが分かってしまい思わず同情してしまう。
思わずそっぽを向く私と兄様は悪くない。全然、悪くない。
【良いのか。あれは】
「あ、うん。気にしなくて平気だよ」
流石に可哀想ではないかと視線で訴えて来るが、何でもないように振る舞っておく。今いるのは西の塔の中でも訓練場として使われている場所だ。
広い場所に移動した方が良いと言ったのは私だ。
だって聖獣の本来の大きさを見ているのは私だけだからだ。今は子犬としているし本人も【部屋を壊して良いのなら、今ここで戻るが?】と言って来た。
本来の姿がある。
そうだと分かった時のレーナスの目の輝きは恐ろしかった。素早く兄様から奪い取りたかったんだろうけど、そこは第1王子としての迫力があるのか……兄様の睨みで静止をかけられる。
兄様は私達には優しい。
と、言うよりは自分が信じられる者しか心を開かない。その辺の人選はリベリーも含めて2人で行っているから目は確かだ。
ラーファルは私と同じく魔法を教わった先生だし、何かと頼りになる。
スティングはバラカンスの弟であると同時に、私や兄様にも動じない所かイタズラを仕掛けて来る勇気のある人。
レーナスは……。魔法以外を除けば普通なんだけど、ね。研究を進める過程で自分の体を実験台にするし、勝手に国から居なくなったりとトラブルはつきない。
逆に言えばそれがなければ、実に御しやすい人だ。魔法に関しての豊富さと古代文献の知識の深さは素晴らしいの一言だ。ウィルスを怖がらせたから、私としては一切関わらなくて良いと思うんだけどね。
【身体のサイズを変えるのに苦労はない。彼女を通して物の大きさや風景も含めて見てきたからな】
考えている内に聖獣は本来の姿へと戻っていた。
私と会った時よりも体が大きいな。座っていても5メートル以上はあるだろうか?
狼の姿であっても野生のとは違うのはすぐに分かる。
彼の瞳も毛並みも全て銀色に淡く光っている。魔力を帯びた状態ではこういった感じになるのだと言う。
「おおっ!!! これ程までに大きいとは。ではさっきまでの姿が、日常を過ごすのに適したという事か!!!」
どうやって抜け出した来たのか、レーナスがイモムシのように這ってくる。私がギョッとした様子に合わせてか聖獣の方も、驚いて1歩2歩と下がって逃げていく。
後ろを見ればラーファルとスティングが、申し訳なさそうに頭を下げていた。
「レーナス。それ以上、近付くと聖獣も怯えるから止めて」
「はい……」
器用に後ろに下がるレーナス。そして、それを止めさせた兄様。力関係が歴然だなと思っていると聖獣の方もほっとしたように息を吐いた。
【彼女の周りの環境がいいのも頷ける。安心して預けられるというものだ】
「それはどうも。でも、ウィルスが愛してるのレントだから彼にお礼を言ってね。私は単に手伝ってるだけ」
【彼には前にお礼を言ったぞ。彼女と出掛けていたからな】
「へぇ。そうなんだ……」
すっと私を見た兄様に、思わず視線を逸らした。
スティングが「この前のデートの時?」と余計な一言を言ったから、無言で足を踏んだ。
それはもう力一杯に、ね。
「っ!!!」
声を上げなくても相当痛い筈だ。
でも、彼は負けじと私の事を睨んで来る。スティング位だものね、歯向かって面白がるのは。
「師団長の事は放っておいて、貴方が聖獣と言う存在なのは前に聞いていたけど……本来、人の目に触れられない筈の貴方方が見えるのは何故かな?」
話を進めてきたのはラーファルだ。
その問いに彼は答えた。【使い手の危機に駆け付けるのは当然だ】と当たり前のように言っていた。
フンッ、と得意げになっている辺りが可愛いと思ったのは内緒だ。
「白銀の魔法を使う姫猫ちゃんの為、か。それはその使い手限定なの?」
【我々を作り出したのが白銀の魔法だ。もう……我だけだがな】
「他はどうしたの?」
【魔獣になったんだ】
その一言に私達は全員、言葉を失った。
さっきまでの緩い空気はなくなり、聖獣の目は真剣に私達へと向けられある事実を伝えて来た。
【我等は白銀の魔法の化身。名はないが、我等の使命はただ1つだけ。生み出した使い手を守る事のみ】
その為なら国1つを滅ぼす事も可能であり、危険な存在であると自覚していた。けど、彼等は使い手に害するものを排除してきた。
とある国の兵士を、王様を、そこに住む人々も。
だからこそ、彼は今度こそ全ての魔獣を倒さなければならないのだと言った。今までは使い手が現れずに力が弱まったが、突然その力が回復したと言い私達は思い出す。
そのタイミングは、ウィルスがナークに向けて魔法を放ち魔獣から人へと戻させたあの時の事。
全員がそれだと理解した時、彼はある事を告げた。
魔獣と聖獣の産まれた訳。
そして今、各地で確認されている魔獣は人工的に作り出されたものだと事実を伝えた。
申し訳ありません。6日(水)に更新します。




