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第147話:意外な相手


ーナーク視点ー



 リグート国の、しかも貴族達が行き交う第2王都に刺客が送り込まれていた。数は6。見えない気配も含めて、まだ居そうな感じだけれどそんなのは後だとバーレク王子の事を自分へと引き寄せる。




「ごめん、荒いよ!!!」

「っ……!!!」




 抱き抱えるようにして運びながら、2人を蹴り倒し一気に風で上空へと逃げる。舌を噛むかも、と言っておけば良かったと後から思ったけれど時間が惜しい。




(王子……!!!)




 ボクは城で執務をしている王子に念話を飛ばす。

 だけど、どんなにやっても返事が来ない。


 どういう事だ?




「恐らく大規模な魔法が一定の範囲内に仕掛けられているんだ。ナーク君、こっち!!!」




 リバイル兄さんの指示に従って、ボクは路地裏へと体を滑り込ませる。バサッとマントらしき物を広げて、被せるようにしてしゃがむ。聞けば周りの風景と馴染ませる特別な魔道具だと言う。




「よくギル兄ぃが渡したね」




 信じられないとずっと言っている。貴重な物であると同時にギルダーツ王子が、人に物をあげたりする事もないのだと分かる。


 ボクも魔道具を貰ったと言えば、ポカンと開いた口が塞がらないでいる。その間にリバイバル兄さんが話を進めていくからそっちに集中、集中。


 この魔道具、使えるのは3回までと言う制限付きだと言う事。ここで2回は使っているからあとがないとも聞く。




「手短に言うよ。私は主に言われてルーチェ様とバーレク様を守りに来たんだ。アーサーさん達が近くに居るのは知っているけれど、彼等は第1王都の魔女の薬屋に居る。期待は出来ないから、こちらだけで対処する」




 無言で頷くボク。バーレク王子は離れようとするのを、無理矢理に引き寄せる。あまり離れると効果が切れてバレやすくなるからだと言い、何とか納得してもらう。


 ギュっとボクから離れないようにと体を縮こませる。


 主も同じような事をしてくるから、思わず頭を撫でてしまった。途端に不機嫌そうに睨まれる。




「なに、すんの」

「ごめん。主と同じ事してるから」

「……許す」




 主と同じ、と言うのが良いのかそのまま黙った。

 ちょっとむくれる仕草とか黙りこくるのとか……主と色々と被るから思わず、フワッと顔が緩んでしまう。




「こら。真剣な話してるのに」




 ペシッ、とリバイル兄さんに叩かれてさっと真剣な表情に切り替える。

 バーレクから「バカ……」と言われるけど、あとでくすぐりの刑にしようと誓った。 


 


「この規模の魔法を破壊する方法は2つ。術者であっても、道具であっても壊せば消える」




 そう話している内に、近付いてくる足音が聞こえてきた。身を固くするバーレクに構わずボクとリバイバル兄さんは相手を見る。


 風景に溶け込んでいるから当たり前だけど、ボク達に気付いた様子はない。キョロキョロと辺りを見渡し不意に悪寒が走った。




「……」




 バレてないはず、だ。

 なのに自分の心臓の音がやけにうるさく聞こえる。ザリッ、ザッ、ザリッ、と近付いてくる足音が妙に焦らす感じで嫌だ。


 チラリと男を観察する。




「居ないなぁー」




 楽しげな声と楽しそうな顔。

 黄色い瞳が猫っぽい、長い髪は黒にも青っぽくも見える位に深くて暗い。


 聞き覚えのある声、だと思った。

 自分の中で危険だと言う感じと関わっては駄目だと告げられるような、嫌な感じ。


 既に見付かっているのではと不安にさせる。




「あーー。()()()()()




 ふっ、と楽し気に細められた目と口がさらに煽られる。

 リバイル兄さんが、ボクにバーレクを押し付けたまま前へと飛び出す。


 聞き慣れた音は武器同士のぶつかり合い。兄さんは振り向かずに声を荒げた。




「そのまま逃げろ!!!」

「で、でもっ……」




 戸惑の声をあげるのはバーレクだ。

 ボクは悔しくて、でもそうするしかないと分かっているから。


 だからボクは無言のまま連れて行く。「裏切者」と兄さんが告げた言葉の意味も分からずに、急いで城へと向かった。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「ちょっ、ナーク!!!」

「主達も探してくる。ルーチェと居るんでしょ?」




 バクバクと鼓動を打つ音がやけに響く、らしくもなく早口だ。

 ずっと胸がつっかえるような、気持ちが悪い気分。城に着いたら、スティングさんが血相を変えてこっちに来た。


 聞けば王都の中で、感知していた筈の主の魔力が急に消えたんだと言う。ボクが傍に居ると思っていたのに、連れて来たのはバーレクだけ。


 一瞬だけ、落胆したような表情だったけどすぐに切り換える。




「バーレク王子はこのままこちらに留まって下さい。ウィルス様がルーチェ様と居るのは、騎士や見張りから聞いています。彼女達が王都に居るのは大ババ様の薬屋に用があるからだよ」




 そうと分かればとすぐに向かった。

 スティングさんが何か言っていたけど、無視をしながら心の中で謝る。




「あっ、ナーク君♪」




 主の魔力を辿って向かえば、ボクに気付いて手を振ってくれる。ほっとしながらも体に異常はないかと確認する。


 小さな傷もないし、付けられたような痕跡もない。

 前に対峙したアイツは刃に神経毒を塗っていた。毒や痺れに慣れていたから、あの程度で良かったけど。


 もし、なんの耐性もない主だったら……。




「ナーク君、どうしたの?」




 すうっ、とボクの頬に触れる手。

 見上げると心配そうに顔を覗き込んでいるのが見えてくる。


 いつもそうだ。主は……いや、ウィルスは他人をよく見てる。ちょっとした事、顔意をが少し優れない時も声を掛けている。城で働く人、薬屋で足を運んで来たお客さんにも。


 自分が辛い経験をしたからなのかも知れない。それなら自分の事もちゃんと見て欲しいと思った。王子と居るのなら無茶はしないで欲しいからだ。




「ルーチェちゃんならネルちゃん達とお城に戻ってるよ。あ、そうそうミリアさんが――」




 その先の言葉を聞くことは無かった。

 主の背後から振り下ろされたナイフとボクとのがぶつかったからだ。勿論、相手はリバイル兄さんが対峙した、気味の悪い男。




「さっきの彼、結構良かったよ?」

「う、るさいっ……!!!」




 ドクンッ、と嫌な想像が駆け巡る。

 もし、相手の言葉が本当なら……。もし、と思うと変に力が入らない。

 いつもなら普通なのにっ、こんな時に!!!




「させない!!!」




 パァン、と見えない壁がボクと相手とを遮る。

 主が魔法を発動させた。防御魔法の一種だと感じ、すぐに退散しようと後ろを振り向けば首元にナイフを突きつけられている主の姿が見えた。


 ニタリ、と笑みを深める。クツクツと抑えきれないもの。それが余計に腹立たしさを生んだ。




「ふふ。君、それでもトルド族なの? ダメじゃないか主から離れたりしたら」

「なんでその事をっ……」

「んんっ」




 口に布を当てられた主が苦し気に声をあげる。でも、それも一瞬の事で途端に男の方へと体を預けている。カラン、カランと手に持っていた荷物から小瓶が落ちる。

 恐らく大ババ様から薬を貰ったであろうと言うのは予想出来た。


 眠らされたとすぐに分かりながらも、人の気配がない事に気付く。ここにも広範囲の魔法を仕掛けられているのが分かった。

 城に戻る途中だったからか今居るのは、城と王都を結ぶ道だ。人気が無いのは当然でも、鳥のさえずりがない時点で空間に閉じ込められたと理解させられる。


 ここに居るのは……主と合わせて3人だけだ。




「状況が分かったようだね? でも、彼女はこのまま連れて行くよ。珍しい髪の色だし、綺麗だし……何より依頼主からの要望でもあるんだし」

「ハーベルト国の暗殺者が人攫いをする訳?」

「んー。私の場合は特別だよ。あ、平気だよ。傷付ける気なんてないし、そんな事をしたらこっちが殺されちゃう」 




 話に耳を傾けつつ隙を探る。一歩、また一歩と進むと相手も同じように下る。片手で軽々と主を持ち上げ、楽しそうに口元を歪める。はっとして即座に離れる。


 ボクが立っていた場所に黒い刃が突き刺さる。形はすぐにグニャリと折れ曲がり、影の中へと消えていく。それが続けざまに数回起き、気付けば距離があり離される。


 追わないといけないと分かっていながらも、向かう先々に影が先回りをして攻撃を加えていく。ザクッ、ザクリと避けているのに、気付かない内に怪我を負わされている。




「う、くぅ……」

「魔力探知って便利だけど一方で不便でしょ? こんな風に、さ」




 探知した魔力が一気に10あるのが分かる。

 神経を集中して避けるのと、自分自身に防御結界を張り攻撃に備える。四方八方に飛んでくる影の攻撃の形状は様々だ。


 剣、槍、斧、ナイフなどボクが光の魔法で形成して行う攻撃と同じだ。でも1つ1つの威力がボクとは桁違い過ぎる。




「はあ、はあっ……このっ!!!」




 持っている武器は殆ど破壊されている。その中の壊れかけている1つのナイフを相手へと投げ付ける。

 光の魔法を付与させて、投げたからか影を突き抜けてそのまま男の頬にかすり傷を作る。

 バタリと倒れるボクはなんとか顔を上げて、それを確認した。




「へぇ……凄いね」




 ペロリと血を舐めてボクを見る目が、恐ろしかった。

 敵意を含んでいるのに纏う雰囲気が常に楽しそうにしている。この人は……戦いと言うそのものを楽しんでいる。




「!!!」




 その時、男が主を手放す。自分の手元に置いておいて、謎な行動だと思ったがさっきまで居た場所が何か強い力に、押しつぶされたようにぺしゃんこになっていた。




(な、にが……)

【動くな。さらに傷を増やすぞ】




 フワリと心地の良い風を感じる。隣を見上げれば銀色の毛並みの大きな狼が立っていた。気付けば眠らされている主と王子の姿が見える。ボクに気付いたのか王子はゆっくりするようにと言われる。


 あぁ。来てくれたんだ……。


 その安心感からボクが意識を手放すのはとても早かった。優しい風に包まれたような中、ボクは主を王子へと託したんだ。

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